第210話:罪と罰
オリヴィアがセルフィリアに問い詰められている姿を見て、グランはこの降って湧いた状況に考えを張り巡らせる。
(ここでセルフィリアを助ければ、有耶無耶にできるかもしれない)
『マスター、助けると言ってもどうやって助けるのです?』
(とりあえずオリヴィアに話してみる)
そう言ってグランはオリヴィアに向かって話す。
「オリヴィア、それに関しては少し説明しないといけないことがあるんだ」
「グランには聞いていません。少し静かにしてください」
「あ、はい……」
取り付く島もなかった。
『ダメでしたね』
(そうだな……セルフィリアはどうするつもりなんだ)
グランがそう思っていると、セルフィリアはぽつぽつと話し始めた。
「お母さまが学園に来た時のことを覚えてる?」
「ええ、もちろん覚えていますよ」
「その後に皇宮で私とお姉ちゃんとお父様とお母様、そしてグランと晩餐をしたのよ」
「それは聞きましたわ。そのあと解散したと」
(嘘ついてたのかよ……)
グランはオリヴィアのその発言を聞いて天を仰いだ。
セルフィリアは焦っていたが、努めてそれを見せずに話す。
「実はね、解散せずにグランは皇宮で一泊したの。さすがに他国の平民が皇宮に泊まったなんて知れ渡ったら大騒ぎするわ」
それを聞いたオリヴィアは一定の理解を示す。
「たしかにそうですわね。ならその時に何かありましたのね」
追及が止まらない。
セルフィリアは観念してすべてを話す。
「そこで私がグランの寝室に行って勝負下着で誘惑しようとしたら、お姉ちゃんが先にいたの。その時に私の下着姿を聞かれたからつい言ってしまったわ。それを覚えていたのね」
セルフィリアはそう言って言葉を終える。
オリヴィアはしばらく黙っていたが話し始めた。
「大体わかったわ。でもあなたは共有せずに隠したわね。『グランを堕とす会』の掟を破ったわ。罰を受けなければいけないわね」
オリヴィアはそう冷たく言い放つ。
途端にセルフィリアはオリヴィアにしがみつく。
「そ、それだけはお願い!次からは洗いざらいすべて話すから!」
「次とかではなく、今したことに対しての処遇です。これは身分関係なく罰すると、『血の盟約』をみんなで交わしたでしょう」
セルフィリアはそれを聞いて言葉を失う。
確かに『血の盟約』を交わしたからだ。
しかし、セルフィリアは言い訳をするように話す。
「オリヴィアだって隠し事の一つや二つはあるでしょ!」
「私は『グランを堕とす会』には隠し事は何もしていませんよ」
それを聞いたセルフィリアは信じられないような目で見る。
協定を結んでいるとはいえ、みんながお互いに出し抜いているとセルフィリアは思っていたからだ。
それが目の前の王女は、何も包み隠していないことに驚愕した。
「罰は王国に帰って定期報告会で決めましょう。さあ、映像の続きを」
そう言って映像の続きを見始めた。
二日目の映像は山頂の別荘でのひと時だ。
シルヴィアが食材を切って整え、グランが火を起こしてバーベキューをしている。
その光景はカップルがキャンプをしているような映像で、まるで婚前旅行をしているような雰囲気を出していた。
それを見たオリヴィアは途端に不機嫌になる。
反対にセルフィリアは、罰がどういったものか気が気でなかったのか、映像を見てもあまり反応をしなくなった。
グランはその様子を見てアンサートーカーと話す。
(協定怖すぎるだろ)
『でも以前聖域で協定破棄といっていたのでは?』
(あれは多分自分達から一線を越えない云々だと思う。オリヴィアの話を聞くに、隠し事は一切なしということだろう)
『それなら、私も知らない春休みのルヴィリス様とのひと時がバレたらやばいのでは?』
(あれがバレたら多分こんなものでは絶対済まない。ルヴィリスは隠し通すと言っていたけど『血の盟約』というのが気になる……)
そうして会話をしていると、グランがシルヴィアに正体を話したこと、そしてシルヴィアの好みの男性が年上の男だということ、流星群がとても神秘的できれいだったことが映像で流れていく。
そして、あのシーンに入る。
