第197話:増えていく候補
一学期の終業式まであと一週間を切った。
グランたち王国学園のSクラスのメンバーは、終業式が終わった二日後に王国へと帰還する予定だ。
王国学園と同様に帝国学園にも学期末の筆記試験はあり、それもとうに終わっていた。
Sクラスの面々は、座学においても成績優秀者ばかりである。
王国学園の二年生の一学期、Sクラスの皆は鍛錬に力を入れていたため、座学はそこそこにしていた。
しかし、グランが二年生の最初の学期末試験で全教科満点を取ったため、特に平民組のマルクたちやベアトリクスは大きな衝撃を受けたのだ。
グランが基礎的な知識を理解していれば、魔法への理解ももっと深まり、さらに強くなると語ったため、彼らはグランと一緒に勉強するようになった。
それが学生らしい青春を過ごしているようで羨ましく見えたのか、成績優秀者であった四聖華や王女、皇女もグランたちと一緒に座学の勉強をし始めた。
皆で教え合った結果、Sクラスは座学でもトップクラスの成績を収めることとなる。
それを見た王国の学園長が彼らの可能性を信じ、カリキュラムを無視して詰め込めるだけ詰め込んだことにより、卒業までの座学を二年生で終わらせてしまったということだった。
だからといって皆は座学をサボることはなく、自習なども継続していた。
そのため環境が変わった帝国学園の学期末の筆記試験でも、全員がトップクラスの成績を収めたのだ。
その中でもグランはまたしても全教科満点だったため、帝国の生徒たちからは力も強く頭も良いという印象を持たれていた。
留学当初と違い、異性同性を問わず憧れの対象となり、皆から尊敬の眼差しで見られていた。
そのため、彼らがもうすぐ王国へ帰るという事実に、帝国の生徒たちはひどく残念がっていた。
帝国の学園長や生徒会長のリーゼロッテからも、二学期もいてくれないかと言われていた。
だが、グランはもともと、亜人化した特待クラスの問題を解決するために留学してきたのだ。
問題が解決した今、このまま帝国に居続けるのもどうかと彼は思っていた。
自分一人だけならともかく、他の皆は王国出身であり家族もいる。
セルフィリアは帝国が祖国だが、王国学園で皆と一緒にいる方が楽しいようで、引き続き王国に留学することになった。
それならば、やはり王国に帰るのがいいだろうとグランは結論づけていた。
終業式まで残り三日というところで、Sクラスの面々は教室で帝国の学園長と話をしていた。
「もうすぐ一学期の終業式だ。この期間、みなには帝国学園の生徒が大変世話になった。学園を代表してお礼を申し上げる」
そう言うと、学園長は深々と頭を下げた。
「そして、明日は皆の歓送会を学園全体で行おうと思っている。明日の朝から学園は君たちの歓送会の準備で大忙しだ。期待していてくれ」
そう言われると、グランたちは少し照れくさそうにした。
ここにやって来た当初は、手合わせばかりで大変だったが、ルール決めなどをした結果、互いに余裕が持てるようになっていた。
自分たちでも気づかなかった弱点などを知ることができたため、結果的にこの留学は大成功に収まったと言える。
彼らは様々な価値観に触れ、帝国学園での授業や皇都などの観光地で知見を広めた。
そして、王国に帰ったらこの経験をどう役に立てようかとそれぞれ想像していたのだ。
充実した留学生活だったと皆が思い、この機会を作ってくれたセルフィリアに深く感謝した。
セルフィリアも初めは皆を帝国に連れてきたことは失敗だったのではないかと思い悩んでいたが、皆から温かい言葉をもらい少し涙ぐんでいた。
そして次の日、帝国の生徒たちは準備のために朝からバタバタと大忙しだった。
グランたちは歓送会がここまで大規模なものになるとは思っていなかったらしく、少し心配になってきた。
