第208話:揉め事と仲裁
オリヴィアとセルフィリアは、それぞれの国民に話を聞く。
オリヴィアはファロー家に、セルフィリアは老夫婦に話しかける。
「いったい何があったというのかしら?」
オリヴィアの努めて冷静なトーンで話しかけられたファロー家の者は、緊張しながらも話す。
「王国の至宝、オリヴィア王女殿下にご挨拶を申し上げます。私めはファロー家の跡取りであるルデル・ファローでございます。さきほどあの老夫婦が私へぶつかってきたことで、このようにお召し物を汚された次第でございます」
そう言ってルデルは汚れた箇所を見せるように腕を出す。
「確かに汚れていますね。しかしあなたがよそ見をしていたとの話もありますが、そこはどうなのです?」
それを言われたルデルはバツが悪そうにするが、意を決して話す。
「王女殿下は王国民を信じないのですか?私めが嘘をついているとおっしゃるとでも」
それを聞いたオリヴィアは静かに怒りを覚えながらも冷静に話す。
「もちろん我が民を信じていますよ。ただ、その民が嘘を述べているのであれば、正しく導くのも王族としての責務でもあります」
そう言われたルデルは冷や汗をかく。
オリヴィアのトーンが静かに怒っていることに気づいたからだ。
しかし、ルデルは若いのか勢いでごまかそうとする。
「私めは王国の栄えある貴族の者です。下賤な平民に服を汚されたとあれば、それ相応の罰を与えなければならないはずです」
オリヴィアはそれを聞き、この者が貴族至上主義の思想を持つ者だと呆れるが、冷静に話を続ける。
「初めに言いましたが、ここは王国と帝国、両国が共同で管轄する中立地帯です。あの老夫婦は帝国の民です。その帝国の民に対するあなたの振る舞いにより、王国貴族の立場、ひいては両国の外交問題に発展することもあります」
それを聞いたルデルは顔を青くする。
「それを承知でそのように申しているのであれば、私は何も言いません。ただし、あなたの言ったことが事実と違った場合、それ相応の覚悟はしていただきます」
オリヴィアの言葉にルデルはおろか、周りにいた私兵も顔を青くし、かすかに震えていた。
一方セルフィリアは老夫婦と話していた。
「やっぱり、あなたたちだったのね。久しぶりね」
そういったセルフィリアは老夫婦と抱き合う。
「セルフィリア殿下、大きくなられましたなあ」
おじいさんが話すと、隣にいたおばあさんも話す。
「あんなに小さくてめんこかったのに、今はこんなに立派になってねえ」
そう言ってうんうんと頷く。
セルフィリアは少し照れ臭くなったのかすぐに本題に入る。
「それで、実際はどうなの?」
するとおじいさんが姿勢を正して話し始める。
「ぶつかったのは事実です。私が持っていた飲み物がかかりました」
おばあさんが間髪入れずに話す。
「先に私にぶつかりそうになったので、旦那が私をかばってくれました。その時にかかったのです」
セルフィリアは話す。
たしかに二人は認めている。
しかし先ほど喧騒の中で聞いた言葉が気になり話す。
「向こうがよそ見をしていたようだけど、それは本当なの?」
そういうとおじいさんは少し遠慮がちに話す。
「はい、恐らく露店などを見ていたのでしょう。だから気づかなかったのだと思います。ただ、相手は王国の貴族とすぐに気づきました。実力でねじ伏せるのは最後の手段と思いましたので、努めて話し合いで解決しようと思ったのですが……」
そういうとセルフィリアは話す。
「あなたたちが力をふるえば、一瞬で終わっていたわね」
おばあさんが話す。
「ここは中立地帯です。変に揉め事を起こせば両国の外交問題に発展しかねません」
「さすがね。でも私たちが来たから大丈夫よ」
そういうとおばあさんは話す。
「あの方が王国の第一王女オリヴィア様ね。殿下からお聞きしていましたけど、かなりの実力者ですわね」
「セルフィリア殿下も、あのころと比べると相当強くなりましたな。日々の鍛錬を欠かしていないようですな」
そういわれるとセルフィリアは嬉しそうにする。
「あなたたちに言われたら素直にうれしいわ。なんせ帝国の元剣聖の弟子たちなのだから」
そう、この者たちは帝国の元剣聖の弟子たちだった。
セルフィリアが元剣聖の下で修業をしていた時に、身の回りの世話をしてくれた方たちだ。
二人も自分の孫のように接していたため、短い間だったが家族同然の付き合いだった。
二人がそれぞれに事情を聴いていた時、グランはアンサートーカーに話す。
(ヴィジョンで確認できるか)
そういうとアンサートーカーは待ってましたとばかりに話す。
『そう言われると思い、すでに準備をしていました。すぐに見られます』
(さすがだな。だがこれだけ人がいるところでヴィジョンを使うのはまずいな)
『どこか建物内に入り、そこで当事者を交えて見せるのが一番ですね』
(当事者に魔法の存在がバレてもいいのか?)
