第173話:悪魔の契約、重圧からの解放
引き続き残虐描写があります。苦手な方はご注意を
グランが出て行ったあと、建物内は人が一人もいないのか静まり返っていた。
そして、かなりの時間が経ったであろう頃、ふいに足音が聞こえてきた。
シルヴィアはその音を聞き、自身の助けが来たのだと思い、期待の目で扉を見る。
しかし、ガチャッと扉が開き、入ってきた人物を見た途端に彼女は絶望した。
戻ってきたのはグランだった。しかも、彼の手には何かが握られている。
「まったく、お前があの時邪魔しなければ、余計な手間もかからなかったんだけどな」
グランはそう言いながら、ゴトッと乱雑に『それ』をシルヴィアの目の前に置いた。
シルヴィアはそれを見て悲鳴を上げそうになるが、大声を出して目の前の男の気分を害してしまえば、さらにどんな報復が行われるか想像しただけで恐怖し、その出かかった悲鳴を必死に飲み込んだ。
「お前の言う通り、ヴェルシュタット公爵がいた。俺の顔を見た瞬間、悲鳴を上げて喚き散らしてうるさかったわ」
グランが置いたのは、ヴェルシュタット公爵の生首だった。
それはこの世の終わりを見たような、おぞましい表情のままで固まっていた。
シルヴィアは極度の恐怖により、精神状態がすでに限界に達していた。
しかし、これから自分がどうなるのか、聞かないわけにはいかなかった。
「わ、わたしはこれから、どうなるのですか……」
「殺す」
グランは短く、冷酷にそう返事をする。
「な……」
「当たり前だろ。あの研究を知っている奴は全員殺す。関係者も全員殺す。研究資料も魔道具も装置も、全部消し去る。あれは人間が手を出してはいけない領域だ」
シルヴィアはそれを聞いて絶望したが、そこに活路があるかもしれないと同時に思い、必死にグランへと言葉を紡ぐ。
「わ、私が責任をもって抹消します!情報もすべて提供します!なので、殺すのだけは待ってもらえませんか!?」
しかし、グランはその懇願を完全に無視し、無慈悲にシルヴィアの頭を掴む。
「お、お願いします!まだ、殺さないでぇッ!」
悲痛な叫びが部屋に響き渡る。
「うるさい。黙れ」
そう凄まれたシルヴィアは叫ぶのをやめ、黙り込んでポロポロと涙を流し続けた。
グランは冷たい声で魔法を唱える。
「ヴィジョン」
すると空中に何かが映し出された。
それは、シルヴィアの懐かしい幼い頃の記憶だった。
グランは淡々と説明を始める。
「この魔法は、過去と今を映像で可視化することができる。さっきは言ってなかったが、ヴェルシュタット公爵の記憶も見て関係者を可能な限り皆殺しにしてきた。そして、その関係者が持っていた研究資料と魔道具と装置も今俺の収納魔法に入っている」
そう言って、グランは収納魔法から数枚の研究資料を取り出して見せた。
「これは、この世にあってはいけないものだ」
彼はそう吐き捨てて、資料を再び収納魔法へと戻す。
そして、絶望するシルヴィアに向けて言葉を続けた。
「俺はこうやって、すべての事実を見ることができる。お前が死んだところで、ヴィジョンを使えばすべて分かるからな。ヴェルシュタット公爵も初めは俺にお前と同じことを言っていたがな。同じようにヴィジョンを展開して説明したら絶句していたな」
シルヴィアはそれを聞いて絶望した。
生きていようが死んでいようが、情報を正確に、そして無限に引き出せる神の領域に匹敵するような魔法など、司法の場に出されれば無敵の証拠品だ。
現にさっき見せられた幼い頃の記憶は鮮明に覚えており、しかも自分自身の視点だったため、あれが紛れもない本物だと理解できる。
ここで自分が死んでも、この男は全く意に介さず、この魔法を頼りに残った関係者を殺し回り、研究資料などを根こそぎ奪い尽くすだろう。
シルヴィアはそこまで考えをまとめると、いっそ楽にしてもらおうと願い出た。
「わかりました……もう、私を楽にしてください」
そう言うと、グランはすぐにシルヴィアの頬を強く引っ叩いた。
「うっ!」
シルヴィアは短い悲鳴を上げる。
「何を言っているんだ?今までしてきたことを考えろ。楽に死ねると思うな」
グランの冷徹な言葉が響いた。
シルヴィアはもう何を言っても無駄であり、すべてはこの男の気分次第で決まるのだと思い知らされ、下を向きそれ以上何も話さなくなった。
しかし、グランはその間にも、脳内でアンサートーカーと会話を続ける。
(こいつら、『幻零』はここにいる奴らで全部か?)
