表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生~女神に無理矢理転生させられたので、やりたい放題します!~  作者: GSZN
第2章 学園ファンタジー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/173

第44話:越えてはいけない線

 始業式が終わり、講堂から教室へ戻る道すがら、グランはクラスメイトたちに囲まれていた。


「おいグラン、お前すごいな! 王女殿下に指名されるなんて、平民の星どころか伝説だぞ!」


「ああ、王女殿下の手を握った感触はどうだった? 完全に茶化してるけど、誇っていいぞ!」


 半分羨望、半分からかいの混じった言葉を浴びせられ、グランは心底面倒そうに肩をすくめた。


「……光栄だとは思うけど、俺は何も聞いてないんだ。完全に寝耳に水だよ」


 ごちるように呟き、彼は自分の席に座って窓の外を眺めた。王女オリヴィアの真意がどこにあるのか、今の彼には測りかねていた。


 一方その頃、貴族専用校舎の特別応接室では、四聖華の面々とオリヴィア王女が対峙していた。


「オリヴィア様、単刀直入にお聞きしますわ。なぜ、彼……グラン・グラニアスを指名されたのですか?」


 ルヴィリスが、代表して問いかける。彼女たちの瞳には、王女に対する敬意と、同時に譲れない独占欲が火花を散らしている。


 オリヴィアは自身の『魔力核欠乏症』をグランに救われた事実を隠しつつ、穏やかな微笑みを崩さなかった。


「ふふ、そんなに怖い顔をしないで。彼はあまりにも特異な才能の持ち主でしょう? 心ない貴族や政争の道具にされる前に、王家が保護すべきだと判断したの」


「それは……確かに、彼の力は危険なほどに魅力的ですが……」


「……安心して。私自身、彼に特別な恋慕があるわけではないわ。誤解しないでちょうだい」


 オリヴィアは鈴を転がすような声で言い、さらに言葉を重ねた。


「それに、訓練相手は別に彼一人に絞るつもりもないの。皆さんもぜひ、私と一緒にいかがかしら?」


 四聖華にとって、王女の誘いは願ってもないものだった。彼女たちは顔を見合わせ、力強く頷いた。


 放課後、平民校舎の訓練場近くにいたグランのもとに、一人の貴族生徒がやってきた。オリヴィアの側近の一人だ。


「グラン・グラニアスだな。王女殿下がお呼びだ。ついてこい」


(……態度悪いな)


 グランは黙ってその後に続いた。


 しかし、校舎の裏手に入ったあたりで、その側近の貴族生徒が蔑むような視線を投げかけてきた。


「まったく、殿下の気まぐれにも困ったものだ。貴様のような平民が、選ばれたことに調子に乗るなよ」


「……別に、乗ってないけどな。ブーン」


 グランの適当な返事に、側近の顔が怒りで歪んだ。


「ふん、その減らず口。あの四聖華の令嬢たちも、貴様のような平民にたぶらかされた哀れな女共だ。全く、貴族の面汚しもいいところだな」


 その瞬間、グランの周囲の空気が凍りついた。


「……今、なんつった?もういっぺん言ってみろ」


「耳まで悪いのか? 才能はあるのかもしれんが、所詮は平民に色目を使うあばずれだと言ったんだ。貴様も、あの女共も――」


「おい、クソガキ。あんまり調子に乗ってると、その汚い頭、今ここでザクロにするぞ」


 グランから放たれた殺気に、側近の生徒は一瞬怯んだが、すぐに虚勢を張って叫んだ。


「平民が貴族に対して何たる無礼! 良いだろう、二度とその口が利けないようにしてやる! 決闘だ!」


 演習場に到着すると、そこには既にオリヴィアと四聖華が待っていた。


「決闘だ。今からこいつに地獄を見せる」


 グランの冷徹な声に、女性陣は驚愕して駆け寄った。


「グラン君! どうしたの、一体何があったの!?」


「グラン殿、落ち着いてください。王家の『側近』相手に決闘なんて、あなたの立場が……!」


 必死に止める四聖華に対し、グランは感情の消えた瞳で言い放った。


「こいつは、絶対に許されないことを言った。……この決闘で俺が王家や貴族にどう思われようが、一向に構わない」


 オリヴィアは、ただ事ではないグランの様子に、側近の貴族を問い詰めた。


「言いなさい。あなたは、彼に何と言ったの?」


 側近の生徒はしどろもどろになりながら、グランが四聖華をたぶらかしたこと、そして彼女たちを「面汚し」と呼んだことを白状した。


 オリヴィアの顔から血の気が引いた。彼女は自身の側近が犯したあまりに愚かな暴言に、激しい怒りと羞恥を感じた。


「グラン……! 申し訳ありません、私の不徳の致すところです。どうか、彼に代わって私が謝罪を――」


「王女様、これは謝って済む問題じゃない。ただ、あなたは貴族と平民の壁を嘆いていた。だから、あなたには申し訳ないと思う」


 グランは一歩前に出ると、周囲に集まった野次馬の貴族たちを一掃するように睨みつけた。


「だが、今ここで見ている全ての貴族が、二度と俺や俺の仲間に逆らえないくらい、こいつを血祭りに上げる。おい、お前ら!平民だからってあんま舐めてると、こいつみたいになるからな、よく見ておけ!」


