第187話:皇族の原点と母姉妹丼
グランがヴィジョンを見ると、そこに映っていたのは長い黒髪の女性だった。
それはこの星の歴史で四百年前に転生した『椎名 輝』という人物で、前世は女子高生で剣道部に所属していたが、白血病によりこの世を去ったようだ。
性格は活発で、誰にでも分け隔てなく接するとてもいい子に見えた。
その性格が災いし、多数の同性の高位貴族から妬みなどを買ったが、天性の明るさと芯の強さ、そして他を寄せ付けない実力でそれをすべて跳ね除け、最終的には超絶イケメンの侯爵家の男子と結ばれて、その血が代々受け継がれていく。
そしてその子孫が、聖王国ファリオンの暴政に反発する周辺国の同盟の筆頭として、勇者たちと共に聖王アレクシアと重鎮たちを討ち果たし、今の帝国を建国したとのことだった。
(四百年前の転生って言ってたが、俺より百年も前なのに、前世の年代では生きていたら多分、俺とそこまで年が変わらないぞ。どういうことなんだ?)
アンサートーカーは質問に答える。
『女神アリスティアの権能の一つに、好きな時代に転生者を転生させることができる能力があるようです』
(じゃあ、俺より後に死んで転生したやつが、俺より前の時代に現れることもあるということか?)
『いえ、どちらかと言えば転生する時代を遅らせることができるというものです。ただ、どうやらもう転生者を迎えることはないみたいですよ』
(ん?それはなぜだ?)
グランが疑問に思った瞬間、急にアリスティアから直接通信が入った。
『それはね! あなたがいるからよ! あなた一人ですべて事足りるようになったからよ!』
(どういうことだ?)
グランがそう念じると、アリスティアは話し続ける。
『今までの転生者は、一度転生して天寿を全うしたら終わりだったけど、あなたの場合、転生元の溢れ出ていた負の感情をすべて引き取った結果、それを吸収してあなたの魂は超絶強化されたわけ。だから、何度も転生ができる状態なのよ。もちろんいつかは完全に終わっちゃうけど、普通の転生者と比べたらそれこそ何万倍もの魂としての寿命を手に入れたの! だからこれからも私の物語に付き合いなさいよ!』
グランはそれを聞いて驚愕する。
(まじかよ、ならこれからもずっと転生を繰り返すのか?)
『そうよ。だからこの時代の人たちとは一緒に暮らせるけど、寿命が来て死んだら、次に目覚めたときはまた初めからの人生よ』
グランはそれを聞き、少し考え込んだ。
アリスティアもそれを察知したのか、いつものような軽い態度ではなく真剣な声で話す。
『だからグラン、この人生で出来た絆は、この人生で終わりなの。後悔せずに生きなさい』
アリスティアはそう言い残し、通信を切った。
女神にそう言われたグランは、何とも言えない気持ちになった。
前世で読んだ物語にもあった、長寿の生命体が出会いと別れを繰り返すうちに心を壊し、他人とのつながりを極力なくしたという悲劇の物語。
人生はその都度初めからだから少し違うが、それでも記憶が残る点は一緒だ。
いずれそうなる可能性もある。
そう思っていると、アンサートーカーが話しかけてきた。
『マスター、私がずっと一緒ですよ。それに女神アリスティア様も一緒です』
(そうだな。女神はともかく、お前はずっと一緒だもんな)
『そうです。なので、この人生はこれからもガンガンやりまくって、ハーレムを築きましょう!』
(これからもって言うけど、俺はまだ最後までやったことは一回もないし、学生の間はしないぞ?)
『春休みのルヴィリス様の件をお忘れですか?あの時何をやったのかは知りませんが、 ルヴィリス様はいつでも繁殖準備万端ですよ』
(お前、言い方がひどすぎるだろ! あれは最後までしていないし、もちろんあの一回だけだ。これ以上やれば歯止めが利かなくなる)
『他のみんなにもお願いしたら、喜んでやってくれますよ。まあ、どう考えてもその先もセットですけどね』
アンサートーカーはそう言っておどけてみせる。
(だからもう頼まないんだよ!)
