表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生~女神に無理矢理転生させられたので、やりたい放題します!~  作者: GSZN
第2章 学園ファンタジー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/176

第145話:三人の漆黒

 学園代表親善試合、副将戦はオリヴィアの勝利によって幕を閉じた。


 結果だけを見れば王国側の四連勝であるが、その過程を知る者たちの胸中にあるのは、決して手放しの歓喜ではない。


「……もし、あの首輪の魔道具が起動していたら」という、背筋の凍るような仮定。


 結果至上主義であるはずの帝国民の間でさえ、「魔道具さえ発動していれば帝国の圧勝だったのではないか」という、起こり得たかもしれない未来へ縋るような希望が囁かれ始めている。


 それは王国の控え席においても同様であった。


「本当に、この試合形式に救われましたわ。……生死を賭けた実戦であれば、わたくしは十中八九、負けていました」


 自らの勝利に驕ることなく、オリヴィアは相手の確かな力量を認めて静かに語る。


 その場にいる全員が彼女の言葉に無言で頷き、この親善試合を終えたあと、これまでの比ではない血を吐くような鍛錬が必要になることを肌身で感じ取っていた。


 そしていよいよ、大将戦の幕が上がろうとしていた。


「ここまで来て、私だけ負けたらかっこ悪いからね。……絶対勝つよ!」


 セルフィリアは仲間たちへ快活にウインクを飛ばし、颯爽と演習場の舞台へと上がっていく。


 対する帝国側から姿を現した大将は、これまでの生徒たちとは異なり、頭部を完全に覆うフルフェイスの重兜を被っていた。


 だが、舞台の中央へと進み出たその時、彼女は無造作に兜の留め具を外し、それを取り去る。


 ファサッと、冬の乾いた風に美しく長い黒髪が揺れた。


 その素顔を目にした瞬間、セルフィリアの瞳がわずかに見開かれる。


(……黒髪?まさか、皇帝の血筋を引く者か?)


 だが、セルフィリアはその推測を思考から即座に切り捨てた。


 彼女の白く細い首元には、これまでの選手と同じく、禍々しい金属の『首輪』がしっかりと嵌められていたからだ。


 セルフィリアは眼前の敵の気配を、研ぎ澄ませた剣士の感覚で正確に測る。


 基礎能力のベースは、完全に自分と同格。


 もしあの首輪の強化が発動すれば、自身の全力をもってしても盤面がどう転ぶかまったく読めない。


(……場合によっては、出し惜しみなしで『クロちゃん』を喚ばざるを得ないかもね)




 来賓席では、姉である第一皇女が舞台上のセルフィリアを静かに見守っていた。


 帝国全体においても最強の部類に数えられる名高い妹が、あの不気味な特待クラスの大将とどう打ち合うのか。


 先ほどの副将戦に登場した金髪の女が、それまでの生徒たちよりも頭一つ抜けて強かった印象が第一皇女の脳裏に焼き付いている。


(……この大将の黒髪の女は、それよりもさらに格上だというのか)


 そして、舞台の中央でセルフィリアが動いた。


 彼女はグランから贈られたリンク・ウェポンを、観客の帝国民が見つめる眼前にて惜しげもなく披露する。


 漆黒の魔剣が亜空間から黒い光芒を放ち、セルフィリアの右手へと実体化した。


 その光景を目にした帝国民たちが、どよめきと大きな喜びに沸き立つ。


 王国の最上級秘匿事項であり、四聖華だけに与えられていると噂されていた出どころ不明の超常的な魔導兵装が、帝国第二皇女であるセルフィリアの手にあるからだ。


 彼らはその事実に歓喜した。


 セルフィリア殿下が帝国に持ち帰ってくれれば、遠からずこの圧倒的な魔導兵装が帝国軍全体にも普及するに違いないと信じて疑わなかったからである。


 だが、帝国民たちは知る由もない。


 セルフィリアが己の剣と魂にかけて、愛する男の至宝を帝国側へ提供することなど絶対にないと、とうの昔に誓いを立てている事実を。


 帝国民たちが絶望と落胆に染まる未来は、まだもう少し先の話である。




 やがて、演習場に大将戦の開始を告げる鋭いブザーが鳴り響いた。


 セルフィリアは開始の合図と同時に爆発的なステップを踏み、一瞬で距離を詰めて漆黒の刃を薙ぐ。


 対する黒髪の女は、その神速の初撃をいとも簡単に見切って躱した。


 セルフィリアは体勢を崩さず、そのまま息もつかせぬ連続攻撃を繰り出し、速攻での圧殺を試みる。


 しかし、黒髪の女はすべての軌道をあらかじめ知っているかのようにやすやすと回避し、鋭いカウンターの突きを差し込んでセルフィリアと完全に互角の打ち合いを演じてみせた。