「平民ごときが勝てると思うな! この演習場の結界は俺が設定して強化済みだ。永遠にいたぶってやる!」


 ルールは「どちらかが負けを認めるまで」。側近の生徒は卑怯にも、結界を利用してグランを逃がさず痛めつけるつもりだった。



 しかし、勝負は一瞬だった。


 グランの拳が側近の顔をぶん殴り、その衝撃だけで結界の端まで吹き飛ばした。


 崩れ落ちる相手の喉を、グランは貫手で潰した。


「……が、ぁ……あ……」


「喉を潰した。もう降参することはできないな? お前は俺に言ったよな? 永遠に殴られる恐怖と苦しみを味わえ!」


 グランは側近の生徒の髪をつかみ、演習場の中央に引きずり戻し、野次馬の貴族たちに見せつけるように、殴り続けた。


「………!」(がっ…やめ……参った……)


 喉を潰されて声が出せない側近の、肉が潰れる鈍い音が響き渡り、観衆の貴族たちは恐怖で凍りつき、その凄惨な場面を見て嘔吐しているものもいた。



「もうやめて、グラン! お願い、死んじゃうわ!」


「グラン殿、冷静になってください!」


 演習場の結界を解除した四聖華とオリヴィアが、背後からグランの体に必死にしがみついて止める。


『マスター、冷静に。アンサートーカーより提言。これ以上の継続は精神に修復不能な変質をもたらします』


 脳内に響く無機質な声に、グランは辛うじて拳を止めた。



 血に染まった拳を見つめ、グランは深いため息を吐き、王女たちの手を振り払った。


「……今日はもう、訓練どころじゃないな。王女殿下、四聖華のみんな。すまなかった」


 グランはその場で、彼女たちに向かって土下座をした。


「俺は、こういうこともする男だ。……もう、君たちのような高貴な人たちとは関われない」


 それだけ言い残すと、彼は一度も振り返ることなく、独り自宅寮へと帰っていった。




 自室に戻ったグランは、ベッドに腰掛け、アンサートーカーからの猛烈な説教を受けていた。


『マスター、今回の行動は極めて短絡的です。リスク管理が崩壊しています』


「わかってる……いや、わかっていなかったな。ここまでキレたのは、魔王と勇者の時以来だ」


 そしてアンサートーカに礼を言う。


「……それにありがとうな。決闘の時、俺が気づかないうちにステータス値を調整したんだろ?」


(あのままだと最初の一撃で相手は死んでいました。……あなたの力は弱きを助け強きを挫く、あのような者のせいで手を汚す必要はありません)


「……お前も結構ブチギレしているじゃないか」


(当たり前です。……さて、お客様がいらっしゃいましたよ)


 反省していると、不意に部屋の扉がノックされた。開けると、そこにはレインが立っていた。


「……レインか。悪いが、今は一人にしてくれないか」


「庭園に来てください。みなさん、お待ちしております」


「四聖華や王女がいるなら行かない。合わせる顔がないんだ」


 グランの拒絶に、レインは真っ直ぐな瞳で彼を見つめグランの手を握る。


「グラン、ここで逃げたら、あなたは一生後悔します。……あなたが怒った理由は、皆さんちゃんと分かってくれています」


 レインに半ば強引に連れられ、夜の庭園に向かうと、そこには案の定、四聖華とオリヴィアがいた。


 気まずそうにするグランに、ルヴィリスが最初に口を開いた。


「あの者を問い詰めましたわ。……私たちに聞かせたくないことも言っていたから、あそこまで怒ってくれたのでしょう?」


「……やりすぎたとは思ってる。すまない」


「いいえ。感謝しているわ。あなたがどれほど私たちのことを大切に思ってくれているか、痛いほど伝わったもの」


 オリヴィアも一歩前に出た。


「あの者は側仕えから既に外しました。次は平民に理解のある者を側に置きます。だから、もう気にしないで」


 彼女たちの優しさに、グランは憑き物が落ちたように肩の力を抜いた。


「悪い。俺の方が、頭に血が上りすぎた。……本当にすまなかった」


 素直な謝罪に、場は和やかな空気に戻った。



 しかし、ルヴィリスがいたずらっぽく微笑む。


「でも、これだけの騒ぎを起こしたのは事実ですわ。埋め合わせをしてもらいますわ」


「埋め合わせ? 何をすればいい?」


「……今度の休日に私たちとデートしましょう」


 その言葉に、他の三人も期待に満ちた目でグランを見る。


「……ああ、それで許してくれるならいい」


 返事を聞いた四聖華たちは狂喜乱舞し、王都のデートプランを話し始めた。



 自室に戻ったその夜、グランは頭を抱えた。


 精神年齢はアラフォーのはずなのに、ガキ相手に本気でキレてしまった自分に呆れる。


『マスター、おそらく肉体の成長に伴うホルモンバランスの変化に、精神が引っ張られています』


「……引っ張られてる、だと?」


『肯定。いずれあなたの精神は、肉体年齢にふさわしいものへと完全に同期されるでしょう』


「二度目の人生で、またガキに戻るのかよ……。まあ、それでもいいか」


 半ば諦めの境地に至り、グランは夜空に浮かぶ白銀の月を見上げた。


 その様子を、遥か天界から見ていた女神アリスティアは、プルプルと震えていた。


「……ひえぇ、さっきのグランのキレ方、シャレになってなかったわよ……。私まで少しビビっちゃったじゃない……」


 自分が転生させた普通の一般人も、大切な人のために理性を捨てる瞬間の恐ろしさを、女神もまた思い知らされるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