『魔法契約でも結びましょう。それか誓約書などでも十分効果が発揮されます』
(わかった。なら二人に話そう)
そう言ってグランは先にセルフィリアに声をかける。
「セルフィリア様、少しよろしいでしょうか?」
さすがに帝国民の前でセルフィリアに馴れ馴れしくはできない。
セルフィリアもそれをわかっているのか何も言わずに、グランと一緒に少し離れたところで話す。
「どうしたのグラン?」
「一連の騒動だが俺のヴィジョンを使えばすぐに解決するがどうする?」
それを聞いたセルフィリアは少し考えながら話す。
「確かにグランのヴィジョンを使えば、すべてが白日の下にさらされるわね。でもこれだけ人がいる中で使っても大丈夫なの?みんな大騒ぎするわよ」
やはりそう思われていた。
歓送会の時、メリルに歌の歌詞を咄嗟にヴィジョンを使って見せたが、そのあとただの魔道具だということでごまかしており、そこからは特に何も問題がなかった。
現にメリルもそうだと信じており、そのあとは何も聞かれていなかったので事なきを得ていた。
だが今は違う。
過去の事象を映像で見られることなど知られれば、シルヴィアが以前言っていた通り、司法の場では無敵の証拠品だ。
捜査や鑑識、実況見分などすべてすっ飛ばして犯行や証拠を証明できる。
そんな魔法があれば、みな喉から手が出るほど欲しがるだろう。
ただこの魔法はグランとアンサートーカーだけが使える魔法だ。
教えることもできない。
グランは話す。
「どこか別室で当事者に魔法契約や誓約書で、この魔法の存在をバラさないように縛ることはできないか?」
「それなら可能ね……わかったわ。二人を説得するわ」
そう言ってセルフィリアは老夫婦と話しすぐに戻る。
「二人は大丈夫だって。あとあなたにすごく興味を持っていたわ」
それを聞いたグランは疑問に思う。
「え、なんで?」
「あの方はどなたと聞かれたから、私の未来の旦那さんって言ったの」
グランはそれを聞いて頭を抱える。
こんなところにまで外堀を埋めなくていいのにと嘆いた。
グランは気を取り直して、次はオリヴィアに近づく。
「オリヴィア様、すこしよろしいでしょうか?」
グランは努めて敬意をこめてオリヴィアに話すが、それを見たルデルは平民のグランを見て不快な顔をし怒鳴りつける。
「貴様!下賤な平民のくせに王女殿下に話しかけるなど無礼極まりないぞ!」
グランはめんどくさいなと思いながらも冷静に話そうとすると、オリヴィアがグランの前に手を出し代わりに話す。
「この方は私のクラスメイトであり、親しい友人です。何も無礼ではありません」
そういってグランと共に少し離れた場所で話す。
「セルフィリアにも言ったのだが、俺のヴィジョンですべて終わらせようと思っている」
「この状況でヴィジョンは確かに強力無比ですが、これだけの人たちの中で使うのはよくありません」
「だから、どこか別室で当事者に魔法契約か誓約書でこの魔法の存在をバラさないようにしようと思う。どうだ?」
オリヴィアはなるほどと思うが、少し心配そうに話す。
「あのファロー家の者、貴族至上主義の思想をお持ちですね。平民の魔法に難癖をつけて従わないかもしれません」
グランはそれを聞くとアンサートーカーと話す。
(確かに平民の魔法は信じられんと言われたら元も子もないな)
『ヴェルシュタット公爵やシルヴィア様に証明するときに見せた、幼少期の記憶などを見せつければ嫌でも信じるでしょう。いつ自分の恥ずかしい思い出などがバラされるかわからないのですから』
(やっぱりそれしかないか)
脳内の会話を終えるとオリヴィアが話す。
「アンサートーカーはなんと?」
「アンサートーカーと話していることに気づいたのか」
「グランは時々何かを考えこむような時が多々ありましたので。そしてアンサートーカーの存在を知りましたので、恐らくそうだと思いました」
『さすがですね』
「アンサートーカーがさすがだと言ってるよ」
「ふふ、ありがとうございます」
