第67話:アレキサンドライトの輝き
王女オリヴィアの誕生日に誘われると思わなかったグランは、意識の海でアンサートーカーに相談を持ちかけていた。
(なあ、オリヴィアは普段武器を使わないだろ? 誕生日、何を渡せばいいと思う?)
『……なぜ女性へのプレゼントで真っ先に武器が候補に上がるのですか、マスター。控えめに言って正気を疑います』
(いや、戦士として祝いたいじゃん。実用的な方がいいだろ?)
『さすがに王城のパーティーに武器を持っていくのは無理です。収納魔法から武器を取り出した瞬間、近くの近衛騎士たちに切り殺されるのがオチですよ』
(そりゃそうか……。じゃあ何にしようか……)
グランが悩んでいると、アンサートーカーが呆れたように提案する。
『普通にアクセサリーでいいのでは。王国は平和といえど、オリヴィア様は魔力核欠乏症の影響で秘密裏に王位継承権を一度放棄しました。しかし最近になって一部の者がどこから情報を得たのか、王位継承権を復活するべきとの声が広がっており、王太子殿下と微妙な仲になっているのです』
(……なんでお前、そんな内部事情まで知ってるんだよ)
『あなたをサポートするために、私を作ったんでしょう』
(いやまあ、お前最近すっかりツッコミ役になってるじゃん)
『マスターがボケるからでしょう』
相変わらずのアンサートーカーのツッコミを受けつつ、とりあえず無難にアクセサリーで、腕輪にすることに決めた。
(なぜ腕輪なのかって? 武器がいらないなら、王族だしアクセサリーに耐性とか色々つけて、あとは魔石化した宝石を付けたらいいんじゃね?)
『まあ、それが及第点ですね』
そう方針が決まると、グランは早速、王都の自分の工房でブレスレットを作り始めた。
『そういえば、宝石は決めているのですか?』
(それは最初から決めてある)
グランが手に取ったのは、かつて深淵の騎士からドロップした『アレキサンドライト』だった。
アンサートーカーは少し驚き、『なぜそれなのですか?』と尋ねる。
(俺の前世で、これはすごく貴重な宝石だったんだ。特別感が出るだろ?)
『四聖華様のものと比べたら、格が違いすぎますが』
(まあ、相手は王族だから格は変えた方がいいだろう。四聖華にはこれからもリンク・ウェポンのアップデートはしていくから、別に格は変わらないさ)
『まあ、そういう説明ならみんな納得するでしょうね』
そして肝心の性能だが、とりあえず結界機能に全状態異常と対属性無効を付け、魔力の効率を良くするための機能を組み込む。
さらに、一度だけ死を防ぐ『スケープドール』の機能を持たせ、最後に魔石化したアレキサンドライトを取り付けた。
『……神聖級の魔道具扱いにされますね』
(まあ、性能の説明は後で個人的にするよ)
誕生日当日。
招待状を持って王城の門に行き、門番に「オリヴィア王女の誕生日に参加しに来た」と伝える。
「平民が来るなんてあり得ない、冗談は顔だけにしとけ」と門番は鼻で笑った。
「招待状を持ってきました」とグランが差し出すと、門番も「一応仕事だからな、確認しよう」と招待状に目を落とす。
しかし、その招待状を見た瞬間に門番の顔は真っ青になり、すぐに上司に確認しに走っていった。
慌てて上司と共に戻ってきた門番は、「失礼しました!」と直立不動で敬礼し、道を空ける。
そして上司の者から、かつて外国の王太子を案内したこともあるという格の高いメイドに引き継がれ、グランを部屋へと案内した。
するとそこは王城内でもひときわ格の高い客間だったため、グランはちょっと気が引けてしまう。
(とりあえず着替えないとな……)
すると、またしても女神アリスティアが介入し、『さあこれを着なさい』と用意された服を押し付けてきた。
今まで黒だった礼服が、逆に真っ白の礼服に金色が混じっているような派手なデザインに変わっている。
(これ、さすがに着たらまずいのでは……)
『まあ、大丈夫でしょう』
アンサートーカーが適当に答える中、メイドが準備の確認をしにドアを開けた。
着替えたグランを見た瞬間にメイドは固まり、グランが「どうかしましたか?」と聞く。
「い、いえ! なんでもありません!」とメイドは頬を染め、グランを誕生日パーティーの会場へと案内した。
名前を呼ばれて会場に入った瞬間、高位貴族が集まっていたため、「平民が何の用だ」と蔑みや陰口を叩かれる。
だが、すぐに四侯爵夫妻と四聖華が集まってきて、「やっぱり呼ばれたのね」と苦笑いした。
「平民が招待されるとはな。貴族主義の者たちがびっくりしておるな、実に痛快だ」
「安心しろ、お前には誰も近づけさせんからな」
侯爵たちがそう言って守ってくれることに、グランは素直に感謝をした。
やがてファンファーレが鳴り、オリヴィア王女がアーサー王と一緒に入場してくる。
