第189話:転生者として
アンサートーカーの制御していた枷が外れ、グランのステータスが解放される。
凄まじい魔力の奔流と圧倒的な覇気がその身を包み込んだ。
それを見た皇后は驚愕する。
(凄まじい……これが転生者か……)
しかし、グランは今までの恭しい態度を完全に崩した。
「シーナ・グロリアス、本気を出させたのだから、少しは楽しめるんだろうな」
そう言うや否や、グランは神速で近づき『魔導瞬天撃』を放つ。
皇后はわずかに反応し、魔法で障壁を張りつつ剣にも魔力を込めて防ごうとするが、剣はそのままへし折られ、皇后の腹部に拳がめり込んだ。
「がはっ!」
皇后はそのまま演習場の端まで吹き飛ばされ壁にぶつかる。
しかし、グランは追撃を止めない。
皇后もそれに気づいたのか起き上がってすぐに構え直し、グランに合わせてカウンターの突きを放つが、グランはそれを軽々と躱し、腕を掴んでそのまま投げ飛ばした。
投げ飛ばされた皇后は空中で受け身を取り演習場の中央付近へと着地するが、グランは流れるように近づき、次は『魔導虚空掌』を皇后の体に触れて放つ。
受けた皇后は前と同じくで地面を踏み込んで、魔力操作を使い衝撃を逃がそうとするが、前回と違い内部破壊の衝撃はそのまま皇后に直接的なダメージを与えた。
「ぐうううぅっ!」
皇后が呻き声を上げ、内臓などが損傷したのか、たまらず膝をつき、肩で激しく息をする。
グランはそれを見下ろし、冷徹に言い放った。
「あの時、見切っていたつもりでいたようだが……どうだ?これが俺の本気の技だ」
そう言われた皇后は、口元に笑みを浮かべて答える。
「たしかに、凄まじい。……舐めていたのは自分だったようだ」
「これで終わりにしよう」
グランは後ろに下がると、下腹部に両手を構えた。
皇后はダメージを受けすぎたのか、膝をついたまま立ち上がることができない。
しかし、グランの魔法を見逃すまいと、その姿を鋭く凝視する。
「プレッシャー・カノン」
凄まじい魔力弾が皇后に向けて放たれた。
皇后は持てる魔力のすべてを使い、幾重にも障壁を張るが、それらは紙切れのようにすべて破られていく。
皇后は自身の死を覚悟し、静かに目を瞑った。
しかし、いつまで経っても想定していた激痛が来ない。
恐る恐る目を開けると、そこにはグランが自身に背を向けて前に立ち、魔力障壁を張り、自身が放った『プレッシャー・カノン』を必死に防いでいる姿があった。
その裏で、グランは脳内で叫んでいた。
(ぐおおおお! 自分で言うのもなんだが、威力が半端ねえぇぇぇ!)
アンサートーカーは呆れ果てた声で返す。
『本気で撃ったらそうなるでしょう。マスター、何を考えているんですか?』
(いや、ちょっと俺も転生者として威厳を出そうと思ったら、こうなったんだよ!)
『急に厨二病が発症したから、何事かと思いましたよ』
(そんなことより、これの消し方を考えろ!)
