第五話「絵の中の光」
絵が、少しずつ出来上がっていった。
ミーナは、途中経過を一度だけ見せてもらった。
自分の顔が、そこにあった。
しかし、自分が鏡で見る顔とは、少し違った。
「違います」とミーナは言った。
「何が」とハルヴィオは言った。
「私は、こんな顔をしていません」
「していますよ」とハルヴィオは言った。
「もっと、普通の顔です」
「普通ではありません」とハルヴィオは言った。「あなたの目に、光が入っています。私にはそう見えます」
「光が入っている」
「広場の光です」とハルヴィオは言った。「毎日見てきた光が、目の中にあります。私には、そう見えます」
ミーナは、絵を見た。
自分の目の中に、確かに何かがあった。
光、と言われれば、光のようにも見えた。
「絵師の目は、不思議ですね」とミーナは言った。
「普通の目です」とハルヴィオは言った。「ただ、長く見てきたものが、見えやすくなっています」
「私の目と、同じですね」とミーナは言った。「私も、薬草を長く見てきたので、細かい違いが見えます」
「同じですね」とハルヴィオは言った。
「同じですね」とミーナは言った。
絵の具の匂いが、部屋に満ちていた。
春の光が、窓から入ってきた。
「一つだけ聞いてもいいですか」とミーナは言った。
「どうぞ」
「本当に描きたいものは、見つかりましたか」と言った。
ハルヴィオは、筆を止めた。
ミーナを見た。
「近づいている気がします」と言った。
(第五話 了)




