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異世界転生~女神に無理矢理転生させられたので、やりたい放題します!~  作者: GSZN
第2章 学園ファンタジー編

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第45話:埋め合わせの休日

 グランと側近の決闘騒ぎは、オリヴィア王女の迅速な手回しによって事なきを得た。


「王女が指名した者を蔑むとは、王家そのものを軽んじる行為。言語道断です」


 オリヴィアの凛とした一喝は、裏で糸を引こうとしていた貴族主義の大人たちを完全に沈黙させた。



 決闘の翌日、あの凄惨な場面を見ていた貴族たちの間では、「黒髪の平民には絶対に手を出すな」という暗黙の了解が広がっていた。


 王女と四聖華という、王国の至宝たちが後ろ盾にいることも公になったグランに対し、今まで彼を平民と蔑んでいた者たちはこぞって鳴りを潜めたのである。


 そして迎えた休日。グランは無理やり取り付けられた「デート」の約束を守るため、王都の待ち合わせスポットである噴水広場に立っていた。


(……デートか。前世も含め久しくやっていなかったな。まあ、これくらいで許してくれるなら、せっかくだ、今日は精一杯楽しもう)


 私服姿で周囲に溶け込もうとするグランの脳内に、アリスティアからの通信が割り込んでくる。


『ちょっとグラン! やっとまともなハーレム展開じゃない! あんた、いつも訓練ばっかりで戦い過ぎなのよ!』


(……女神様、あんたは黙って見ててくれ。俺はこれでも必死なんだ。大体、あんたが無理やり転生させたせいだろ)


『うるさーい! 私の物語に花を添えて、甘々な雰囲気を醸し出しなさい! これくらいいつもイチャイチャしなさいよね!』


 グランが溜め息混じりに適当な返事をしていると、約束の時間通り、五人の少女たちが姿を現した。


 各々が気合の入った可愛らしくも華やかな私服に身を包んでいる。グランは一瞬圧倒されたが、努めて冷静に言葉をかけた。ちゃんと褒めるのは社会人として当たり前である。


「みんな、よく似合ってるよ。……いつも素敵だが今日は一段と綺麗だ」


「……っ。そ、そうですか? ありがとうございます、グラン様。……その、あまり見つめられると、落ち着きませんわ」


「ふふ、グラン君にそう言わせるために、昨日の夜からみんなで服を選び合った甲斐がありましたわ。合格点をいただけて光栄です」


 照れる面々の中で、オリヴィアは王族用の変装アミュレットを使い、本来の白金髪を落ち着いた茶髪に変えていた。


「オリヴィア様、その茶髪もすごく似合っています。新鮮です。街の雰囲気にも馴染んでます」


「……本当? 変じゃないかしら。少し地味すぎるかと思ったのだけれど」


「ええ。でも、やっぱり俺は、貴女らしいあのプラチナブロンドの髪が一番好きですよ。あなたらしくて、どこか神聖な感じがしますから」


「……っ。……もう、そんなこと、さらっと言わないでちょうだい。……嬉しいじゃない。今日一日、元に戻せなくなっちゃうわ」


 王女が耳まで真っ赤にして俯き、華やかなデートが幕を開けた。


 王都を回るのは初めてだというグランのため、今日は彼女たちが順番に「王都の名勝」を案内することになった。



 まずはルヴィリスの案内で、荘厳な佇まいの王立美術館へと向かう。


 芸術には疎いグランだったが、ある展示コーナーの前で足が止まった。そこには、前世で見た人気アニメのキャラクターを彷彿とさせる女神像が描かれていた。


「この絵……。」


「あら、お目が高いですわ。これは五百年前に活躍した有名な画家の作品ですの。当時の常識を覆す人体描写、特にこの眼の光の入れ方は、今もなお多くの研究者が頭を悩ませている傑作なんですわよ」


(なあ、アンサートーカー。これ、やっぱり……)


『肯定。前世でイラストレーターをしていた転生者の作品です。記録によれば、激務続きで心臓発作を起こし、この世界へ転生したとのこと。晩年は静かに筆を執っていたようです』


(……お疲れ様です、先輩。あなたの描いた『萌え』の技術は、五百年後もこうして人を感動させてますよ。俺も前世なら確実にいいねとリツイートしています。……次は、ゆっくり描けてるといいですね)


