第176話:王城での攻防
ステータスも相棒のせいで軒並み低下させられ、今のグランではオリヴィアに全く歯が立たない状態であった。
グランはその状態をオリヴィアに悟られないように、必死に取り繕って言葉を紡ぐ。
「王族として身も心も王国に捧げないといけないのに、俺に純潔を捧げてしまったら後々大変なことになるぞ」
グランのその言葉に対し、オリヴィアは努めて冷静に返す。
「そこは大丈夫です」
「何が大丈夫なんだよ」
グランがツッコミを入れると、オリヴィアは真顔でとんでもないことを言い出した。
「グランのエリクサーを使えばいいのです」
「嘘だろ、おい……」
前世の発想では思いついても言葉には出さない使い方を、この王女は平然と言ってのけるのだった。
しかし、そこで思わぬところから待ったがかかる。
脳内のアンサートーカーだった。
『オリヴィア様、エリクサーでもそこは治せません』
オリヴィアは突然響くアンサートーカーの声にもすっかり慣れたのか、不思議そうに問いかける。
「それはなぜですの?」
アンサートーカーは言葉を選びながら、丁寧に説明を始めた。
『確かにエリクサーを使えば、傷などの痛みは完全に消え去ります。しかし、純潔は怪我ではなく、その人の人生のレコードとして扱われるため、いわゆる処女膜と言われるものは元には戻りません』
オリヴィアはそれを聞き、目に見えて落胆する。
「名案だと思ったのですけど……」
しかし、オリヴィアはすぐに開き直って再びグランを見つめた。
「でも、このチャンスを逃すわけにはいきません。それにグランはやめろと言っている割には抵抗しませんし、実は期待しているのでは?」
「正直に言うと、アンサートーカーにステータスを調整されて力が入らないんだ」
グランがため息混じりに白状すると、オリヴィアはぴたりと力を入れるのをやめ、グランの上から体を退けた。
グランはその予想外の行動に少し戸惑う。
そして、面白がって余計な世話を焼いていたアンサートーカーもまた、内心で激しく戸惑っていた。
グランの隣に移ったオリヴィアは、至極まともな顔で話し出した。
「アンサートーカー、あなたのその助けはとても嬉しいです。ただ、グランにはやっぱり自分から来てほしいのです」
「いや、さっきまで明らかにオリヴィアから襲ってきたじゃん」
「グランのやる気を出させるためです。でも、あなたは頑なに襲おうとしませんね。……それほど私は魅力がありませんか?」
オリヴィアはそう言って、急にしおらしい態度になった。
「何度も言うが、俺は未成年相手には手を出さない。最低でも学園を卒業してからだ。それはずっと変わらないし、これからも変わらない」
グランがはっきりとそう告げると、オリヴィアは食い下がる。
「でも、私たちはそれでもいいと言っているのですよ。それに、あなたの本来の中身はすでに成人しています。何が問題なのですか?」
「俺の中の道徳や貞操観念だ」
「それは、前世のものでしょう?」
オリヴィアからの鋭い指摘に、グランは苦笑する。
「仕方がないだろう。そうやって四十年近く過ごしてきたんだから」
そしてグランは、オリヴィアの姿を真っ直ぐに見つめて言葉を続ける。
「前世ならたとえば今、オリヴィアが成人していたとしよう。そして王族のしがらみもなく、一人の女性として今この場にいたら、俺は間違いなくお前を襲っている。お互いの了承があるからな」
自分の魅力が通じないことに自信をなくしていたオリヴィアは、その言葉を聞いて深く安堵した。
グランはさらに言葉を重ねる。
「それぞれ違うが、みんな魅力的だ。俺は幸せ者だよ。だからこそ、そこは真剣に考えたい。それに成人しても一時の色欲で人の人生を左右するようなことは、俺にはとてもできない」
そう言うと、部屋に静かな沈黙が流れた。
オリヴィアはグランの固い意志に負けたのか、小さくため息をつく。
「グラン、私は以前、このままだと他国に嫁ぐことになると言いましたよね?」
「ああ、そう言ってたな」
「それに関しては、どう思いましたか?」
「『俺の女に手を出すな』と思った」
グランが即答すると、オリヴィアはその言葉を聞き、心の底から嬉しそうにしてグランに抱き着いた。
「あなたって、こういう時は言ってほしいことを正確に言ってくれますね。だから諦めきれないし、もっと好きになってしまうんですよ」
オリヴィアは極度に興奮したのか、突然ネグリジェを脱ぎだし、胸の下着も外し始める。
「ちょっと!」
グランは慌てて目を逸らすが、オリヴィアはそのままグランに覆いかぶさり、濃厚なキスをし始めた。
そしてしばらくキスを堪能した後、オリヴィアは獲物を捕食するような肉食の目でグランを見下ろす。
