第179話:いざ、帝国学園へ
Sクラスの帝国への短期留学が決まった。
そのニュースはまたたく間に王国中に広がった。
一部の貴族たちは、「王国の方が強いのになぜわざわざ格下の帝国に行くのか」と難色を示していた。
しかし、王族や四侯爵が賛成の立場を示し、さらに帝国の皇帝陛下が歓迎するという親書を王国に送ってきたため、それ以上異議を唱える者はいなかった。
どうやら、シルヴィアが皇帝に手を回してくれたらしい。
シルヴィアはあの後、皇帝に「自分は今のこの政治的な地位で出来ることを色々としたい」と進言したそうだ。
皇帝も思うところがあったのだろう、「シルヴィアの好きにせよ」と許可をもらったと手紙には書いてあった。
そしてグランに対し、特待クラスの行方を捜すかどうか指示が欲しいと『幻零』たちを使いに出してきていた。
「特待クラスの行方を調べてくれ」
グランがそう頼むと、『幻零』たちは「御意」と答え、先に帝国へと戻っていった。
そして今日、グランは王都の工房に来ていた。
帝国に行くことになったと、アルメイダに伝えなければならないからだ。
工房の鍵を開けて中に入ると、アルメイダはかなりラフな格好で剣を打っていた。
アルメイダはその仕事柄、鍛えられて筋骨隆々だが、出るところは出ているいわゆる『ガテン系の年上のお姉さん』である。
グランは少し目のやり場に困ってしまった。
「おはよう、師匠」
アルメイダはグランの顔を見て、元気に挨拶をする。
「おはよう、アルメイダ」
グランも挨拶を返し、アルメイダの作業が終わるまで静かに時間を潰す。
そしてしばらく時間が経ち、休憩に入ったタイミングでグランは話を切り出した。
「実は、帝国に短期留学することが決まったんだ」
それを聞いたアルメイダは尋ねる。
「そうなのか。いつまでなんだ?」
「一学期は丸々向こうだな」
グランが答えると、アルメイダはあっさりと決断した。
「なら、私も一度帝国に戻るとしよう」
「悪いな、こっちの都合で振り回してしまって」
グランが謝ると、アルメイダは笑いながら首を横に振る。
「師匠がいなければ意味ないしな。それに師匠から買った素材を鍛冶するのはすごく楽しい。だからついて行くのは当然だ」
グランは気になっていたことを聞いた。
「作った武器は売れているのか?」
アルメイダは苦笑しながら答える。
「いや、これは露店で売るような代物じゃないな。わかる奴が見ればすぐに貴重なものだとバレる。最悪、後をつけられて居場所と存在がバレるかもしれない」
「そうか……すまないことをしたな」
グランが申し訳なさそうに言うと、アルメイダは少し真面目な顔をして提案してきた。
「師匠、これを帝国で売ってはダメか?」
「アルメイダが作った武器なんだから、どこで売ろうが構わないぞ」
グランが快諾すると、アルメイダは懸念を口にする。
「素材は師匠から譲ってもらったものだからな。強力な武器が帝国の戦力になるようなことになれば、師匠の立場がまずくなるのではと思ってな」
「たまたまいい素材で作った武器だったということにすればいい。俺はそこは気にしない」
グランがそう言うと、アルメイダは安心したように笑った。
「じゃあお言葉に甘えよう。私は帝国ならいろいろ伝手がある。なんだったら、もっと高値で売りつけることも可能だ。期待していてくれ」
「ああ、期待しているよ」
グランが頷くと、アルメイダはとても嬉しそうに笑った。
そしてグランが出発日時などを伝えると、アルメイダは頷く。
「じゃあ、ちょうど仕事もひと段落したから、私は明日出発しよう。それと、これを渡しておく」
そう言うと、アルメイダは小さな円盤状のメダルをグランに渡した。
「私の店に来たら、これを見せてくれ。すぐに中に通すようにしておく」
「前にアルメイダに紹介したい人たちがいるって言ってたけど、その一緒に行く人たちのことなんだ」
グランがそう伝えると、アルメイダは頼もしく答える。
「大丈夫だ。それを持ってきたら誰でも通すように言ってある」
「わかった、ありがとう」
「では師匠、また帝国で会おう」
そう言って、二人は工房で別れた。
そして出発日当日、学園の生徒たちはSクラスの門出を祝ってくれた。