女神アリスティアの命令で、シルヴィアを抱きかかえてベッドに連れ込むシーンが流れる。
オリヴィアがそれを見てものすごく不機嫌になる。
どこからどう見ても、今からことを起こす甘い雰囲気だったからだ。
そして二人が向かい合わせで寝ころび、グランがシルヴィアに何もしないと話しているシーンが流れた。
オリヴィアはそれを見て一安心するが、シルヴィアが頭をなでていたグランの手をつかみ、胸の谷間に突っ込ませたところで、オリヴィアは静かに言葉を発する。
「止めてください」
そのトーンは今まで聞いたことがないくらい低く冷徹だった。
「これはどういうことですか?」
そう言ってグランの腕がシルヴィアの豊かな胸の谷間に吸い込まれている映像を指さす。
グランはオリヴィアが信じられないくらいブチ切れしていることに気づく。
セルフィリアも、オリヴィアがここまで怒るところを見たことがなかったのか、少し怖がっていた。
「胸を触っていますね。グランからじゃないにしろ、これは看過できません」
そう言うや否や、オリヴィアの膨大な魔力の奔流が馬車内を駆け巡り、殺気があふれ出す。
グランとセルフィリアは思わずお互いに抱き合う。
「やばい!セ、セルフィリアどうすればいいんだ!」
「し、知らないわよ!ここまでキレてるオリヴィアなんて、初めて見たんだから!」
グランはアンサートーカーと話す。
(おい!まじでどうすればいい!)
『なぜ怒っているのか考えてください』
(シルヴィアの胸を触ったからだろ!)
『なら同じことをしてあげればいいじゃないですか。答え出てますよ』
(王族相手にそれはやばいだろ!)
『ここは今密室です。お互いが内緒にしていればいいでしょう』
(オリヴィアは隠し事しないと言っていただろ!バレるぞ!)
『それは『グランを堕とす会』の定期報告会のことであって、それに先ほどのことはルヴィリス様とソフィア様がいずれ話します。当然皆にはバレるでしょうが、共有したからと言って、会の者以外にわざわざ言わないでしょう。なら先手を打ちましょう』
(お前のこと信じるからな!)
グランはそう決心すると、抱き合っていたセルフィリアを引き剥がし、オリヴィアの前に立って抱きしめる。
「オリヴィア、本当にすまなかった」
オリヴィアはグランが抱きしめてきたことに少しうれしく思うも、腕を振り払い押しのける。
オリヴィアは魔力を練り上げながら話す。
「帝国学園の留学中はとても寂しかった。でもグランは非人道的な亜人の研究を止めるべく、秘密裏に動いて忙しいと思っていたから、私は我慢していました」
そういうとオリヴィアは涙を流し始める。
「それでも、これはひどいです……」
グランはオリヴィアが泣き始めるとは思わず後ずさりするも、意を決してオリヴィアの胸を鷲掴みにする。
「あんっ……!」
オリヴィアの艶っぽい声が響き渡る。
突然グランが胸をつかんだことに、オリヴィアは心底驚き目を丸くする。
そしてルヴィリスの時と同様に膝の上に座らせ、グランはオリヴィアの胸を揉む。
オリヴィアは最初体を強張らせていたが、徐々に気持ちよくなってきたのか体から力が抜け、なすがままにされていた。
グランはオリヴィアと口づけを交わしながら徐々にやさしく触り、オリヴィアは恍惚とした表情を浮かべる。
オリヴィアの練り上げられていた魔力は霧散し、代わりに馬車内でオリヴィアの艶っぽい声が響き渡る。
そしてしばらくするとオリヴィアはびくっと体を震わせる。
そしてグランはそれを見て、オリヴィアを膝の上から降ろす。
そしてキスをして話す。
「今日はここまでだ。続きはまた今度な」
そう言うとオリヴィアはグランに向かい話す。
「……あれほど手を出さないと言っていたのに、手を出してくるとは思いませんでした。とてもよかったです。また今度、ぜひお願いします」
そう言ってオリヴィアは少し乱れた服を整えて、嬉しそうに席に座る。
グランが視線を反対に向けると、セルフィリアは目をそらした。
オリヴィアの乱れた姿を見て、すこし恥ずかしかったようだ。
グランはセルフィリアにも同じことをしようと胸に手を伸ばす。
