第82話:蒼白銀の門
修練会入会試験当日。
新入生の半数以上という常軌を逸した数の応募が殺到し、放課後の時間だけでは到底さばききれない事態となったため、学園長の計らいにより入会試験は3日間にわたって開催されることになった。
すでに学期の必須カリキュラムもすべて終わっており、あとは終業式を待つだけという時期でもあったため、学園内は一種のお祭り騒ぎのような熱気に包まれていた。
朝から大忙しのグランたちは、効率を上げるために「二人一組」のペアで面接対応にあたっていた。
グランとペアを組むのは、ソフィアだ。
ペアを決める際、ヒロインたちの間で「誰がグランと組むか」というもはや恒例の争奪戦が繰り広げられたが、グランが冷静に意見を出してまとめた。
「こういうのは、平民と貴族が組むようにした方がいい。平民同士で組むと、貴族主義の馬鹿どもが話を聞かずに無駄なトラブルになるかもしれないからな」
「なるほど、一理ありますわね」
「だから、そんな無駄な時間を抑えるためにも、王女と皇女と四聖華は分かれて、俺たち平民組やベアトリクスとペアを作ろう」
「そうだね。私も身分は貴族だけど、成り上がりだから平民みたいなものだし、そっちの方がやりやすくて助かるわ」
ベアトリクスも賛同し、公正なくじ引きを行った結果、1日目はグランとソフィアが組むことになったのだ。
それが決まった途端、ソフィアはグランの腕に絡みつき、「今日は一日、一緒にいられますね」と満面の笑みを浮かべた。
他の五人は「ぐぬぬ……」と悔しそうに唸ったが、グランが「明日はまた組み合わせを変えるから」となだめ、「昼休みに全員で集まって情報交換をしよう」と約束して、それぞれの面接会場へと散っていった。
グランとソフィアは学園の空き教室を借り、一人ずつ面接を行っていた。
「どんな子が来るのかしらね」とソフィアが話していると、コンコンと扉が叩かれ、「失礼します」と声がかかった。
「どうぞ」とグランが答えて扉が開くと、一人の男子生徒が緊張した面持ちで入ってきた。
「あ、蒼白銀の翼の入会試験を受けに来ました!」
「よし、では面接を始める。そこに座ってくれ」
グランが椅子を勧めると、男子生徒は落ち着かない様子でぎこちなく腰を下ろした。
「どうした? ガチガチじゃないか」
「す、すみません……まさか、自分の面接官がグラン先輩とソフィア先輩だとは思わなかったので……」
「事前に誰が面接するかは、知らせない方が色々と都合がいいという結論になったからな。気楽にしてくれ」
グランが緊張をほぐすように笑いかけ、面接がスタートした。
「まずは、志望動機を聞かせてくれ」
「はい! 僕は田舎から今年この魔導学園に入学した者です。地元は穏やかな農村で魔物もあまり出ない平和な村でしたが、旅の魔術師に魔法の適性があると言われ、この学園に来ました」
男子生徒は一生懸命に言葉を紡ぐ。
「ただ、事前の噂では『学園は貴族主義で、平民には居心地が悪い』と聞いていたのでとても不安でした。でも、入学してみたら今年から完全な実力主義に変わると言われ……さらに、学園の頂点であるSクラスには、僕と同じ平民の先輩が5人もいると知りました。どうやったらそこまで強くなれるのか興味を持って調べた結果、『蒼白銀の翼』の存在を知り、僕もここで強くなりたいと思って入会を志望しました!」
男子生徒の熱意ある言葉に、グランは「なるほど」と頷いた。
「じゃあ、もしお前が俺たちのもとで強くなったら……その力をどう使って、何をしたいんだ?」
グランの核心を突く質問に、男子生徒は少し考える素振りを見せた。
「……やっぱり、魔法の適性があるなら、立派な騎士か魔導師になりたいです」
「そうか、分かった」
グランが頷くと、隣で聞いていたソフィアが静かに問いかけた。
「騎士や魔導師になった後は、何をするつもりなの?」
「えっ……それは……」
ソフィアの鋭い質問に、男子生徒は言葉に詰まってしまった。
「……とりあえず、なってみてから考える、という感じか?」
グランが助け舟を出すように尋ねると、男子生徒は申し訳なさそうに「……はい、そうです」と答えた。
「大体のことは分かった。合否の通知はすべての面接試験が終了した後に発表する。今日はご苦労だったな」
グランが面接の終了を告げ、男子生徒が一礼して教室から出ていく。
扉が閉まると同時に、ソフィアはふうっと息を吐いてグランに向き直った。
「あの子は……残念だけど、不合格ね」
「そうだな。理由は?」
