第38話:聖域での再会
光のゲートを抜けた先、視界が開けるとそこには十歳のあの日、一度だけ目にした楽園が広がっていた。
「……綺麗。本当に、あの時のまま……」
懐かしい「凪の里」の風景に、四人は安堵と達成感で胸を熱くする。
「ようこそ。……無事に辿り着いたな、お前たち」
里の入り口で腕を組んで待っていたのは、エプロン姿のグランだった。
その姿を見るなり、四人の緊張の糸がぷつりと切れ、四人は駆け寄って彼に抱きついた。
「グラン! 会いたかったわ! 本当に、本当に大変だったんだから!」
「グラン君! 私たち、やったのよ!自分たちの力でここまで来れたのよ! 」
ボロボロになり、泥にまみれた彼女たちは、なりふり構わずグランに駆け寄り、次々と抱きついた。
グランは苦笑いしながらも、一人一人の頭を優しく撫で、その健闘を称えた。
「よく頑張った。ヴィジョンで見てたけど、あんなに鮮やかにボスを倒すとは思わなかったよ」
グランに頭を撫でられ、四人は先ほどまでの疲れなど忘れたかのように、満面の笑みを浮かべた。
「さあ、まずは家へ案内するよ。みんなのために、特大の晩飯と『温泉』を用意してあるんだ」
案内されたのは、白亜の壁が美しい、信じられないほど豪華な温泉付きの屋敷だった。
「な、なんですの、このお屋敷は……! ログハウスじゃなかったの!?」
「あー、あれはもう時間が経ったから消えちゃったんだ。まあ、お前たちが来るっていうから、新しく建てたんだ」
庭に用意された特設会場では、聖域の魔物の希少な霜降り肉や、里で採れた最高級の野菜が山積みになっていた。
「さあ、バーベキューだ。遠慮せずに食ってくれ」
グランが魔法で火を起こすと、食欲をそそる香ばしい匂いが辺りに漂い始める。
四人は王族並みの食事を普段から口にしているが、グランが焼く肉の旨さには言葉を失った。
「美味しい……! こんなにジューシーなお肉、食べたことがありませんわ!」
「お野菜も甘くて、力が湧いてくるみたい。グラン様、最高です!」
英気を養った後、グランは四人を屋敷の奥へと案内した。
「腹が膨れたら、次は風呂だ。日本……いや、俺の故郷の文化なんだけど『温泉』っていうんだ」
「温泉……? それは一体、何なのですか?」
「服を脱いで、お湯に浸かって疲れを癒やす場所だよ。肌も綺麗になるし、最高にリラックスできるぞ」
「えっ……みんなで入るのですか!? 恥ずかしいですわ!」
最初は戸惑っていた四人だったが、いざ湯船に浸かると、その心地よさにメロメロになった。
立ち上る湯気の中、四人の少女たちは肩までお湯に浸かり、幸せそうな溜息をついた。
「はぁ……。天国ですわね、これは。疲れが溶けていくようですわ」
「グラン、あんなにすごい魔法が使えるのに、こんなに素敵な場所まで作れるなんて……」
しばらくお湯を堪能していると、ソフィアが真剣な表情で三人を見渡した。
「……ねえ。私たち、改めて約束しましょう」
「……わかっていますわ、ソフィ。グラン君のことでしょう?」
エルスメリアが頷くと、ルヴィリスとディアドラも静かに視線を合わせた。
「私たち四人は、最高の親友であり、グランを想うライバル。誰が結ばれても、恨みっこなしよ」
「ええ。足を引っ張り合うのはやめましょう。でも、手加減も一切なし。……いいわね?」
「望むところです。私も、譲るつもりはありませんから」
湯けむりの中で、四人の乙女たちは「恋の休戦と開戦」を同時に誓い合った。
「夏休みが終わる頃には、誰が一番彼と親密になれるか、勝負ですわね!」
温泉から上がり、さっぱりとした表情の四人は、リビングで待っていたグランの元へと戻った。
グランは湯上がりの飲み物を用意し、柔らかな椅子に深く腰掛けて彼女たちを労った。
「改めて聞くけど……お前たち、夏休みはずっとここにいるつもりなのか?」
グランが確認すると、四人は少しだけ気まずそうに目を逸らした。
「……ええ。もし、グランが迷惑でなければ、学園が始まるギリギリまでいたいと思ってるの」
「迷惑じゃないけど……お前たちの家は大丈夫なのか? さすがに心配されるだろ」
問い詰められたルヴィリスが、頬を赤くしながら白状した。
「……実は、聖域に来ることは内緒にしています。でも、アリバイは完璧ですから心配ありませんわ!」
「アリバイって……。お前たち、家出同然じゃないか……」
グランは頭を抱えたが、ここまで必死に辿り着いた彼女たちの想いを無下にはできなかった。
「……わかったよ。その代わり、明日からは覚悟しておけ。俺が直接、死ぬ気で鍛えてやるからな」
「はい! よろしくお願いします、グラン先生!」
四人の元気な返事が、凪の里の夜に響き渡った。
これから始まる一夏の、騒がしくて熱い共同生活が始まろうとしていた。
それが思わぬ「来訪者」によって一変することを、この時の彼らはまだ知る由もなかった。