セルフィリアも一部始終を見ていたのか、少し期待するようにグランを見る。
しかし、グランの腕が後ろからつかまれる。
オリヴィアだった。
「セルフィリア、あなたはこれを今日受けることはできません」
「な、なんでよ!」
「あなたは掟を破りました。その罰です」
そう言われたセルフィリアは心底悔しそうにし、うなだれていた。
「グラン。私はこの出来事を会に報告します。なので他の皆様にも同じことをしてください。私は構いません」
「私だけ無しなんてずるい!」
「隠し事をしなければよかったのです」
セルフィリアは自身の浅はかな抜け駆けで、このチャンスを逃すことになるとは思っておらず、隠していたことを本当に心の底から後悔していた。
その落ち込みぶりはすさまじく、グランはうなだれているセルフィリアを少しかわいそうに思っていた。
「グラン。セルフィリアに同情をしてはダメです。会のみんなが同じことをされてから、最後に彼女が受けるまでは手を出してはダメです。わかりましたね?」
有無を言わさないオリヴィアの圧力に、グランは恐怖を感じコクコクとうなずいた。
それを聞いていたセルフィリアは絶望して、それ以降は窓の外を見て時々ため息をついていた。
反対にオリヴィアはグランに必要以上に引っ付いたりして、グランを堪能していた。
夜になり、グラン達一行は今日宿泊する街の入り口に着いた。
さすがに王族や皇族、高位貴族が泊まるためか、相応の格式のあるホテルなどがある、とても活気のある街だった。
「なるほど、ここなら安心ね」
セルフィリアは先ほどまでうなだれていたが、気持ちを切り替えて話していた。
オリヴィアも続く。
「ここはまだ帝国内ですね。国境付近とはいえ行きとはルートが違いますが、どういった街なのかしら」
「帝国の伯爵が治める街よ。代々続く由緒ある家系だし、当代の伯爵も人格者よ。名はフロイス・アーデント伯爵。帝国の伯爵らしく実力も相応の強さよ」
そう言ってセルフィリアは話す。
「おそらく使いの者が来るはずね。しばらく馬車の中で待ちましょう」
そう言ってしばらくすると、御者がセルフィリアに話しかける。
セルフィリアが窓を確認すると、なんと伯爵本人が出迎えに来ていた。
グランが先に降りると、アーデント伯爵は少し驚く。
そしてグランは、馬車から降りるセルフィリアとオリヴィアの手を取ってエスコートした。
そしてセルフィリアが話す。
「アーデント伯爵。出迎えご苦労様。紹介するわ。ファリス王国第一王女オリヴィア・ファリスよ」
「ファリス王国第一王女オリヴィア・ファリスと申します。このたびは歓待いただき感謝いたします」
「ファリス王国の至宝、オリヴィア・ファリス様にご挨拶を申し上げます。私はゲオルグ皇帝陛下よりこの街の領主を代々務めさせていただいております、アーデント伯爵家の当代、フロイス・アーデントと申します。本日は私たちの領地に宿泊という大変な名誉をいただき感謝しております。ささ、立ち話もなんですし、すぐに皆様をご案内いたします」
そう言うと伯爵は王国の学生たちを連れ、先頭で歩き出した。
「馬車に乗っていただいて案内するのもよろしいですが、ぜひこの街の活気を肌で感じていただきたいと存じます」
そう言って伯爵は辺りを見渡す。
ここは商業が充実しているのか、夜なのに活気があふれ、人でごった返している。
しかし秩序は決して悪くなく、本当に領民が楽しんで過ごしているように見えた。
王国の生徒たちはその活気に影響されたのか、屋台などを気にしていた。
伯爵はそれに気づいてか話す。
「屋台が気になるようですな。先に城に案内して荷物などを置いてから散策にしましょうか。もちろん護衛もつけますので」
セルフィリアは話す。
「晩餐を用意しているのでは?」
「もちろんご用意しております。ただ皆さんはまだ若いでしょう。晩餐をいただいたとしてもまだまだ育ち盛り、この街の屋台もおいしいですよ。是非食べて行ってください」
伯爵がそう話すとマルクたちはそれを聞いて喜び、四聖華やオリヴィアも帝国の屋台に興味津々だったのか嬉しそうにしていた。