『そのようです。あの魔道具は全員を呼び寄せるものだったようですね』
(なるほどな。全部で四十人くらいか)
『そうですね。ちょうど四十人です』
(こいつらをこのまま殺しておくのは、もったいないな)
『確かに、私の広域スキャンでも効果範囲の限界がありますからね。それに、アカシックレコードに直接アクセスすればすべての情報は手に入れられますが、いかんせんスキャンと比べると時間もかかり効率がかなり悪いです。帝国に手足があれば、これからもこういった状況になった時に楽でしょうね』
(それじゃあ、こいつらを蘇らせて、シルヴィアを含んだ全員と魔法契約してこき使うか。それなら、セルフィリアも姉が生きてると分かれば安堵するだろうしな)
それを聞いたアンサートーカーは、脳内でグランをからかう。
『なんだかんだ言って、大切な人の関係者だと非情になり切れませんね』
(……そうだな。俺は大層なことを言っても、結局甘いんだな)
『ですが、マスターのこの判断は最適解だと思いますよ』
それを聞いたグランは、ふっと笑みをこぼした。
しかし、シルヴィアはグランが笑った顔を見て、再び底知れぬ恐怖に包まれる。
(殺される……!)
そう確信したシルヴィアは目を瞑り、静かに涙を流した。
「おい」
グランが短く声をかける。
シルヴィアは声を掛けられるとは思わず、声を震わせて答えた。
「は、はい……なんでしょうか……」
「助かりたいか?」
予想もしていなかった言葉にシルヴィアは驚愕したが、これが最後のチャンスだと思い、すぐに返事をする。
「はい!助かりたいです!」
グランはその言葉を聞き、冷酷に条件を突きつけた。
「これからお前は俺と魔法契約を結び、そして帝国の情報を逐一報告すること。隠密部隊『幻零』は俺がお前に指示を出し、俺のためだけに使うこと。そして今から、謀略や誅殺など、自分の私欲で動くことを禁ずる。政治面でやばくなっても、俺が指示するまで何もするな。分かったな?」
その条件を聞き、シルヴィアは即答で了承する。
ただ、『幻零』はすでに全滅してしまっている。たった一人の、目の前の男によって。
シルヴィアは恐る恐るそれを口にした。
「『幻零』は全滅しました。たとえこれから新たに人材を確保しようとしても、かなりの時間を要します……」
「今から全員、魔法で蘇生させるから問題ない」
シルヴィアはそれを聞き、信じられないものを見る目で呟いた。
「そ、蘇生魔法……」
そして彼女は、自分がこの男に対して行ったことを心底後悔した。
セルフィリアや、王国の第一王女オリヴィアには手を出すなと釘を刺されていたのにも関わらず、それを無視して行動に移してしまったことを。
時が戻せるなら今すぐにでも戻って、何事もなかったかのように過ごしたいと願う。
だが、全てがもう遅いのだ。
グランはシルヴィアを人扱いせず乱雑に持ち上げると、魔法を使って死体の山を運び出した。
グランはアンサートーカーに広域スキャンさせた時に、建物内の構造を完全に把握しており、一番広い部屋へと全員を運び込む。
そして『幻零』の死体を綺麗に並べ、用意した二人掛けのソファにシルヴィアを乱暴に座らせた。
「まず、お前との魔法契約だ」
グランはそう言って、アンサートーカーと脳内で条件をすり合わせながら、十対ゼロという完全にグランが優位の割合でシルヴィアと強制的な契約を結ぶ。
その瞬間、シルヴィアは自身の魂にとてつもない圧力がかけられたような、重苦しい感触を味わった。
グランは冷たく言い放つ。
「お前はこれから、俺のためにしか動けない。俺に逆らおうとした瞬間に、お前は激痛を感じながらゆっくり粉微塵になる。分かったな」
そう言われ、シルヴィアは逆らう気力もなくこくこくと頷く。
「よし、なら契約成立だな」
グランがそう言ってシルヴィアに向けて手をかざすと、眩い光が放たれた。
