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夜明けの絵師――フィレンツェの恋  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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第三話「帳簿の話」


三日目、ハルヴィオが店に入ってきた。


「薬草を分けてもらえますか」と言った。「手が荒れて」


「どうぞ」とミーナは言った。棚から薬草を出した。


「詳しいんですね」とハルヴィオは言った。


「父の仕事を手伝っているので」とミーナは言った。「薬草の名前と効能は、全部覚えています」


「全部ですか」


「全部です」とミーナは言った。「帳簿もつけているので、数字も覚えています」


「絵師と薬種商の娘は、似ているかもしれません」とハルヴィオは言った。


「どこが似ているんですか」


「細かいところを、よく見る」とハルヴィオは言った。「薬草の違いを見分けるのも、絵の細部を描くのも、よく見なければできません」



ミーナは、少しだけ考えた。


「言われてみれば、そうかもしれません」と言った。


「あなたが帳簿をつける字は、きれいですか」とハルヴィオは言った。


「父には、きれいだと言われます」


「見せてもらえますか」と言った。「絵師として、字に興味があります」



少し迷ったが、帳簿を出した。


ハルヴィオは、帳簿を見た。


丁寧に見た。


「きれいです」とやがて言った。「規則正しくて、しかし固くない」


「帳簿の字を、そんなふうに見る人は初めてです」とミーナは言った。


「絵師は、何でも見てしまいます」とハルヴィオは言った。「すみません」


「謝らなくていいです」とミーナは言った。「嬉しかったので」



(第三話 了)

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