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異世界転生~女神に無理矢理転生させられたので、やりたい放題します!~  作者: GSZN
第2章 学園ファンタジー編

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第56話:サファイアの輝き

 12月に入り、王立魔法学園は冬休みを前に浮足立つ生徒たちの熱気としんしんと降り積もる雪の静寂に包まれていた。


 グランの手元には、先日ソフィアから直接手渡しで贈られた、一通の特別な招待状があった。


 それは市販の便箋などではなく、ヴァレンシア侯爵家の家紋が刻印された特注の厚手の紙が使われていた。


 封蝋には彼女の瞳や魔力を象徴するような、鮮やかで明るい碧色の蝋が選ばれ、繊細な雪結晶の紋様が浮き彫りになっている。


「グラン様、これは……私の、本当の『心』だと思って受け取ってくださいね?」


 そう言って招待状を渡してきた時のソフィアの、耳まで真っ赤にして震えていた指先を思い出し、グランは知らずしらずのうちに頬を緩ませた。


 例のごとく、彼女の自領にあるヴァレンシア侯爵邸へ泊まりがけで向かうことが決定し、グランは入念に旅の支度を整えていた。




 12月10日、厳かな終業式が終わるとすぐ、グランは正門前に用意されたヴァレンシア家の豪華な馬車に乗り込み、北東へと向けて出発した。


 目指すヴァレンシア領は王都から馬車で5日の距離にあり、未開の魔境に隣接する「最果ての防波堤」とも呼ばれる勇猛な土地である。


 もちろん、ソフィアにプレゼントする「リンク・ウェポン『氷華』」の最終調整は、この5日間の道中も馬車の中で絶え間なく続けられていた。


「ソフィのハルバードの最大の弱点は、あの一撃の重さと引き換えになる大ぶりの隙だ。これを物理的に解消したい」


 アンサートーカーは脳内で『合理的です。一撃を防がれた際、近接戦でのリカバリーが遅れることは彼女の戦闘データからも明らかです』と同意した。


「そこで、ハルバードを二刀流の短めの戟に分離できる機構を実装した。合体状態でも分離状態でも、魔力操作一つで即座に切り替えられるようにしてある」


『マスター。さらに、武器を一度消した状態から分離した片方だけを出現させる運用も可能にしました。これで不意打ちや狭い場所での戦闘にも対応できますね』


「ああ、彼女ならこの複雑な魔力パスもすぐに自分のものにするだろう。ソフィの努力は、俺が一番よく知っているからな」




 五日の旅路を経て到着したヴァレンシア領は、雪を跳ね除けるような活気に満ち、国内最大の冒険者ギルドを擁する「冒険者の街」そのものだった。


「ヴァレンシア侯爵夫人は平民でSランク冒険者まで登り詰めた氷の魔法使い。ソフィアがあの人を目標にするのも、この街の空気を見れば納得だ」


 夏の聖域での合宿で見せた夫人の魔法は、まさにソフィアが目指すべき完成形であり、グランはその圧倒的な威圧感を思い出し背筋を正した。


 対抗戦以降、親をいつか超えると誓って、ますます鍛錬に気合が入っているソフィアを、グランは心から頼もしくそして誇らしく思っていた。


 馬車が侯爵邸の重厚な石造りの門を潜ると、そこには防寒着に身を包み、寒さで鼻を赤くしながら待ち構えていたソフィアの姿があった。


「グラン様――! やっと、やっと会えた! この五日間、どれほど長かったか!」


 馬車の扉が開いた瞬間、ソフィアは周囲の目も憚らず、弾丸のような勢いでグランの胸の中に飛び込んできた。


「ソフィ!? 落ち着いてくれ、危ないって! ……それにしても、体がかじかんでいるじゃないか。ずっと外で待っていたのか?」


「そんなの、グラン様に会える喜びに比べれば些細なことです! もう我慢できませんわ……今すぐお部屋で、積もる話を……!」