シルヴィアは何をされるのかと恐怖し、ギュッと目を瞑る。
しかし、しばらくして何もないと思ったシルヴィアが恐る恐る目を開けると、なんと自分の切断された両腕と両足、そして抜けた髪が完全に元に戻っていた。
「分かっているな。何か裏切るような真似をすれば、何もできず苦しみながら死ぬと思え」
グランに再度凄まれたシルヴィアは、恐怖で絶望しながらも深く頭を下げた。
「……かしこまりました、我が主」
「聞き分けのいい奴は好きだぞ」
グランは適当に返事をすると、並べられた死体の山へと向き直る。
「それじゃあ、『幻零』を蘇らせようか」
その言葉と共に、グランの体から膨大な魔力があふれ出し、部屋の空間を規格外の魔力の奔流が埋め尽くした。
そして光が収まると、そこには先ほど確実に死んだはずの四十人の隠密部隊が、無傷の状態で蘇生されていた。
シルヴィアはその文字通りの奇跡を目の当たりにして、改めて自分のした判断を後悔する。
蘇生した隠密部隊の面々は、状況が飲み込めないままシルヴィアとグランの姿を確認し、すぐさま一斉にグランへと飛びかかろうとした。
「やめよ!」
シルヴィアが鋭い指示を飛ばすと、隠密部隊はすぐに立ち止まる。
そして、シルヴィアは屈辱に震えながらも言葉を続けた。
「これからは、このお方が我が主だ。逆らうことなど無用。今から全員に、魔法契約を結ばせる」
しかし、『幻零』の者たちはその屈辱的な言葉に猛反発する。
「今こそ、シルヴィア様をお助けする時だ!」
彼らが再び殺気を放った瞬間、グランは低い声で一言だけ言い放つ。
「動くな」
その覇気と圧倒的な威圧感を直接ぶつけられた『幻零』の面々は、全員がぴたりと動きを止めた。
そこへ、あの鑑定持ちの女が進み出て話し出す。
「みんな、やめて!私の鑑定結果が、あの男を『完全鑑定不能』だと導き出しているわ。大人しく従わないと、また皆殺しに遭うわよ!」
それを聞いた『幻零』たちは、皆ごくりとつばを飲み込んだ。
女の鑑定能力は帝国でもトップクラスであり、自身のステータスも軒並み最上位だ。
隠蔽魔道具の疑いもあるが、それこそ伝説級の国宝でもない限り、この女の目に看破できないものはない。
それほどこの女の鑑定には絶大な信頼があり、その者が「完全鑑定不能」だと断言しているのだ。
皆が黙りこくると、グランは冷たい視線でシルヴィアへ問いかけた。
「シルヴィア。お前は、俺の何だ?」
「私は、あなた様の忠実な下僕です」
シルヴィアは即答し、『幻零』の面々はそれを聞いて屈辱の表情を浮かべる。
「俺は別に、そこまで言っていないぞ」
「も、申し訳ございません!どうかお許しを……!」
グランの言葉にシルヴィアが慌てて平伏するのを見て、これまで威厳のある策略家で政治家だった彼女の面影が一切なくなっていることに、『幻零』たちは深い悲しみを覚えた。
だが、その間にも『幻零』の一人が、背後で密かに魔法の準備を進めていた。
皆もそれに気づいており、一斉に反撃に出るためのタイミングを見計らっている。
ただ、グランはそれにすでに気づいていた。
(あそこにいる奴、何か仕掛けようとしているな)
『スキャン開始。なるほど、高レベルの解呪スキルを持つ者がいますね。ただ、マスターと私の魔法契約を破ることなど絶対に不可能です』
(放っておこう。解呪が効かないと分かれば、余計に逆らわなくなるだろうからな)
グランはあえてその動きを無視し、『幻零』の面々に向けてシルヴィアと同じような魔法契約の説明を始めた。
しかし、『幻零』にはさらに厳しい条件を追加する。
「お前らには、俺が直接命令をした場合、何があっても最優先で遂行しなければならないという条件を追加する。シルヴィア越しの命令よりも優先される事態があれば、すべてを投げ打ってでも俺の任務を遂行しろ」
『幻零』の面々は、圧倒的な力の前にそれをしぶしぶ受け入れるしかなかった。
