第137話:学園選抜合同鍛錬
オリヴィア率いる王国学園選抜の一行が『蒼白銀の翼』の演習場に到着すると、そこにはグランが一人で鍛錬をしていた。
グランは皆がいないのをいいことに、自身のオリジナル技の連続コンボなどをアンサートーカーと一緒に考え、実践していたのだ。
グランは脳内でアンサートーカーと対話をする。
(まず『魔導瞬天撃』で近づいて攻撃を食らわせ、すぐに『魔導翔烈脚』で真上に吹き飛ばし、最後に落ちてきたところへ『魔導烈衝拳』を叩き込む方が無駄がないじゃないか?)
そう提案すると、アンサートーカーから冷静な返答が返ってくる。
『それもいいですが、落ちてきたところに『魔導烈衝拳』で、あえてもう一度真上に吹き飛ばし、最後は「魔導無双剣」でそのまま落ちてきたところを串刺しにしてバラすのです』
(お前なかなかえぐいな)
グランは内心でそうツッコミを入れた。
「グラン!」
オリヴィアがグランを見て叫ぶ。
グランはその声を聞いて振り向くと、『蒼白銀の翼』のメンバーと見知らぬ生徒たちが多数立っていた。
よく見るとルークもいたが、グランは特に気にすることもなくオリヴィアたちに近づく。
「どうしたんだ? 今日は学園選抜の会議だったんじゃないのか?」
グランが尋ねると、ルヴィリスが「会議はもう終わったわ。それが実はね……」と会議室であった出来事を話し、皆が『蒼白銀の翼』で鍛錬したいと言っていることを伝えた。
それを聞いたグランは即答する。
「別にいいんじゃないか?」
グランの言葉に、『蒼白銀の翼』のメンバーを含め、学園選抜の皆が驚愕した。
すると四聖華と王女と皇女がグランを引っ張り、皆から少し離れた場所へと連れて行く。
ルヴィリスが呆れたように言った。
「あなた、まさか魔力操作の極意を教えるつもりじゃないでしょうね」
「さすがに教えない。去年はガウルさんとアルフォンスさん、それと副主将たちが無償で俺たちに協力してくれたから、そのお礼で教えただけだ」
グランはそう言い、今回はさすがに教えないと釘を刺した。
しかし、皆が強くなりたいというのなら、一緒に鍛錬をすること自体には反対ではないという。
ソフィアが問いかける。
「それでは、グラン様が皆一人ずつ教えていくのですか?」
「いや、今回はみんなが教えるんだ」
「グラン、無茶ぶりが過ぎるわよ」
セルフィリアがツッコミを入れると、グランは逆に問い返した。
「お前たちは帝国の選抜に負けることはないだろう?」
「去年の感じだと、我々が負けることはないな」
ディアドラがそう答えると、グランは頷く。
「なら、後進を育てるのも強者の務めだ。それに人に教えるということは、自分も学ぶことが多いぞ」
グランはさらに言葉を続ける。
「もちろん俺もたまに見るけど、基本はみんなが教えてあげた方がいい」
オリヴィアが心配そうに口を挟む。
「そうは言いますが、私たちはともかく、彼らがマルクたちの言うことを聞きますか?」
「聞かない奴は追い出したらいい」
グランはあっさりと言い放ち、こう提案した。
「ただまあ、相性とかもあるだろうから、俺が一度みんなの実力とかを見て、合いそうな人と組ませるようにするよ。まずそれをみんなが了承するかだけど」
「それがいいかもしれませんね」
エルスメリアが同意し、他の五人もそれに従うことにした。
そして皆がいるところに戻り、ルヴィリスが説明を始める。
「まず『蒼白銀の翼』の主将であるグランが一度みんなと戦って、私たちのメンバーの中で相性のいい人から指導を受けるという形になるけど、みんなそれでいい?」
ルヴィリスが聞くと、学園選抜のみんなは「それでいい」と答えた。
しかし、ここでグランが口を挟む。
「本当にいいのか? 俺が例えば平民のマルクやカロン、一年生のトレースが適任だと言ったら、素直に従えるのか?」
その言葉に、蒼白銀の翼以外の学園選抜は一瞬言葉に詰まった。
だが、三年Aクラスの伯爵令嬢が色っぽい声で答える。
「グラン君の言うことなら従うわ」
(え、なんで急にそんな声色で話すの?)