アンサートーカーは冷静に提案する。
『同じようにプレッシャー・カノンを撃って相殺しましょう。あの第6層のロスト・シュラインの時のように。衝撃は強めの『サンクチュアリー』を張って防ぎましょう』
グランはそれを聞くと、すぐに『サンクチュアリー』を展開した。
皇后は、展開された蒼白銀の美しい結界を見て目を輝かせる。
そしてグランは再度『プレッシャー・カノン』を放ち、凄まじい威力の魔力弾同士を相殺させた。
グランは一息つくと、皇后の元へ近づいた。
皇后は完全に自身の敗北を悟り、静かに死を覚悟する。
しかしグランはすぐに収納魔法からエリクサーを取り出し、皇后に手渡した。
「皇后陛下、エリクサーです。すぐに飲んでください」
グランはそう言って、さらに回復魔法をかける。
皇后が言われた通りにそれを飲み干すと、見る見るうちに怪我は塞がり、回復魔法の恩恵で痛みも完全に引いていった。
グランは回復した皇后を見ると、勢いよく土下座をした。
「生意気言って申し訳ございません! お慈悲を!」
先ほどまで本気の殺し合いをしていたというのに、纏っていた凄まじい威圧感はすっかり薄れ、平身低頭なグランの姿に毒気を抜かれ、皇后も一息ついて口を開いた。
「……転生者の強さ、しかと見届けた。グラン・グラニアス、私も非礼を詫びよう」
そう言うと、なんと皇后までグランと同じように土下座をしたのだ。
グランはそれを見て慌てて「やめてください」と止めるが、皇后はまったく頭を上げようとしない。
「わかりました、今回は痛み分けということにしましょう!」
グランがそう提案すると、皇后も納得したのか、ようやく顔を上げて立ち上がった。
そして、真っ二つに折れた自身の剣を拾い上げると、呆れたように微笑む。
「この剣が折られるか……」
皇后が呟くと、グランは再び勢いよく土下座した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 必ず弁償しますので!」
平謝りするグランに、皇后は苦笑いしながら問いかける。
「この剣、いくらすると思っているんだ?」
すかさずアンサートーカーが折れた剣をスキャンした。
『マスター、四十五億Gもしますよ』
その天文学的な数字にグランが絶望して天を仰ぐと、皇后は不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな。まあ、お前ならいつか払えるかもしれないが、これは私の落ち度でもある。そこで弁償の代わりに条件を言おう」
「条件って……なんですか?」
恐る恐る尋ねるグランの肩に、皇后は腕を回して馴れ馴れしく肩を組み耳元で囁いた。
「子種をよこせ」
(嘘だろ……!?)
脳内でアンサートーカーが大歓喜する。
『やりました! これで母姉妹丼の完成ですね! 相棒は、マスターが修羅の道のハーレムを選んだことに感激しております!』
アンサートーカーはここぞとばかりに全力で煽り散らかしてきた。
「いや、だめですよ!」
グランは全力で断るが、皇后は諦めない。
「強い者同士が交わり、その血を後世に残す。何が問題なんだ?」
「いや、結婚しているでしょう! 不貞はダメです!」
「この国で私に逆らえる者などいない。心配するな。それに、この体を好きにできるのだぞ。ほら」
そう言って、皇后はその恵まれた体をグランに押し付け、手を取り触れさせようとしてくる。
グランは、さっきの皇后との決死の戦いよりも、今の状況のほうがよっぽど危険だと思っていた。
しかし、ここで救世主が現れる。
「お母様! 何をしているの!」
セルフィリアだ。
皇后は先ほどまで威厳のあった態度を瞬時に引っ込め、いつもの天真爛漫で純粋なモードに切り替わっていた。
「あら、セルフィリアちゃん。どうしたの?」
グランはその切り替えの早さを見て、脳内でアンサートーカーに語りかける。
(さっきのあの姿を見た後だから余計に思うけど、この切り替えの早さ、本当にこの人すげえな)
『本当にそうですね。尊敬します』
アンサートーカーも深く同意した。
セルフィリアがグランに問い詰める。
「凄まじい魔力の奔流を感じたから急いで来たの。グラン、ここで何をしていたの?」
「皇后様が鍛錬に付き合ってとおっしゃるから、ちょっとお相手をしていたんだ」
誤魔化すグランを、セルフィリアはジト目で見つめる。
「……本当に?」
そこへ皇后が割って入った。
「セルフィリアちゃん! グラン君すごくいいね! 絶対ものにするのよ!」
「わかってます!」
セルフィリアも力強く頷いて返す。
そうして、皇后との本気の戦いはバレることなくその場は解散し、そのまま部屋に戻ろうとするが、別れる間際に皇后がグランに近づき耳元で威厳のある声で話す。
「私の本当の姿は、誰にも言うなよ」
「き、肝に銘じておきます」
「……?」
セルフィリアは二人の様子を見て、違和感を感じたがすぐに雲散した。
そして夜はまた皇族と共に晩餐の席を囲んだ。
アンサートーカーが呆れたように言う。
『完全に皇族の一員として迎えられていますね』
(外堀を埋められるどころの話じゃねえ……)
グランは内心で深く嘆いた。
セルフィリアもこんな形になっちゃったけど、両親に紹介できてよかったと嬉しそうに話しており、シルヴィアも将来は安泰ねといいながらも、グランを見る目は熱を帯びていた。
グランは迫る選択の時に起こりうる事案を想像し、胃が痛くなっていた。
そうして二日連続で豪勢な晩餐をご馳走になり、グランとセルフィリアは学生寮へと帰っていくのだった。




