第51話:エメラルドの輝き
本日は予告しておりました、3話連続投稿となります。
※本日のサイトメンテナンスに伴い、作品の「AI利用状況」に関する設定を行いました。詳細や本作の制作方針につきましては、本編のあとの【あとがき】にてご説明しております。
10月も末に差し掛かり、王都を彩る木々は鮮やかな黄金色へと姿を変えていた。
この時期、学園で一つの大きな話題となっていたのは、四聖華の一角、エルスメリア・ヴァーミリオンの誕生日会であった。
前回のルヴィリスの時と同様、グランのもとにはエルスメリア本人から特別な招待状が手渡しされた。
「グラン君、私の故郷であるヴァーミリオン領へ、ぜひお越しください。……いいえ、必ず来てくださいね?」
エルスメリアの潤んだ瞳と、断らせないという強い意志に押され、グランはヴァーミリオン領へと向かうことになった。
当日は彼女が手配した豪華な馬車が寮の前まで迎えに来ており、グランはスムーズに旅路につくことができた。
車窓から見える景色が、石造りの街並みから黄金色に輝く広大な田園風景へと変わっていく。
「ここは……。見渡す限りの小麦畑か。壮観だな」
『マスター、ヴァーミリオン領は王国の食料自給率の三割を担う重要拠点です。非常に平和で、豊かな土地ですね』
アンサートーカーの解説通り、のどかな農村風景は人々の心の余裕を感じさせた。
数時間の揺れの末、到着したヴァーミリオン侯爵邸では、当主夫妻が直々にグランを出迎えた。
ヴァーミリオン侯爵は、元々上位の魔法師でありながら、その人柄は真面目で実直。
貴公子のような端正な風貌は、かつて社交界の令嬢たちの憧れの特等席だったという。
だが、そんな彼には貴族間で語り継がれる有名なロマンスがあった。
かつて教会で出会った一人の治癒師と大恋愛の末、身分の差を越えて結ばれたのが、現在の侯爵夫人である。
「ようこそ、我が領へ。娘の恩人である君を招待できて、光栄の至りだ、グラン・グラニアス殿」
侯爵が穏やかな笑みを浮かべて握手を求めてくる傍らで、夫人が妖艶な笑みを浮かべた。
「娘から聞いたと思うけど、私たち、素敵な出会いだったなんて言われるけど、本当はこれがあれば誰でもイチコロだったのよ?」
そう言って夫人は、自身の豊満な身体を強調するように、誘うような仕草をとって見せた。
「……っ、妻よ。客人の前で破廉恥な真似はやめてくれ。頭が痛い……」
侯爵が頭を抱えると、夫人はくすくすと笑いながら、愛しそうに夫の腕に絡みついた。
「あら、でもあなた、私がこれを見せつけたらすぐに赤くなって落ちたじゃない?」
「それは……。まあ、否定はしない。私は君のすべてを愛して結婚したからな」
「うふふ、出会った当初の彼は無茶ばかりして生傷が絶えなかったのよ。だから私が毎日説教してあげていたの」
夫人の意外な言葉に、グランは目を丸くした。
「侯爵が、生傷の絶えない生活を?」
「ああ、若気の至りというやつだ。当時は己の限界も知らず、無茶な魔物狩りばかりしていた」
侯爵は少し照れくさそうに頭を掻き、真剣な眼差しをグランに向けた。
「あんな無茶はもう二度としないと思っていたが……。夏の聖域での修行は、そんな昔の血を滾らせてくれた。いい気分転換になったよ」
「いえ、俺はただきっかけを作っただけで……」
「謙遜しないでちょうだい。それに娘の命を二度も救ってくれた。こればかりは、神に感謝したわ」
夫人は教会の治癒師でありながら、神への信仰は「職業上の義務」程度にしか考えていなかったという。
「私、神様なんて都合の良い存在だと思っていたけれど、今回ばかりは本当に感謝しているの。……あなたという奇跡を遣わしてくれたことにね」
侯爵夫妻の深い感謝と愛情を受け、グランは温かい気持ちになりながら、用意された部屋で明日の本番に備えて眠りについた。
――少し時は遡り、王都の秘密工房。