そして、魔法契約を結ぶために一人ずつ前に出させて魔法契約を結んでいく。
やがて、あの解呪スキル持ちの女の番が来た。
彼女は前に出た瞬間に、シルヴィアに向けて準備していた解呪魔法を放つ。
「バカね!私の部隊には解呪持ちがいるのよ!」
シルヴィアは勝ち誇ったように叫ぶが、その途端、彼女の体がゆっくりと内側からバラバラに崩れ始めた。
「ぎゃああああッ!な、なぜ!?解呪されないのぉッ!」
シルヴィアは全身を引き裂かれるような激痛にのたうち回りながら叫ぶ。
そして、すでに魔法契約を終わらせた『幻零』の者たちにも罰が発動し、その激痛により立つこともできず、床に転げまわり叫んだ。
解呪魔法を放った女は、自身の魔法が全く効かず、逆にシルヴィアや仲間たちの魔法契約の罰が発動してしまったことに唖然としていた。
グランは呆れたように言い放つ。
「バカが。その程度の解呪で、俺の魔法契約が破られるわけないだろ。お前らが考えていることはお見通しなんだよ。連帯責任でしばらくそこで苦しんでろ」
そしてグランは解呪持ちの女に近づくと、一瞬にして彼女の四肢を斬り飛ばした。
「ぎゃっ!」
女は短い悲鳴を上げて床に倒れ、血だまりを作る。
グランは冷徹に見下ろしながら言葉を投げかけた。
「やっぱりお前ら、自分の立場を何も分かっていないな。めんどくさいから、いっそ意識もすべて俺がいじくり回して、二度と自我を持てなくしてやろうか?」
とんでもない脅し文句を聞き、シルヴィアや解呪持ちの女、そして激痛にのたうち回っている幻零たちは必死にグランに命乞いをする。
しかし、グランは腕を振り払い、無慈悲に女の首を斬り飛ばした。
あっけない仲間の幕切れに、まだ魔法契約を結んでいない『幻零』たちは戦慄して後ずさる。
しかしその直後、グランから再び膨大な魔力があふれ出し、たった今絶命したはずの女を一瞬にして完全な状態で蘇生させた。
目の前で再び行われた『蘇生魔法』を見て、『幻零』たちはやっと自身の置かれている状況と絶望的な立場を完全に理解し、目の前の男に心底屈服した。
全員が一斉に片膝をつき、グランに対して絶対の忠誠の意思を見せる。
グランはそれから、反抗する気を完全に失った彼らと一人ずつ魔法契約を結んでいった。
これにより、『幻零』のすべての戦力は完全にグランのものとなった。
そして全員と結び終えると、彼らの前に立ちはだかり指示を出す。
「俺は、お前らが逆らわなければ特に何もしない。普段は俺からシルヴィアに指示を出すから、粛々と任務を遂行しろ」
「「「はっ!」」」
全員が揃って短く答える。
グランは激痛に狂わされているシルヴィアと幻零たちに回復魔法をかけた。
そしてシルヴィアの腕を乱暴に取り、引き寄せる。
シルヴィアはその行動に内心恐怖したが、決して声は上げなかった。
解呪も通じないことがわかり、もうグランに完全に心を折られ、何をするにしても細心の注意を払わなければ、いつでも殺されると理解したからだ。
そして、先ほどの魔法契約の罰が、凄まじい痛みを与えながら自分を確実に殺すものだと分かったため、もう彼女に反抗する意志は残っていなかった。
「今からセルフィリアのところに行く。そこで、自分からすべて説明しろ」
グランはそう言って建物全体を覆っていた隔離結界を解き、次に『幻零』の面々に向き直った。
「お前たちはこれから帝国の各地に飛んでもらい、あの研究に関するすべての資料、及び魔道具や装置を探し出して俺に渡せ。そして、関係者は一人残らず皆殺しにし、リスト化して俺に渡せ。あとの指示はシルヴィアを通して伝える」
「仰せのままに」
『幻零』たちは深く頭を下げると、すぐさま散開して任務へと赴いていった。
彼らがいなくなった後、グランはゲートを開き、王国の学生寮の自室へとシルヴィアと共に戻った。
時間はすでに夜になっていた。
(アンサートーカー、セルフィリアは今どこにいる?)