 ソフィアの抱擁はますます強くなり、暴走の兆しを見せ始めたが、背後から現れた侯爵夫人の鋭いチョップが彼女の脳天に落ちた。


「痛っ!? お、お母様!? いきなり何をなさるのです、乙女の抱擁を邪魔するなんて!」


「お久しぶりですね、グランさん。よく来てくださいました」


 プンスカするソフィアを華麗ににスルーして現れたのは、凛とした美貌の中に歴戦の猛者特有の凄みを隠し持つ、ソフィアの母・ヴァレンシア侯爵夫人だった。


「お久しぶりです、夫人。この度は、ソフィの誕生日という大切な日にご招待いただき、心から感謝いたします」


「堅苦しい挨拶はいりませんよ。私は平民の家系ですからね。さあ、中に。寒かったでしょう、最高に効く薬草茶を用意させているわ」


 ソフィアに腕をガッシリとホールドされたまま廊下を歩いていると、向こうからガラの悪い、屈強な男たちが数人歩いてくるのが見えた。


 一人の騎士がグランの前に立ちふさり、獲物を品定めするような鋭い視線で睨みつけてくる。


「おいおい、お嬢。そいつが噂の『例の男』か? 随分と線が細くて、俺たちの姫さんを守れるようには見えねえがな。ああん?」


 男が威圧的な魔力を放つが、侯爵夫人はそれを窘めるどころかケラケラと愉快そうに笑っていた。


「驚かせてごめんなさいね。うちの屋敷の人間は、ほとんどが私と一緒に死線を潜り抜けた元冒険者なの。言葉は荒いけど腕は確かよ。ここにいる全員が、何らかの武道や魔法の達人よ。そこらの軟弱な貴族の騎士団なんか、束になっても指先一つで捻り潰せる連中ばかりよ」


 ソフィアも苦笑しながら、「今の人はガラクさん。私が小さい頃、訓練で落ち込んで泣いているといつも冒険時代の話をして励ましてくれたんです」と教えてくれた。


「そうだったんだな。見た目で警戒して悪かった。ソフィは本当に、自分を想ってくれる素敵な人たちに囲まれているんだな」


「ええ、私の自慢の家族ですわ! さあグラン様、こちらが貴方のお部屋です。……ふふ、お隣は私の部屋ですからね?」


 少し時間が経った後、部屋のドアが控えめにノックされ、グランが返事をして扉を開けると、先ほどの騎士ガラクが立っていた。


「坊主。少し話をしたい。……野郎同士、外へ来い」


 ガラクに連れ出されたグランは、雪の降る静かな訓練場で、彼がソフィアに向ける不器用ながらも深い想いを聞かされることになった。


「ソフィア様はこのヴァレンシア家の一人娘だ。母親は平民出身の冒険者だが、この地は身分より実力が物を言う厳しい場所だ。あの子は生まれ持った『魔眼』のせいで将来を期待されていたが、その優しい性格が戦闘面で足を引っ張っていることは俺たちにも分かってた」


 ガラクは酒を一口煽り、「だが、十歳の野外実習から帰った後のあの子は見違えた。今や四聖華だ。俺は本当に、あの子が誇らしいんだよ」と語った。


「血は繋がっていねえが、あの子は俺たちの娘みたいなものだ。いや、この地の者はみんなあの子を自分の娘だと思ってやがる。……だからよ。あの子の隣に立つなら、それ相応の実力がないと話にならねえんだわ」


「実力、ですか。……俺は、自分にできることを精一杯やっているつもりですが」


「白々しいこと言うんじゃねえ。……坊主、お前。その澄ました顔の下に、とんでもねえ実力を隠してるだろ。俺の直感は誤魔化せねえぞ」


 グランは内心の動揺を抑え、脳内のアンサートーカーに確認したが、『いいえ、鑑定魔法の形跡はありません。純粋な経験則による看破です』との回答が返る。


「なぜ、俺が実力を隠していると分かったんですか? 偽装には絶対の自信があったんですが……」


「簡単だ。冒険者は危険察知能力と危機管理能力が高い奴ほど無茶をせず長生きする。本能が告げるアラートが、お前を見た瞬間から鳴り止まねえんだよ。隠したけりゃもっと気配を消す練習をしな。……ソフィア様を頼むぞ。泣かせたら承知しねえからな」