(……まさか、これほどの実力者が隠れていたなんてね)


 セルフィリアの背筋に、冷たい戦慄と歓喜が走る。


 これほどの実力者を相手にするならば、本気で殺すつもりで踏み込まなければ自分が敗北する。


 それは彼女が去年、親善試合でグラン・グラニアスと初めて剣を交えた時とまったく同じ、死線に立つ感覚であった。


 セルフィリアの瞳から一切の甘えが消え去り、手段を選ばない猛攻へとシフトする。


 彼女が鋭く叫ぶとともにリンク・ウェポン『黒煌』の力が解放され、分裂した幾つもの剣先が、黒髪の女を中心とした周囲三メートルほどの床面へ次々と突き刺さった。


 突き刺さった剣先をマーカーとする、魔剣特有の高速転移。


 セルフィリア自身がそのポイントを軸とした自在なワープを繰り返し、相手の死角という死角から、間髪を入れぬ鋭い斬撃を浴びせ続ける。


 帝国の生徒は超人的な直感でそれをかろうじて回避し続けるが、完全には捌ききれず、時折掠った部位からライフゲージがわずかずつ削られていく。


「――これで終わりよ!」


 猛攻の締めくくりとして、セルフィリアが上空から渾身の力で叩きつける『切り落とし』を放った。


 しかし、黒髪の女は落下してくる大剣の刃を、なんと片手で無造作に白刃取りして掴み止める。


 驚愕に目を見開くセルフィリアの腹部へ、相手の空いたもう片方の拳が重く叩き込まれ、その身体を大きく吹き飛ばした。


 セルフィリアは空中で咄嗟に防御障壁を展開して致命傷を避けたものの、着地した足裏を舞台の床に滑らせながら戦慄する。


(……私の本気の切り落としを防いだ。そんな芸当ができたのは、グランを除いて二人目よ)


 ならば、とセルフィリアは即座に思考を切り替え、左手に魔力を溜めて大きく横に振るった。


 数十個の黒くて小さな魔力結晶が、虚空へと広範囲にばらまかれる。


 警戒する黒髪の女に対し、セルフィリアは漆黒の魔剣から、数本の鋭いレーザーを放った。


 黒髪の女がその直進する光線をいとも容易く躱した、まさにその時である。


 軌道を外れたはずのレーザーが空中の黒い結晶に当たって次々と反射し、完全に死角となる背後や足元から、黒髪の女へと牙を剥いた。


 配置された結晶群が光線を幾重にも屈折させ、演習場に逃げ場のない幾何学的な跳弾の檻を編み上げていく。


 だが、帝国の生徒は全方位を包む球状の超高密度魔力障壁を展開し、その不可視の跳弾弾幕すらも涼しい顔で防いでみせた。


 しかし、止まない屈折レーザーの着弾衝撃によって障壁の表面が爆ぜ続け、舞台上を視界の効かない分厚い白煙が覆い尽くしていく。


 セルフィリアは相手の視界が遮られたのを見計らい、残る魔力の多くを漆黒の魔剣へと一気に注ぎ込んだ。


 白煙の向こうに立つ強敵を確実に仕留めるべく、彼女の最大最強の絶技『オーバーエンド』の構えが静かに解き放たれる。


 セルフィリアの手に、確かな手応えが伝わった。


 彼女の最大奥義『オーバーエンド』は、間違いなく黒髪の女の肉体を捉えて斬り裂いたはずだった。


 しかし、演習場に試合終了のブザーは鳴り響かない。


(……これだけの直撃を受けて、まだ耐えているというの!?)