グランとアンサートーカーは、エルスメリアに贈るため、第2の「リンク・ウェポン」の制作に没頭していた。
『マスター。ルヴィリス様の時は近接戦闘の補完という明確な目的がありましたが、エルスメリア様の場合は?』
「エルは遠近両方の適性があり、何より四聖華で一番の魔力量と防御力を誇る。攻防隙がないのが彼女の強みだ」
グランは設計図を引きながら、アンサートーカーに不敵な笑みを向ける。
「なら、長所をさらに伸ばせばいい。彼女が使い慣れている盾とメイスのスタイルをベースにする」
『なるほど。既存のスタイルを強化しつつ、その膨大な魔力を利用する機構を組み込むわけですね』
「ああ。彼女の筋力と魔力、そして俺が教えた魔力操作の極意があれば、必ず使いこなせるはずだ」
アンサートーカーの解析でも「成功率九八パーセント」という高数値を叩き出し、作成は順調に進んだ。
――そして現在、誕生日会当日の朝。
グランがまたしても交流パーティーで着た礼服を着ようとした時、アンサートーカーを通して、見覚えのある女神の声が響いた。
『あら、またそれを着るつもり? 私が特製のものを用意してあげたわよ』
現れたのは、漆黒の生地に、エルスメリアを象徴するエメラルドグリーンの差し色が施された、最高級の礼服だった。
「……アリスティア。これ、もしかして四聖華全員分あるのか?」
『当然じゃない。王女様の分まで、その時の主役に合わせてコーディネートしてあるわよ。さあ、さっさと着替えなさい!』
「俺は着せ替え人形じゃないんだが……」
不満を漏らしつつも、グランは女神の説教から逃れるために、その見事な礼服に袖を通した。
そして少し時間が経つと部屋の扉がノックされた。
グランが返事をすると、扉を開けて入ってきたのはレインだった。
「……グラン様、とても凛々しいですわね。私も見惚れてしまいます。」
「……ありがとう。レインが案内してくれるのか?」
「はい。あなたを会場まで案内する栄誉を、皆からもぎ取ってきました。」
「……そ、そうか。お手柔らかに頼む」
案の定、会場へ向かう廊下では、執事やメイドたちがその姿を見て、ルヴィリスの時と同じように息を呑んでいた。
会場に到着したグランは、入り口で足を止めた。
ルヴィリスのパーティーは貴族中心の華やかなものだったが、ここは違う。
会場内には、正装した平民の農夫やその家族が、貴族たちと混ざって笑顔で談笑していた。
「驚きましたか? グラン様」
付き添いのレインが、誇らしげに語りかけた。
「この領地を支える農業は、領民たちの手があって初めて成り立つもの。日頃の彼らへの感謝を形にしたいというのが、お嬢様の強いご希望だったのです」
「エルらしいな」
「お嬢様が病で倒れていた時、領民たちは自主的に断食をし、治療費にと寄付を続けてくれました。ここは、絆の土地なのです」
その話を聞き、グランは胸が熱くなるのを感じた。
ファンファーレが鳴り響き、着飾ったエルスメリアが侯爵と共に入場してくる。
エメラルド色のドレスを纏った彼女は、まさに森の妖精のような美しさだった。
「皆様、本日はありがとうございます。私は今、生きている奇跡を両親、領民、そして神に感謝します」
彼女の凛とした声が会場に響き渡る。
「将来は、身分を分け隔てなく尽くす、教会の聖女を目指すことをここに誓います!」
割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こり、多くの領民が涙を流して彼女の復帰を祝った。
その後、挨拶の列が続く中、グランは自分の順番を待っていた。
「グラン様、あなたは最後にお願いします」とレインに言われ、最後にエルスメリアの前に立った。
「……エル。今日は本当に綺麗だ。招待してくれてありがとう」
自分の色が入っている、礼服を着たグランのその言葉を聞いた瞬間、エルスメリアの理性が激しく揺らいだ。
(ああ、今すぐここで押し倒して、既成事実を作ってしまいたい……!)