そして教室で皆と雑談をしていると、帝国学園の生徒会役員たちが教室に入ってくる。
生徒会長のリーゼロッテが前に立ち、皆に向かって話しかけた。
「今日の夜に皆様の歓送会を行います。今まで帝国学園で行った行事の中でも大規模になります。平民の方々の礼服などはこちらでご用意しておりますので、ご心配には及びません」
四聖華や王女と皇女は、常に収納魔法の中に社交界用のドレスを何着か入れているため、その心配はなかった。
ベアトリクスも貴族としての嗜みを皆から教わっていたため、既に自分のものを持っていた。
そこでリーゼロッテがグランに尋ねる。
「グラン様はどういたしますか?」
すると、脳内でアリスティアが叫んだ。
『私が用意するわ!帝国の生徒たちの度肝を抜くようなものをね!』
グランはそれを聞いて呆れてため息をつきながらも、リーゼロッテに返答する。
「俺も礼服は持っているんだ。だから大丈夫だ、ありがとう」
そう言われると、リーゼロッテは少し残念そうに口を開く。
「それは残念です。私がコーディネートをいたそうと思っておりましたのに」
その言葉を聞くや否や、四聖華や王女と皇女、そしてベアトリクスがブーブーと文句を言い出した。
「あなた!まだあきらめていなかったの!」
すると、リーゼロッテは涼しげな顔をして言い放つ。
「断られたからと言って、諦めなければいけないということはないはずです」
それを聞いた皆の間に、少し教室の温度が下がったような悪寒が走る。
そこで慌ててグランが間に入った。
「もうすぐお別れなんだ。あまり揉めるのはよせ」
そう言われて、ルヴィリスが余裕を見せるように話す。
「そうね、私たちはもうすぐここを去るわね。なら残り短い間でも、せいぜい逢瀬を楽しみなさい」
なぜか上から目線で煽るルヴィリスだったが、リーゼロッテも負けてはいない。
「寛大なお心、ありがとうございます。グラン様、歓送会では私とご一曲お願いいたします」
それを聞いたルヴィリスはしまったと思ったが、すでに遅かった。
グランはこうやって真っ直ぐにお願いされたら断らない性格だからだ。
しかし、グランの返事は彼女たちの予想外のものだった。
「そうだな。みんなと踊った後ならいいぞ」
それを聞いたリーゼロッテは少し残念そうにするも、一緒に踊るという言質を取ったからか、すぐに気を取り直した。
グランのその返事を聞いた四聖華や王女と皇女、ベアトリクスも、やはりグランは自分たちのことをちゃんと一番に思ってくれているのだと温かい気持ちになる。
しかしその頃、グランは脳内でアンサートーカーと別の話をしていた。
『マスター、違いますよ。そこはリーゼロッテ様にあとで会って、歓送会の時にちょっと抜け出そうと言って、人気のないところに連れ込むんですよ』
(お前、最近ずっと思っていたんだがひどすぎないか?)
『マスターがいつまでたっても進展しないせいですよ。それなのに次々と嫁候補を増やしまくるからいけないんです。ハーレムにするつもりもないですし』
(それは勝手に増えるんだから仕方がないだろ)
『違いますね。四聖華の皆様が言い寄ってきた時に誰か一人を選んでいれば、もう増えることもなかったんですよ。それが、意気地のないマスターがうだうだしている間に、四人から今何人になったでしょう。ちょっと数えましょうか』
そう言うと、アンサートーカーはわざわざ言葉に出して数え始めた。
『ルヴィリス様、エルスメリア様、ディアドラ様、ソフィア様、オリヴィア様、セルフィリア様、ベアトリクス様、クローディア様、レイン様、シルヴィア様』
(おいちょっと待て、シルヴィアは違うだろ)
しかしアンサートーカーはグランのツッコミを無視して話し続ける。
『リーゼロッテ様、シーナ様……以上ですね』
(おい!シーナ様って皇后だろ!ふざけんなお前!)