 セルフィリアの背筋を、じわりと冷や汗が伝い落ちる。


 やがて視界を遮っていた白煙が晴れると、そこに忌まわしい光景が浮かび上がった。


 黒髪の女の首元にある魔道具の首輪が、禍々しい明滅を繰り返して完全に作動していたのだ。


 彼女の周囲からは、これまでの比ではない膨大な魔力の奔流が狂ったように溢れ出している。


 黒髪の女は無造作に片手をかざし、またたきする間に魔力を収束させると、無詠唱のまま一撃を放った。


 それは、術式としては何の変哲もない『ただの魔力弾』。


 だが、その圧倒的な密度と信じがたい弾速は、セルフィリアがこれまでの人生で見てきたどんな魔力弾とも次元が違っていた。


 セルフィリアは咄嗟に防御障壁を展開したものの、分厚い光の盾はいとも容易く紙屑のように引き裂かれる。


 すんでのところで身体を捻って致命傷を回避するが、帝国の生徒は今度、両手に恐ろしい熱量の魔力をつるべ打ちに溜め込んだ。


 息を呑む暇すら与えない、超高出力魔力弾の神速連射。


 セルフィリアは演習場の床を蹴って猛スピードで走り回り回避を続けるが、圧倒的な弾幕は鳴り止む気配すら見せない。


 これ以上の回避はジリ貧になると判断し、セルフィリアは即座に決断を下した。



「――『召喚』ッ!」



 その叫びに応えるように亜空間のゲートが開き、彼女の相棒であり、グランが創り出した最強の眷属、黒結晶龍『クロちゃん』が演習場へと顕現する。


 雄大な黒き龍はセルフィリアの眼前にどっしりと鎮座し、彼女を守る絶対の盾となった。


 そのあまりにも威風堂々とした黒龍の姿に、演習場を埋め尽くす観客たちが総毛立ち、歴戦の猛者たちですら「あんな規格外の龍種など見たことがない」と驚愕の声を漏らす。



 来賓席の第一皇女に至っては、自身の常識を遥かに超えた妹の底力にわなわなと震え上がっていた。


(……セルフィリアのやつ、『龍』まで従えたというの……!?)



 殺気立った魔力弾の雨を硬質な黒結晶の体躯ですべて弾き返したクロちゃんが、鼓膜を揺らすような雄叫びを上げる。


 一人と一頭が並び立ち、反撃の狼煙を上げようとした、まさにその瞬間だった。


 これまで精巧な人形のように無表情だった黒髪の女の顔面が、黒龍を見上げた瞬間、突如として、喜悦と狂気に満ちた歪な笑顔へと弾けた。



「――ッッがあああああああああああああ!!」



 鼓膜を破るような異様な叫び声を上げながら、彼女はなんと、己の白く細い指を首輪の隙間にねじ込み、自らの力でその実験装置を引きちぎった。


 拘束を失った肉体から、先ほどのブーストすら児戯に思えるほどの、底無しの魔力が爆発的に噴き上がる。


 演習場全体が真っ白に染まるほどの、暴力的でまばゆい発光。





 やがてその光がゆっくりと収束した時、セルフィリアも、数千の観客も、王国の控え席に座る仲間たちも、全員が己の目を疑い息を呑んだ。


 黒髪の少女の肌には、所々に硬質な『龍鱗』がびっしりと浮かび上がっている。


 その臀部からは力強く舞台を叩く『龍の尾』が伸び、額からは天を突くような『龍種の角』が二本生え揃い――


 そして彼女の瞳孔は、紛れもない、縦に細く裂けた『爬虫類』のそれへと変貌を遂げていた。








 しかし、演習場の片隅に座る一人の男だけは、まったく異なる次元の衝撃に貫かれていた。


 その姿を目にした瞬間、相棒であるアンサートーカーがかつて告げた推測と、目の前の現実が、最悪の形で一本の線に繋がり切る。


(バカな……亜人だと……)


 三百年前、勇者と魔王、人間と亜人の種族間の終わらない怨嗟を断ち切るために、新たな惑星を創り、戦いで犠牲となった人間と亜人すべての命を蘇らせ、亜人たちをそこに移住させた。


 みんなが幸せになるために、それがグランがこの世界で最初に女神の台本を破り捨てた理由だった。


 なのに人は、また同じことを繰り返すのか。


 己の欲のために魔素と魔物を人間の肉体に縫い込み、新たな『種』を生み出して。


 三百年と引き換えに消したはずの火種を、その手でわざわざ掘り起こして。


 理知の檻に閉じ込めてきた感情の激流が、もうどうにも収まらない。


 グランは怒りに突き動かされるままにガタリと立ち上がり、己の魂の底から沸き立つ叫びが、演習場へと広がる。





「――どういうことだああああああッッッ!!!!」





 それは、主の暴走を止めようとするアンサートーカーの厳重な安全リミッターすらも感情の爆発で強引に引きちぎって放たれた、完全なる『素のステータス』による絶対者の咆哮だった。