『スキャン開始。……今は王城で晩餐をしているようですね』
(じゃあ、あいつが部屋に戻ったらゲートを開いて行くか)
グランは部屋にある座り心地のいいソファを指さし、シルヴィアに「そこで座ってろ」と指示を出すと、彼女は大人しくそれに従った。
「今日は本当に疲れたな……少し寝るか」
グランは部屋に強固な結界を張り、シルヴィアへ釘を刺す。
「結界を張ったから、逃げても無駄だぞ」
『まあ、逃げ出そうとしたらすぐに粉微塵になるんですけどね。セルフィリア様にちゃんと姉は生きてると報告したいから、彼女に無駄な自滅をさせないようにするんでしょ?』
(うるさい。俺は少し寝る)
『多人数に蘇生魔法を使ったので、少なからず精神負荷はかかっていますね。ただ、この春休みの間で十分に回復するでしょう』
脳内でからかってくる相棒を無視し、グランがベッドで仮眠を取ろうと目を閉じた時だった。
不意に、シルヴィアがグランのベッドへと近づいてくる気配がした。
グランは「逆らおうとすれば魔法契約が発動するだけだ」と思い、目を瞑ったまま放っておく。
すると、シルヴィアはごそごそと何かをし始めた。
グランは無視して寝ようとしていたが、あまりにもごそごそと動く音が鬱陶しくなり、いい加減注意しようと目を開けた。
すると目の前には、なんと一糸まとわぬ全裸のシルヴィアが立っていた。
グランはすぐに目を逸らし、呆れたように声を上げる。
「お前、何しているんだ?」
「主様、ご奉仕いたします」
シルヴィアが妖艶な声でグランに近づこうとするが、グランは手で制止した。
「そういうのはいらない。二度とするな」
冷たく拒絶されたシルヴィアは、怒られなかったことに少しホッとしたのか、「かしこまりました」と恭しく一礼し、服を着直し始めた。
『このパターンもありましたね。今後の参考になります』
(お前、本当にやめろ!もう少し仮眠するから、時間が来たらまた起こしてくれ)
脳内で茶化すアンサートーカーを強引に遮り、グランは再び眠りについた。
シルヴィアはベッドの脇に座り、穏やかに眠るグランの寝顔をじっと見つめる。
(……さっきまであんな残虐なことをしていたとは、とても思えないかわいい寝顔ね。……私は、もうこの主様の所有物として一生を終えるのね……)
シルヴィアはそう思いふけっていたが、やがて彼女の中に全く別の、不思議な考えが芽生え始めた。
(でも、この凄まじい強さを持つお方の庇護下に入ったと思えば……案外、悪くないのかもしれないわ。……もう、帝国のくだらない実力主義の重圧に悩まされることもなく、ただ粛々と主様のために働けばいいだけなのだから……)
すべてを失い、完全に支配されたはずのシルヴィアの心には、なぜか深い安堵の感情が広がり始めていた。




