第90話:聖域での交流会
【今後の投稿スケジュールに関する大切なお知らせ】が活動報告にございます。
本作をお読みいただいている皆様には、ぜひご一読いただけますと幸いです。
全員が無事に第3層の『凪の里』へ到着したことを確認したグランは、さっそく皆を宿泊施設へと案内した。
前回建てた施設はそのまま残っているため、四聖華と侯爵夫妻たちは勝手知ったる様子でそちらへと移動していく。
そして、今回が初めての参加となるメンバーたちはグランの案内に従って歩き出した。
「王女殿下や皇女殿下には、ちゃんと専用の別館を用意してあります。ベアトリクスとクローディアの部屋はこっちだ」
グランが順番に案内していき、平民用の宿舎に到着すると、マルクが周囲を見渡しながら口を開いた。
「さすがに高位貴族の皆様と一緒の建物だと恐れ多いからな」
「そりゃそうだな。マルク、カロン、トレースはこっちの部屋で、レキシとニーナはそっちだ。男女別々だが建物は一緒だから、まだマシだろう?」
平民組は案内されたあまりにも高級そうな宿の造りに萎縮していたが、グランは「ここでは気を遣わなくていいからな」と笑いかけた。
「さあ、荷物を置いたら飯にしよう」
「お前の正体については今まで気にしていなかったけど……さすがにここまでぶっ飛んだものを見せられつづけたら、いろいろと気になってくるぞ」
マルクが改まった様子で言うと、グランは少し考えてから答えた。
「まあ、話せることは話すが……俺の言葉でお前たちが素直に納得するか?」
「お前の言うことだ、信じるさ。それじゃあ、この夏合宿期間中に教えてくれ」
マルクの提案に、他のメンバーたちも深く頷いて賛成した。
(アンサートーカー、俺の正体については侯爵たちの説明に合わせる形でいいだろうか?)
『ええ、それで良いと思います。むしろその方が、皆様もマスターの異常な強さに納得しやすいでしょう』
グランは脳内の返答を聞いて「分かった」と頷き、皆に向けてパンパンと手を叩いた。
「さあ、立ち話もなんだから、まずは荷物を置いて、風呂にでも入って汗を流してこい」
マルクたちは案内された大浴場を見るなりテンションを上げ、「これはゆっくりするしかないな!」とはしゃぎながら風呂へと向かった。
皆が風呂に入っている間、グランは一人でバーベキューのセッティングに取り掛かった。
今回はかなりの大人数であるため、食材の用意や火おこしなど、準備にも大忙しである。
そして、風呂上がりでさっぱりとした皆が集まってきたところで、各自が席に座って和やかに談笑を始めた。
グランは以前の花見の時と同じように巨大な鉄板を用意し、聖域で狩った上質な魔物の肉を豪快に焼き始める。
バーベキュー会場には食欲をそそる香ばしい匂いがあたり一面に広がり、皆は「まだかまだか」と期待を込めた熱い視線をグランに向けていた。
グランはそんな彼らの視線に応えるように、サービス精神を発揮して派手なフランベを繰り出した。
炎が勢いよく舞い上がると、侯爵たちや平民組の男たちから「おおーっ!」と歓声が上がる。
「さあ、焼けたぞ。皆に肉を分けてやってくれ」
グランは焼き上がった肉を切り分け、平民組のマルク、カロン、レキシ、ニーナ、新入生のトレース、クローディアたちが率先して次々と配り始めるのだった。
飲み物や肉が全員に行き渡ったのを確認し、グランは挨拶がてら今回の夏合宿の日程について確認を始めた。
侯爵夫妻たちは今年も本気で来るつもりだったらしく、領地の予定をすべて調整し、学園が始まるギリギリまで滞在する予定だという。
それを聞いた『蒼白銀の翼』のメンバーたちも、同じくギリギリまで滞在して鍛錬に励むことを決めた。
「それだけ長い期間いるなら、各自でしっかりとした目標を立てて修行をしよう」
グランがそう提案すると、侯爵たちはなんと「平民の男連中の指導をしてやろう」と申し出てくれた。
先ほどヴィジョンで彼らの戦いぶりを見て、年長者として、そして男親としての心がくすぐられ、彼らを直接鍛え上げたいと思ったらしい。
さらに侯爵夫人たちも、「エステと温泉を楽しむついでに、女性陣に魔法技術や魔力制御の指導をするわ」と快く買って出てくれた。
「皆様、本当にありがとうございます。後で改めてお礼を……」
「いや、気にしないでくれ。このような素晴らしい修練の場を提供してくれるだけで、十分すぎるお礼になっている。ここで若者たちを指導することは、ひいては王国の未来のためにもなるからな」
グランが恐縮して頭を下げると、侯爵たちは笑って首を横に振った。
その言葉を聞いたオリヴィア王女も立ち上がり、姿勢を正して深く頭を下げた。
「皆様の王国への深い忠誠と、次世代を育む献身的なお心遣い、王家を代表して心より感謝申し上げますわ。あなた方のような素晴らしい貴族がいてくれること、王国の誇りに思います」
「もったいなきお言葉。我ら貴族の忠義は、常に王家と王国と共にあります。これしきの事、臣下として当然の務めにすぎません」
侯爵たちも深く首を垂れ、王族に対する最大限の敬意と臣下の礼を尽くして返すのだった。
そうして和やかに談笑が続いていると、突然クローディアが意を決したように立ち上がり、声を張り上げた。
「皆様、どうか聞いてください! 今回、私はこの聖域の合宿に参加いたしましたが……実は実家のアシュクロフト伯爵から、皆様の動向を探り、報告しろと命じられております! ですから、私に対してはどうか必要最低限の対応でお願いいたします!」
