第24話:譲れない約束
演習場の熱狂を他所に、グランは学園長室に呼び出されていた。
目の前には、いつになく苦渋に満ちた表情を浮かべる学園長の姿がある。
「……グラン君、すまない。今回の組み合わせは、私が急用で学園外に出た隙を突き、貴族主義の理事たちが強引に決定したものだ。平民の活躍をよく思わず、出る杭は叩く。平民を公衆の面前で叩き潰し、貴族の威信を知らしめようという……極めて低俗な意図だ」
学園長は深く頭を下げた。
「私の権限で白紙に戻すこともできる。だが、彼らは『平民の実力主義の推薦枠なのだから、強者と当たるのは正当な評価だ』と。それに、もし運悪く実力が違い過ぎる相手と当たったときに大惨事になるから、実力と人格が揃った四聖華と早々に当てて退場してもらう、という……君を守るためのような詭弁を弄している。だが、今ここで私が無理に動けば、いくら王族ですら遠慮しない私でも学園内の政治的なバランスが崩れ、君への風当たりがさらに強くなる懸念がある……。理事は有力な貴族家の出身が多いからだ。王立だが多額の寄付もある.....」
「……学園長、顔を上げてください」
グランは冷静だった。中身がアラフォーで元事務職である彼にとって、組織内の派閥争いや「嫌がらせの社内政治」は既視感のある風景に過ぎない。
「謝罪は受け取ります。組み合わせもこのままで構いません」
「……何?」
「俺にも、負けられない理由があるんです。……その代わり、一つ約束してください」
グランは真っ直ぐに学園長を見据えた。
「万が一……本当に、何かの『事故』で俺が優勝してしまった場合。他国からの介入や、貴族たちの執拗な勧誘、そういった面倒事から俺を守るための『知恵』を貸してください。俺が静かに卒業できるよう、最高権力者として最善を尽くすと」
「……あぁ、約束しよう。君が実力で道を切り拓くなら、私は全力で君の盾となろう」
一方、貴族専用学舎の庭園が見渡せる部屋では、四人の少女がテーブルを囲んでいた。
学園最強の象徴――「四聖華」。
「……反吐が出るわね。この組み合わせ。貴族主義の理事たちが、私たちを利用して平民を叩くような真似をして」
燃え盛るような赤い髪を優雅にならし、ルヴィリスが不機嫌そうにティーカップを置いた。対戦表のトーナメントは、明らかに一人の平民を仕留めるために作られていた。最初の対戦相手は、ルヴィリス。
「私も、この露骨な悪意には不快感を覚えるわ」
おしとやかな雰囲気ではあるが、その瞳に静かな怒りを宿し、エルスメリアが応じる。彼女は手元の資料にあるグランの予選記録を見つめていた。
「このグランという少年。予選の動き、どこか違和感があるの。……同情はするわ。でも、戦場に立てば関係ない。私は最初から本気で戦うつもりよ」
「ええ。私たち四聖華同士が当たる時も、当然手加減はなし。そうでしょう?」
ディアドラとソフィアも頷く。彼女たちは理事の思惑など超えた、高潔な武人としての誇りで繋がっていた。
そして四聖華は「凪の君」に会いに行くという約束を果たすため、大会が終わった後の夏休みに、一度聖域へ腕試しに向かうことに決めていた。その期待もまた、彼女たちの戦意を研ぎ澄ませていた。
そして試合当日。
演習場はかつてないほどの興奮に包まれていた。四聖華のリーダー格、ルヴィリスの勇姿を拝もうと、会場は立錐の余地もない。
舞台の上、高価な魔道弓を手に、体に魔力を練り準備を万全にするルヴィリスに対し、グランはどこか懐かしむような視線を送っていた。
互いに舞台に上がり、健闘を祈るための握手を審判が促す。
事前にクラスメイトから「試合開始前に握手することがある」と聞いていたグランは、貴族令嬢に素手で触れるリスクを回避するため、用意していた新品の白い手袋を嵌めて手を差し出した。
「……貴族のマナーをご存じなのね」
(……ルヴィリス。懐かしいな。こうやって近くで見るのは5年ぶりだが、すんごい美人に成長したな)
対するルヴィリスは、グランの纏う雰囲気に、説明のつかない既視感と違和感を覚え、眉をひそめた。
「グラン・グラニアス。平民でここまで勝ち上がってきた貴方の実力、私は敬意を表します。……ゆえに、私は一切の手加減をしない。『紅蓮の天弓姫』の名を、その身で味わいなさい」
「……ええ。お手柔らかにお願いします」
(あの時の少女たちが、どれだけ成長したか……試させてもらう!)
「準々決勝、第1試合――開始!」
審判の絶叫が響き渡り、魔力が吹き荒れる中、物語は激動の四聖華戦へと突入する。




