第138話:学年選抜親善試合
学園選抜親善試合。
王国と帝国との友好と交流の一環で毎年開かれる、学園としては年に一度の一大イベントの一つだ。
この学園選抜は一年で優秀な成績を収めた者が選ばれ、学園の代表として帝国学園の生徒たちと親善試合を行う。
例年は王国学園の代表五名が帝国学園に行き、試合と交流をしていた。
だが去年、四聖華と王女、そして平民の男が、その圧倒的な実力で帝国学園を叩き伏せた。
これにより、今回は帝国側が挑戦者の立場となり、帝国学園が王国学園に来ることになったのだ。
そして今年からは代表者が各学年で五名ずつ、さらに学園の代表として七名が選ばれることになった。
いつもとは違い、数日かけて親善試合と交流会が行われることとなる。
過去一度もなかった事態である。
帝国側は大陸最強としての威厳を取り戻すべく、この一年間死に物狂いで鍛錬をしてきた。
そして、万全の状態で、王国学園に殴り込みに来たのだ。
一方の王国側も、『蒼白銀の翼』という別格の強さを持つ者たちを筆頭に学園選抜を選んでいた。
帝国学園に対して、盤石の布陣で迎え撃つ構えだ。
そしていよいよ、帝国学園が王国学園に到着する。
その厳しい規律を表すかのように、帝国の学園選抜たちは全員が軍人さながらの威圧感を放ちながら王国学園を歩いていた。
彼らを見ていた王国学園の一般生徒たちは、その雰囲気に圧倒される。
「本当に去年、一勝もできずに負けたのですか?」
帝国学園の一年生代表の男子生徒がそう呟いた。
しかし、去年の親善試合を見ていた二年生の代表者は首を振る。
「あそこにいる者たちはしょせん有象無象だ。だが、去年帝国に来た王国学園の選抜は文字通り規格外だった。王女を始め侯爵令嬢たち、そしてセルフィリア皇女殿下を文字通り叩き折った平民の男。あの者たちの強さは本当にありえなかった」
今年度から帝国学園のカリキュラムは全般的に変わり、すべてにおいてかなり厳しく鍛錬が課された。
去年と比べて、明らかに帝国学園の全体の質も向上している。
「だが、それでもあの六人にはどうあがいても勝てる未来が浮かばない」
二年生の代表者はそう呟いた。
そして校舎内に入り、歓待を受け、王国学園の学園選抜とそれぞれ顔合わせを済ませる。
今日は長旅で疲れているだろうということで、王国側が用意した宿泊施設に帝国学園の代表たちが向かった。
そして宿泊先で、今日の顔合わせなどを踏まえた意見交換が行われる。
二年生と三年生の代表たちは、王女と四聖華、そしてなぜかセルフィリア殿下が王国側の代表としていることにため息をついた。
しかし彼女たち六人は全員『学園代表』の選抜である。
そのため、『学年選抜』で勝利を収めれば我々の勝ちだという結論に至る。
「その後ろ向きな気持ちを捨てろ。勝てる勝てないは戦ってから言え」
帝国の学園長がそう叱咤するが、三年生の一人がそれに答えた。
「学園長、王国選抜と対峙したとき、我々全員は思いましたよ。あの五人は去年より強くなっていることに。それにセルフィリア殿下も、明らかに去年とは纏っているオーラが違いました。どう考えても勝てません」
学園長自身も、薄々はそのことに感づいていた。
学園代表戦は、去年よりひどい負け方になるのではないかと思っていた。
しかし、帝国の学園代表はまだこの場には来ていない。
今年度から新設された『特待クラス』の生徒が、学園の代表となっているのだ。
その特待クラスは、学園長の管轄外であった。
去年の親善試合を見た公爵が皇帝に進言し、素質から何まで厳格に選ばれた者たちが、帝国学園とは別のカリキュラムで鍛錬していたのだ。
学園長はその秘密主義に帝国学園内のきな臭さを感じ取っていた。
だが、自分ではどうしようもできないほどの身分差があり、そして何も知らされていない。
一度しびれを切らして公爵家に直談判に行ったが、その場で言われたのは冷酷な言葉だった。
