第162話:王国建国祭と巡る剣
ソフィアとの波乱のデートが終わり、グランは王国建国祭の三日目に突入していた。
噴水広場で待っていると、凛々しい声が聞こえてくる。
「グラン殿、お待たせした」
声をかけてきたディアドラは、ルヴィリスやソフィアと同じように黒い服を着ていた。
「ディアは白銀の髪だけど、黒の服もすごく似合うね」
「もちろん、グラン殿に合わせたんだ」
ディアドラは嬉しそうにそう答える。
「じゃあ、行こう」
彼女はそう言うや否や、グランの腕を取って絡ませてきた。
グランはそのまま一緒に歩き出す。
「そういえば、今年はどうするんだ?」
グランが聞くと、ディアドラは目的を語った。
「実は、帝国から有名な鍛冶師が来ているという噂があって、そこへ寄りたいんだ」
「確かに、リンク・ウェポンだけじゃ武器としては心もとないからな」
グランがそう言うと、ディアドラは慌てて否定する。
「いや! グラン殿のリンク・ウェポンに不満があるとかじゃないんだ!」
いつもとは違って焦るディアドラを、グランはなだめつつ尋ねた。
「落ち着いて。それで、武器を見てどうするんだ?」
「実は、グリフィス兄様にプレゼントしたいのだ」
「そういえば、兄上の剣は俺が折ってしまったんだよな。ごめん」
「あれは兄上が悪いのだ。グラン殿は気にしなくていい」
ディアドラは言葉を続ける。
「グレイ兄様は、あの時のダンジョンの報酬で炎剣フランベルジュをもらっただろう? グリフィス兄様はあれをたまに羨ましそうに見ているんだ。グレイ兄様も気を使ってグリフィス兄様に渡そうとしたんだが、『お前がダンジョンを攻略した報酬なんだからもらえるわけないだろう』と頑なに拒否をしていてな。」
ディアドラは少し考えながら話を続ける。
「それに今は領内の鍛冶屋のものを使っているが、やはり兄上の剣の腕にはついてこれないのか、結構折れたりするのでな。それを見ていたら、ちゃんとした業物をプレゼントしたいと思ったんだ。だからグラン殿、そしてアンサートーカー殿、力を貸してほしい」
自分に話しかけられたことにアンサートーカーは驚いていたが、脳内でグランに答える。
『ここまで言われたら協力しない手はないでしょう。マスター、お任せくださいと伝えてください』
「アンサートーカーが任せろと言っているから期待してくれ」
「ありがとう、アンサートーカー殿。そういえば、アンサートーカー殿は愛称とかないのか?」
「特にないな」
「では、私が決めよう。今日から『アッさん』と呼ぶ」
グランはそれを聞いて爆笑しそうになるが、ディアドラが結構真剣な顔で言ったので笑ってはいけないと思いこらえた。
「うん、いいと思うよ」
「うむ、我ながらいいセンスだ」
ディアドラは少しはにかみながら満足そうに言う。
当のアンサートーカーは絶望したような表情になっており、グランは脳内で声をかけた。
(そんなに落ち込むなよ、アッさん)
『まさかこんな攻撃方法があるとは不覚です……』
アンサートーカーは深く嘆いていた。
しばらく屋台や露店などを楽しみ、ディアドラとグランは誰がどう見ても恋人同士として、仲睦まじく祭りを楽しんでいた。
そしてしばらくすると、武器や防具が並んでいる出店列へと出くわす。
「ここだな」
ディアドラはそう言って、いろいろと武器を見て回る。
グランはディアドラについて行きながら、脳内でアンサートーカーへと聞いた。
(なにかいいものは見つかったか?)
『マスター、ディアドラ様が選んだものを解析する形にしようと思っています。私が選んでしまうとディアドラ様の気持ち的にいかがなものかと』
(確かにそうだな。あくまで俺たちは補助という形にしよう)
ディアドラはいろいろと見て回るが、どれもこれといったものがないように感じていた。
「むぅ、私の目利きではあまりいいものがないな」
グランは脳内でアンサートーカーに確認を取る。
『ディアドラ様の目利きは間違いないです。なまくら剣を選びそうになったら止めるつもりでしたが、さすがは剣士、剣の目利きは鋭いですね』
グランがそのまま言葉を伝えると、ディアドラはその評価に喜び笑顔を見せた。
「ありがとう、アッさん」
グランは笑いをこらえるが、当のアンサートーカーはこれから愛称で呼ばれ続けるんだなと、深く絶望していた。
しばらく露店を見て回っていたが、武器と防具の露店列が途絶えてしまった。
「あれ? これで終わりなのか?」
グランが尋ねると、ディアドラは首を横に振った。
「いや、ここだけではないはずだ。グラン殿、もう少し探してもいいか?」
「もちろんいいよ」
「貴重な時間なのにすまない」
謝罪するディアドラに、グランは優しく声をかける。
「今日はディアの日だから、気にせずどんどん探しに行こう」
その言葉に感極まったのか、ディアドラはグランの腕を強く抱きしめて言った。
「お礼は必ずする」
「そんな、お礼とかいいから」
「胸くらいは触ってもいいぞ」
「それはダメだろ」
「じゃあ、私がグラン殿を気持ちよくしよう」
「こら! そんなこと表で言っちゃダメだろ」
「二人きりならしてもいいのか?」
「普通、二人きりなら『言ってもいいのか』になるはずなのになんで一段階上がるんだよ」
「どうせ言ってからやるのだから、無駄な手間だろう?」
何が問題なのだというような態度で、ディアドラは堂々と言い返してくる。
「もうそれはいいから! 早く探しに行こう!」
グランはそう言って話を打ち切り、脳内でアンサートーカーに指示を出した。
(王都で武器を売っているところを、広域スキャンを使って調べてくれ)
『了解しました。広域スキャンを開始します』
すると、少し離れたところに、ディアドラが言っていた帝国の有名な鍛冶師が露店を出していることが判明する。
ディアドラにそれを教えようとしたが、彼女は自ら「あそこに行こう」と歩き出した。
その向かう先は、ちょうど鍛冶師の露店がある方角だった。
(これは、まさに引き寄せられているのか?)
