第四話「モデルのこと」
ハルヴィオが、頼みごとを持ってきた。
「モデルをお願いできますか」と言った。
「モデル、ですか」とミーナは言った。
「あなたの顔を描きたいと思っています」とハルヴィオは言った。「嫌ですか」
「嫌ではありません」とミーナは言った。「しかし、なぜ私ですか」
ハルヴィオは少しの間、考えた。
「この街で、一番よく広場を見ている人だからです」と言った。
「広場を見ている人?」
「毎朝、店の窓から広場を見ています」とハルヴィオは言った。「私が絵を描いている間も、見ていました。あなたの目に、広場が映っています」
「私の目に、広場が」とミーナは言った。
「広場だけではないかもしれません」とハルヴィオは言った。「あなたがこれまで見てきたものが、全部、目に映っています。そういう目を、描きたいと思っています」
ミーナは、ハルヴィオを見た。
「変わったことを言いますね」と言った。
「絵師は、変わっています」とハルヴィオは言った。「断ってもいいですよ」
「断りません」とミーナは言った。「ただし、店の仕事の合間にしか、時間が取れません」
「それで十分です」とハルヴィオは言った。
翌日から、ハルヴィオが店の裏の小さな部屋で絵を描き始めた。
ミーナは、椅子に座って、前を向いていた。
「目を、ここへ向けてください」とハルヴィオは言った。
ミーナは、ハルヴィオの目を見た。
ハルヴィオも、ミーナの目を見ていた。
静かだった。
絵の具の匂いがした。
(第四話 了)




