第136話:王国学園選抜
バレンタインデーのオリヴィアとの甘いひと時が過ぎ去り、いよいよ二月末の帝国学園との親善試合があと十日ほどに迫った時だった。
二年生の学年選抜はマルク、レキシ、カロン、ニーナ、そしてSクラス以外の、一月の学園選抜を決める試験によりAクラスの貴族の男子生徒が決定した。
一年生の学年選抜はトレースとクローディア、そして試験を突破した貴族の男子二名と女子一名がそれぞれ決まった。
三年生の学年選抜は『獅子の盾』と『白光の杖』の主将と副主将、そしてAクラスの貴族の女子生徒が選ばれた。
そして学園全体の選抜はルヴィリス、エルスメリア、ソフィア、ディアドラ、オリヴィア、セルフィリア、ベアトリクスで決まった。
かねてからの下馬評通りであり、選ばれなかった者も納得の結果だった。
そして今日、顔合わせをするということで、学園長と親善試合の王国側の実行委員会と共に会議室にて会議をすることになった。
集まった学園の代表たちは互いにメンツを確認し合い、特に『蒼白銀の翼』のメンバーがほぼ全員揃っていることに、修練会対抗戦から感じていた、超えられない壁があることを思い知らされた。
それもそのはず、マルクたち平民組は、明らかに手加減をして試験を突破していたため、平民なのに強さの次元が違うと思われていた。
一年生の学年選抜にも『蒼白銀の翼』のメンバーがいたため、いかに規格外の修練会なのかというのを感じさせられたのだ。
便乗して、王女や皇女、侯爵家の令嬢四人と、王国内でも高貴な方々が一堂に揃っていることに皆はひどく緊張をしていた。
しかし、『蒼白銀の翼』のメンバーは別の意味で緊張していた。
それは、一年生の学年選抜にルヴィリスの弟「ルーク」がいたからだ。
四聖華や王女と皇女はもちろん、他のメンバーもルヴィリスの誕生日会の時の決闘騒ぎを知っていた。
その時からルヴィリスがルークに対して、必要最低限のやり取りしかしていないと聞いていたからだ。
以前グランはそれを聞いてルヴィリスに言った。
「次期侯爵を白紙撤回という罰は受けたんだ、許してやれ」
だが、ルヴィリスはグランを巻き込んだことが、どうしても許せないらしかった。
「あの子が心からグランに謝罪しない限り許すことはないわ」
ルヴィリスはそう周囲に漏らしているという。
やがて学園長が皆に席に着くよう促し、皆は席に着く。
そして学園長が一同を見渡して告げた。
「この集まったメンバーが今回の王国学園の代表だ。みな選ばれたものとして、そして選ばれなかったものたちの気持ちを背負い戦ってくれ給え」
学園長はそう言い、各自自己紹介をしてもらうことになった。
まず王女がいるため、学園全体の選抜から自己紹介が始まった。
オリヴィアが一歩前に出て自己紹介を始める。
「ファリス王国第一王女オリヴィア・ファリスと申します。今回も選抜に選ばれましたので、去年と同様、圧倒的な実力をもって帝国学園と戦いたいと思います」
その堂々たる挨拶は、自分たちが負けることはあり得ないと言っているように聞こえた。
そして、次は帝国の皇女である。
「グロリアス帝国第二皇女セルフィリア・グロリアスよ。前回は帝国学園の予備枠として参加したわ。今年は留学生だから王国の代表として出るわ。帝国出身だけど、王国の代表として死力を尽くすわ」
セルフィリアがそう言い終えると、ルヴィリス、エルスメリア、ソフィア、ディアドラが次々と名乗っていく。
学園全体枠の最後に、ベアトリクスが自己紹介を始めた。
「ベアトリクス・ランスターよ。ランスター男爵家出身よ。今回が初めての代表だから緊張してるわ、みんなよろしくね」
彼女は愛想よく軽く挨拶をした。
続いて三年生の自己紹介が始まり、『獅子の盾』と『白光の杖』の主将が名乗る。