「ソフィア様とは以前同じようにやったのですから、私もやらせていただきます」
そう宣言すると、オリヴィアは自らの柔らかな肌をグランに密着させ、その体を執拗に擦り付けて彼を堪能し始めた。
オリヴィアが見境なくグランの体を堪能する。
一線は超えないが、明らかにオリヴィアは本気だった。
ステータスを低下させられているグランはなすすべもなく、そのままマグロのように貪り尽くされていく。
しばらく濃厚な時間が過ぎた後、オリヴィアは満足して疲れたのか、グランの上にそのまま倒れこんだ。
そしてグランの顔を覗き込んで、嬉しそうに微笑む。
「これで『グランを堕とす会』は、ここまでできるようになりましたね」
グランはもう精魂尽き果てたのか、つい投げやりな言葉を口にしてしまった。
「……一線を越えなければ、もう好きにしてくれ」
「言質を取りました」
オリヴィアは妖艶に微笑み、グランに再び濃厚な口づけをする。
そして夜も更け、お互い眠たくなってきたということで、オリヴィアはグランの腕を自身の頭の下に置き、そのまま密着して寝ようとする。
「せめて下着くらいつけてくれ……」
グランが消え入るような声で懇願する。
「もう今更でしょ」
オリヴィアは全く聞く耳を持たず、そのまま目を瞑り寝息を立て始めた。
グランはオリヴィアの濃厚な愛情表現に完全に疲れ果てていたため、気絶するように深い眠りについた。
翌日、グランは「うぅ……」と声を漏らし、ひどく目覚めが悪かった。
それもそのはず、昨夜はシルヴィアと『幻零』たちとの極限状態の中、さらに蘇生魔法を連続で使用したことによる精神負荷がまだ収まっていないのだ。
本来ならば、ぐっすりと深い睡眠をとって回復に専念しなければならない状態だった。
それが、オリヴィアの過激な愛情表現のせいで精魂尽き果ててしまったため、グランの精神負荷は全く回復していなかった。
反対にオリヴィアは、昨日まで会えなかった寂しさと再会できた嬉しさが爆発し、いつも以上にグランを堪能できたからか、肌がつやつやと輝いているように見えた。
「おはよう」
グランがすでに起きていたオリヴィアに声をかけると、彼女は嬉しそうに微笑む。
「おはようございます」
オリヴィアはそう言うと、まだ下着もつけていない状態のままグランに抱き着き、情熱的なキスをし始めた。
グランはされるがままにそれを受け入れ、オリヴィアが満足するまで大人しく身を委ねていた。
しかしそうしていると、不意に部屋の扉をノックする音が響いた。
その音に、グランとオリヴィアはビクッとして我に返る。
グランとオリヴィアは激しく慌てた。
「やばい! こんなところを見られたら、俺は即刻死刑だ!」
「もうそんな時間なの! 全く見ていなかったわ!」
直後、扉の向こうから女性の声が響く。
「オリヴィア様、朝食の用意が出来ました。お支度をしますので失礼いたします」
しかし、そこでオリヴィアは内心焦りながらも、すました様子で声を上げた。
「少しお待ちになって。今、私はとても人前に出られる状態ではありませんの」
それを聞いたメイドは、部屋の外で恭しく答える。
「かしこまりました。それではここでお待ちしておりますので、またお声がけをお願いいたします」
オリヴィアは小声でグランに尋ねた。
「ここからゲートで帰れませんか?」
グランはすぐさま脳内でアンサートーカーに問いかける。
(ステータスを戻せば、ゲートを開けるな?)
『はい、可能です。すぐにステータスを戻します』
アンサートーカーもさすがに今の状況はまずいと思ったのか、いつものように茶化すこともなく即座に肯定した。
ステータスが戻ったグランは、急いでゲートを開く。
そしてオリヴィアに向き直り、別れを告げた。
「また学園で会おう。セルフィリアにもよろしく伝えといてくれ」
するとオリヴィアは、ゲートをくぐる直前のグランに飛びつき、名残惜しそうにキスをした。
「また、寂しくなるわ……」
グランはオリヴィアの美しい髪を優しく撫でながら微笑む。
「また学園で会えるさ」
グランはそう言って、ゲートをくぐって帰って行った。
一人残されたオリヴィアは、激しく乱れたベッドを見て昨夜の濃厚な出来事を思い出す。
そしてこの上なく幸せな気分に浸りながら軽く身を整え、外で待機していたメイドに声をかけた。
入ってきたメイドは、荒れ果てたベッドを見て不思議そうに尋ねる。
「昨夜は寝苦しかったのですか?」
オリヴィアは妖艶な笑みを浮かべて答えた。
「いえ、とても心地よかったですわ」
メイドは少し首を傾げながらもそれ以上は踏み込まず、手早くオリヴィアの身支度を整え、朝食へと案内していった。