『根拠はありませんが、そう見えてもおかしくないくらいの偶然ですね』
グランは脳内でアンサートーカーと言葉を交わしながら、ディアドラの後をそのままついて行く。
しばらく歩いていると、人だかりのできた露店が見えてきた。
恐らく、あそこが帝国の鍛冶師の露店なのだろう。
しかし、ディアドラが露店にある剣を見ると、少し顔をしかめた。
「ディア、どうしたんだ?」
グランは小声で尋ねる。
ディアドラは露店に飾られている剣を見ながら、小声で答えた。
「ここに売っているものは見た目こそいいが、素材や使いやすさなどは考えていないようだ。帝国の鍛冶師と聞いたから期待していたが、あまりよくないな」
その言葉が聞こえたのか、露店の店主は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「おい! 聞こえてんぞ! 俺は帝国では名を馳せた鍛冶師だぞ! 目利きもできない節穴はお呼びじゃねえ!」
店主に睨みつけられ、ディアドラは素直に謝罪した。
「すまない、私の目が節穴なだけだ。邪魔をしたな」
グランはこの店主に対して少し痛い目を見せてやろうと前へ出ようとするが、ディアドラに引き止められる。
「グラン殿、落ち着いてくれ」
「でも、ディアがあそこまで言われて、俺は我慢できないよ」
しかしディアドラは首を振り、彼を諭した。
「いや、私がうかつだったのもある。私は自分の目を疑わない。だから言葉に出さずに、そのまま素通りすればよかったのだ」
「俺が聞いたから答えてしまったんだな。俺が悪いよ、すまない」
「いや、グラン殿が謝ることはない。場所を離れて話せばよかっただけだ」
なぜか二人でお互いに謝罪合戦になってしまう。
しかし、しばらくすると二人とも顔を見合わせて笑い出した。
「もうこれで終わりだな。謝っている暇があるなら剣を探そう」
「そうだな」
グランも同意してディアドラについて行きながら、脳内でアンサートーカーへ問いかける。
(おい、あの帝国の鍛冶師、ヤブじゃねえか)
『あの店じゃないですよ』
(えっ、方角的に合ってるんじゃないの?)
『私はあの店だと、一言も言ってませんが』
アンサートーカーはこともなげに、得意げな様子でそう答えた。
(この野郎……)
グランは脳内で相棒に悪態をつくが、アンサートーカーは続けて報告する。
『ただ、ディアドラ様は今まさにその本物の店に向かっていますね』
グランは今度こそまともなところであってくれよと心の中で願っていた。
入り組んだ道を少し歩いていると、ポツンと一つだけ露店が見えてきた。
ディアドラは一つ離れた場所にあるその露店を見ると、すぐに足を止めてしばらく立ち尽くす。
「どうした?」
グランが尋ねると、彼女はあの露店を見たいと言った。
「わかった。気の済むまで見るといいよ」
グランがそう答えると、ディアドラは彼の腕をつかみ、早足で露店へと向かう。
グランはすかさず、脳内でアンサートーカーへ聞いた。
(あの店か?)
『はい、そうです。ディアドラ様は遠目で見ただけでも、今日見た中では一線を越えていると感じたのでしょう。すごくウキウキしてますね』
グランがディアドラを見ると、彼女は明らかに今日一番の嬉しそうな表情を浮かべていた。
その姿にグランはほっとし、ディアドラが気の済むまで付き合おうと決める。
露店の前に行ったディアドラは、目を輝かせながら並んでいる剣を一つ一つ丁寧に見ていた。
すると、露店の店主がそんなディアドラを見て声をかけてくる。
「お、姉ちゃん、俺の武器の良さがわかるのか?」
ディアドラは話しかけられたことに驚きつつも、すぐに答えた。
「これほど丁寧にかつ実用的に作られた剣は見たことがない。まさか、帝国で名の知れた鍛冶師様では?」
「ははは! 認識阻害魔法を使っているが、本物の剣士にはわかるんだな」
露店の店主がそう言って変装魔法を解くと、そこには筋骨隆々の女性が現れた。
「わたしの名前はアルメイダ、帝国の鍛冶師さ」
その名を聞いた途端、ディアドラは驚愕する。
「まさか、アルメイダ様だとは思いませんでした……」
グランは脳内でアンサートーカーに詳細を尋ねた。
『神聖鍛冶師アルメイダ、帝国で一、二を争う最高峰の鍛冶師です。凄まじい技術と素材の目利きで作られた武器や防具は、永久に壊れないと言われています。しかも、セルフィリア様の漆黒の魔剣のメンテナンスもしていたようですね』
アンサートーカーからそんなとんでもない事実を聞かされ、グランは驚く。
アルメイダは不思議そうに口を開いた。
「しかし、貴女にはすでに凄まじい魔導兵装があるはずだ。私の武器が欲しい理由がないと思うが?」
ディアドラはその言葉に、一気に警戒心を強める。
それは、自分たちのリンク・ウェポンの存在を知っているということだった。