『そもそもマスターは今夜を乗り越えられますかね?』
(なんでだよ!)
『これ以上は私から言うことはありません』
グランは一抹の不安を感じながらも、そろそろ寝ようと思い着替えて、キングサイズのベッドの中心に寝ころび目を閉じた。
夜も更けた深夜、グランの客室にセルフィリアが現れた。
皇宮の中ではあるが、彼を求める抑えきれない気持ちが溢れ出していた。
それでも、グランとは一線を越えないように彼女なりに我慢していた。
無理矢理襲うことは、グランの気持ちを無視することになると考えたからだ。
これは「グランを堕とす会」でエルスメリアの話を聞き、メンバー全員が改めてそう痛感したからである。
それにセルフィリアも女の子だ。
やっぱり初めては、好きな男から言い寄られたいという乙女心がある。
彼が愛を囁き、自分を求めてくれたなら、どれだけ幸せなことだろうかと思っていた。
だから、今夜は一緒に寝てグランを堪能するだけに留めようと思い、気配を殺してグランの寝る客室へと忍び込んだのだ。
そして部屋に入りグランの寝顔を確認すると、興奮する自分を抑えながらすぐに服を脱ぎ下着姿になった。
グランが一番興奮すると言っていた、あの勝負下着のセットである。
セルフィリアは掛布団をめくり、グランの隣に潜り込もうとしたとき、反対側に不自然な膨らみがあることに気づく。
そっと布団をめくると、なんとそこには下着姿のシルヴィアが寝ていた。
セルフィリアは額に青筋を浮かべ、グランとシルヴィアを激しく叩き起こした。
「ぐおっ!」
腹に強烈な打撃を受けたグランは、たまらず飛び起きた。
そして頭にチョップを食らったシルヴィアも、「痛っ!」と言って目を覚ます。
グランが起き上がって前を見ると、そこにはガーターベルトにガーターストッキングに黒の煽情的な下着を着たセルフィリアが、まるで般若のような顔をして仁王立ちしていた。
セルフィリアはグランが起きたのを確認すると、そのまま上に飛び乗る。
「グラン! お姉ちゃんを性奴隷にしてないって言ったのに、 嘘をついたね!」
「ち、違う! 何もしてない!」
グランは慌てて弁明する。
シルヴィアもセルフィリアを見つめながら話しかけた。
「セルフィリア、すごい下着ね。勝負下着かしら?」
シルヴィアが大人の余裕を見せて問いかけると、セルフィリアは怒りを露わにして答える。
「グランが一番好きな下着よ!」
それを聞いたシルヴィアは笑みを浮かべた。
「いいことを聞いたわ」
「そんなことより! なんでお姉ちゃんが一緒に寝ているのよ!」
シルヴィアは平然と答える。
「主様にご奉仕するために来たのよ」
「いや、確かに来たけど俺は断ったんだ。ならせめて一緒に寝てくれないと、魔法契約の罰を発動させて死ぬと言われて、仕方なく……」
グランが焦って補足すると、セルフィリアはひとまず安心したように息を吐いた。
姉のシルヴィアは皇后と同じく、豊満で恵まれたお体をお持ちだ。
王国のヴァーミリオン侯爵夫人やエルスメリアも相当なプロポーションだが、皇后も決して引けを取らない。
それはセルフィリアが唯一、皇后から引き継げなかった要素であった。
実はセルフィリアはそれに関して、女としてちょっと気にしていた。
だから、セルフィリアは初め、豊満な体を持つエルスメリアのことを母と姉を無意識に思い出してしまうため、少し苦手に思っていた。
しかし、今は同じ志を持つものとして、親友の一人だと思っている。
出身国は違うが、王国のSクラスの皆のことは、一番仲のいい友人たちだと思っていた。
もっとも、セルフィリアもかなりスタイルが良いのだが、身近な家族たちが規格外すぎるために感覚が麻痺しているだけであった。
