第89話:最強の片鱗
【今後の投稿スケジュールに関する大切なお知らせ】が活動報告にございます。
本作をお読みいただいている皆様には、ぜひご一読いただけますと幸いです。
グランの合図で一斉に皆が聖域内に向かっていった。
そのあまりの勢いに唖然として見送っている新入生二人に、グランは軽く声をかけた。
「さて、じゃあ俺たちも行くか」
「あの……私たちは、どうやって行くのですか?」
トレースが恐る恐る尋ねると、グランの脳内でアンサートーカーが『転移魔法を使いますか?』と聞いてきた。
(いや、まだこの二人の前では『転移』は使わない。それに聖域がどういうものなのか知っておくのもいいだろう。正面からそのまま突破する)
グランが内心で答え、「俺たちも歩いてそのまま突破するぞ」と二人に告げた。
「えっ!? ひ、一人で行くのですか!? いくらグラン先輩でも、私たちを守りながらでは難しいのでは……?」
クローディアが心配そうに言うと、グランはニヤリと笑った。
「だから、俺もちょっとだけ『本気』を出すことにする。今から見せる光景は他言無用だぞ。だが、俺がどこまでの強さなのかをお前たちに知ってもらう、いい機会だからな」
グランは二人と正面から向き合い、真剣なトーンで告げた。
「他のメンバーは既に知っているが……俺は学園にいる時、周りに合わせてかなり手加減をしているんだ」
「えっ……!?噓ですよね? あの凄まじい強さで、手加減をしているのですか!?」
二人は驚愕し、信じられないというように目を丸くした。
「ああ。だからこそ、『蒼白銀の翼』にはあまり安易に人を入れることは良しとしていなかったんだ。……それでも、俺が選んだメンバーだ。だから、お前たちを信頼して俺の強さの『片鱗』を見せてやる」
その言葉に、二人はゴクリと固唾を呑み、グランの背中を追って聖域へと足を踏み入れた。
そして、そこから二人が目の当たりにしたのは、まさに『圧倒的』としか言いようのない強さだった。
グランが放つ魔法は見たこともないような未知の術式ばかりで、しかもそのどれもが強力無比であった。
彼はまるで庭を散歩でもしているかのような気軽さで、聖域の凶悪な魔物たちを次々と一方的に蹂躙していく。
トレースとクローディアはその次元の違う戦いぶりに戦慄し、「これが……最強世代の『頂点』……!」と、ただただ感嘆するしかなかった。
グランは第1層を軽々と突破し、あっという間に第2層のボス部屋まで辿り着いていた。
「お前たちは少し下がっていろ」
グランは新入生の二人に指示を出し、一人で巨大なボスの前に進み出た。
(この前は『魔導無双剣』で倒したから、今回は違う技にするか。二人に見せるなら、どうせなら派手な方がいいだろう)
グランは内心でそう呟き、両腕に蒼白銀の魔力を纏い胸の前で構え、自身のオリジナル技を展開した。
「――魔導空閃斬!」
グランがそう叫び、回転しながら飛び、両腕を魔力を放つように振り回すと、その瞬間、ボス部屋の広場にギャリギャリギャリ!と金属同士が削りあう音が鳴り響き、無数の不可視の斬撃の嵐が吹き荒れた。
第2層のボスである『忘却の熊』は、抵抗する間もなく細かく切り刻まれ、文字通り跡形もなく消え去ってしまった。
新入生の二人はあまりの光景に唖然とし、言葉を失ったままグランの後を追って第3層へと繋がるゲートをくぐった。
そこは穏やかな風が吹き抜ける、心地の良いセーフティーエリア『凪の里』であった。
「さあ、着いたぞ。今日からここでお前たちの修業を開始する」
いくらグランの後ろを安全についてきたとはいえ、聖域の凶悪な魔物たちが放つプレッシャーに精神を削られていた二人は、ようやく安全地帯に辿り着いた安堵からその場にへたり込んでしまった。
グランは二人を労い、広場に備え付けられた椅子に座らせた。
そして、他のメンバーの進捗状況を確認するため、空中に多数の『ヴィジョン』の映像を展開した。
二人は虚空に浮かび上がった不思議な映像魔法に再度驚いたが、すぐに先輩たちの戦いを見て勉強になることはないかと、真剣な眼差しで画面を探求し始めた。
(ただ休むだけでなく、すぐに学ぶ姿勢を見せるとは……本当に意識が高くていいな)
グランは内心で二人を褒めつつ、ヴィジョンに映る各自の状況を確認していく。
四聖華のソロ勢と、王女・皇女のペアは、現在第2層の中盤あたりを進んでいた。
見る限り苦戦している様子はなく、ほとんど怪我もしていないため、ここに来るのも時間の問題だろう。
続いて侯爵夫妻たちを見ると、なんと両チームとも既に第2層のボス部屋に到着していた。
(これは、どちらが先に突破してきてもおかしくない僅差だな)
最後にベアトリクスたち平民組のパーティーを見ると、第2層の魔物の群れに完全に包囲されていた。
しかし、各々が訓練通りにうまく連携して対処していたため、グランは「これなら問題なく突破できるだろう」と安心して見守るのだった。
