第128話:白い薔薇
そして、誕生日会の会場へと入場する。
皆の歓迎の拍手を浴びながら、グランは純白のドレスを纏ったディアドラと腕を組み、堂々とレッドカーペットを歩いていく。
招待されていた四聖華や王女、皇女たちも、笑顔で拍手をして二人を迎えてくれた。
そのまま壇上へと上がり、侯爵夫妻と二人の兄に囲まれる形で、貴族たちからの挨拶を一緒に受けることになった。
来客たちは皆、グランの実力を測るような視線を向けてくるが、ディアドラが片時もグランの腕を離そうとしないため、皆一様にグランを『婚約者』として扱い、丁寧に接してくれた。
そこへ、四聖華や王女、皇女たちも挨拶にやって来た。
「ディア、お誕生日おめでとう。招待してくれてありがとう」
ルヴィリスが代表して祝いの言葉を述べた後、彼女たちは侯爵夫妻と兄二人の前で、堂々と微笑みながら言い放った。
「学園生活も残り一年……グランを巡って、お互い精一杯頑張りましょうね」
完全に宣戦布告である。
それを聞いた兄二人とヴァスティール侯爵は、ピキッ、と額に青筋を浮かべて凄まじい殺気を漏らしかけた。
だが、すかさずディアドラと侯爵夫人が無言の冷たい圧力を放ち、男三人を見事に黙らせるのだった。
その後は立食形式で四聖華や王女、皇女たちと食事を楽しみ、やがてダンスの時間が始まった。
ディアドラは真っ先にグランの手を取り、なんと連続で三曲も一緒に踊り続けた。
その後、彼女は兄二人とも一曲ずつ踊ったが、やはりグランと踊っている時が一番嬉しそうで、心から楽しそうな笑顔を浮かべていた。グリフィスとグレイは、グランを恨めしそうに睨みつけていた。
そして、盛大な誕生日会も無事に終わりを迎える。
ディアドラとグランが玄関で来客たちを見送ろうとしていると、学園方面へ向かう予定の御者たちが、何やら深刻そうな顔で話し合っていた。
気になったディアドラが「ちょっと話を聞いてみないか?」とグランを誘い、彼らに声をかける。
すると御者たちは、今から通る道中がこの後猛吹雪になる予報が出ており、このまま出発すると立ち往生する危険性が高いと相談していたのだという。領地の宿泊施設も、この悪天候で満員になる見込みだという。
それを聞いたディアドラは、少し離れたところで待機していたルヴィリスたちの元へ向かった。
「猛吹雪になるそうだが、帰りの馬車はどうするつもりだ?」
ディアドラが尋ねると、ルヴィリスは困ったように眉を下げる。
「そうなの。どうしようか迷っていて……」
「少し待ってくれ」
ディアドラはそう言うと、足早に侯爵邸の中へと戻っていった。
そしてしばらくして戻ってくると、ルヴィリスたちに提案した。
「今日は、この屋敷に泊まっていかないか?」
その申し出に、ルヴィリスたちは驚いて顔を見合わせた。
「えっ、いいの? せっかくグランと二人きりでいられる夜なのに」
するとディアドラは、なぜかふんすっと胸を張り、ドヤ顔で答えた。
「私はすでに、夏合宿でグラン殿を十分に楽しんだからな。『一番初めに堪能した』という事実は誰にも消せないのだ」
その謎の誇らしげな発言に、ヒロインたちは「ぐぬぬ……」と悔しそうに唸った。
だが、この猛吹雪の中を帰るわけにもいかず、ディアドラの提案はありがたかったため、お言葉に甘えて泊まることにした。
学園にも「今年の冬は冷え込む」と予測して予備日を何日か設定していたのが幸いし、まだ王都へ戻る日程には余裕があった。
グランたちはみんなで屋敷内に戻り、侯爵夫妻に宿泊の礼を言う。
「困った時はお互い様だ。ゆっくりしていくといい」
侯爵も快く承諾してくれた。
その後、グランは使用人に案内されて広々とした大浴場に入っていた。
湯船に浸かり、今日の疲れを癒していると、ガラッと乱暴に扉が開いた。
入ってきたのは、グリフィスとグレイの二人だった。
「お先にいただいております」
グランが挨拶すると、グリフィスは「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、グレイが「兄さん、大人げないよ」と苦笑しながらたしなめる。