グランが内心で戸惑っていると、アンサートーカーが冷静に告げる。
『バレンタインデーの時にいた上級生の一人ですよ』
グランはそこでようやく思い出した。
少したじろぎながらも、グランは他の者たちに問いかける。
「他の人はどうなんですか?」
「分かった、従おう」
皆がそう口を揃えた。
ただルークだけは返事をしておらず、そのまま始まるかと思ったが、ルヴィリスが彼に声をかける。
「ルーク、あなたの返事が聞こえてないけど。グランとマルクたちに従えるの?」
「姉上……」
ルークがそう呟いた瞬間、グランが間に入った。
「ルヴィ、そこまでにしてやれ」
「でも……」
「俺は別に来る者は拒まない。だが、邪魔をするやつは容赦しないだけだ」
グランはルークの方を真っ直ぐに見た。
「ルーク様、あなたとは色々ありましたが、今は関係ありません」
そして、グランは舞台の中央へと歩みを進め、振り返って言い放つ。
「これから一人ずつ舞台に上がって適性を見る。順番は自由だ。やる気のあるやつから舞台に上がってこい」
すると先ほどの三年生の伯爵令嬢が舞台へ上がった。
「グラン君、お手柔らかにお願いね」
彼女はそう言って杖を構える。
それを見た四聖華や王女と皇女は、グランに色目を使う上級生に怒りを覚えた。
しかし、まだ自分たちにはない上級生ならではの『大人のお姉さんの色気』を、逆に学ぼうともしていた。
「エアスラッシュ!」
伯爵令嬢がそう唱えると、二つの風の刃がグランを襲う。
グランはそれを避けるが、彼女は放った風の刃を操り、グランに向けて追いかけてきた。
それに気づいたグランが伯爵令嬢へ近づこうとすると、彼女はさらに風魔法の波状攻撃を放つ。
だが、グランはそれを最小限の動きで躱したり防御魔法で防ぎ、素早い速度で肉薄して彼女の顔の前に拳を寸止めした。
伯爵令嬢は防御魔法が間に合わず驚き、自分の魔法が簡単に避けられたことに少し落ち込んだ様子を見せる。
そんな彼女に、グランは冷静に評価を伝えた。
「最初のエアスラッシュの制御は良かったです。風魔法の波状攻撃は、威力も発動速度も素晴らしいです」
そう褒めてこれからの課題を話す。
「あとは風魔法の魔力制御と、近づかれた時の防御に移る速度と防御魔法の強度です。風魔法メインならレキシが適任でしょう」
グランはそう言い、レキシを呼んで伯爵令嬢に紹介する。
レキシは相手が伯爵家の上級生ということでひどく緊張していた。
だが、さすがは年上のお姉さんである。
「平民だからって見下したりしないわ。色々教えてね」
彼女が優しくそう言うと、レキシもその言葉に緊張が解けたようだった。
「はい、よろしくお願いします」
二人は早速演習場の隅へ移動し、風魔法のレクチャーを始めるのだった。
そして次々とグランが相手をし、各自に『蒼白銀の翼』のメンバーを指導係としてつけていく。
そして、ルークが舞台に立つと、グランは静かに構えた。
ルークは剣を抜き、その刀身に炎を纏わせ、グランに向かって一気に加速し、切りかかった。
グランはそれを紙一重で避ける。
すると、ルークは無詠唱でファイアボールを至近距離で放った。
だが、グランはそれを読んでいたのか、そのままサイドステップで回避する。
ルークは避けた先を剣で突くが、グランはさらにそれを弾き距離を開けた。
「魔導大会の時より腕を上げましたね」
グランがそう褒めるが、ルークは鋭く言い返す。
「本気を出していないのに何を言っている」
ルヴィリスはたまらず叫んだ。
「ルーク!」
だが、グランはルヴィリスに向けて手を上げ、彼女を制止する。
「ルーク様、では私も少し本気を出しましょう」
グランはそう言い、蒼白銀の魔力を全身に纏った。
それを見たルークは、凄まじいプレッシャーに冷や汗が止まらなくなる。
周りで見ていた学園選抜の者たちも、思わずごくりと唾を呑んだ。
「では、行きます」
グランは一瞬でルークに肉薄し、『魔導瞬天撃』を繰り出す。
ルークはそれを避けきれず、まともに食らい体勢を崩してしまう。
そしてグランは間髪入れず、『魔導翔烈脚』でルークを真上に打ち上げた。
ルークは打ち上げられながらも、空中で体勢を無理やり戻し魔法の詠唱を始める。
グランがそのまま構えていると、ルークは全身に炎を纏い、そのまま真っ直ぐに落ちてきた。
ルークが自爆覚悟の爆炎魔法を放とうとする。
しかし、ルークの魔法が発動するよりも早く、グランの放った『魔導烈衝拳』が彼を捉え、演習場の端まで吹き飛ばした。
『今です!魔導無双剣を!』
(バカ!殺す気か!)