 グランは心の中で、名もなき先達に深い敬意を込めて挨拶を贈り、静かにその場を後にした。



 次にソフィアの案内で訪れたのは、天井まで本が敷き詰められた王立図書館だった。


「十歳の時、グラン様に助けられてから……常に魔力操作の鍛錬をしていたので、授業中に寝てしまう分、休日、私はここで勉強していたんです」


「なるほどな。あの凄まじい魔力操作の精度は、常に魔力操作の鍛錬をしていたのか。俺もまねできないな……努力家なんだな、ソフィアは」


「はい。……勉強に遅れそうになるときは、いつもここで一人で……。辛いときもありましたが、今はグラン様が隣にいてくれます。それが何より嬉しいんです」


 ソフィアは昔を懐かしむように目を細める。他の面々も「あの居眠りの裏にそんな血の滲む努力があったなんて」と感心しきりだ。


「ソフィア、本当によく頑張ったんだな。偉いぞ。お前が頑張った分は、俺がちゃんと見てるからな」


 グランが無意識に、幼い子を褒めるようにソフィアの頭を優しく撫でた。


「……っあ」


 ソフィアは一瞬彫像のように固まったが、すぐに耳まで赤くなると、グランの腕をぎゅっと自分の胸に抱き寄せた。


「グラン様……あ、あそこの奥は、迷路のようになっていて誰も来ないんです。……今からそこで、二人だけの既成事実を作りましょう。大丈夫です、声は抑えますから」


「こらソフィ! 何を図書館で不埒な、かつ具体的なことを考えていますの! 離れなさい!」


「グラン君、行っちゃダメ! 行くなら私も着いていくわ!」


 ルヴィリスがソフィアを慌てて引き剝がし、ディアドラが暴走するエルスメリアを止め、図書館の職員に鋭い咳払いをされる一幕もあった。


「……ふふ。でも、ここは本当に落ち着くんです。何か調べ物や考え事があれば、いつでも一緒に来ましょうね。グラン様のためなら、どんなものだって探してみせますから」


 ソフィアの少し重い優しさに礼を言い、一行は図書館を後にした。



 続いて、エルスメリアの案内で王都の中心にある巨大な大聖堂、教会へと足を運ぶ。


「私は将来、聖女になると誓いを立てました。卒業したらここにいますから、いつでも会いに来てください。……あ、でも毎日でもいいですよ?」


「あら、聖女様は確か伴侶を持てないはずではなかったかしら? 教義で厳しく定められていたはずよ」


 オリヴィアがすかさず現実的なツッコミを入れるが、エルスメリアは自信満々に微笑んだ。


「そこは大丈夫です。聖女は神に純潔を捧げるといいますが、神の遣いであるグラン君なら、別に問題はないと思います。いえ、問題ないです。」


「そ、そうですの……。教皇様が泣きそうですわ」


 エルスメリアは既に、グランと教会で暮らす穏やかな新婚生活の妄想に耽り、完全に現実逃避している。


「……エル? どうしたんだ、ボーッとして。何か考えてたか?」


「……はっ。……あ、いえ。少し幸せな……いえ、最高にハッピーな未来を想像していました。……グラン様に病を治してもらったからこそ、今、私はこうして立っていられる。本当に感謝しています。あなたがいなければ、私の未来は閉ざされていたんですから」


「もうお礼は散々もらった。……エルが元気なら、それでいいんだ。」


 そんな感動的な空気を切り裂くように、一人の華やかな貴婦人が声をかけてきた。エルスメリアの母、ヴァーミリオン侯爵夫人だ。教会の要職を務めている夫人は、今日、自分たちが来ることを知っていたようだ。


「あらあら、まあ。グラン君じゃない。今日はこんなに可愛い女の子たちをたくさん侍らせて、いい身分ねぇ。羨ましいわ」


「……夫人、茶化さないでください。先日の騒ぎの埋め合わせに、付き添いを仰せつかっているだけですよ」


「いいじゃない、英雄色を好むって言うし。これだけの子に慕われているのよ? この際、ここにいる子たち全員もらっちゃえばいいのよ。王家も侯爵家もあなたなら文句言わないわよ」


 とんでもない発言に、グランは苦笑いしながらも、真っ直ぐに夫人を見据えた。その瞳に迷いはなかった。


「夫人、それは俺の力なら従わせることもできるかもしれませんが……。愛する人が増える分だけ、一人に注ぐ愛が削られてしまう気がするんです。……俺は、生涯ただ一人だけを愛し抜きたい。欲張りかもしれませんが、一途でありたいんです」