グランは先ほどアンサートーカーとのやり取りを話すと、オリヴィアもそれなら従うと思うと言い、最悪王族の身分を盾にするとまで言った。
グランはそうならないように努力すると言い、オリヴィアに任せる。
オリヴィアと話をしていたルデルも、話をするうちにこっちをチラチラ見るようになり、不快な顔をしていたが、オリヴィアが少し話すと途端に顔を青くしてうなだれていた。
オリヴィアは話す。
「ファロー家の者がこっちに非があると認めました。老夫婦に謝罪をして終わらせたいとのことです」
グランはそれを聞いて驚く。
「そうなのか。またどうして心変わりを?」
「別室で当事者と私たちで事実確認をすると言ったら、少しごねていました。しかし、監視魔法で映像が見られるというと途端に態度を変えました。向こうも自分に非があることを認めていたのでしょう」
グランは先ほどルデルがこちらをチラチラ見ていたことが気になったので、オリヴィアに聞く。
「こっちをチラチラ見ていたからヴィジョンの魔法を話しているのかと思っていたけど、そうじゃないんだな」
「グランが監視魔法を見ればいいと提案したと思っているようですね。予定外でしたがこれで丸く収まりそうですね」
「そうだな。ただ謝罪させるにもやはり別室のほうがいいだろう。貴族至上主義のプライドを折るんだ。そこは配慮すれば逆恨みもないだろう」
「そうですわね。ではそのようにしましょう。私に任せてください」
オリヴィアはルデルにそれを伝えると、ルデルはオリヴィアに深く腰を折り礼をする。
グランはセルフィリアにそれを伝えると、セルフィリアも老夫婦に伝える。
そして当事者たちと王女と皇女が、両国の警備統合部隊がいる詰所に行く。
すると、二人を見た守衛の者が驚愕し急いで伝えると、統括責任者が血相を変えて走ってきて二人を迎える。
「少し部屋をお借りします」
そう言って王女と皇女、老夫婦とルデルと私兵の代表が別室で話し合う。
お互い大事にはしたくないので、ルデルと私兵の代表が老夫婦に謝罪をし、老夫婦も汚したのは事実だと言ってこれ以上何も望まないことを話す。
そしてセルフィリアは老夫婦と先に部屋を出る。
そしてオリヴィアがルデルに話す。
「ルデル・ファロー、そなたの決心に王女として感心しました。素直に非を認め、身分関係なく謝罪をする。王国でもこれができる貴族は中々いません。これからも王国貴族として模範的な正しいふるまいを意識しなさい。期待していますよ」
それを聞いたルデルは、まさかそのような言葉を聞けるとは思わなかったのか素直に感動していた。
「ははっ。此度は私の不徳ゆえのことで、王女殿下のお手を煩わせて申し訳ございません」
「ならこれで終わりです」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
そう言って詰所から出て、ルデルとはそこで別れた。
セルフィリアと老夫婦、そしてあとから来たグランは、オリヴィアが一人で残ったことに少し不安に思っていたが、無事だったことに安心する。
セルフィリアは話す。
「さあ、これで解決ね。おじいちゃんおばあちゃん元気でね。また会いましょうね」
「セルフィリア殿下もお体にお気をつけて」
「子供が出来たら見せに来ておくれ」
そう言ってグランを見ながら話す。
グランは少し居心地が悪くなっていた。
オリヴィアもそれを聞いて頬を膨らませる。
老夫婦と別れたグランと王女と皇女は話す。
「セルフィリア、あなたこんなところでも外堀を埋めるなんて」
「ふふん、もう帝国から離れるからね。できることはやっていくのよ!」
そう言ってグランの腕を取ると、オリヴィアも負けじと反対の腕を取る。
そして馬車のあるところに戻ると二人はグランに話す。
「ここからは私たちの馬車に乗るのよ」
「聞きたいことがあるからちゃんと答えなさい!」
グランはこれで有耶無耶になると思っていたのに、全然終わっていないことに絶望し、しぶしぶ二人の乗る馬車に乗り込んだ。