そして、第3層の入り口にゲートが現れ、中から出てきたのは侯爵夫人たちのパーティーだった。
それに続くように、すぐさま侯爵たちのパーティーもゲートから飛び出してきた。
互いの姿を確認した両者は、広場ですでにくつろいでいるグランへとすぐに視線を向けた。
侯爵夫妻たちは、グランと新入生二人が自分たちよりもすでに到着していることに少し驚いた様子を見せた。
「グラン、結果はどっちが先だ!?」
侯爵たちが息巻いて尋ねると、グランは冷静に判定を下した。
「ほんの僅差ですが……夫人たちチームの勝利です」
その瞬間、夫人たちは歓声を上げて喜び、侯爵たちは愕然として膝から崩れ落ちた。
(……ご愁傷様です)
グランは新作アクセサリーの支払いが確定した侯爵たちに向けて、内心で静かに手を合わせるのだった。
少し経つと、第3層の入り口にゲートが現れた。
中から出てきたのは、四聖華の一人であるディアドラだった。
ディアドラはゲートを抜けるなりグランの姿を見つけ、慌てて周囲を見回した。
「グラン殿……もしかして、私が一番乗りか?」
「ああ、ディアが一番乗りだ。よくやったなおめでとう」
グランが微笑んでそう告げると、ディアドラは感情が爆発したように歓喜し、涙を流しながらグランの胸へと勢いよく抱きついた。
ヴァスティール侯爵も娘の目覚ましい成長を誇らしく思い、侯爵夫人も「ディア、本当によくやったね」と優しく頭を撫でて褒め称えた。
それからすぐ再びゲートが現れ、今度はルヴィリス、エルスメリア、ソフィアの三人が同時に飛び出してきた。
「グラン! 誰が一番早かったの!?」
三人は自分たちが同着の一番だと思い込んで尋ねたが、すでにグランの腕の中にディアドラがいるのを見て即座に負けを悟り、愕然としてその場に膝をついた。
さらに少し遅れて、王女オリヴィアと皇女セルフィリアのペアもゲートをくぐって到着した。
二人は全力で暴れ回れたことがよほど気持ちよかったのか、競争なんて忘れて非常に爽やかな笑顔でグランのもとへ歩み寄ってくる。
(いや、全身返り血まみれでその極上のスマイルを向けられると、さすがにちょっと怖いんだが……)
無事にヒロインたちが合流を果たし、皆は広場に展開されたヴィジョンへと視線を移して、残るベアトリクスたち平民組の姿を見守った。
映像の中では、第2層のボスである『聖域の熊』を相手に平民組が少し苦戦を強いられていた。
しかし、各々が基本に忠実なヒット&アウェイを徹底し、致命傷を避けるように堅実に攻撃を当てていく。
そして、熊が苛立って大振りな攻撃を仕掛けてきた隙を突き、カロンが魔力を纏わせた渾身の蹴りを放って熊の右足を吹き飛ばした。
「ほう……見事な一撃だ」
侯爵たちが感心する中、熊はバランスを崩しながらカロンに標的を変え左腕を振り下ろすが、マルクがカロンの前に出て魔力を纏った渾身の拳で激しく殴りつけ、その腕を弾き飛ばす。
衝撃で完全にバランスを崩した熊に対し、レキシとニーナがそれぞれ拘束魔法を放ってその巨体の動きを完全に止める。
その絶対的な隙を見逃さず、ベアトリクスが自身の右腕に限界まで魔力を溜め込み、瞬時に肉薄し渾身の突きを放った。
それはかつて、グランがエキシビジョントーナメントで披露した『魔導烈衝拳』に酷似した技であった。
もちろんグランの練度には遠く及ばないものの、手負いで弱り切ったボスの息の根を止めるには十分すぎる威力だった。
強烈な突きを食らった熊の巨体は大きく吹き飛び、そのまま光の粒子となってダンジョンへと溶けて消え去った。
ボスを撃破して第3層へのゲートが現れても、5人は激闘の疲労をぐっと我慢し、構えたまま周囲への警戒を怠らなかった。
(強敵を倒した直後が一番油断しやすいからな……俺の教えをしっかり守っていて感心するよ)
グランがその隙のない姿勢を見て満足げに頷いていると、やがて安全を確認した5人がゲートを潜り抜けてきた。
先ほどまでの血生臭い戦場とは打って変わって、穏やかで神秘的な風が吹く景色に到着したことに、5人は一様に驚きの声を上げた。
「ようこそ、聖域第3層『凪の里』へ。全員、よく無事に突破したな」
出迎えたグランの言葉を聞き、5人はあの恐ろしいと言われている禁足地の「聖域」、それも第2層を自分たちの力だけで突破したという事実を噛み締めた。
そして、自分たちをここまで強く引き上げてくれたグランに対し、改めて深い尊敬と感謝の念を抱くのだった。
今日で投稿し始めてちょうど一ヶ月となります。
すでに活動報告にてお知らせした通りですが、誠に勝手ながら6月23日は投稿をお休みさせていただき、6月24日以降の投稿は「7:00」と「20:00」の1日2話更新となります。
いつも更新を楽しみにしてくださっている皆様には大変申し訳ございませんが、これからも安定して物語をお届けしてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




