幕間:豊乳剣
タイトル通りおふざけ回です
春休み。ルヴィリスのリンクウェポンが完成から半年ほど経ったため、グランはメンテナンスを兼ねたアップデートを提案した。
建国祭のデートの帰り際、「春休み中に一度、工房に来てくれないか」と誘うと、ルヴィリスは顔を赤らめて快諾した。
しかし、その約束がどこから漏れたのか、結局四聖華全員が工房へ押しかけてくることになった。
当日。グランが工房で準備をしていると、早くも誰かが入ってくる気配がした。
「グラン殿、失礼する。……ほう、ここがそなたの城か。実に手入れの行き届いた、綺麗な工房だな」
一番乗りで現れたのはディアドラだった。彼女は興味深そうに工房内を見渡し、感心した声を漏らす。
ふと、ディアドラは作業台のそばに立てかけられていた数振りの剣に目を留めた。
「グラン殿、この剣を少し握ってみても構わないか? 業物の気配がするのだが」
グランは手元の作業に集中しており、彼女をあまり見ずに「ああ、それは失敗作だから別にいいよ」と適当に答えた。
ディアドラはその中の一振りを手に取り、重さを確かめるように剣を見回す。
「……素晴らしい。手に吸い付くような馴染みだ。この剣なら、今練習している八連撃が試せるかもしれん」
ディアドラが鋭い踏み込みと共に神速の連撃を繰り出した、その直後だった。
――バリバリバリッ!
工房内に、何かが激しく弾けるような不吉な音が響き渡った。
「えっ、何!? 何事だ!?」
驚いて顔を上げたグランの目に飛び込んできたのは、胸元の服が派手に破け、そこから溢れんばかりに膨らんだディアドラの胸部だった。
「…………なっ、なななっ!?」
ディアドラはあまりの衝撃に固まっていたが、やがて事態を把握すると顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
『……マスター、あれって以前ジョークグッズとして試作した『豊乳剣』ではありませんか?』
(よりによって、あれを引くのかよ!)
「ディア、一旦落ち着けって!」
パニックに陥ったディアドラをなだめようとグランが近づくが、彼女は反射的に片手で胸を隠しながら、もう片方の手で豊乳剣を振り回して暴れた。
「来るな! 見るな! 何だこれは! まだ大きくなっているではないか!」
剣を振るたびに魔力が供給され、ディアドラの胸はさらに膨張し、隠している手から零れ落ちそうになる。
グランはとにかく剣を取り上げようとディアドラの手を掴んだが、そこへ最悪のタイミングでルヴィリス、エルスメリア、ソフィアの三人が入ってきた。
「お待たせ、グラン! ……って、なっ……!? グラン、あなた、なんてことを!!」
三人の目には、服を破いたディアドラをグランが無理やり組み敷いて襲っているようにしか見えなかった。
「見損なったわ! この……この、ケダモノおおお!!」
「ちょっ、待て、誤解だ! ルヴィ、話を聞けええ!」
数分後。グランはルヴィリスによってボコボコにされた挙句、頑丈なロープでぐるぐる巻きにされ、天井から逆さ吊りにされていた。
エルスメリアが泣きじゃくるディアドラに上着を貸してなだめ、ソフィアはボコボコにされたグランの目の前、数センチの距離でずっと呪詛を吐いている。
「……ドウシテ、ソフィガイルノニ……ドウシテ、ディアナノ……ドウシテ……」
「怖いよソフィ! 目が据わってるって!」
ようやく落ち着きを取り戻したディアドラが、震える声で真実を話し始めた。
「……違うのだ。私はグラン殿に襲われたのではない。ただ、あそこにあった剣を振ったら、突然胸が大きくなって……」
三人はディアドラの両腕に隠された、以前とは比較にならないほど巨大化した胸を見て驚愕し、視線を逆さ吊りのグランへと向けた。
「……グラン、説明しなさい。これはどういうこと?」
「……ディアが持ってたのは、ジョーク品の『豊乳剣』なんだよ。剣を振ることで、その人の余分な脂肪を魔力に変換して、胸部に集中させる機能を持たせているんだ。一応、ダイエット効果も兼ねているんだが……」
「あなたの才能を、そんなしょうもないことに使わないでちょうだい!」
ルヴィリスがぷんぷんと怒っている隙に、ソフィアが素早い動きで豊乳剣を奪い取り、連続で振り回した。
――バンッ!