 その言葉に、夫人は少しだけ目を見開いて、心底感心したように頷いた。


「……あら。意外と古風なのね。……エル、あんた頑張りなさいよ。いいわ、少し……いえ、かなり見直したわよ、グラン君」


 一方で、それを聞いた四聖華と王女は、自分たちのことを真剣に考えてくれている誠実さに、顔を真っ赤にして固まってしまう。


「……あ、あの、グラン君……。そんなこと急に言われたら、今はちょっと、まともに顔が見れないわ……」


「若者の恋模様は見ていて飽きないわね。ふふ、私も久しぶりに、今日の夜は旦那に頑張ってもらおうかしら! あんたたちに負けてられないわ!」


 衝撃的な爆弾発言を残して颯爽と去っていく夫人を、グランは遠い目で見送った。



 気を取り直して、ディアドラが予約していた高級レストランへと向かう。


「これ、俺みたいな平民が入っても大丈夫なのか? 追い出されたりしないか心配なんだが」


「ご安心ください。ここの店主は実力主義。料理の味を解する者に、身分のしきたりなどは一切ございませんわ。ディアドラ・ヴァスティールの名にかけて保証します」


 運ばれてきたコース料理の中に、グランは前世を思い出す懐かしいデミグラスソースのような味わいを見つけた。


「このお店、創業四百年の老舗なのですが……。当時は変わった味だと敬遠されていたそうですわ。でも、次第にその良さが広まって、今では王都一の名店ですの。不思議な魅力がありますわよね」


『肯定。店主の先祖に転生者が存在します。当時、スパイスの流通が未発達だったため、カレーライスの再現は断念した模様。惜しいことをしました』


(……カレーがないのか。あれこそ日本人の……いや、男の鉄板だろ。……まあ、聖域にいた時は魔法で無理やり環境作ってたけど、本来スパイスは金と同じ価値だもんな。女神にはすこし感謝するが、無理やり転生させた恨みは別だぞ)


『ひえっ……! 感謝してるのか恨んでるのかどっちよ! 感情が複雑すぎて女神でも読みきれないわよ!』


 食後の余韻に浸っていると、店のオーナーが直々に席にやってきた。


「王女殿下と四聖華の皆様、そしてその最強世代の優勝者。このような末席にお迎えできて光栄の至りです」


「俺は平民です。素晴らしい料理をいただいた側として、身に余るお言葉です」


「いえ。食の前では身分など関係ありません。重要なのは、その人が何を成し遂げたか。皆様がこれから大人になり、何を成すかが、その人の本当の価値なのです。……グラン殿、貴方の武勇は既に聞き及んでおります。期待しておりますよ」


 オーナーの気高い言葉に、グランを含む全員が深い感銘を受けた。



 デートの最後を飾るのは、オリヴィア王女の案内だった。彼女が連れて行ったのは、王都の喧騒が嘘のように静まり返った丘だった。


「ここは、私が王女としての立場に悩んだ時、こっそり抜け出して見ていた景色なんです。誰も知らない、私の宝物でした」


 夕日に染まる王都が一望できる、息を呑むような絶景だった。オリヴィアはそこで、かつて魔力核欠乏症という絶望の中にいた自分と、それを救ってくれたグランへの本当の想いを語り出す。


「あの時、恋慕などないと言いましたが……嘘でした。やはり私は、自分の気持ちに嘘をつけません。貴方がいなければ、今の私は存在しないのですから」


 驚く四聖華たちを前に、オリヴィアは凛として、しかし震える声で告げた。


「王族という立場上、想いが叶うことはありません。でも、せめて学生の時だけは、青春を謳歌したい。……皆さんと、競わせてください。負けるつもりはありませんわ」


 その高潔な決意に、ルヴィリスたちが最高の笑みを浮かべて応える。


「……いいでしょう。望むところですわ。卒業まではグランを取り合いましょう。今日から私たちは親友であり、恋のライバルですわね!」


 目の前で熱く団結する彼女たちを前に、グランは内心で激しく頭を抱えていた。


(……みんなが仲良くなるのはいいが、俺の逃げ場が完全になくなってないか? むしろ包囲網が狭まっただけのような……)


『肯定。学園ハーレムルートはシステム上、確定事項です。抵抗は無意味ですので、諦めて幸せを受け入れましょう』


 夕日をバックに全員で魔法写真機による記念撮影を行い、名残惜しそうにする彼女たちを送り届けて学園へと戻る。解散後、自室のベッドに倒れ込んだグランは、今日一日を振り返った。


「……みんなの気持ちを正面から知った以上、俺も身の振り方を考えなきゃいけないのか。……前世では経験なかったけど、この人生は展開が早すぎるな。……まあ、悪くはないか」


 心地よい疲れと共に、グランは明日も休みであることに心底安堵しながら、静かに眠りにつくのだった。


 ちなみにその日の晩、ヴァーミリオン侯爵は、侯爵夫人の熱烈な愛情表現で次の日は死んでいたらしい。

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