新入生たちはSクラスの噂を入学前から聞いていたのか、一目見ようとごった返しており、二年生からは黄色い声援が飛んでいた。
マルクやカロンは以前のバレンタインデーの件があったからか、あまり嬉しそうにせず、少しクールぶって手を挙げて応えていた。
「まあ、合格ね」
レキシとニーナはそれを見てそう言い、マルクとカロンの二人は深く安堵する。
グランも声援に応えようと腕を上げようとしたが、横からルヴィリスとソフィアが両腕を取り、代わりに自分たちが手を振って応えていた。
そして、二人してグランを見てむくっと頬を膨らませる。
グランは苦笑いを浮かべながら、そのまま学園の門の前へと向かった。
門の前には馬車が用意されていたが、またしても誰がグランと一緒に乗るかで揉め始めた。
「ここから三日かかるんだ。順番でいいだろ」
グランがそう宥めると皆もそれに賛成し、それぞれ交代で馬車の旅を楽しんだ。
そして三日後、一同は無事に帝国へと到着する。
学園の前で馬車を降りてそのまま帝国学園に入ると、大勢の帝国の学生たちが待ち構えていた。
皆それぞれが値踏みをするような視線を向けてくるが、グランたちはまるで意に介さなかった。
その後、帝国学園の講堂で短期留学生として全校生徒に紹介される。
オリヴィアはSクラスの代表として壇上に立ち、堂々と挨拶をした。
「短期の留学ですが、帝国で学べることはすべて学び、さらなる強さを身に着けたいと思います」
挨拶が終わるとグランたちは学生寮に案内され、その日は長旅の疲れを癒やすために休むことになった。
そして次の日、グランはセルフィリアと一緒に帝国の学園長に呼び出された。
「ようこそ帝国学園へ、グラン・グラニアス。君とこう話すのは久しいな。改めて、私が帝国学園の学園長だ」
「グラン・グラニアスです。短い間ですがお世話になります」
グランがそう挨拶を返すと、学園長はニヤッと笑う。
「短い間とは言わず、帝国に籍を置いてもいいのだぞ」
「気が向いたら考えます」
グランが軽く受け流すと、セルフィリアが単刀直入に切り出した。
「学園長、特待クラスの生徒たちはどこにいるの?」
それを聞かれた学園長は難しい顔をする。
「特待クラスの生徒たちは行方不明だ……そもそも私は一切関与していないから、詳細は知らないのだ」
「とりあえず、私も短期留学という形だから、一緒にまた王国へ戻るわよ」
セルフィリアがそこで話を区切るように言うと、学園長が問いかけた。
「セルフィリア様、あなたは初め帝国学園に来た時は退屈そうでした。今は、王国学園は楽しいですか?」
「とても楽しいわ」
セルフィリアはグランの腕を組み、満面の笑みで答える。
「……それはよかったです」
学園長は少し寂しそうに笑ってそう言った。
「あなたが気にすることはないわ。それに念願かなってグランが来たでしょ? 喜びなさい」
セルフィリアがそう励ますと、学園長も頷く。
「そうですね。グランよ、我が帝国学園に新しい風を呼び込んでくれ」
「わかりました」
グランはそう答え、セルフィリアと共に学園長室を出た。
そしてセルフィリアがグランと腕を組んだまま廊下を歩いていると、帝国の生徒たちはみな驚愕していた。
あのセルフィリア様が異性の腕を組み、これほど幸せそうにしていることへの驚きと困惑。
そして、グランに対する嫉妬と羨望の眼差しが一斉に向けられる。
教室に入ると、帝国の生徒たちは一斉にグランを見た。
そして隣のセルフィリアに気づくと、慌てて視線を外す。
セルフィリアは帝国学園にいた頃に暴れまくっていたため、皇族という身分もあるが、生徒たちからは純粋にその強さで恐れられていたのだ。
「お前、どれだけ恐れられてるんだよ」
グランが呆れて言うと、セルフィリアは平気な顔で返した。
「若気の至りよ」
そしてグランが用意されていた席に座ると、一人の男子生徒が話しかけてきた。
「親善試合の時にセルフィリア様と戦ったところを見て、ぜひ手合わせしてほしいと思ったんだ」
「わかった、いいぞ」
グランが快諾すると、それを皮切りに一斉に生徒たちが群がってきた。
「俺も頼む!」「自分も!」
グランは帝国の実力主義と生徒たちの熱意に感心し、結局クラス全員と手合わせすることになった。
その賑やかな光景を見て、セルフィリアはグランを見つめながら静かに微笑んでいた。




