第209話:公開処刑とまさかの追訴
馬車に半ば強制的に連れ込まれたグランは、両脇に座る両国のトップである王女と皇女に挟まれ、すごく居心地が悪かった。
しかし、王女と皇女は先ほどの事があったのか、出発の時とは違いすこし機嫌が直っていたように感じていた。
グランはルヴィリスとソフィアの時のように、安易なことはもうしないと誓っていた。
しかし脳内のアンサートーカーと女神アリスティアが話す。
『マスター、ここで手を出さなくても共有されますので遅かれ早かれですよ』
『そうよ!中途半端にするくらいなら、もう全員平等に手を出しなさいよ!』
(うるせえ!さっきので反省したんだ俺は!)
グランはそういうがアンサートーカーが冷静に話す。
『マスター、今二人にも同じことをしないと、あとでバレた時のほうがよっぽど怖いですよ。お二人の性格をよく考えてください』
グランはそれを聞いて思った。
確かにオリヴィアもセルフィリアもかなり積極的だ。
自分達にはしてくれなかったとわかれば、本気で怒り狂うだろう。
二人は身分を使うようなことはしないが、仲間外れをしたとなればその後がとてつもなく怖い。
かといって相手は王女と皇女、最上位の身分の相手にそんなことをして万が一バレれば、どえらいことになる。
グランはやっぱりさっきのルヴィリスとソフィアに、安易にそういうことをした自分をぶん殴りたくなっていた。
しばらくは沈黙が続く。
しかしルヴィリスとソフィアの時とは違い、二人はグランに体を寄せたり、少し触ったりとスキンシップを楽しんでいた。
グランはこのまま終わってくれればいいと、無駄な抵抗はせず淡々とそれを受け入れていた。
時間にして一時間くらいたったのだろうか、二人は満足したのか絡めていた腕を離す。
グランは少し疑問に思ったが、成り行きを待っていた。
すると、セルフィリアがグランに話す。
「フィール山に行ったって言ったわね」
「ああ、そうだ」
「あそこってお姉ちゃんのお気に入りの場所なのよね。別荘もあるし」
そういった瞬間、セルフィリアからすさまじい魔力と殺気があふれ出す。
「そうでしたのね。一泊するということはずいぶん楽しんでいらっしゃったのね」
そう言って反対側のオリヴィアからも、同じように魔力と殺気があふれ出す。
黒の魔力と虹色の魔力の奔流が馬車内を駆け巡る。
(ぎゃあああああああ!)
『これはもうどうしようもないですね』
グランは全身から汗が噴き出る。
「正直に話せば、五体満足で馬車を降りられるかもね」
そう言ってセルフィリアは魔剣を召喚し、グランをにらみつける。
「もし五体満足じゃなくても、切られた箇所は私がもらいます」
オリヴィアはもっと物騒なことを言っていた。
グランは嘘をついてもどうせ『グランを堕とす会』で共有されるから、何とか五体満足でいようと思い素直に話す。
今回は逆に堂々と話す。
「そうだ。シルヴィアと行った。今回の亜人の研究でいろいろと役に立ったからな。魔法契約で逆らわないようにしているとはいえ、俺は働きには報酬で応える」
そうグランが言うとセルフィリアは怒り出す。
「報酬で一泊旅行って、意味が分からないんだけど?」
「シルヴィアが行きたいと言ったんだ。それが報酬だ」
グランはまるで何が悪いんだと言わんばかりの態度で話す。
それがセルフィリアの逆鱗に触れたのか、セルフィリアは狭い馬車の中で剣を振るう。
「バカやめろ!こんな狭いところで武器なんか振り回すな!」
「バカって言ったね!浮気した男に折檻するのよ!」
セルフィリアは姉ということもあるのか、完全にブチ切れしていた。
オリヴィアは話す。
「それで、そこで一体何をしたのかしら。すべて答えていただけますか?」
オリヴィアは努めて冷静に話しているが、七色の魔力が馬車内を駆け巡っており、内心ではどう考えてもセルフィリアと同じくブチ切れていた。
オリヴィアのその話を聞いたセルフィリアは一旦剣をしまう。
シルヴィアとどう過ごしたのか興味があるようだ。
グランは二人の鋭い視線に目を合わすことはできず、そのまま真正面を向いて淡々と話す。
「まず転移でシルヴィアの別荘に行った。そして突然の訪問だからいろいろ準備が整うまでは観光しようってことになった。クレイス滝やエディウスの神樹、高原なども回ったな」
グランがそういうとセルフィリアは質問をする。
「お姉ちゃんとはどうやって回ったの?手をつないだり腕を組んだりしたの?」
そう言われたグランはどう答えるか考えていると、予想外のことが起こる。
『私がヴィジョンでお見せしましょうか』
アンサートーカーがオリヴィアとセルフィリアに魔力を乗せた声で話しかけた。
グランはたまらず相棒を怒鳴る。
(おい!お前ふざけんな!何勝手に出てきているんだ!)
