第74話:蒼白銀の翼の価値
季節は流れ、学年別魔導大会まで1週間を切った頃。
蒼白銀の翼は、新しくメンバーに迎えたセルフィリアも交え、いつものように演習場で熱の入った鍛錬を行っていた。
その日の鍛錬が終わり、全員で談笑していると、演習場に学園長とバルトス教官が姿を現した。
「みんな、少し良いかな。明日の朝礼で、君たちに伝えておきたいことがある」
学園長の言葉に、グランは(一体何を言われるんだ?)と内心首を傾げた。
そして翌日の朝、Sクラスの教室に学園長とバルトス教官が入ってきた。
「まずは、謝罪させてほしい」
学園長がいきなり頭を下げたことで、グランたちは何事かと驚いた。
「実は……君たちSクラスには、今年の学年別魔導大会への出場を辞退してもらいたいと考えている」
その思いがけない言葉に、クラス内は大きくどよめいた。
続いてバルトス教官が前に出て、苦笑しながら理由を口にする。
「単純な話だ。お前たちが出場すれば、決勝トーナメントは間違いなく『蒼白銀の翼』のメンバーだけで埋め尽くされてしまうからな」
魔導大会は、学生たちが自分の実力を内外にアピールするための重要な機会でもある。だが、今のSクラスが参加すれば、他の生徒たちが実力を見せる機会すら奪われてしまうというのだ。
「俺や王女殿下、皇女殿下、それに四聖華はそれでもいいかもしれません。でも、ベアトリクスや平民組の四人にとっては、実力をアピールする絶好の機会じゃないですか?」
グランが抗議するように尋ねると、学園長はふっと笑って首を振った。
「グラン、君たちは分かっていないな。現在、『蒼白銀の翼』という名前は外部の貴族や騎士団にも広く知れ渡っている。そこに所属しているというだけで、すでに一線を画す評価を得ているのだよ」
「えっ? それって、将来の就職とかでも有利になるってことですか?」
カロンが驚いて尋ねると、学園長は深く頷いた。
「有利どころではない。どこの騎士団や魔導師団でも、一発で幹部候補として内定をもらえるレベルだ。それほどまでに、君たちは絶大な影響力を持っているのだよ」
その規格外の評価に、マルクやカロンたちは「俺たちが、そんなに……?」と少し恐縮したように顔を見合わせた。
「とはいえ……それでも、自分たちの鍛え上げた力を発揮できる場がなくなるのは、やっぱり寂しいですね」
グランが素直な感想をこぼすと、学園長はニヤリと笑った。
「だから、少し趣向を凝らそうと思ってな。Sクラスの12人だけで、特別試合のトーナメントを組みたい」
「なるほど、魔導大会の最中にSクラスだけでトーナメントをやるんですね」
グランが納得して頷くと、早速クラス内でトーナメントの組み合わせを決めることになった。
「12人だから、4人はシード枠になりますね」
グランの言葉に、全員が「グランは確定でシードね」と満場一致で即答した。
残りの三枠を公平にくじ引きで決めた結果、シード権を獲得したのはルヴィリス、ディアドラ、セルフィリアの三人に決まった。
改めてトーナメント表が作成され、組み合わせが発表される。
第一シード:グラン
第二シード:ルヴィリス
第三シード:セルフィリア
第四シード:ディアドラ
そして一回戦の組み合わせは以下のようになった。
第一試合:ベアトリクス 対 カロン
第二試合:ソフィア 対 レキシ
第三試合:エルスメリア 対 マルク
第四試合:オリヴィア 対 ニーナ
「よし、みんな対戦よろしくな!」
「ええ、手加減はしませんわよ!」
各々が闘志を燃やして声を掛け合うのを見て、グランは「当日まで、みんな鍛錬を怠らずに頑張ろう」と檄を飛ばした。
――そして、学年別魔導大会の当日。
開会式で、学園長から「Sクラスは本大会には参加しない」と発表されると、場内の観客や他クラスの生徒たちからは残念そうなざわめきが起こった。
しかし直後に「決勝終了後、Sクラスのみで行うエキシビジョントーナメントを開催する」と発表された瞬間、場内は割れんばかりの大歓声に包まれた。
グランたちSクラスの面々は、用意された専用の特別観覧席から大会の様子を見守っていた。
「あの子、なかなか筋がいいわね」
「彼、不利になっても中々諦めない、ガッツがあるな」
