表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生~女神に無理矢理転生させられたので、やりたい放題します!~  作者: GSZN
第2章 学園ファンタジー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/173

第20話:黄金の意志

 夜の静寂を切り裂き、偽装された馬車は王都の中心にそびえる「ファリス王城」へと滑り込んだ。 門番たちが無言で道を開ける様を見て、グランは改めて事の重大さを実感していた。


(一介の平民を連行するのに、検問すらスルーか。まさに特例中の特例。なりふり構わず、一点に全力を投入するやり方だな)


 馬車を降りたグランを待っていたのは、煌びやかな装飾に彩られた、しかし呼吸すら躊躇われるほど重苦しい空気だった。レインに導かれ、案内されたのは公式な謁見の間ではない。より私的な、しかし逃げ場のない「奥の対面所」だった。


 そこには、一人の男が鎮座していた。 ファリス王国を統べる王、アーサー・ファリス。 君主として平凡だが堅実と言われるその瞳には、今、鋭い刃のような執念が宿っている。


「……貴様が、ヴァーミリオンが隠していた『治療師』か」


 低く、威圧的な声が室内に響く。 隣ではレインが深々と頭を下げ、その隣でグランはあえて不敬にならない程度の、しかし「畏怖」を感じさせない平然とした礼を返した。(礼節はアンサートーカーの指示任せ)


「恐縮ながら陛下、私はただの学園生……一介の平民に過ぎません。侯爵が連行されたと聞き、不当な容疑の解消に参りました」


「とぼけるな。ヴァーミリオン侯爵令嬢の完治は、我が国のすべての魔導師ですら成し得なかった奇跡だ。……ついてまいれ」


 アーサー王はそれだけ告げると、踵を返した。 グランは国王と、護衛という名の監視者たちに囲まれ、王城の離れに建つ静かな建物の中へと足を踏み込んだ。 入り口で護衛たちが足を止めると、王は振り返り、意外な言葉を口にした。


「……まずは謝罪しよう。事情もなさず、強引な手で貴様をここに呼び寄せたことを」


 グランは予想外の王の謝罪に驚き、続く言葉を待った。 一国の主が、末端の平民に謝意を示す。それは、よほどの緊急事態か私情が絡んでいる証拠だ。


「……私には、目に入れても痛くない最愛の娘がいる。ちょうど貴様と同じ十五歳だ。王国史上最高の魔力と魔法の才能を持って生まれた子で、ゆくゆくはこの国の王族としての責務を立派にこなすはずだった。それが半年前……グロリアス帝国に留学していた娘が倒れたと聞き、慌てて本国に戻して原因を調べたのだ」


「……まさか」


「そう、魔力核欠乏症。ヴァーミリオン侯爵令嬢と同じ症例だ」


 グランは心の中で深く溜息をついた。

 それはそうだ。現状、延命するしか手段のない不治の病が治ったと聞けば、誰もが藁にも縋る思いで調べ尽くすはずだ。

 ましてや相手はこの国の王。隠し通すことなど、最初から不可能なことだったのだ。


(なるほど。王の前に、一人の親ってわけか)


 強硬な手段を仕掛けてきた冷徹な支配者かと思っていたが、目の前の男からは、隠しきれない焦燥と悲哀が滲み出ている。意外なほどに人間味のある、ただの「必死な父親」の顔を見て、グランは少しだけ毒気を抜かれたような気がした。


「陛下。事情は把握いたしました。ひとまずは、その『お嬢さん』の状態を拝見させていただいても?」


 グランの言葉に、アーサー王の瞳に一筋の希望が宿った。 案内された部屋の奥。そこを遮っていたカーテンがゆっくりと開かれた。


 そこにいたのは、豪華な寝椅子に横たわった一人の少女だった。


 第一王女オリヴィア・ファリス。


 しかし、その肌は病的なまでに白く、指先は枯れ木のように細い。 彼女の膨大すぎる魔力が、逆に彼女自身の肉体を内側から蝕んでいる末期症状だった。


 オリヴィアは痛む体を押して身を投げ出すように、グランに向かって頭を下げた。


「グラン様とお呼びすればよろしいでしょうか。……私の父がこのような強引な真似をしましたこと、心よりお詫び申し上げます。……本当に、申し訳ございません」


「オリヴィア! 王女であるお前が平民に頭を下げるなど――!」


「おだまりなさい、お父様。……人の命を救う『聖域』に手を伸ばすなら、まず自らが礼を尽くすべきです。それが、ファリス王家の誇りだったはずでしょう?」


 凛とした、それでいて理知的なオリヴィアの言葉。 それは黄金の意志を宿した精神の輝きだった。グランは、脳内のアンサートーカーに分析を命じる。


『マスター。以前のエルスメリアとは違い、対象の魔力核は限界を超え、自己崩壊の直前です。ですが、我々なら処置は可能です』


(そうか。なら、さっさと片付けるとしよう。ただし、あとで揉めないように「合意」だけは取っておかないとな)


