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異世界転生~女神に無理矢理転生させられたので、やりたい放題します!~  作者: GSZN
第2章 学園ファンタジー編

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第31話:氷華の眠り姫

 学年別魔導大会、最終日。


 演習場を埋め尽くす観客の熱気は、王国始まって以来の最高潮に達していた。


 今年の十五歳は、王国史上最強の世代と謳われている。その象徴こそが四聖華だ。


 だが、その最高峰を、出自不明の田舎者――グラン・グラニアスが、未知の魔法と技で次々と退けてしまった。


 平民の観客たちは、貴族の中でも自分たちに分け隔てなく接する四聖華に好意を持ちつつも、日頃の貴族社会への鬱屈を晴らしてくれるグランに、己の夢を重ねて熱烈な声援を送っている。


 対して貴族側も、平民から現れたこの「異物」に驚愕し、隙あらば自陣営に取り込もうと、虎視眈々と品定めを始めていた。


 だが、その熱狂の裏側で、賓客席の奥に設けられた貴族主義派理事の控室には、凍てつくような緊張感が漂っていた。


「……信じられん。四聖華の3人が、あのような出自不明の卑しい平民に敗れるとは。貴族の権威が地に落ちるぞ」


 理事の一人が、苦々しく報告書を机に叩きつける。


「しかも、ヴァーミリオン侯爵家だけでなく、王族までもが奴の身元に不可侵の圧力をかけてきている。もう下手に手は出せん。……だが、この決勝だけは別だ。これ以上、平民が貴族を軽んじることは断じて許されん。我々の貴族のメンツの問題だ」


 リーダー格の男が、隅に控えていた審判に冷徹な視線を向けた。


「いいか。あからさまな不正は不要だ。だが、奴の些細な反則は厳格に取り、四聖華への評価は最大限に厚くしろ。……『うまく』やれ。わかっているな?」


 向けられた圧力に、審判の男は冷や汗を拭いながら、深く頭を下げた。


「……御意に。勝利をあるべき場所へと手繰り寄せます」




 そして今日、来賓席には「王」が君臨している。現国王アーサーと、第一王女オリヴィア。


「両者の健闘を祈る。この一戦が、既存の常識を過去のものとし、我が王国を輝ける新時代へと加速させるだろう」


 アーサー王の重厚な声が響き、続いてオリヴィア王女が鈴を転がすような声で言葉を添えた。


「二学期から、これほど素晴らしい方々と学友になれることに感謝いたします。王国の未来のため、共に切磋琢磨しましょう」


 王族の言葉に会場が沸き立つ中、両者が舞台の中央へと進み出た。


 グランとソフィアが、至近距離で向き合う。


 買収されている審判は、内心の動揺を隠して形式通りに握手を促した。


(……この使い捨ての白手袋を買うのも、今日で最後か)


 グランは売店で買った新品の手袋をはめ、右手を差し出す。


 ソフィアが近づいてくる。だが、彼女は差し出された手を無視し――あろうことか、そのままグランの胸元に飛び込み、強く抱きついてきた。


「……っ!?」


 グランが驚きで硬直する。


『マスター。心拍数の急上昇を確認。からかいの対象として、これ以上の素材はありません』


(黙ってろアンサートーカー!……めっちゃいい匂いする)


 混乱するグランの耳元で、ソフィアが熱を帯びた吐息とともに囁いた。


「……ずっと、会いたかった。凪の君」


「……人違いです、ヴァレンシア様」


 グランは咄嗟にとぼけたが、ソフィアは抱きつきながら顔を上げ、至近距離でその瞳を輝かせた。


 彼女の魔眼――『魔力視』。


 それは人に流れる魔力が属性の色付きで見える眼。

 どれほど隠蔽しても、魔法を発動するときは必ず見えるから、魔法戦に関してはかなり有利に戦えるという。


 彼女は懐から、少し大きめのペンダントを取り出した。


 蓋を開けると、中からは十歳の頃、グランがメモ書きした「魔力操作の極意」が丁寧に折りたたまれていた。


「これには、あなたの魔力の残滓が残っています。……世界で二つとない、蒼白銀の色。間違えるわけがありません」


 ソフィアの言葉は、確信に満ちていた。


「エルスメリアが治った日、彼女を魔眼で診たときも蒼白銀の魔力が見えました。この大会であなたが戦ったルヴィリスの時も、ディアドラの時もそう……。あとの三人は、あなたと戦ったときに気づいたようですが、独り占めしたくて黙っていたのでしょうね」