自己紹介から、どちらも伯爵家の出身であることがわかった。
次に三年Aクラスの伯爵令嬢が自己紹介をする。
そして両パーティの副主将たちが紹介を始めるが、彼らは子爵家の出身であり、どちらも主将たちの貴族家の寄子であった。
次に二年生の番となり、Aクラスの伯爵家の嫡子が自己紹介をする。
しかし、彼の紹介の声はひどく緊張で硬くなっていた。
それもそのはず、身分は自分の方が圧倒的に上だが、その次に紹介をする平民たちが自分の実力を軽く凌駕しているからだ。
伯爵家嫡子の後に、マルク、カロン、レキシ、ニーナの順番で各々が堂々と紹介を済ませる。
四人の自己紹介を聞いていた他の学年の代表者の何人かは、彼らが平民であることに少し目を険しくさせた。
だが、マルクたち四人はそんな視線を歯牙にもかけず、毅然としていた。
そしていよいよ一年生の自己紹介となり、ついにルークが口を開く。
「ヴァレンタイン侯爵家嫡男、ルーク・ヴァレンタインだ。一年の魔導大会でも優勝をした。帝国相手に後れを取ることはない」
ルークはただそれだけを言い残した。
そして次はクローディアの番となる。
「アシュクロフト伯爵家のクローディア・アシュクロフトです。蒼白銀の翼の名にかけて、帝国学園に勝てるよう頑張ります」
続いて、一年Aクラスの伯爵家出身の男子生徒と女子生徒が自身を紹介する。
そして最後に、トレースが自己紹介をした。
「トレース・エルマンです。実家はエルマン商会です。クローディア様と同じく、蒼白銀の翼の名に恥じぬように頑張っていきたいと思います」
全員の自己紹介が終わったところで、学園長が再び口を開いた。
「ここに集まった二十二名が、今年の学園選抜だ。皆、王国学園の名に恥じぬように親善試合まで各々が高め合ってくれたまえ」
学園長はそう締めくくった。
「あとは交流を深めるのもよかろう」
そう言い残し、しばらくは代表者同士の歓談の時間が取られることになった。
学園長にそう促されても、他の生徒たちには王女や皇女、そして四聖華に話しかける勇気などなかった。
ベアトリクスやマルクたちも、成り上がりの男爵家や平民である。
『蒼白銀の翼』のメンバー同士ならともかく、特に知己でもない相手に自分から気安く話しかけることはできない。
学園が完全実力主義を謳っていても、王国の暗黙のルールとして下の者が上の者に話しかけるには、まず許可をもらう必要があるからだ。
そうでなければ、王国の貴族社会において重大なマナー違反となってしまう。
そのため、結局『蒼白銀の翼』のメンバーたちは身内だけで集まり、話を始めてしまった。
しかし、上級生である三年生の『獅子の盾』と『白光の杖』の主将たちが、Sクラスの輪に話しかけてきた。
彼らは修練会対抗戦では世話になったと言い、今回は味方ということもあり頼もしく思っていると告げた。
そして、マルクたちに向かっても「平民だが我々は侮っていない」と言い、お互いに死力を尽くそうと握手を求める。
マルクたちは驚いたが、主将たちは身分の差など何も気にしていない様子だった。
マルクたちが出された手を握ると、主将たちも力強く握り返してくれた。
それを皮切りに場の空気が和らぎ、各学年の代表たちは各々話し始め、四聖華や王女たちにも話しかけにいく。
そんな中、ルークがクローディアへと話しかけた。
「アシュクロフト家のご令嬢ともあろう、あなたのような高貴で実力のある方が、なぜDクラスなのですか?」
そう尋ねるルークに対し、クローディアは真っ直ぐに答えた。
「私は当初、魔力行使がうまくできない落ちこぼれでした。しかし、『蒼白銀の翼』で死に物狂いで鍛錬をした結果、ここまで強くなれました。メンバーの皆さんには感謝していますし、特に主将のグラン先輩には一生の恩を感じております」