『合計十二人ですね。日替わりでも一週間以上かかりますね』
(お前ほんといい加減にしろ!)
『まあこの際、セルフィリア様以外の帝国の人たちは省きましょう。それでも九人ですよ、どうするんです?』
(まだ考え中だ!)
グランがそう言い訳をするが、アンサートーカーは容赦なく追撃する。
『予想ですが、マスターは卒業式になっても、有耶無耶にして返事を出さないと思いますね。私は楽しめたらいいのでそこは気にしませんが、できれば既成事実を作った後にしてほしいですね』
相変わらず煽り散らかしてくるこのぶっ壊れた相棒に、グランは少し恐怖を覚え始めていた。
そして放課後、グランたちは用意された更衣室で礼服に着替えることとなった。
マルクとカロン、そしてグランは各々が礼服に袖を通す。
しかし、マルクとカロンは用意された礼服の質の高さを見て少し恐怖していた。
「おい、これ結構いいやつじゃないか?」
そこでアンサートーカーが、マルクたちの礼服のスキャンを実行する。
『王国でも伯爵クラスの貴族が着るような代物ですね』
グランがそれをそのまま二人に伝えると、彼らは途端に顔を真っ青にした。
「汚したら弁償なんかできんぞ……」
マルクが震え声で言うと、カロンも深く同意する。
「俺たちは平民なんだから、こんな高価なものじゃなくてもいいのに」
そんな二人をよそに、グランはアリスティアが用意した礼服を着る。
それは一年生の親善試合の交流会の時に着た、漆黒の礼服をベースにしつつ、新たに金縁の装飾が施されていた。
さらに魔銀糸が縫い込まれているのか、光が当たると幻想的に輝く仕様になっている。
誰がどう見ても、とてつもなく高価な礼服であることは一目瞭然だった。
マルクとカロンはグランの豪奢な礼服姿を見て、呆れたように話しかける。
「相変わらずお前の礼服はぶっ飛んでいるよな」
カロンも深い溜息をついてグランに言う。
「普段もそれなりの服を着ろよ、お前」
二人にそう突っ込まれ、グランは苦笑しながら答える。
「礼服だけは、いつも女神様から送られてくるからな」
その事実を聞くと、マルクとカロンは途端に納得がいったのか深く感心していた。
そして三人が指定された場所で待っていると、王国学園の女性陣たちが集まってきた。
皆それぞれとても美しく着飾っており、三人は思わず息を呑んだ。
そして、レキシとニーナはそれぞれマルクとカロンに近づいて話しかける。
「マルク、どうかな?」
「あ、ああ、とても綺麗だ」
「カロン君、似合ってる?」
「う、うん。とても素敵だ」
それぞれのカップルから、見ているこちらが気恥ずかしくなるような甘い空気が流れてくる。
そして一人残されたグランを、四聖華、王女、皇女、ベアトリクスの七人がぐるりと囲んだ。
代表してルヴィリスがグランに尋ねる。
「グラン、どうかしら?」
「ああ、みんなすごく綺麗で素敵だよ」
するとセルフィリアが、グランの服装を見て目を輝かせながら話しかける。
「グランが着てる礼服、すごいね。とてもかっこいい!」
「……女神様から送られてきたんだ」
続いてオリヴィアが感心したように口を開く。
「なるほど、グランが今まで着ていた礼服は、すべて女神様から送られてきたものなのですか?」
「う、うん。みんなと合わせるようにって、勝手にコーディネートするんだよ」
「とても素晴らしいセンスですわ。それに使っている生地や糸も、この世のものとは思えないくらい綺麗で品がありますね」
彼女たちからの賞賛を受け、グランは照れくさそうに笑って答える。
「ありがとう、みんな」
そうして準備を終えたSクラスのメンバーは、皆一斉に歓送会の会場内へと足を踏み入れた。




