第23話:学年別魔導大会本戦
予選を波乱(?)のうちに突破したグランは、本戦の第1試合も「運良く相手が自爆した」ように見せかけ、危なげなく勝利を収めていた。
次の試合までの休憩時間。選手控室でアンサートーカーを通じて「聖域」の状況でも確認しようとしていたグランのもとに、騒がしい足音が近づいてきた。
「グラン! 1回戦突破おめでとう!」
「凄かったぞ、あの回避! 平民の星だな、お前は!」
入ってきたのは、同じクラスの面々だった。
中身はアラフォーの事務職。年甲斐もなく子供たちに囲まれるのは少し照れくさかったが、打算も何もなく純粋に自分を応援しにきてくれた彼らの熱意に、グランの内心は密かな喜びに満たされていた。
(……前世でも、目標を達成すればちゃんと評価してくれる上司や同僚がいたな。いつだって自分のことを喜んでくれる人たちは貴重だ)
「みんな、ありがとう。次はもっと厳しい戦いになりそうだけど、頑張るよ」
グランが柄にもなく微笑むと、クラスメイトの一人が小声で情報を差し出してきた。
「なぁグラン、次の相手なんだが……ベアトリクス・ランスターだ。知っているか?」
「……いや、名前くらいしか」
「最近、王国内の大規模な魔物討伐で手柄を立てて爵位を貰った男爵家の令嬢だよ。元は平民の傭兵上がりだって噂だ。だからか性格がさっぱりしてて、平民の俺たちにも分け隔てなく接してくれるから人気があるんだ。でも、実力は本物だぞ」
グランは情報に感謝し、「次も頑張るから応援してくれ」とクラスメイトたちを送り出した。
演習場の舞台に上がると、そこには一人の少女が立っていた。 ベアトリクス・ランスター。 薄緑の髪をポニーテールにし、ドレスのような法衣ではなく、動きやすさを重視した革製の軽鎧を纏っている。貴族になったばかりなのかマナー教育などはまだ不慣れだと聞いたが、その佇まいからは、体を動かしている時こそが自分らしいのだという自信が溢れていた。
「君がグラン・グラニアスね! 予選の戦い、見てたよ」
ベアトリクスは無邪気に笑い、自らの拳を軽く打ち合わせた。
「魔法に頼り切った連中を、肉体一つで場外に放り出す。君、私と同じ『向こう側』の人間でしょ? 好敵手を見つけたと思って、楽しみにしてたんだ! お互い全力を尽くして、いい試合をしようね!」
(……いや、本当は理から外れたオリジナル魔法で遠近両方から暴れるスタイルなんだ。本当にすまない)
グランは内心で申し訳なさを感じながら、構えをとった。
「戦闘開始!」
合図と同時に、ベアトリクスが弾丸のような速さで踏み込んできた。 彼女のスタイルは、強化魔法を限界まで乗せた高速の格闘戦。予選の有象無象とは比較にならない鋭い拳がグランを襲う。
(速いな。動きもいい。俺以外が相手なら、いい線いってたと思う)
グランはアンサートーカーの補助を最小限に留め、自身の感覚で応じる。重い回し蹴りを腕一本でいなし、刺すような突きを首筋一分でかわす。 一進一退の攻防に、会場のボルテージは最高潮に達した。ベアトリクスは楽しげに、さらに出力を上げていく。
「ははっ! 私の攻撃を全部捌くなんて、君、最高だね!」
「……君もすごい。ここまで肉体強化術を使いこなせているのは、たゆまぬ努力の結晶だ」
均衡が崩れたのは、ベアトリクスが大振りの一撃を仕掛けた瞬間だった。 彼女はグランを仕留めようと、魔力を乗せた全力の右ストレートを放つ。
(そこだ――)
グランはアンサートーカーにタイミングだけを指示させた。相手の懐に鋭く潜り込み、その拳の勢いと重心の移動をそのまま利用する。
「えっ……!?」
流れるような動作でベアトリクスの腕を取り、腰を支点に投げ飛ばした。柔の極意、一本背負い。空中で体勢を崩した彼女は、受け身も取れぬまま舞台に背中から叩きつけられる。
瞬時にグランは距離を詰め、倒れた彼女の喉元に、手刀をピタリと止めた。
「……俺の勝ちでいいかな」
ベアトリクスは呆然とした後、晴れやかな顔で両手を上げた。
「……まいった。完敗。君、強いね」
清々しい降参の宣言。会場からは、魔導大会では珍しい近接格闘の熱戦に大きな拍手が送られた。
だが、その熱気に水を差すように、演習場の魔導掲示板に決勝トーナメントの組み合わせが貼り出された。 学園長が急用で席を外した隙を突き、学園にはびこる貴族主義の理事たちが、独断で決勝トーナメントの組み合わせを変更したのだ。
それは、明らかにグランを潰すための悪意に満ちた構成だった。 他の有力貴族たちは温存され、グランだけが「優勝」までに四聖華全員を一人ずつ、連戦で突破しなければならないという絶望的な地獄絵図。
【決勝トーナメント:グラン・グラニアス枠】
第3回戦: vs ルヴィリス・ヴァレンタイン
準々決勝: vs エルスメリア・ヴァーミリオン
準決勝: vs ディアドラ・ヴァスティール
決勝: vs ソフィア・ヴァレンシア
本来、実力者同士は決勝付近で当たるのが通例。一人の平民に四聖華全員をぶつけ、完膚なきまでに叩き潰して「貴族の威光」を見せしめる――そんな役員たちの薄汚い思惑が透けて見えた。
『くそ女神様にも確認済み。この組み合わせは貴族主義の学園理事のエゴで変更されたようです』
アンサートーカーが無機質に事実を述べる。
(……これだから組織の政治ってやつは。露骨すぎて、もはや笑えてくるな)
グランは溜息を吐きながら、不穏なざわめきに包まれた演習場を、ただ冷めた目で見つめていた。