「『強くなりたい』という気持ちはあるみたいだけど、その強さをどう使うかがまるで固まっていないわ」
ソフィアは厳しくも的確な評価を下す。
「騎士や魔導師になるのは、あくまで手段よ。目標が浅いと、それを達成した時に次の道を見失って成長が止まってしまう。入会するなら、もう少し考えを深めてきてほしいわね」
グランもソフィアの言葉に深く頷き、次なる志願者を待つべく名簿へと視線を落とした。
お昼休み、午前中の面接結果や状況を報告し合うため、『蒼白銀の翼』のメンバー全員が四聖華のお気に入りの談話室に集まり、昼食を取っていた。
「はぁ……見込みのないやつばかりだったぜ。午後からが思いやられるな」
マルクとセルフィリアのペアが、ため息交じりにそう口火を切った。
「私たちの面接なんて、明らかに四聖華や王女殿下、皇女殿下目当ての下心丸出しなのが多すぎたわよ。本当に呆れちゃうわ」
ルヴィリスとレキシのペアも、心底うんざりしたような顔で愚痴をこぼす。
「私たちのところには、『自分はすでに強いから入ってやる』なんていう上から目線の方もいらっしゃいましたわ」
エルスメリアとカロンのペアが苦笑いしながら報告すると、ディアドラとニーナのペアも同調するように頷いた。
「貴族主義の凝り固まった者も多かったな。彼らは交流パーティーでのグラン殿の話を、本当にちゃんと聞いていたのだろうか?」
「私のところは、私が王女というだけで相手が完全に萎縮してしまって……なかなか上手く面接の対話ができませんでしたわ」
オリヴィアとベアトリクスのペアも、身分ゆえの思わぬ苦労を語った。
皆からの報告を聞き終えたグランは、冷たいお茶を飲みながら静かに口を開いた。
「やはり、今の俺たちSクラスのメンバーが特殊だっただけで、普通に募集をかければこうなるんだな。立ち上げの時は、学園の周りの連中が全員敵のような状況だったから、覚悟のあるやつしかいなかった。だが、今は完全に逆の立場になっている」
グランは冷静に現状を分析する。
「俺たちが学園の頂点に立ってしまった以上、くだらない思想を持った人間や、権力や名声といった欲にまみれた人間が集まってくるのは避けられない。別に無理に新入会員を入れる必要はないんだ。面接の結果、全員不合格でも俺は構わないと思っている」
グランはみんなを見渡し話を続ける。
「もし誰も入らなければ、それならそれで、今まで通り俺たちはこのメンバーで切磋琢磨していくだけだ」
グランがはっきりとした方針を示すと、メンバーたちの顔からも迷いが消え、頼もしそうに頷いた。
「みんな、午後からの面接も頼む。気を引き締めて、あと二日と半分、頑張ろう」
グランの労いの言葉で昼食は終わり、メンバーたちは再び午後の面接会場へと戻っていった。
しかし、午後の面接も午前中と同じような有様で、これといって目に留まるような志願者は一人も現れなかった。
グランとソフィアも、次第に事務的な感じで面接をこなすようになっていた。
やがて終了の時間が来ると、グランは「今日はここまでだな」と言って面接を切り上げた。
「明日は、もう少しましなやつが来てほしいな……」
二人は少しの疲労を感じながら、空き教室を後にした。
その帰り道、グランは学園長室へと立ち寄った。
「どうじゃった、入会試験の初日は?」
学園長から尋ねられたグランは、「なかなか、良い人材はいませんね」と正直な感想を伝えた。
「まあ、そうじゃろうな。今の君たちは目立ちすぎているゆえ、『蒼白銀の翼』という名前や権威目当ての者も多いじゃろう」
学園長は鷹揚に頷き、グランに力強い言葉をかけた。
「わしも、くだらないやつを入れて『蒼白銀の翼』の価値や空気を下げるくらいなら、今年の新入会員はゼロでも構わんと思っておる。すべて君たちの基準で、厳しく判断してくれ」
「ありがとうございます、学園長。そう言っていただけると助かります」
グランは学園長の理解に感謝し、一礼して部屋を後にした。
夜、自宅の寮へと戻ったグランは、ベッドに横たわりながら脳内のアンサートーカーに今日の意見を求めた。
「お前はどう見た?」
『そうですね……あえて一番マシだったのを挙げるとすれば、朝一番に来たあの男子生徒くらいでしょうか』
アンサートーカーはドライな音声で答える。
『その他の志願者は、まあ、わざわざ語るまでもないでしょう』
「違いないな」
グランは苦笑しながら目を閉じ、深い深呼吸をした。
「明日は、もう少しましなのが来てくれるといいんだがな……」
グランは明日の入会試験2日目に期待と一抹の不安を抱きながら、静かに眠りにつくのだった。