 グランは一歩前に出ると、アーサー王を真っ直ぐに見据えた。


「ヴァーミリオン侯爵令嬢の治療方法などはお聞きに?」


「いや、詳しくは聞いていない」


「なれば、あらためて説明をいたします。魔力核欠乏症の根幹治療は外科手術を用います。平民の私が、オリヴィア王女殿下に直接触れ、施術することになりますが……いかがなさいますか?」


 グランは毅然とした態度で問いかける。相手は王族。後から外聞や礼失を理由に罪に問われるのだけは御免だ。


「……なんだと? 魔力核を、生身の体にメスを入れて弄るというのか? そんな治療方法、帝国にすらなかったはずだ!」


「その治療方法を受けて助かった、生き証人がこの国にいます。エルスメリア・ヴァーミリオン嬢。彼女が何よりの証人です。なので、もう一度聞きます。平民の俺が、王女の体に直接触れ、メスを入れる。バレれば外聞は最悪極まりません。それでもやりますか?」


 王が言い淀んでいると、凛とした声が響いた。


「お父様、わたくしは手術を受けます」


「な……! オリヴィア、勝手に決めるのはよせ!」


「外聞……この国の貴族はそんなくだらないものの張り合いで。本当に嘆かわしい。そんな豚の餌にもならないものを守るために命を捨てるなど、こちらから願い下げですわ」


(この王女様、結構ひどいこと言うな……)


「……王女様、本当によろしいので?」


「わたくしの病状を知る者は王城でもごく一部。それに、そんなことでわたくしを軽んじる者がいるなら、こちらから縁を切って差し上げますわ!」


 王女の強固な意志。呆然とする王を尻目に、グランは術式の説明をした。やることは、人工魔力核の元になる合金を生成し、傷ついた魔力核と融合させて体内に戻す「調律」だ。 すると、オリヴィアから意外な要望が飛んできた。


「始めに施す麻痺と睡眠魔法のうち、睡眠魔法はかけないでくださいまし」


「いや、何をおっしゃって……」


「神の御業の片鱗を拝見できるチャンス、これを逃す手はございませんわ!」


(アンサートーカー、可能か?)

『出力を調整して、首から下に麻痺をかければ可能です。ただ、麻痺といっても術式中は体を弄られる感触があり、不快感を伴うかもしれません』


 それを伝えると、王女は「なら問題ありませんわね」と笑い、なぜかテンションを上げている。 困惑しながらも、グランはまだ呆けている王を一喝した。


「陛下、まずヴァーミリオン侯爵の罪を取り消してください。それと、手術が終わったら改めてお話を」


「……わが娘を頼む」


 王が部屋を出たのを確認し、術式を開始する。手術中、意識のあるオリヴィアからは矢継ぎ早に質問が飛んできた。今は何をやっているのか、なぜアダマンタイトとヒヒイロノカネを使うのか。グランがアンサートーカーと確認しながら答えていると、ふと疑問が湧き、逆に問いかけた。これだけ質問をするのに、なぜこの術式の「出どころ」は聞かないのかと。


「どう考えてもあなたのオリジナルでしょう? 魔導師としての最高峰をこの目で見られるなら、そこから自分で答えを出すのが礼儀というものですわ」


 王女の人柄に、グランは改めて感心した。魔力核を戻すと、七色の魔力が部屋中を駆け巡り、調律が完了したことを告げる。術後の安静のため、今度こそ睡眠魔法をかけると伝えると、彼女は「目覚めたら、また、お会いましょう」と言い、穏やかに眠りについた。