「……いいわね。百聞は一見に如かず。全部見せてもらいましょうか」
「グラン。あなたのことを信じるためにもちょうどいいと思いますわ」
グランは今から始まる公開処刑に顔を青くし、うなだれていた。
『さあ、マスター。ヴィジョンを展開してください』
「いやだ!」
アンサートーカーにそう促されたグランは必死に抵抗する。
しかしそれを聞いたオリヴィアとセルフィリアは、グランの腕をからめとり密着する。
「グラン、諦めなさい!」
「そうです。今ここですべてをさらけ出せば、許すかもしれませんよ」
(いや、許さないと思うんだ……)
確かに既成事実を作ったとかはないが、かなりきわどいところもあったのでグランはかなり不安だった。
ただ、このままヴィジョンを展開しなければ終わることはない。
それどころかこのまま抵抗し続けて有耶無耶にしても、先ほどのルヴィリスとソフィアのことが共有されれば、もっとひどくなるだろう。
グランは一縷の望みをかけてヴィジョンを展開する。
三人の正面にはヴィジョンが展開される。
まるで前世のモニター付きの車に乗っている気分だった。
流れ始めた映像で早速二人が不機嫌になる。
それはシルヴィアが靴を履き替えているときに、グランが足を見て少し鼻の下を伸ばしている映像だった。
それに気づいたシルヴィアが足を見せつけるように、スカートをまくり上げていることにも不機嫌になっていた。
『開幕ツーベースヒットくらいですね』
(お前なんでここからなんだよ……)
グランはもうどうにでもなれと思い、二人と一緒に映像を見ていた。
そしてクレイス滝が映ると、二人はその見事な光景に目を奪われたのか、感動していた。
しばらく滝を見ていると、グランとシルヴィアが歩き始める。
腕を絡ませていた。
そして山風が吹き、乱れたシルヴィアの髪を手櫛で戻す。
あの時気づかなかったが、シルヴィアはかなり顔を赤くして照れていた。
「映像を止めて」
そう言ってセルフィリアが話すと、アンサートーカーが映像を止める。
グランはどうしたんだと思いセルフィリアを見ると、殺気はある程度収まっていたがジト目でグランを見ていた。
「やっぱり!お姉ちゃんもグランのこと好きじゃん!それに付け込んでお姉ちゃんにまで手を出すなんて!」
そう言ってグランをポコポコ叩く。
グランは剣で攻撃しないだけましだと思いそれを受け入れるが、痛いものは痛い。
「痛い痛い!セルフィリア落ち着いて」
セルフィリアは叩くのをやめない。
しかしここでオリヴィアが話す。
「とりあえず続きを見ましょう。私はすべて見終わってからにします」
その発言でグランは後で何をされるかわからないという恐怖が襲ってきていた。
そして次はエディウスの神樹の映像に映る。
その大木を見た二人はクレイス滝の時と一緒で、映像越しでもわかるくらいその力強さを感じ取り感動していた。
しかし映像が変わるとグランが拝んでいた。
オリヴィアは不思議に思い話す。
「これはなぜ祈っているのです?」
「続きを見たらわかるよ」
そう言われオリヴィアが視線を戻すと、グランがシルヴィアに説明をしていた。
それを聞いた二人も感心したのかグランの話を聞いてうなずいていた。
そして観光が終わり、別荘につき部屋に入る映像が流れる。
グランはとっさに映像を止める。
(おい、ここはあの執事が俺を襲うところだ。余計な誤解を生みたくない。飛ばすぞ)
『たしかにそうですね』