「お姉ちゃん! 今から私とグランが一緒に寝るから、部屋に戻って!」
そう言われると、シルヴィアはたしなめるように話す。
「……あなたはまだ未成年でしょ。駄目よ」
しかし、セルフィリアの勢いは止まらない。
「ふふん、もう二回も一緒に寝たのよ!」
そうセルフィリアが勝ち誇ったように言うと、シルヴィアは何を勘違いしたのか、グランを見てとても悲しそうな顔をする。
「……わたしではダメなのですか? 主様なら何をされても私は受け入れます」
「いや、俺は誰ともまだやってないから!」
グランが慌てて否定すると、シルヴィアはたちまち嬉しそうに話す。
「なら、私が初めてをお相手いたしましょう」
そしてシルヴィアはセルフィリアを見ながら、自身の体を強調するように手を這わせ、さらに言葉を続ける。
「大丈夫です。そこらのお子ちゃまと違って、大人の余裕で主様を立派な男にしてあげましょう」
それを聞いたセルフィリアは顔を真っ赤にして怒る。
「お子ちゃまって誰よ! そんなくたびれた年増より、私のような若い子のほうがいいでしょ!」
言い争いがエスカレートしていくと、ついにシルヴィアの額にも青筋が浮かんだ。
「失礼ね! 私はまだ二十三よ!」
「私より五歳も上でしょう!」
二人はそのままベッドの上で激しいキャットファイトを始めてしまった。
グランは騒がしくなったことで外に声が漏れるのではないかと焦り、二人を止めようとする。
すると、ガチャッと客室の扉が開いた。
部屋に入ってきたのは、皇后だった。
皇后の姿を確認すると、グランはそのまま固まった。
ベッドの上でキャットファイトをしていた二人も、ピタリと動きを止める。
グラン(死んだ……)
セルフィリア(死んだわ……)
シルヴィア(死んだわね……)
各々が自身の命の灯が消えかけるのを、はっきりと感じ取っていた。
皇后はまっすぐ三人がいるベッドに近づくと、口を開く。
「闘気を感じたから来てみたら、二人で何をしているの?」
キョトンとした顔で尋ねてくる皇后に対し、シルヴィアは今までの人生経験をフルに生かして言葉を選んだ。
「ちょっとセルフィリアと一緒に鍛錬をしていました」
「グラン君のベッドの上で?」
すかさずセルフィリアも加勢する。
「お母様! これは最近新しく始めた鍛錬方法なのです!」
とてもじゃないが、かなり苦しい言い訳である。
二人とも、純粋な皇后ならこれで誤魔化せると思っていたのだ。
しかし、皇后は冷静に指摘する。
「どう考えても、グラン君を巡って取り合いの喧嘩をしているわよね?」
((こんな時だけなんで鋭いのよ!))
セルフィリアとシルヴィアは心の中で戦慄した。
グランもそれを聞いて、いよいよ本当に身の危険を感じていた。
しかし、皇后は予想外の提案をする。
「仕方がないわね。今日は四人で寝ましょう」
そう言って、自らベッドに潜り込んできたのだ。
グランは皇后の圧倒的な力で、無理矢理ベッドに引きずり込まれ抱き着かれる。
二人は(あああああ!)と声にならない悲鳴を上げて焦る。
「おやすみなさい」
皇后はそう言うと、その豊満な体をグランに密着させ、爆速で眠りについてしまった。
セルフィリアもシルヴィアも、これ以上騒ぎを起こせば本当に不味いと思い、仕方なしに今夜は諦めてそのまま横になった。
(これ、皇帝に見つかったら死刑だろ……)
内心で絶望するグランに対し、アンサートーカーがおちょくってくる。
『ついに母姉妹丼の完成ですね』
グランは皇后に抱き枕にされ、すさまじい感触を味わうことにより、その夜は一睡もできなかった。




