第71話:蒼白銀の志
学園長たちとの話を終え、グランが教室に戻ると、さっそくルヴィリスが声をかけてきた。
「グラン。朝礼で言っていた『蒼白銀の翼』の入部試験の内容だけど、どうするか考えましょう」
「そうだな。俺としては、単純に俺たちの中から試験官を出して、その試験官が認めたら合格ってことにしようかと思ってるんだが」
グランが提案すると、クラスの面々は一斉に呆れた顔をした。
「あのね、グラン。今年入ってくる新入生が、私たちとまともに戦って認められるわけがないじゃない」
ルヴィリスの正論すぎるツッコミに、グランは「確かにそうだな……それなら、何かいい案はないか?」と首を捻った。
すると、セルフィリアが顎に手を当てて考え込んだ。
「帝国の場合なら、体力や魔力、知識や応用力など、様々な面を試験形式で細かく採点しているわ」
「なるほど、それは理にかなったいい採点方法だな。さすがは帝国だ」
グランが素直に感心して褒めると、セルフィリアは少し頬を染めて嬉しそうに照れた。
「だが、その試験項目を細かく作って準備するのは経験が足りなさすぎる。実質無理だな」
「そうね。……あ、でも待って。私ってこの入部試験を受ける側なのだから、内容を聞いちゃったら有利になっちゃうわよね? やっぱりこの話し合いには混ざらない方がいいんじゃないかしら」
セルフィリアが少し気まずそうに遠慮すると、グランは優しく微笑んで首を振った。
「気にするな。帝国から留学してきたからといって、セルフィリア様をよそ者扱いするつもりはない。昨日の花見の時もそうだし、もうクラスの一員だ。だからそんな心配はしなくていい」
「っ……!」
そのさりげなくも深い心遣いに、セルフィリアは完全に心を射抜かれてしまった。
「グラン……! 本当に、あなたって人は……!」
セルフィリアは感極まった様子で、そのままグランに勢いよく抱き着いた。
「ちょっとセルフィリア! またあなたは!」
すかさず四聖華とオリヴィアが飛んできて、セルフィリアをグランから全力で引き剥がそうとする。
「いいじゃない! だって、こんな強くていい男、帝国にはどこを探してもいないわ! ねえグラン、私と結婚して帝国に来ない? 私の夫になっても皇族のしがらみもないし、自由にさせてあげるわよ?」
「魅力的な提案だが、今はまだそういうことは考えてないよ」
グランは苦笑しながら、セルフィリアの直球すぎる誘惑をやんわりと躱した。
「それより、試験の内容を話し合おう。どうやって新入生を篩にかけるかだ」
グランが強引に本題に戻すと、ヒロインたちは不満げに文句を言いながらも、再び真面目な顔で話し合いの輪に戻った。
試験の内容について少し行き詰まっていると、グランは唐突にあることを思い出した。
「そもそも、俺が『蒼白銀の翼』を作った理由って何だったか覚えてるか?」
グランの問いかけに、皆は不思議そうに首を傾げる。
「あの時は『獅子の盾』と『白光の杖』っていう二大修練会が力を持っていて、俺のところにも両方から勧誘が来てたんだ」
「ああ、そういえばそうだったな」
「もし俺がどっちかに入ってしまったら、オリヴィア様やルヴィリスたちも多分一緒のところに入るだろうと思ったんだよ」
「ええ、もちろんグランの入る方について行くつもりでしたわ」
四聖華とオリヴィアが迷いなく頷くと、グランは苦笑した。
「それだと完全に学園のパワーバランスが崩壊するからな。だから、その受け皿として作ったのが最初の目的だったんだ。それが、みんなが真面目に訓練したおかげでここまで強くなって、一番人気の修練会になっちまったわけだ」
『今年は蒼白銀の翼がその一極集中の修練会になってしまったわけですから、完全に本末転倒ですね』
アンサートーカーの容赦ないツッコミに、グランは内心で同意した。
(確かにその通りだな……)
「だが、一つだけ確かなことがある。確かに俺や四聖華、オリヴィア様は『蒼白銀の翼』に入る前から他の奴らよりは強かった」
グランはそこで言葉を区切り、ベアトリクスと平民組の四人を見渡した。
「でも、ベアトリクスやマルク、レキシ、カロン、ニーナ……お前たちは、ここに入ってみんなで必死に訓練を頑張ったからこそ、ここまで強くなったんだ」
その言葉に、五人は少し照れくさそうにしながらも誇らしげに頷いた。
「なら、『蒼白銀の翼』に入る資格のある奴ってのは、最初から強くなくてもいい。自分をもっと高めたい、強くなりたいっていう強い気持ちを持ってる奴だ」
「なるほど……その気持ちが一番大事ってことね」
「ああ。そして、その意志や熱意を見極めるためには、やっぱりただの点数制じゃなく、俺たち自身が試験官として直接立ち合い、相手を見て選定するのが一番いいんじゃないかと思うんだ」
そしてグランは言葉を続ける。
「だから試験は面接と模擬戦で決めよう。面接官と模擬戦の相手は、もちろんここにいるみんなにやってもらおうと思ってる。あと、和を乱しそうな奴は容赦なく省くつもりだ」
グランが結論を口にすると、皆は真剣な表情で耳を傾けた。
「和を乱すって、具体的にどんな奴のことだ?」
マルクが尋ねると、グランはきっぱりと答えた。
「まず第一に、貴族主義の思想が強い奴はいらない。ここは実力主義の修練会だ。オリヴィア様や四聖華、ベアトリクスがいるにしても、他は平民だからな。言うことを聞かずに平民を見下すような奴は、絶対に訓練も真面目にやらず、高位の貴族に媚を売ろうとするのが目に見えてる」
グランはさらに言葉に力を込めて続ける。
「いくら『強くなりたい』と口で言っていても、そういう奴はうちには必要ない。『心技体』という言葉がある通り、いくら力が強くても、それを振るう心が伴っていなければただの暴力だ。だからこそ、一番大事なのは『心』なんだよ」
その言葉を聞いた皆は改めて自分たちの力の使い方について深く考え、特にベアトリクスと平民組の四人はグランの言葉をじっくりと噛み締めていた。
オリヴィアや四聖華、そしてセルフィリアも、上に立つ者としての『ノブレス・オブリージュ』を深く理解しているため、その言葉の重みを静かに心に刻んでいた。
「入部試験の募集は、来月行われる『学年別魔導大会』の終了後にしようと思う」
グランがそう告げると、ルヴィリスが「大会の後なの?」と少し意外そうに問いかけた。
「ああ。魔導大会は1年生にとっても、自分たちの実力を証明する最初の大きな舞台だ。そこで必死に戦う姿を見れば、そいつの技量だけでなく、土壇場で見せる『心』の本質もよくわかるからな」
グランはクラスの全員を真っ直ぐに見渡し、力強く言葉を締めくくった。
「それに、大会の結果を見てからの方が、新入生たちも自分に何が足りないか自覚して門を叩きに来るだろう。誰であれ、チャンスは平等に与えてやりたいんだ」
グランはそう言って、窓の外に広がる澄み渡った青空を見上げた。
そこにどんな新入生が現れるのか、そして自分たちのこの『蒼白銀の翼』にどんな新しい風を吹き込んでくれるのか。
グランはまだ見ぬ未来のメンバーに期待を寄せ、静かに目を細めるのだった。