壇上に立ったオリヴィアは、参列者に向けて堂々と演説を始めた。
「私はこの前まで帝国で学んできましたが、今は王国の学園に通っております。今年は王国史上最強の世代の同級生たちと切磋琢磨しており、学園選抜では帝国に対して完膚なきまでの勝利を収めました。今、王国は全盛期を迎えていると言っても過言ではありません」
そして彼女は力強く言葉を続ける。
「自分はこれからも王国のために邁進し、将来の国王である王太子を支えます!」
そう明言することで、彼女は周囲で囁かれていた王女復活派を自ら牽制し、封じ込めてみせた。
続いて献上の儀が始まり、四聖華や侯爵夫妻はそれぞれ挨拶を交わし、贈り物を渡していく。
四聖華が「恋も戦いも負けません」と王女に言うと、王女も「私も負けません」とお互いに言い合って火花を散らした。
そしてグランの順番になり、王女オリヴィアが来てくれたことに感謝をする。
「やっぱりあなたには居心地が悪かったようですね、ごめんなさい」
「いえ、四聖華様と四侯爵様たちが守ってくださったのでお気になさらずに」
グランは一応公式の場なので砕けて話すのはやめておいた。
二人が話していると、隣にいた国王アーサーが口を挟んできた。
「オリヴィアがぜひ呼んでほしいとお願いしたからな。我も個人的には呼びたいと思っていたしな。それに、お前は四聖華の誕生日にも呼ばれて、そこでとんでもないプレゼントを渡したそうじゃないか。オリヴィアにはないのか?」
王がそう聞いてくると、オリヴィアは慌てて「お父様、おやめください!」と止める。
「気にしないで、グラン。私は武器は使わないから、リンク・ウェポンを頂いたところで使いこなせません。グランの祝ってくれる気持ちだけでよろしいのです」
「実は、プレゼントをお持ちしました」
グランがそう言い、収納魔法から高級そうな箱を取り出す。
オリヴィアは驚き、「その箱自体、かなり価値があるものですね」と言いながら中身を開けた。
すると中から、美しい宝石が付いたブレスレットが出てきた。
「……ブレスレットです。性能については後で詳しく。一応、王女殿下に合わせて作りました」
「もう、その時点でどんなものか聞くのが怖いですわ」
オリヴィアはそう苦笑したが、その宝石が伝説のアレキサンドライトだと気づいた瞬間、驚きのあまり落としそうになる。
慌てて体勢を立て直したオリヴィアは、「プレゼント、ありがとう」と心から微笑んだ。
グランも改めて招待してくれたことのお礼と誕生日の祝福をし、その場を離れた。
すると待機していた四聖華たちが集まり、みんなが一斉に頬を膨らませてグランに詰め寄る。
「オリヴィア様のブレスレットについてた宝石、伝説のアレキサンドライトじゃない!」
「自分たちは遊びだったんですか!?」と猛烈に抗議されるが、グランは慌てて否定する。
「俺はそんなことしない! 王族にプレゼントするからあれにしただけであって、リンク・ウェポンについてる魔石化した宝石は、それぞれのイメージに合わせた宝石を選んだんだ」
グランは続ける。
「宝石で価値を決めるようなプレゼントをした覚えはない。それに、みんなに渡したリンク・ウェポンは生涯保証付きだ」
その『生涯保証付き』という言葉をダイナミックに捉えた四聖華は、「一生面倒を見てくれる=結婚まっしぐら」と勝手に思い込み、グランをあっさりと許した。
『ハーレムまっしぐらですね』
(なんで生涯保証でハーレムなんだよ!)
アンサートーカーの茶化しに、グランは心の中で激しく突っ込んだ。
そしてダンスの時間になった。
さすがに王族が相手なので、オリヴィアは高位貴族たちと順番に踊っていき、グランが踊るのは最後の方になった。
ようやくグランと踊り始めた時、オリヴィアは少し寂しそうに微笑んだ。
「本当は、グランと真っ先に踊りたかったわ。ただ、この身分だと難しいことが多いのよね……」
「こういう場では仕方ないですよ。でも、学園では遠慮してないからいいじゃないですか」
「ふふっ、それもそうですね」
オリヴィアは嬉しそうに微笑み、気づけば二人は二曲続けて踊ってしまっていた。
少し周囲がざわついたところで踊り終わり、グランが壁際へ戻ると、四侯爵夫人が待ち構えていた。
「あなた、前から思ってたけど、王女様にも手をつけてるの?」
それを聞いた四聖華たちが、「王女どころか帝国の皇女にも手をつけているんですよ!」と抗議し始める。
夫人たちは面白そうに笑い、「あなたたち、ほっといたらどんどんライバルが増えていくだけよ?」と煽る。
「絆の強さじゃ負けません!」
そう言って四聖華がグランにベッタリと引っ付き、グランは死にそうな目をしながら誕生日パーティーの時間を過ごすのだった。




