第22話:学年別魔導大会開催
魔導大会当日。演習場を埋め尽くした観客の熱気とは対照的に、グランの心は冬の湖のように冷え切っていた。
「……なんか睨まれてるな」
胸に装着された魔力連動型の「ライフゲージ」が、わずかに重く感じる。予選のルールは単純明快だ。一つの舞台に8名が配置され、一斉に戦うバトルロイヤル形式。決められたゲージがゼロになるか、舞台から落下した時点で「脱落」となる。
グランが立つ第12舞台。周囲を見渡せば、そこには煌びやかな法衣を纏った貴族子女たちが、不快感を隠そうともせずこちらを睨みつけていた。
「おい、見ろよ。例の『推薦枠』の平民だ」 「ふん、バルトス教官も焼きが回ったものだな。よりによってこんなゴミを……」
(……クソガキどもが。ふははは、人がゴミのようだ! って叫びながらギガスマッシャーをぶっ放してやろうか?)
『そんなことをしたら、この舞台どころか学園、ひいては王国の結界までぶっ壊しますね。これではもうバレる以前の問題で、めでたくお尋ね者ですよ』
グランは内心で毒づき、間髪入れずアンサートーカーに突っ込まれる。冷静さを取り戻し、改めて方針を確認した。
(アンサートーカー、方針を確認する。ステータス値は推薦枠らしく平均より少し上、広域魔法の使用は厳禁。俺のオリジナル魔法は威力を最小限に。アナライズ(解析魔法)などのアンフェアな魔法も極力使わない。基本は近接格闘。お前は手加減の制御と、魔法補助、回避のタイミング、そして力の逃がし方だけに絞れ。いいな?)
『了解しました、マスター。……ですが、この状況では効率が極めて悪くなりますが?』
(......みんなこの為に努力してきたんだ。それを俺が蹂躙するのはまた違うだろ)
『変なところで律儀ですね』
「戦闘開始!」
審判の合図と共に、本来なら敵同士であるはずの貴族7人が、吸い寄せられるようにグランへと向き直った。
「まずは、その不快なツラを舞台から消してやる!」
一斉に放たれる炎の弾、そして氷の礫。グランは魔力を全身に薄く、均一に循環させた。派手な魔法障壁は使わない。ただ身体機能を底上げし、最小限の歩法で回避に専念する。
「なっ、ちょこまかと……!」
降り注ぐ魔法の雨を、グランは紙一重でかわし続ける。アンサートーカーの導きは正確だ。飛来する魔力の軌道を先読みし、コンマ数秒の猶予で体勢を入れ替える。傍目には、必死に逃げ回っている平民が「たまたま」運良く直撃を避けているようにしか見えない。
(……さて、いつまでも避けてるだけじゃ終わらないな)
グランは一歩、踏み込んだ。魔法を撃つことすら惜しみ、肉弾戦を仕掛ける。といっても、力任せの殴打ではない。相手の魔力供給が途切れる瞬間の隙、重心が浮いた刹那を突く。
「な、貴様……っ!?」
グランを排除しようと突っ込んできた貴族の腕を、そっと掬い上げるように触れる。合気道に近い、力の受け流し。グランの魔力を乗せた手首の軽いスナップが、相手の勢いをそのまま加速させた。
そうして、グランは自分を狙っていた別の貴族の方へと、一人目を「誘導」した。
「うわあああ!?」 「ちょ、どけっ!」
激突した二人は、そのまま勢い余って舞台の端から転げ落ちる。
(あと5人……)
時間をかけていてもボロが出ると考えたグランは、次々と襲い来る敵に対処していく。杖を振りかぶった者の手首を軽く叩いて自爆を誘い、猛攻を仕掛けてくる者の足元を、よろけたフリをして引っ掛ける。
会場が少しずつ、妙な静寂に包まれ始めた。いたぶられるはずの平民が、気づけば次々と貴族たちを「ログアウト」させていく。
「……ふざけるな! 平民の分際でぇ!」
最後まで残ったリーダー格の貴族が、逆上して全身に魔力を纏い、突進してくる。グランは溜息を吐き、最後の手順に移行した。
(アンサートーカー、カウンターを合わせる。お前は見ていてくれ……)
真っ直ぐに突き出された拳に、グランは完璧なタイミングでカウンターを合わせた。相手のゲージが一瞬で消失するのを確認し、勝利を確信して拳を引く。
(タイミングは完璧です。お見事)
「……第12舞台、勝者、グラン・グラニアス! 本選進出決定!」
静まり返った演習場に、審判の声が虚しく響いた。観客席のバルトス教官は、口元を微かに歪めて「……やはり、身体制御すら完璧か」と独りごちている。
(……疲れた。アンサートーカー、消費魔力の計算を)
『マスター。現時点での消費量は全体の0.001%以下です。……ですが、精神的な「気疲れ」の数値は計測不能なほど跳ね上がっています』
(だろうな……。まあ、トーナメントで俺と当たった自分たちを呪うんだな)
平民が予選を突破する。その事実に驚愕した観客席の視線にグランは居心地を悪くし、逃げるようにそそくさと退場した。