そう言って映像を飛ばすとセルフィリアが話す。
「場面が変わったけど、何か隠しているわね」
普通にバレた。
「いやここはあまり見せたくないんだ」
「ダメよ。全部見せなさい」
「いや、シルヴィアには関係ないことなんだ」
「だめよグラン。隠し事は無しよ」
二人は全く引かないためしぶしぶ見せる。
グランと執事の一連のやり取りが流れた。
それを見たセルフィリアは話す。
「やっぱりそうね。あの執事はお姉ちゃんの護衛だった暗部の者よ。かなりの手練れだけど、グランにはさすがにかなわないか」
「なぜこれを飛ばしたのです?」
「余計な誤解を与えると思ったんだ。執事とはこの後ちゃんと和解してるから問題ないんだ」
「そういうことね。何か隠していると思ったじゃないの」
そう言ってセルフィリアは映像に視線を戻す。
そして露天風呂のシーンになる。
(あ!ここはやばい!すぐに飛ばせ!)
『ダメですマスター。飛ばしてバレたほうが余計に怒られますよ』
(いやここは本当にやばいだろ!)
『多分大丈夫ですよ』
(何がだよ!)
相棒が全く言うことを聞いてくれないことに絶望したグランは、もうどうにでもなれとあきらめた。
映像はグランが真っ裸に映っている。
それを見た二人は興奮して映像を凝視していた。
「ちょっと恥ずかしいから飛ばすぞ」
「「ダメよ!」」
思春期真っただ中の女性には興味津々の映像だった。
二人は食い入るように映像に映っているグランをなめまわすように見る。
グランはとても恥ずかしくて居心地が悪かった。
そうしてしばらく堪能しているとガラッと扉が開く音がする。
二人はその音を聞いて映像を注視すると全裸のシルヴィアが映っていた。
(やっぱり全裸だったのかよ……)
グランはずっと後ろを向いていたので、二人はまだグランが遠慮しているということは見て取れたのか安心していた。
しかし、シルヴィアがグランにそのまま抱き着くと事態は一変する。
「止めて」
セルフィリアのトーンがとても低く冷たかった。
グランは恐る恐るセルフィリアを見る。
するとセルフィリアの目からハイライトが消えていた。
「やっぱり大きいほうが好きなの?」
グランは慌てて答える。
「そんなことない!俺は大きさとかは気にしない!」
「セルフィリア、とりあえず続きを見ましょう」
そう言ってセルフィリアを諫め、続きを見る。
シルヴィアは湯浴み用の服を着てグランの隣でいちゃついて風呂に入るシーンが流れていた。
二人を見ると明らかに不機嫌になって怒っている。
そのあと晩餐をしたり、グランの部屋で魔力操作の極意を教えたり、シルヴィアが眠気で力尽きる前にグランの一番好きな下着姿になってベッドに潜り込むところで映像は暗くなった。
オリヴィアが話す。
「どうしてシルヴィア様は、グランがあの下着が好きなことをご存じなのかしら?」
それを聞いたセルフィリアは焦る。
シルヴィアがそれを知っているのは、皇宮でセルフィリアが言ったからだ。
しかし、セルフィリアは皇宮での話を共有していなかった。
まさかここで自分が不利になるという事態になるとは思わなかった。
セルフィリアはごまかす。
「たまたまじゃないかしら?私も見てびっくりよ」
しかしオリヴィアはセルフィリアに話す。
「いくら何でもここまでピンポイントに合うことはありません。この日を狙って着たとしか思えません。セルフィリア、何か隠していますね」
セルフィリアはオリヴィアのその言葉に戦慄した。