「何も関知・関与するな」
それ以上は命の保証もしないと言われれば、学園長は従わざるを得なかった。
帝国は実力主義のはずだ。
まるで王国のような貴族主義になってしまったと錯覚するような出来事だった。
もし、セルフィリア殿下がいれば皇帝陛下と話ができるように手配してほしかったが、あいにく彼女は今、留学中である。
特待クラスの謎は深まるばかりだった。
そうこうしているうちに学園選抜の日になり、帝国学園の代表を決める際も公爵家から通達があったのみだ。
「学園代表は特待クラスから選ぶ」
もちろん抗議はしたが、結果は同じく「関与するな」であった。
学園長はひどく悔しさを覚える。
そしてまだ見ぬ特待クラスの実力が、王国の化け物たちに通じるのか全く想像できなかった。
一方、帝国学園との顔合わせが終わった後、王国学園の代表者たちは次々と意見を述べていた。
エルスメリアはこっそり鑑定の魔眼を使っていたようで、その結果を口にする。
「明らかに去年の代表者とはレベルが違いますわ。帝国もかなり本気みたいね」
セルフィリアも帝国学園の生徒たちを見て、感心したように頷いた。
「去年と違って、かなり鍛え抜かれているね。やっぱり、王国にあんな負け方をしたのが相当効いたようね」
しかし、オリヴィアは少し考え込むような仕草を見せる。
「先ほどの帝国学園の生徒たちは、あくまで『学年選抜』でしたわ。本命の『学園代表』は明日に到着するそうですが、帝国でいったい何があったのでしょう?」
セルフィリアは首を横に振った。
「私にもわからないわね」
そして明日の親善試合に備えて、その日は早めに解散することとなった。
そして次の日、親善試合が王国学園の演習場にて開催される。
まず初日は、学年選抜で試合をするという。
そして明日に、学園の代表選抜が試合をするというスケジュールだ。
交流会は、学園代表の試合が終わったその日の夜に行われる予定である。
さっそく一年生の試合が始まった。
先鋒はトレースであり、グランは観客席から見守っていた。
対する帝国は男爵家出身の槍使いのようだ。
グランは、トレースが少し緊張している様子なのが少し心配だった。
『トレース様がこの雰囲気に飲まれてしまっていますね。やはり場慣れをしていないようです。ただ、試合が開始していつもの感覚を取り戻せれば容易に勝利するでしょう』
「そうだな。これも経験だ。トレースには慣れてもらわないとな」
アンサートーカーが脳内でそう告げると、グランもそれに同意した。
そして先鋒戦が開始した。
帝国の槍使いがトレースに突撃し、素早い槍さばきで攻撃を仕掛ける。
トレースも攻撃自体は見切っているが、やはり少し動きが硬い。
グランは、これは場慣れするまではこのまま続きそうだと分析する。
現に今のトレースは防御に徹しており、なかなか反撃に行く素振りを見せなかった。
対する帝国の生徒も、自身の槍による猛攻がトレースにすべて捌かれていることに苛立ちを覚える。
帝国側は時折魔法も混ぜてくるが、『蒼白銀の翼』の過酷な訓練に耐えているトレースには致命傷になることはなく、彼は攻撃を防ぎ続けていた。
そしてトレースは試合の雰囲気に慣れてきたのか、徐々に反撃を開始する。
槍使いが渾身の突きをトレースの胴体めがけて放つが、トレースはそれを躱した。
それと同時に拳に魔力を纏わせ、そのまま帝国の生徒の顔を殴りつける。
クリーンヒットを受けた帝国の生徒は、そのままガクンと膝を崩して倒れ伏した。
見事なカウンターを決めたトレースは一息入れると、静かに礼をして控えに戻った。
『一時はどうなるかと思いましたが、無事試合の雰囲気に慣れたようですね』
「そうだな。まあ、あいつは将来実家の商家を背負う商人だ。これくらいのプレッシャーに飲まれるわけにはいかないしな。だが、無事自分の力で克服したな。よくやった」