アンサートーカーの慈悲の無い声が脳内に響くが、グランは心の中で叫ぶ。
ルークは演習場の壁に激突し、そのまま気絶した。
グランは少しやりすぎたかと反省する。
「ルーク!」
ルヴィリスが叫んで駆けつけ、すぐさまルークに回復魔法をかける。
しばらくするとルークは意識を取り戻し、回復魔法をかけているルヴィリスを見た。
「姉上……」
ルークが弱々しく呟く。
「まったく、実力の差も考えずに突っかかるからよ」
ルヴィリスはそう言いながら、回復魔法をかけ続けた。
そしてある程度ルークが回復したのを確認すると、ルヴィリスは彼から離れた。
「ルーク様の指導は、クローディアが適任ですね。彼女は珍しい炎と氷という反属性の最適性持ちです。学ぶことは多いでしょう。クローディア、いけるか?」
グランが確認すると、クローディアは力強く頷いた。
「任せてください」
クローディアはルークに近づく。
「ではルーク様、よろしくお願いします。こちらへ行きましょう」
クローディアはルークに肩を貸し、演習場の隅へと歩いていった。
そして全員が指導係を決め、それぞれが身体強化魔法や近接格闘、魔力制御、そして魔法や剣術などを学び始めた。
グランは初めマルクたちの組を遠目で見ていたが、彼が心配していたようなことは起こらず、皆真面目に話を聞いていた。
各々で鍛錬が始まり、しばらくすると、ルークはクローディアと鍛錬しているうちにあることを尋ねた。
「クローディア嬢、あなたはあのアシュクロフト家の出身だ。誇り高き名門で貴族至上主義を是としている。だがあなたは違うようだ。なぜだ?」
クローディアはそれに真っ直ぐに答える。
「実家は確かに貴族主義ですが、私はそうではありません。家名や貴族の面子より、もっと大切なものがあります。私はそれを守りたいから、落ちこぼれでも『蒼白銀の翼』に入って強くなりたいと思ったのです」
ルークはその言葉に驚き、自身の貴族主義の在り方に疑問を抱き始めていた。
そしてその日から、放課後の『蒼白銀の翼』の演習場では学園選抜全員が鍛錬に励むようになった。
グランは時々各組を指導して実戦感を学ばせたり、時にはルヴィリスたち『蒼白銀の翼』の鍛錬に付き合ったりした。
何日か経つうちに、明らかに初めとは違って実力が上がっていることに、皆確かな手応えを感じ取っていた。
そして学園選抜の前日、学園長が演習場にやって来る。
「みな精が出ているな。明日から帝国学園の者たちが来る。事前情報では去年より明らかに強くなっている。Sクラスでも油断するではないぞ」
グランも皆に向かって言葉をかける。
「みんな、数日だが着実に力をつけたはずだ。帝国学園の強さは未知数だが、各々が全力を出し切れば勝てるはずだ。武運を祈っている」
その言葉を最後に、親善試合前の鍛錬は終了となった。
明日は帝国学園との親善試合である。
去年は圧倒的な実力差で勝ったが、今年はどうなることか。
セルフィリアの話によれば、帝国は根本的な訓練やカリキュラムの見直しを徹底的に行ったという。
実力主義のあの国が本気を出して取り組んだのなら、一筋縄ではいかないはずだとグランは考えていた。
グランは『蒼白銀の翼』のメンバーにも油断しないようにと釘を刺す。
皆もその言葉を胸に刻み、明日に備えて各々が気合いを入れていた。
いつもご覧いただきありがとうございます。
この度、なろうフェス2026に応募しました。
AI使用でも応募できるようなので試しにしてみました。
引き続き当作品をよろしくお願いいたします。