ルークはグランの名前を聞いて一瞬眉を顰めたが、すぐに表情を取り繕った。
「それはとても素晴らしい。二年生になれば、初のSクラス入りになりそうですね」
その後は無難な会話を交わし、ルークは他の代表者に話しかけに行った。
クローディアは少し緊張していたが、そっとルヴィリスの方を見る。
ルヴィリスが彼女に向かって静かに頷くのを見て、クローディアは安堵の息を吐いた。
一方、トレースは他の一年生の代表者たちと歓談し、順調に交流を深めていた。
商家の出身だからか場を持たせるのが上手く、彼らのトークには花が咲いている。
その見事な立ち回りに、二年生のSクラスの面々も「大した男だ」と彼を高く評価していた。
そしてしばらくすると学園長が戻ってきた。
「みな、思い思いに歓談して交流を深めたようだな。では残りの十日間、鍛錬を怠らず親善試合に向けて頑張ってくれたまえ」
学園長がそう言い、「最後に何か質問は?」と尋ねると、二年生のAクラスの伯爵家の嫡子が手を挙げた。
「私の学年にはこの学園の最強の男がいます。なぜ彼は学園選抜から漏れたのでしょうか?」
学園長が「彼には今回の代表選を辞退してもらったのだ」と答えると、伯爵家の嫡子は少し不機嫌そうにしながらも、学園長を真っ直ぐに見据えて聞き返した。
「それはなぜでしょうか? もしかして、私はお情けで代表に選ばれたのでしょうか」
学園長は少し考えてから事情を話そうとしたが、そこへセルフィリアが手を挙げた。
「私から話すわ」
セルフィリアはその場で立ち上がり、堂々と口を開く。
「簡単なことよ。私は彼と去年学園選抜で戦ったからわかる。彼は言葉通り規格外よ。それを王国と帝国の両国が、どうあがいてもグランには勝てないと判断したの。そうじゃないとお互いの枠が彼一人で潰れてしまうでしょ? それをお情けで与えられたと思うのは違うわ。あなたは学園選抜の試練を確かな実力で勝ち上がったのでしょう? もっと自信を持ちなさい」
それを聞いた嫡子は、セルフィリアの檄に心を打たれたのか、深く頭を下げた。
「不躾な質問をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
セルフィリアは柔らかく微笑み、さらに言葉を続ける。
「そうやって自分の非を素直に認めるのも強さのひとつよ」
その言葉を聞いた嫡子は、完全にセルフィリアへ尊敬の眼差しを向けていた。
その一方で、セルフィリアの言葉を聞いたルークは一人下を向き、深く考え込んでいた。
会議が終わり、『蒼白銀の翼』のメンバーが演習場へ向かおうとした時だった。
学園選抜の者たちが一斉に声をかけてきた。
いわく、『蒼白銀の翼』の鍛錬に参加させてほしいとのことだった。
ルヴィリスは驚き、その理由を尋ねる。
すると、去年の親善試合が始まるまで、『獅子の盾』と『白光の杖』の先代主将と副主将たちが蒼白銀の翼のメンバーたちと鍛錬した結果、卒業前までにかなりの実力をつけたという話を聞いたのだという。
もちろん先代の主将たちはグランの魔力操作の極意については伏せていたが、それを抜きにしても短期間で実力が跳ね上がったのは間違いない。
彼らは、これも何かの縁だからぜひお願いしたいと頼み込んできた。
「それはさすがに私の一存では決められないわ」
ルヴィリスがそう答えると、代表者たちはオリヴィアの方を向いた。
「では、王女殿下はいかがでしょうか?」
しかし、オリヴィアも首を横に振る。
「それを決めるのは私ではないわ。その決定権を持つ者がいる演習場へ、皆で行きましょう」
オリヴィアはそう言って、優しく微笑んで、皆を引き連れて演習場へ向かったのだった。