そんな衝動を必死に抑え込み、彼女は頬を赤らめて微笑んだ。
「……ありがとうございます、グラン君。来てくださって、本当に嬉しいです」
グランは収納魔法から、重厚な革製の箱を取り出した。
その革の質感を見た侯爵は、目を見開いて声を上げた。
「それは……聖域の魔物の皮か。グラン殿、まさか……」
「ええ、彼女のために新調したリンク・ウェポン『翠嵐』です」
箱を開けると、そこには左右対称な巨大な二枚の装甲板を中央で噛み合わせたような、独特な形状の盾。
純白の輝きを放つメイス、そしてルヴィリスと同じ、幾何学的な穴が開いたチョーカーが収められていた。
いつの間にか駆けつけていた他の四聖華の三人も、興味津々で覗き込む。
「エル、装備して魔力を流してみてくれ」
グランの指示に従い、彼女が武器を手に取ると、グランは蒼白銀の魔法陣を展開した。
用意していた最上級のエメラルドが、武器とチョーカーの窪みにカチリとはまり込む。
「魔力操作の要領で、それを収納するように念じてみてくれ」
エルスメリアが目を閉じると、巨大な盾とメイスが光の粒子となって消えた。
「そして、このチョーカーを。……ルヴィと同じ、君と武器を繋ぐデバイスだ。つけてくれないか」
エルスメリアはいたずらっぽく微笑んで、とんでもないことを言い出した。
「つけてください。前から……前からつけてください、グラン君」
「……前からだと、その……」
「いいんです。当てるつもりで近づいていますから」
エルスメリアがにこにこと胸を押し当ててくると、グランは素数を数え始めた。
『マスター。無意味な抵抗ですよ。さっさとつけてあげればいいものを』
(アンサートーカー、お前、後で覚えておけよ……! 集中できん!)
冷や汗をかきながら、なんとかチョーカーを装着し終えると、至近距離でエルスメリアの甘い吐息が耳元を掠めた。
「はぁ……。これ、ルヴィを見て羨ましかったんです。癖になりそう……」
エルスメリアのトロンとした目に、グランは内心で頭を抱えた。
「……機能の説明を続ける。そのメイスを出し、剣に変形しろと念じてみてくれ」
「変形……ですか?」
彼女が念じると、純白のメイスがガシャリと音を立てて形状を変え、鋭い刃を持つ長剣へと姿を変えた。
「なっ……!? 質量保存の法則を無視しているのか!?」
侯爵が驚愕の声を上げる中、グランはさらに続けた。
「その盾も念じてみろ。それは中央から左右に分かれ、両肩を守る浮遊盾として機能する、魔力操作の要領で自分の周りを自由に動かせる」
彼女が意識を向けると、正面に構えていた大きな盾が左右対称に分離。
エルスメリアの意志に呼応し、まるで彼女を包み込むような軌道を描いて両肩の背後に定位した。
「これなら……。魔法を放ちながら、防御も攻撃も自由自在……。凄いです、グラン君!」
感激のあまり、エルスメリアはグランに抱きついた。
「ちょ、エル!? 離れなさい!」
他の三人が引き剥がそうとするが、鍛え抜かれたエルスメリアの腕力には、三人がかりでも太刀打ちできない。
「力が……! なんでこんなに力が強いのよ、この聖女候補は!」
「エル!人前でやめなさい!」
侯爵が娘のはしたない行動に頭を抱え、夫人は「そのまま押し切っちゃいなさい」と小声でエールを送っていた。
その後、ダンスの時間が始まった。
エルスメリアは父親と一曲踊った後、真っ直ぐにグランに向かい、踊ってほしいと手を差し出した。
断る理由などなかった。
他の四聖華も「今日だけは彼女を一番にしてあげて」と背中を押す。
交流パーティーの時とは違い、経験を積んだグランのリードは完璧だった。
エルスメリアは至福の表情で踊りながら、脳内でグランとの将来を猛烈にシミュレートしていた。
(子供は三人……。いいえ、五人は欲しいですね。長男はグラン君に似て、次男は……)
「エル? 大丈夫か?」
「……っ、あ、はい! 幸せすぎて、少し遠い未来を見ていました!」
彼女の幸せそうな笑顔を見て、周囲の領民たちも「まるで孫の門出を見ているようだ」と温かく見守っていた。
その夜。
他のメンバーを見送った後、グランが客室で一息ついていると、扉がノックされた。
現れたのは、部屋着姿のエルスメリアだった。
「改めて、お礼を言いに来ました。……このエメラルド、ただの宝石ではありませんね?」
「気づいたか。魔石加工を施してある。君の膨大な魔力を魔力操作の応用でストックできる仕組みだ」
「この大きさのエメラルド、市場には絶対に出回りません。一体どこで……?」
「聖域の第六層、火山地帯のジュエルゴーレムを数体狩ってな」