 その後。

 王の自室にて、解放されたヴァーミリオン侯爵を含めた三人の話し合いが持たれた。


 始めに侯爵はグランに会うなり、約束を破ったことを謝罪した。もちろん事情が事情だ。

 それに侯爵の立場からして王に逆らえるはずもない。ここで許さなければ、せっかくの協力関係も無駄になる。

 人間関係を円滑にするには、時には許すことも大事だ。


「ヴァーミリオン侯爵、此度はすまなかった」


 王の謝罪の言葉に、ヴァーミリオン侯爵も王国の貴族としては不合格だったと改めて謝罪を返す。

 グランを巡って険悪になっていた王家とヴァーミリオン家の関係が修復すると、王がこちらを向いた。


「神の御業、とくと拝見した。実にすばらしく、そしておしい……貴様には娘を救った功として、非公表ではあるが爵位を授ける。男爵など生ぬるい、子爵を授けよう」


(無理無理無理無理!!)


 グランは内心で絶叫した。

 王国に取り込まれるなんてまっぴらごめんだ。爵位なんかもらったら一生奴隷働き、社畜確定だ。

 何とか回避しようと頭を巡らせると、不意にヴァーミリオン侯爵から助け舟が出た。


「陛下、この者はおそらく神が遣わしたものだと思われます。その者を無理に縛り付けてしまえば、神罰が降り注ぐかもしれません。なので爵位ではなく、別の形になるもので褒美を与えるのがよろしいかと」


(え、やだ……このイケオジとてもかっこいい)


 グランがヴァーミリオン侯爵を尊敬し始めたところで、王が考え込む。


「たしかに……この国の建国の歴史を遡れば、聖王国は神から与えられた力を私利私欲に使おうとした結果、勇者に討たれた。この者が神の遣いというのであれば、囲い込むことは神罰を招くやもしれぬな」


(おお……すげえ、侯爵すげえ!)


「では、聞こう。何か欲しいものはないか?」


 王がグランに向けて言い放つ。

 そう言われても、聖域に戻れば大抵のものは作れるし、女神から強奪した資金もあるため、特に困ってはいない。

 グランが黙り込んでいると、侯爵が再び話し始めた。


「では、土地を与えてはどうでしょう。我が国が卒業後も王国内にグランの住める場所を用意すれば、おのずと繋がりを維持できるでしょう。グランは貴族としての責務もない。自由は保証される。いかがでしょう」


(あれ、それだと税金問題とか出るんじゃ?)


「特例で卒業後も税金は免除する形にすればいいと思います。土地は表上、王族名義にすれば、下手な人間は近づくことすらできません」


「ふむ、なかなかいい案だな。……グランといったな、これでよいか?」


(アンサートーカー、どう思う?)

『ここら辺が折衷案かと。変にごねても後々めんどくさいことになりそうです』


「承りました。では、そのようにお願いします」


「ではそのように手配しよう。ちょうどいいところがある、王都の北側に王家の所有空き地がある。そこを授けよう。何に使うかは好きに決めればいい」


 その後の事務手続きも、アンサートーカーと確認しながら進めたが、王にとっても誠実である方が得策だと判断したのか、妙な契約が紛れ込むこともなくスムーズに終わった。


 すべてが終わった頃には、日付が変わろうとしていた。


 グランは学園から乗り込んだ馬車で待つレインと再会し、侯爵は無事解放されたこと、そして今日王城に来たことはかん口令が敷かれていることを話した。

 レインも貴族だ、その辺は言われる前に察していたらしい。

 初めこの国に降りた時は貴族は腐っているやつばかりだと思ったが、侯爵や国王、王女様と接して、そうでもないようだとグランは少しだけ見直した。


 帰りの馬車の中。侯爵とレインから改めて謝罪と、もうすぐ始まる学年別魔導大会への応援を受けた。


「……ふぅ。どっと疲れた」


 グランは寮の自室でベッドに倒れ込んだ。


(さて、魔導大会をいかに自然に負けるか……それが問題だ)


 不戦勝や適当な棄権を画策して目を閉じようとした、その時。脳内に、あのアリスティアの声が響き渡った。


『グラン。魔導大会で四聖華を打ち破り優勝して、その後の交流パーティーで四聖華全員と踊りなさい!さもないと……「聖域」のネット接続を遮断しますわよ?』


「……は?」


 最悪の脅し。グランは絶望的な心地で、天井を見上げた。平穏な生活への道は、クソ女神という名の管理者によって、またしても物理的に封鎖されたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