 ソフィアの腕に力がこもる。


「でも残念。一番に気づいたのは私……だから、この舞台で、先に『既成事実』を作る……」


 グランは、物理的な攻撃よりも冷たいものが背筋を駆け抜けるのを感じた。


「おい、ソフィア・ヴァレンシア! 戯れはやめて、速やかに試合を開始しろ!」


 審判が慌てて割って入る。貴族派のメンツのため、ソフィアに勝ってもらわねばならない彼は必死だった。


 しかし、ソフィアはグランに抱きついたまま、王族と全観客が見守る前で、凛とした声を響かせた。


「審判、必要ありません。――私、ソフィア・ヴァレンシアは、ここで棄権します」


 静寂が、演習場を支配した。その沈黙のなか、ソフィアはかつての孤独な日々を思い出していた。




 ヴァレンシア家の一人娘、ソフィア・ヴァレンシアは「落ちこぼれ」だった。


 生まれつき魔眼の才能があると鑑定でわかり周囲は盛り上がったが、元来の気弱で大人しい性格が災いし戦闘訓練などはあまりよくなかった。


 母は国では氷の魔術師として名を馳せており、ソフィアも同じ最適性が氷であったため幼少期から母にかなりのスパルタで鍛錬をさせられていた。


 ソフィアも母親の期待に応えるため一生懸命に頑張ったが、相手を攻撃するときなど傷つけてしまうことに抵抗があり、身が入らなかった。


 他の四聖華たちとはすごく仲がいいが、戦闘に関しては早くからその才能を発揮しており、自分は置いて行かれている気分でさらに落ち込んだ。


 十歳の時に魔導学園の小等部野外実習で4人で演習中に、アリスティアの運命のいたずらで、「本来そこにいるはずのない凶悪な魔獣」が彼女たちを襲った。


 逃げ惑ううちに聖域の第2層まで来てしまい、そこで魔狼の集団に囲まれてしまい、エルスメリアが結界を張って自分たちで迎撃する手はずだった。


 自分たちではとてもかなわない相手であることは魔眼を通して理解していた。


 ただ死を覚悟したが、これで落ちこぼれから解放できると思ってしまい、そう思ってしまった自分の卑屈さに心の中で嘆いていた。


 しかし、突如現れた黒髪の少年が圧倒的な強さで狼たちを倒し、自分たちを安全圏に連れて行ってくれた。


 あの時に見た蒼白銀の魔力は今でも忘れない。


 そして別次元の強さを持っているこの人なら、今の卑屈な自分が変わり、強くなれる方法を知っていると思い、得体のしれない怖さもあったが、その方法を聞こうと黒髪の少年のいるリビングに行った。


 リビングで魔力操作を行っていた少年を見て、蒼白銀の魔力が体中を巡る姿は神々しく映り、強さの秘訣を教えてもらいたいと一層思った。


 何でもするといったとき、少年はとても困った顔をしていたが、体を求められても強くなるためなら仕方がないけど、受け入れるつもりだった。

 だが、少年は何も求めなかった。


 そればかりか、強くなりたいと思い師事を求めた心意気を褒めてくれた。

 落ちこぼれだった自分が、人に褒められるのはいつぶりだろうか。

 その時、ますます少年のことが気になってしまった。


 そして魔力操作の極意を教えてもらい、魔力が空っぽになるまですればいいと教えてもらった。


 だが、自分はほかの三人に比べて落ちこぼれだった。普通のやり方では一生追いつけない。


 ならば、ずっと教えてもらった魔力操作を続けよう。


 魔力が切れて眠り、起きたら魔力操作の鍛錬、そして魔力が切れて眠り、起きたらまた繰り返す。


 そうして訓練中はもちろん、ご飯を食べるときや、授業を受けているときも常に魔力操作を行った。


 はじめのころは授業中に寝てしまったり、ご飯を食べている最中に寝そうになったりとあまり行儀は良くなかった。


 だが慣れてしまえば、魔力が切れても、しばらくはそのまま意識を維持できるようになり、気づけば落ちこぼれていた時と比べて、膨大な魔力量と精密な魔法技能が身に付き、みんなに引けを取らないくらい強くなった。


 それもこれもあの聖域で出会った「凪の君」のおかげだと思っており、再会した時は隙あらば既成事実を作るつもりだった。

 おそらく責任感の強い人だと思うから、ちゃんと責任を取ってくれるに違いない。


 演習場を包む騒然とした空気を余所に、ソフィアは勝利を確信したように、安らかな笑みを浮かべていた。

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