案の定、ソフィアの服も無惨に弾け飛ぶ。しかし彼女は隠そうともせず、巨大化した胸を揺らしながらグランに詰め寄った。
「ソフィ! 何やってるんだよ、目のやり場に困る!」
「見てくださいグラン様。これで、あなたに満足していただけますね……」
ソフィアがエルスメリアに目配せをすると、エルスメリアも「あら、ソフィ。話が早くて助かりますわ!」と同意し、上着をはだけさせた。
「行きますわよ! 『爆乳挟殺』!!」
二人は巨大な胸で、逆さ吊りのグランを左右から挟み込んだ。
「ぐわあああ!? 圧迫死する、死ぬうう!!」
『これはまた、天国のような地獄ですね。録画しておきましょうか』
「寝室までこのまま運びましょう」と息巻く二人だったが、ここでルヴィリスの鉄拳が二人の脳天に落ちた。
「いい加減にしなさい!!」
結局、ディアドラ、ソフィア、エルスメリアの三人は、グランの部屋にあったタオルを体に巻いて正座させられた。
「なぜ私まで正座させられているんだ⋯⋯」
「連帯責任よ……とにかく、これは危険な代物です。没収よ」
「いや、俺も悪いけどさ……ルヴィ。どうせならルヴィの大きくなった姿も、ちょっと見たいかも」
グランは完全に殴られ損だと思い、せめてもの抵抗としていたずらっぽく笑って言うと、ルヴィリスはゴミを見るような目でグランを睨んだ。
「頼む、どうしても見たい!」
グランが強く頼み込むと、ルヴィリスは少し考えてから聞き返す。
「……どうしてもみたい?」
「どうしても見たい!」
グランがもう一度力強く言うと、ルヴィリスは「仕方ないわね!」と剣を手に取った。
(チョロいな)
(チョロいわ)
(チョロすぎますわね)
他の四聖華の三人は、心の中で一斉にそう思った。
数回、優雅な動作で剣を振ると、ルヴィリスの胸もエルスメリア級にまで成長した。
「……どうかしら。似合っている?」
「ああ、すごく可愛いよルヴィ。よく似合ってる」
そう褒められると、ルヴィリスは顔を真っ赤にして照れ、効果が切れるまでこのままの姿でいることにした。
「ちなみに、戻すには柄のつまみを押し込んで剣を振ればいい。逆に回せば小さくすることもできるぞ」
それを聞いたエルスメリアが「逆にすれば小さくなるの?」と試してみると、彼女の胸はちょうどいいサイズまで縮小した。
「……あら。これくらいの大きさなら、肩が凝らなくて楽ですわね」
その嫌味なほど余裕のある発言に、他の三人の額に青筋が浮かんだのは言うまでもない。
その日の夜、ヴァレンタイン侯爵邸。
晩餐の席についたルヴィリスの姿を見て、ヴァレンタイン侯爵と侯爵夫人は思わずフォークを落としそうになった。
「……ルヴィリス、いくらなんでもそれは詰め込みすぎではないか? はしたないぞ」
父親である侯爵が困惑気味に注意するが、ルヴィリスは澄ました顔でスープを口にした。
「いいえお父様。これは本物です。グランの作った魔道具の効果で大きくなったのですわ」
「あいつは一体、何を作っているんだ……」
侯爵は呆れ果てて頭を抱えたが、隣に座る侯爵夫人の反応は違った。
彼女は食い入るように娘の胸元を見つめ、晩餐が終わるやいなやルヴィリスを自室へ呼び出した。
「ルヴィリス、詳しく聞かせなさい。その魔道具、一体どういう仕組みなの?」
ルヴィリスは母の気圧されるような勢いに負け、昼間にグランの工房で起きた出来事をすべて正直に話したのだった。
翌日。工房に泊まり込んでいたグランが朝の準備をしていると、玄関のドアが激しくノックされた。
ドアを開けると、そこには四侯爵夫人全員が揃い踏みで立っていた。
「……あの、奥様方。朝早くから一体どうされたんですか?」