「第六層のゴーレムを、数体も……」
彼女は改めてグランの規格外の強さに惚れ直し、さっそくエメラルドに魔力を流し始めた。
だが、慣れない精密操作に集中しすぎたのか、しばらくすると彼女はこっくりこっくりと舟を漕ぎ始めた。
「……レインを呼ぶか」
グランが立ち上がろうとした時、なぜか扉の影から侯爵夫人が姿を現した。
「呼びに行かなくていいわよ。今日は一緒に寝て、そのまま手を出しちゃいなさいな」
「夫、夫人!? そんなことをすれば、侯爵に風魔法でバラバラに引き裂かれます!」
「大丈夫、あなたたちを見て彼も思うところがあったみたいだし。それに、今夜は私たちが夫婦水入らずで楽しむから、邪魔は入らないわよ」
嵐のように去っていった夫人の言葉に呆然としながら、グランは仕方なく、眠りについたエルスメリアをベッドの隣に寝かせた。
ふと、彼女の柔らかな髪に触れようと手を伸ばすと――。
ガバッ、とエルスメリアに手を掴まれた。
「……今、手を出しましたね?」
「……っ! 寝たふりか!?」
焦るグランに対し、エルスメリアはいたずらっぽく笑った。
「いえ、意識が途切れる寸前に、エメラルドに貯めた魔力を吸い出せないかと思いついて……。実践したら目が覚めました」
「その土壇場での応用力、素直に凄いな……」
「ふふ、褒めてくれるなら、お礼に抱いてください」
彼女は豊満な身体を隙間なく密着させ、甘い香りでグランを誘惑する。
『マスター! ついに陥落ですか!? 実況の準備はできていますよ!』
(力が強い!アンサートーカー、助けろ! 面白がるな!)
『嫌です。面白いので、このまま見ています』
絶体絶命のピンチかと思われたが、エルスメリアはふいっと身体を離して笑った。
「……冗談です。でも、本当は抱いてほしい。私を救ってくれたあなたになら、何をされてもいい。……愛しています、グラン君」
彼女の真剣な告白に、グランは言葉を失う。
「でも、四聖華のみんなと『卒業までは一線を越えない』って約束したんです。……ただし、『誘惑して手を出させるのは自由』とも決めましたけど」
「……俺の身が、卒業まで持つ気がしないんだが」
「ふふ、今日は隣で寝るだけで幸せです。……おやすみなさい、私の愛しい人」
魔力の限界が来たのか、今度こそ彼女は深い眠りに落ちた。
グランは大きな溜息を吐き、安堵のあまりベッドに沈み込んだ。
『マスター。男として死んでいるんじゃないですか?』
(バカ野郎。リスクが高すぎるだろ……)
『リスクばかり考えてたら、勝負には勝てませんよ?』
(……何の勝負だよ!)
翌朝。
先に目を覚ましたエルスメリアは、まだ眠っているグランに、そっと音を立てないように口づけを落とした。
「……みんなには、内緒ですよ」
彼女が恍惚の表情で部屋を去った後、目を覚ましたグランは、なぜか唇に残る柔らかな感触に首を傾げながら、朝食の席へと向かった。
食堂では、なぜか酷く疲れ果てた侯爵と、肌が艶々になった夫人が並んで座っていた。
(……仲睦まじいのは、良いことだな)
グランが遠い目をしていると、帰り際、夫人が小声で耳打ちしてきた。
「うちの娘、どうだった?」
「……手は出していません」
「あら、残念。でも、あまり断られると女は自信をなくすのよ。たまにはスキンシップくらいしなさい」
前世でも聞いたような台詞に、グランは苦笑しながら答えた。
「……努力します」
「素直でよろしい」
エルスメリアの眩しい笑顔に見送られ、グランは揺れる馬車の中で、次なる戦いと騒がしい日常へと戻っていった。
読者の皆様へ
【AI利用状況の設定に関するお知らせ】
本日の「小説家になろう」のメンテナンスにて実装された新ガイドラインに基づき、当作品の設定を行いました。システムの規約上、当作品のAI利用区分は「AI直接使用」となっております。
しかし、「直接使用」という区分ですが、あらすじにも記載してる通り、AIに直接物語を作らせるようなことは一切しておりません。
ストーリー、世界観、キャラクターのセリフ、詳細なプロットはすべて私自身の手で作成しております。AIはあくまで「作者が書いたプロットを小説形式のフォーマットへ清書し、誤字脱字の修正や表現の微調整を行うためのツール」としてのみ使用しております。
ルールに則った設定となりますが、物語の根幹はすべて作者自身のオリジナルです。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
引き続き、当作品をお楽しみいただければ幸いです。