 直後、演習場に物理的な絶望が吹き荒れた。


 演習場を埋め尽くす数千の観客たちは、悲鳴を上げる猶予すら与えられなかった。


 圧倒的なステータスの質量と致死量の覇気を浴びた彼らは一斉に白目を剥いて口から泡を吹き、次の瞬間には糸が切れた人形のように、次々と意識を刈り取られて失神していく。


 来賓席に座る第一皇女はその暴風を喰らい、優雅な令嬢の仮面をかなぐり捨てて自身の胸元を激しく掻き毟った。


 彼女は極度の呼吸困難に陥り、白く美しい喉から情けない音を漏らしながら悶え苦しむ。


 同じく試合を見ていた王国学園の学園長、バルトス教官、帝国学園の学園長はすさまじい覇気で気絶しそうになる中、唇をかみしめ、何とか意識を保とうとする。


 王国の控え席にいた四聖華やオリヴィア、ベアトリクスたちも例外ではない。


 普段のグランからは想像もつかない、抗おうという意志すら抱かせない絶望的なステータスの差を初めて垣間見た驚愕に瞳を見開きながらも、鼓膜と魂そのものをすり潰すような威圧感に耐えかね、たまらずその場にへたり込んで荒い息を吐き出す。


 観客席で固唾を呑んでいた学年選抜の蒼白銀の翼の面々――マルクやレキシたちも、普段の温厚なリーダーが見せた信じがたい豹変に一瞬で血の気を引かせ、ガクガクと震える膝を抱え、ひんやりとした石造りの床へと座り込むことしかできない。


 帝国代表の生徒たちに至っては、完全に上位の捕食者に見つかった下等生物としての本能のアラートが強制起動しており、彼女らは両手で頭を抱えてうずくまり、ただただガタガタと無様に歯の根を鳴らして震え続ける。


 そして、舞台上の二人――セルフィリアと龍化した生徒は、もはや二本足で立っていることすら叶わず、その場に崩れ落ちて深刻な過呼吸に喘いでいた。


 ただ恐ろしいほどの静寂だけが支配する、地獄のような惨状。



 その中で唯一、グラン自身の魔力から編み上げられた黒結晶龍のクロちゃんだけが、即座に正気を保っていた。



 創造主の怒りの波動をその身に浴びながらも、クロちゃんは動けなくなったセルフィリアを鼓舞するかのように、己の硬質な鼻先を彼女の頭へとそっと押し当て、慈しむように撫でたのだ。



「……ッ、はぁっ、はぁっ……!」



 クロちゃんの温もりに触れ、一足先に思考を取り戻したセルフィリアは、観客席に立つ愛しい男の様子が決定的に異常であることを本能で悟る。


(……一刻も早く、この試合を終わらせなきゃダメだ!)


 凄まじい焦燥感に急かされるまま、セルフィリアは震える足に無理やり力を込めて立ち上がり、過呼吸でうずくまる黒髪の女の背中へと、漆黒の魔剣を深々と突き立てた。


 ライフゲージが0を示し、試合終了の公式ブザーが真っ白な演習場に鳴り響く。


 ライフゲージの魔導具により、致命傷判定を受けた帝国の生徒に回復魔法がかかり、先ほどの異形化した姿は戻るが、ピクリとも動かない。


 しかし、しばらく経っても何も起きない。


 数千の人間が失神し、意識を保った者たちすらも底知れぬ恐慌状態に陥っていたからだ。




『……マスター、お気をたしかに』


 アンサートーカーの声を聞いて正気を取り戻し、やがて怒りの熱が急速に引いていく中で、グランは周囲の惨状に初めて目を向けた。……数秒の沈黙の後、彼は静かに呟いた。


「……やっちまったな……」


 己の声帯から放たれた衝撃波の余波を見て、グランは我に返り、冷や汗とともにどっかと席に座り直すが――時すでに遅し。


 両国の学園が誇る華やかな親善試合の会場は、一人の男の怒りによって、完全に静まり返った『巨大な霊安室』のような大混乱と恐怖の底へと叩き落とされていた。




 それから長い、あまりにも長い空白の時間ののち。


 ようやく自己治癒能力の高い上位の猛者たちから順に過呼吸が収まり始め、青ざめた大会審判たちがガタガタと震える手でマイクを握り、ひきつった裏返りの声で「お、おおお、王国側の……勝利……!」と告げる。


 かくして、歴史に残るはずだった両校の親善試合は、誰もが二度と思い出したくもないほどの最悪の後味と、ぬぐい去れない『絶対的な死の気配』を演習場に残したまま、静かに全日程を終えたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