悲痛な面持ちで告白するクローディアをグランがフォローしようと前に出たが、それより先にヴァレンタイン侯爵が豪快に笑い飛ばした。
「はっはっは! 名門アシュクロフトの令嬢か。あそこは代表的な『貴族至上主義』の家だからな。だが娘よ、心配には及ばん。我々の話に関しては、お前の父にこう伝えておけ。『いつでも受けて立つぞ』とな!」
「えっ……!?」
侯爵の言葉にクローディアは青ざめるが、すかさずルヴィリスがフォローを入れた。
「要するに、あなたに危害を加えたり仲間外れにしたりは絶対にしないから安心してってことよ。他の人と同じように普通に接するから、家のことなんて気にしないで」
「ルヴィリス様……皆様……本当に、ありがとうございます……!」
クローディアは侯爵たちの懐の深さに涙ぐみ、深く頭を下げた。
「アシュクロフトも名門だが、我々は侯爵だ。貴族としての地位も名誉も、我々には遠く及ばん。何も気にするな」
ヴァーミリオン侯爵も優しく声をかけ、それからグランの方を見て小声で尋ねた。
「あの娘、実家で何か複雑な事情があるのだろう? 後で我々にこっそり教えてくれ」
「……お察しいただき助かります」
グランが静かに頷くと、侯爵たちは何事もなかったかのように宴会を再開した。
クローディアは四聖華や王女、皇女たちに優しくなだめられ、ようやく心からの笑顔を見せて楽しく話し始めた。
「おいグラン! 肉がなくなったからもっと焼いてくれ!」
「私もお願い!」
マルクとベアトリクスからの容赦ない催促に、グランは「あいよ!」と気前よく答え、再び大量の肉を焼き始めるのだった。
やがて夜も更けてくると、グランは改めて明日の予定について口を開いた。
「明日からの鍛錬は、各自で決めた目標に沿ってやってくれ。俺に教えてほしいことや指導してほしいことがあれば、遠慮なく言ってくれよ」
「グランよ。実はな、聖域の『第4階層』に行ってみたいのだが……」
ヴァスティール侯爵の突然の申し出に、他の侯爵たちも「確かに、あそこには興味があるな」と同調する。
「第4階層からは、魔物の強さがこれまでとは桁違いに跳ね上がります。ですので、まずは俺が同伴して、一度様子を見る形でもよろしいですか?」
「うむ、君がそこまで言うほどか。無謀な挑戦で万が一のことがあれば、自領の領民や部下たちに迷惑がかかってしまうからな。もちろん、君の指示に従おう」
侯爵たちが素直に了承したため、まずは明後日の朝に、グランと侯爵たちで第4層へ様子見に行くことが決まった。
「他の皆も、第4層の様子を見たいか? 行く時にヴィジョンを置いていくこともできるぞ」
グランが提案すると、メンバー全員が満場一致で「見たい!」と答えたため、当日は広場にヴィジョンを展開することになった。
「明日は、我々が男連中の指導をしてやろう。お前たち、四侯爵直々の指導だ。吸収できることはすべて吸収していけよ!」
侯爵たちが発破をかけると、男連中は「はいっ!」と元気な声で返事を返した。
そうして大盛り上がりのバーベキューが終わり、各自が風呂に入り直したり、部屋で談笑を続けたりしながら、合宿最初の夜はまったりと更けていくのだった。
翌日の早朝。
平民組の男たちは約束の時間通りに広場へ集合し、侯爵たちから魔法の実践的な使い方や、いつでも常に身体強化を発動するような魔力の練り方、肉弾戦における洗練された技術の指導を受けていた。
内容はかなり厳しいものだったが、男組は通常の平民では絶対に受けられないような『夢の直接指導』に喜びを感じているのか、必死に食らいついていく。
一方、女性陣のグループは、侯爵夫人たちから高度な『魔力制御』の授業を受けていた。
ベアトリクスは「身体強化以外の魔法も覚える」という目標を立てていたため、誰よりも必死になって話を聞いている。
四聖華たちも、さすがは歴戦の魔法使いである母たちの教えに感銘を受け、親子の垣根を越えて真剣に質問を投げかけ、理解を深めていた。
王女や皇女も、経験豊富な夫人たちの実践的な話に興味深く耳を傾け、時折鋭い質問をしている。
クローディアはまだ魔法をうまく使えない状態だったが、それでもグランから教わった『魔力操作の極意』を体内で必死に継続しながら、夫人たちの講義を真剣に聞いていた。
そんな中、グランはふと気がついた。
(……よくよく考えたら、俺だけ一人で何をしてればいいんだ?)
『見事にマスターだけ何もしていませんね。暇人ですか』
アンサートーカーの容赦ないツッコミに溜め息をつき、グランは「暇だし、明日の第4層に備えて錬金術で聖域限定のアイテムでも作るか……」と、一人寂しく錬金釜に向かい始めた。
こうして、各々が明確な目標を持った夏合宿が本格的にスタートした。
これから約一ヶ月以上、皆が無事にそれぞれの目標を達成し、無事に成長できることを、グランは密かに願うのだった。
すでに活動報告にてお知らせした通りですが、誠に勝手ながら6月23日は投稿をお休みさせていただき、6月24日以降の投稿は「7:00」と「20:00」の1日2話更新となります。
いつも更新を楽しみにしてくださっている皆様には大変申し訳ございませんが、これからも安定して物語をお届けしてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