それぞれが的確な評価を下しながら観戦する中、各学年のトーナメントは順調に進み、やがて1年生の部で優勝者が決定した。
舞台に立っていたのは、美しい金髪を持つ見目麗しい少年だった。
「ふふん、さすがは私の弟ね」
ルヴィリスが少し自慢げに胸を張る。なんと1年生の優勝者は、彼女の弟であるルークだった。
「将来は、侯爵家の立派な跡取りになる予定なのよ」
「へえ、凄いな。……そういえば、ルヴィリスの誕生日パーティーの時には見かけなかった気がするが」
グランが不思議そうに尋ねると、ルヴィリスは少し気まずそうに視線を逸らした。
「じ、実はね……」
ルヴィリスが言いかけたその時、舞台上でマイクを握ったルークが、高らかに演説を始めた。
『俺は今日、侯爵家の跡取りとして、貴族がいかに優れた力を持つかを証明した! 平民は、我々貴族に守られるべき脆弱な存在なのだ!』
その堂々たる貴族至上主義の宣言を聞いて、グランは(ほう……)と興味深そうに呟いた。
「あの子、少し貴族主義的な考えに染まっていて……。お父様とお母様が、あなたに失礼な真似をしないようにって、あのパーティーの時はあの子に裏から出ないよう厳命していたのよ」
「なるほど、ルヴィリスの弟君か。気を使わせてしまって悪かったな」
グランが苦笑すると、ルヴィリスは慌てて首を振った。
「ううん、あの子には後で私からしっかり言い聞かせておくから、気にしないで……」
しかし、ルヴィリスの言葉を遮るように、舞台上のルークが専用観覧席にいるグランを真っ直ぐに指差した。
『おい、そこの平民の男! グランとか言ったな、俺と勝負しろ!』
突然の指名に、グランは(面倒なことに巻き込まれたな……)と内心ため息をついた。
「ルーク! あなた、いい加減になさい!」
ルヴィリスが顔を真っ赤にして立ち上がり怒鳴りつけるが、ルークは一歩も引かなかった。
『姉上は、その平民の男に騙されているんだ! 俺が奴を倒して、目を覚まさせてやる!』
傲慢に言い放つルークに対し、グランは静かに立ち上がった。
「仕方ない。俺が出て、少し実力を思い知らせてこようか」
「ダメよ! あなたが出るような幕じゃないわ!」
ルヴィリスが慌ててグランを止める。 すると、隣にいたマルクがスッと前に出た。
「なあグラン。ここは俺に任せてくれないか?」
「マルク? 一体どうしたんだ?」
グランが驚いて尋ねると、マルクはルヴィリスに向き直り、真剣な顔で尋ねた。
「ルヴィリス様。俺が戦えば、弟さんを傷つけることになるかもしれませんが……いいですか?」
「……ええ。あの子の性根を、どうか叩き直してちょうだい」
ルヴィリスが苦渋の決断と共に頷くと、マルクは再びグランに向き直った。
「グラン。俺はな、お前が自分の力を見せびらかさないのは知ってる。だけど、お前があんな風に理不尽に馬鹿にされるのは、俺は我慢できないんだ」
「マルク……」
「俺もだよ! グランが侮辱されるのは腹が立つ!」
「ええ、私たちに任せてください!」
マルクの言葉に同調するように、カロン、レキシ、ニーナの平民組も次々と立ち上がり、怒りのこもった目をルークに向けていた。
グランは四人の熱い思いに胸を打たれ、「その気持ちだけで十分だ」と優しく微笑んだ。
「それに、これは意味のある戦いだ。1年生の貴族の覇者を、Sクラスの平民が叩きのめす。それがどれだけのことか……改めて、この学園が完全実力主義なのだと知らしめる良い機会になる」
マルクが力強く言い切ると、グランは満足げに頷いた。
「分かった。そこまで言うなら、お前に任せる。行ってこい、マルク」
「おう!」
マルクは勢いよく返事をすると、特別観覧席から舞台へと直接飛び降りた。 凄まじい衝撃音と共に着地したマルクを見て、ルークが顔をしかめる。
「なんだお前は。平民はお呼びじゃないと言ったはずだ」
「お前みたいなガキの相手に、グランが出る幕じゃねえよ。ルヴィリス様からも許可はもらってる。俺が直々に、お前を教育してやる」
マルクが堂々と挑発すると、ルークは顔を真っ赤にして激怒した。
「後悔するなよ、下賤な平民風情が!」
ルークが怒りに任せて剣を構える。 予想外のSクラス乱入という余興に、場内の観客たちは割れんばかりの歓声を上げ、大興奮の中で試合の開始を告げる銅鑼の音が鳴り響いた。