 誕生日会当日、アリスティアから送られてきた、漆黒の生地にソフィアを想わせる明るい碧色が差し色に入った特注の礼服に袖を通し、グランは会場へと向かった。


 会場はルヴィリスたちの時とは違い、冒険者たちが豪快に酒を酌み交わす祝宴のような熱気に包まれており、四聖華や王女もその気風に圧倒されていた。


「ヴァレンシア領は独特ですわね。実力がすべてだから、貴族への敬意は薄いかもしれませんが、団結力は国内屈指。町の人も皆、戦えるといいますし」


 王女オリヴィアの言葉通り、会場を埋め尽くす人々からは、領主への敬愛とそれ以上の戦友としての絆が感じられた。


 やがてソフィアが侯爵と共に入場し、壇上で「かつて落ちこぼれだった自分が、たった一つのきっかけで変われた」と力強く宣言した。


「努力は人を裏切りません。私はこれからも、この領のみんなと一緒に、大切なものを守り抜きたい! それが私の生涯の誓いです!」


 その宣言に、会場の冒険者たちが一斉に拳を突き上げ、地鳴りのような歓声が建物全体を揺らした。




 贈り物の時間が始まり、グランはガラクに目配せされ、一番最後にソフィアの前へと進み出た。


「誕生日おめでとう、ソフィ。今日こうして招いてくれてありがとう。今日の君は、誰よりも輝いていて最高に美しいよ」


「……ありがとうございます、グラン様。貴方にそう言っていただけるのが、私にとって何よりのプレゼントです」


 ソフィアが頬を染めてはにかむ中、グランは収納魔法から、聖域の魔獣の皮で装飾された重厚な木箱を取り出した。


「ヴァレンタイン侯爵夫人たちから聞いていたけれど。その箱自体が聖域の素材なんて、中身を見るのが恐ろしいわね」


 夫人が期待と驚きで目を細める中、箱から現れたのは、蒼白銀に輝く聖域素材のハルバードと、中央に穴が開いている細工物のチョーカーだった。


 ルヴィリス、エルスメリア、ディアドラの三人が、もはや恒例となった解説を聞くために身を乗り出して集まってくる。


「……よし。ハルバードを握って魔力を流してくれ。今から仕上げだ」


 グランが蒼白銀の魔法陣を空中で展開すると、そこへ魔石加工を施した極上の「サファイア」を武器とチョーカーの穴に吸い込まれるように埋め込んでいく。


「ソフィ、じゃあこのチョーカーを付けてみてくれ。……後ろから回そうか?」


「いいえ、グラン様。正面から……私と目を合わせて付けてください。……お願いです、私の目を見て付けてほしいです」


 ソフィアが潤んだ瞳で強請るため、グランは至近距離で顔を合わせながらチョーカーを装着したが、彼女の瞬き一つしない熱い凝視に少し気圧されてしまう。


「これでサファイアが武器とチョーカー、そして君の魔力とリンクした。……さらに、ハルバードには『分離機構』を組み込んだ」


「分離、ですか……? この大きなハルバードが?」


「ああ。分離を念じながら握ってみてくれ。素早い相手に潜り込まれた時、それに対抗するための二刀流の戟だ」


 ソフィアが念じた瞬間、長大なハルバードが青い閃光と共に二本の戟へと姿を変え、彼女は驚きの声を上げながらも軽く振り回した。


「凄いです……! 驚くほど手に馴染みますわ! このサファイアを通じて、私の魔力が武器の隅々まで行き届くのが分かります!」


 さらに、魔眼を持つソフィアはサファイアが魔石化していることに気づき、グランは「魔力捜査の応用で魔力を貯め込み、ここぞという時に解放できる」と説明を加えた。


「グラン様……私、これからはこのサファイアを私の魔力でいっぱいにするために、今まで以上に死ぬ気で鍛錬しますわ!」





 続くダンスの時間、ソフィアは侯爵との一曲を終えると、弾むような足取りでグランへと手を伸ばした。


「グラン様、私をリードしてくださいね。……今夜は、私を世界で一番の幸せ者にしてくださると約束しましたものね?」