「決まっているでしょ? その『豊乳剣』を出しなさい」
「……えっ、なんでそれを!?」
「娘のあんな姿を見たら、理由を聞くに決まっているでしょう。さあ、早く!」
グランは奥様方の凄まじい圧力に抗えず、しぶしぶと豊乳剣を差し出した。
「使い方は、このつまみを調整して振った分だけ大きくなります。いつか戻りますけど……」
早速ヴァレンタイン侯爵夫人が数回振ると、その胸は劇的に増量され、彼女は満足げに鏡を覗き込んだ。
「あら、なかなかいいじゃない。ねえ?」
ヴァレンシア侯爵夫人、ヴァスティール侯爵夫人も次々と剣を振り、理想のサイズを手に入れて上機嫌になる。
一方、ヴァーミリオン侯爵夫人はつまみを逆に回して剣を振り、「肩が凝らないわ」と涼しい顔で言い放ち、昨日と同様に他の夫人たちの青筋を誘発していた。
「……あの、公の場でその姿で出て、元に戻ったら問題になるんじゃ……」
「その時はまた借りに来るからいいわよ」
「勘弁してください……。それに、奥様方の魅力は胸の大きさなんて関係ないですよ」
グランが苦し紛れにそう言うと、ヴァーミリオン侯爵夫人が妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。それじゃあ、私たち一人一人の魅力を言ってみなさいな?」
グランは必死に頭を回転させた。
「ヴァレンタイン夫人は、そのスレンダーな立ち姿と美脚が……スリットから覗く感じがやばいです。ヴァーミリオン夫人は、ごめんなさい、もうその恵まれたお体が。ヴァスティール夫人は、神秘的でふわふわした包容力が。ヴァレンシア夫人は、冒険者時代に鍛えられた健康的な美しさが最高です!」
若いグランにストレートに褒められ、夫人たちは頬を染めて顔を見合わせた。
「……ねえ、娘たちには悪いけど、ちょっと『つまみ食い』しちゃってもいいかしら?」
「えっ……ちょっ、何言ってるんですか!?」
『まさかの不倫ルート突入ですか? 節操がありませんね』
(マジで洒落にならないから助けてくれええ!!)
そこへ、運命のいたずらか四聖華たちが工房へ飛び込んできた。
「お母様たち!? 一体何をしているのですか!!」
母親たちがグランを襲おうとしている光景を目撃し、娘たちが全力で止めに入る。
今度は侯爵夫人たちが壁際で正座させられ、グランは再びルヴィリスによって逆さ吊りにされた。
「……今回は俺、マジで何も悪くないだろ!」
「どうせまた、調子の良いことを言ったのでしょう?」
娘たちは母親たちの変わり果てた姿を見て、呆れたようにため息をついた。
「お母様たち、豊乳剣目当てで来たのね……」
「だって、あなたたちだけズルいわよ! これは世の女性の夢を叶える素敵な魔道具だわ!」
ヴァレンタイン侯爵夫人が叫ぶと、他の夫人たちも「言い値で買うわ!」と騒ぎ出し、再び工房はカオスと化した。
「……こんなものがあったら、これをめぐって世界中で戦争が起こるわ」
ルヴィリスは冷静な判断を下すと、グランにその剣を二度と出さないよう厳命した。
グランが豊乳剣を収納魔法に放り込むと、侯爵夫人も四聖華も、どこか残念そうな、名残惜しそうな表情を見せた。
「……明日は、ちゃんとみんなのリンクウェポンを診るから……」
「全く本当よ! 絶対よ!」
その夜、侯爵邸に帰った夫人たちは、新しい姿で夫を熱烈に誘惑し、燃えるような夜を過ごしたという。
翌朝、四侯爵全員がひどくげっそりした顔で登城したことは、王宮の七不思議の一つとして語り継がれることになった。
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