アンサートーカーが安堵したように言うと、グランもトレースの勝利を素直に喜んだ。
そして次鋒戦と中堅戦が終わり、王国が一勝、帝国が二勝となった。
次は副将戦である。
グランは身分的にクローディアが出ると思っていたが、副将として名乗りを上げたのはルークだった。
グランは少し驚いた。
このオーダーは学年選抜のメンバーで決めているため、侯爵家であるルークが一番身分も高く、大将を務めるものと思っていたからだ。
それが副将になっていたのである。
確かに実力で言えば、今のルークやほかの1年生の学園選抜はトレースとクローディアには及ばない。
それでもトレースは平民ということもあり、先鋒でまず確実に一勝を取るという目的ならまだわかる。
だが、伯爵家のクローディアが侯爵家のルークを差し置いて大将になるのは、それでも考えられなかった。
『おそらく、クローディア様と一緒に鍛錬することにより、自身の貴族主義的な考え方に少し迷いが出ているようですね』
「そうなのか? 全然気づかなかった」
アンサートーカーが推測を述べると、グランは意外そうに答えた。
『マスターの圧倒的な強さに直に触れ、そして貴族至上主義を是としている名門アシュクロフト家の令嬢が、その貴族主義を忌み嫌っているということで迷いが出ているようです』
アンサートーカーがさらに解説を付け加える。
「そもそも、あの高潔で厳格なヴァレンタイン侯爵の子息が、なぜあそこまで貴族主義に凝り固まったのかが一番の疑問だ」
グランが素朴な疑問を口にすると、アンサートーカーが答えた。
『どうやら、そういう貴族としての在り方を是とする集会が各地にあるようですよ』
「またきな臭い集会があるもんだな」
グランは呆れたように呟いた。
そして副将戦が開始した。
相手は伯爵家出身の魔導師のようだ。
ルークとは相性のあまりよくない水魔法の使い手である。
ルークは無詠唱で強力なファイアボールを放つ。
だが、帝国の生徒はこともなげに水魔法の障壁を繰り出し、そのファイアボールを相殺した。
そして、そのまま無詠唱でウォーターカッターを繰り出してくる。
『ステータス値ではわずかに相手が上回っていますね。こちらの侯爵家出身の者が帝国では伯爵家クラスなのだとしたら、王国は帝国に地力では完全に負けていますね』
「そうだな。実力主義が浸透するまでは、ずっとこのまま続くだろう。今は四聖華や王女を含め、俺が魔力操作の極意を教えたメンバーがいるから圧倒しているが、それも俺が卒業すれば終わりだからな。かといって、毎回魔力操作の極意を教えるわけにもいかない」
アンサートーカーが状況を分析して告げると、グランもその意見に同意した。
『世界のバランスが崩れてしまいますので、あまり広めるのはよくないと思います。王国には今までの貴族主義のツケが回ってきたということで我慢してもらいましょう』
アンサートーカーも冷徹な意見を述べる。
舞台では、ルークが帝国の生徒に剣で斬りかかっていた。
しかし帝国の生徒は杖をまるで棒術のように上手く使い、ルークの剣をいなしていく。
「帝国の生徒は近接戦闘もなかなかの実力だな。ルークが勝つにはもう一つ何かが必要だ」
グランは帝国の生徒の動きを見てそう評した。
ルークは炎魔法と剣を組み合わせて戦う。
相手の帝国の生徒も同じように水魔法と杖を巧みに使い、互角以上の戦いを繰り広げていた。
そしてルークの攻撃の隙を突き、彼の体に向けて杖で渾身の突きを繰り出した。
ルークはそれをまともに食らい、体勢を崩してしまう。
帝国の生徒は間髪入れずに、水魔法のウォーターショットを連射して浴びせた。
ルークはとっさに魔法障壁を張る。
しかし敵の魔法が障壁を貫き、ルークの体に少し当たってしまった。
ルークは急いで距離を取り障壁を張りなおす。
だが、帝国の生徒は絶えずウォーターショットを繰り出し、ルークは完全に防戦一方となった。