 グランも快くそれに応じ、極上の幸福感に包まれたソフィアと三曲を踊りきると、それを見ていたガラクは「あのお嬢が……」と男泣きしていた。





 パーティーが終了し、四聖華たちを見送った後、客室に戻ったグランを待っていたのは、さっそくサファイアに魔力を注入している努力家なソフィアの姿だった。


「グラン様、今日のお礼をどうしても伝えたくて。……ふふ、さっそくこのサファイアに魔力を溜めてみたんです。でも、少し頑張りすぎちゃいましたわ」


 限界が来たのかそのままベッドへ倒れ込み、眠り始めたソフィアを前にメイドを呼ぼうとしたが、廊下で侯爵夫人に捕まってしまう。


「他の子の時も一緒に寝たんでしょう? ヴァーミリオン侯爵夫人からも聞いてるわよ。手は出さないと聞いているけど、だからといって、うちの娘だけ仲間外れにするわけにはいかないわね」


「いやいや、夫人!侯爵に見つかったら俺、水牢に閉じ込められて溺れ殺されますよ!」


「あの人にそんな権限はないわよ。……ねえ、あなた?」


 グランが背後を振り返ると、そこには今まさにグランを粛清しようと青筋を浮かべた寡黙な侯爵がいたが、夫人は無言で彼の襟首を掴み上げた。


「今日は寝かせませんからね。朝まで娘たちの未来について語り合いましょう?」


「わ、わかった、わかったから……! グラン君、また明日ゆっくり話そう……!」


 夫人は引き攣った笑みを浮かべる侯爵を引きずって去っていき、グランは「これ何回目だよ……」と溜息をつきながら、ソフィアをベッドに寝かせた。


 自分も隣に横たわると、眠っていたはずのソフィアがパチリと目を開けた。


「……魔力が底を突いたのに、起きていたのか?」


「はい。魔力操作の訓練のおかげで、魔力が切れても少しの間なら意識を保てるようになりました。……さっきのやり取り、全部聞こえていました」


 顔を赤くして沈黙するグランに、ソフィアはシーツの中で音もなく体を密着させてきた。


「私はいつでも準備できています。……グラン様になら、私、何をされても文句はありません。むしろ、うれしいです」


「……ソフィ。流されてするのは違うと思うんだ。俺は、君のことをちゃんと大切にしたいんだよ」


 グランの言葉に、ソフィアは納得したように微笑んだ。


「……分かりました。でも、今日は夏の合宿の時のように、一緒に寝るだけでいいですから。……その代わり、腕枕、してくれますか?」


「それくらいなら。……おやすみ、ソフィ」


 グランが腕を差し出すと、彼女は嬉そうに頭を乗せ、そのまま足を絡めて逃がさないように密着してきた。


『ソフィア様会心の一撃ですね、マスター。助けが必要ですか?』


 アンサートーカーがおちょくってくるが、グランは「お前、後で覚えておけよ」と毒づきながら寝落ちした。




 翌朝、ソフィアはグランより先に目を覚まし、隣で眠る愛おしい少年の寝顔をじっと見つめた。


 これまでの日々への感謝と、これからの未来への誓いを込めて、ソフィアは眠っているグランの唇に、濃厚な感謝の口づけを落とした。


 満足げに微笑んだソフィアは、そのまま音を立てずにベッドを抜け出し、自分の部屋へと戻っていった。


 しばらくして目を覚ましたグランは、ソフィアと侯爵夫妻と共に賑やかな朝食を囲み、ガラクに昨日助言をくれた感謝を伝えた。


 帰路の準備を整え、馬車へと乗り込もうとするグランの手を、ソフィアが名残惜しそうに握る。


「また学園で会いましょう、グラン様。……ずっと、待っていますから」


 ソフィアの見送りを受けながら、グランは充実感と共にヴァレンシア領を後にした。

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