まさに、男だけの裸の付き合いだ。三人で広い湯船に浸かっていると、グレイがグランの体を見て感心したように声をかけた。
「君は、服を着ていると細身に見えるが……意外としっかり鍛え込まれた体をしているのだな」
グリフィスもチラリとグランの肉体を盗み見し、ボソッと呟く。
「……確かに、無駄がない。我々が力負けしたのも納得できるな」
前世ではそこまで鍛えていなかったグランだが、この人生では『やることが鍛錬くらいしかない』ため、自然と極限まで鍛え上げられた肉体になっていたのだ。
やがてグレイが、天井を見上げながら口を開く。
「今日はまだ大丈夫だが、明日からは少し天気が荒れるな」
(となると、王都へ帰るのはしばらく先になりそうだな……)
グランはそう考え、良い機会だと思いグリフィスの方を向いた。
「グリフィス様。明日、侯爵夫妻と領地のことについて少しお話しする約束があるのですが、一緒に聞いていただけませんか?」
その言葉に、グリフィスは少し驚いたような顔をしたが、思うところがあったのか、隣の弟を見た。
「グレイ、お前も一緒に聞け」
「わかったよ」
グレイも素直に頷き、明日の話し合いには次期当主であるグリフィスたちも同席することになった。
風呂から上がり、グランが用意された自室の扉を開けると――そこにはなんと、四聖華と王女、皇女の六人がベッドやソファーに勢揃いしてくつろいでいた。
(おいおい! こんなところを騎士たちや兄たちに見られたら、今度こそ殺されるぞ……!)
グランが内心で盛大に焦っていると、ディアドラが「みんながここに集まるのは私が許可した」とあっけらかんと言うため、グランは深く頭を抱えるしかなかった。
ディアドラは今日あったことを嬉々として皆に話し、ヒロインたちも楽しそうに相槌を打っているが、グランだけはたまらなく居心地が悪かった。
「そうだ、ディアドラ。誕生日プレゼントを渡してなかったな」
グランがそう切り出すと、皆の視線が集中した。
四聖華の三人はそれぞれ誕生日に特別な花をもらっていたためそこまで驚かなかったが、話にしか聞いていなかった王女と皇女は「ついに実物が見られる」と興味津々の目を向けている。
グランは皆が見ている前で、アイテムボックスから一つの花束を取り出し、ディアドラへと差し出した。
それは、純白の美しい薔薇の花束だった。
「ディアにはこれが似合うと思って用意したんだ。それは『聖域』の特別な環境で育てた白い薔薇だ。ちゃんと世話をすれば、一生枯れないぞ」
ディアドラは息を呑み、嬉しそうに、そして愛おしそうに花束を受け取った。
「これが、枯れない花束……とても素晴らしいものだ。永遠に枯れないということは……『永遠に愛してくれる』ということだな」
彼女がうっとりとした顔でそう解釈すると、周りにいた五人のヒロインが一斉に頬を限界まで膨らませた。
「ずるい!」
「俺は君たちにもそれぞれ渡しただろ!」
グランが四聖華たちをなだめていると、今度はオリヴィア王女とセルフィリア皇女がジリッと距離を詰めてきた。
「私たちはまだもらっていませんわ。もちろん、私たちの誕生日の時もくれるのでしょうね?」
「私たちの時は、もっとすごいものを用意しなさいよね」
「わ、わかった! わかったから!」
グランは二人の凄まじい圧にタジタジになりながら、無理やり約束をさせられる羽目になった。
その後、しばらく雑談をしていると就寝時間が近づいてきた。
「グラン、明日はどうするの?」
ルヴィリスが尋ねてきたため、グランは「明日は侯爵夫妻と領地のことについて話す約束があるんだ」と答える。
「私たちも参加していい?」
興味を持った皆が聞いてくると、ディアドラが「私は構わないと思う」と許可を出した。
「じゃあ、明日はみんなにも聞いてもらうか」
そう方針が決まり、ヒロインたちはそれぞれの客室へと戻っていく。
皆が部屋を出ていく中、最後に残ったディアドラがグランの胸にギュッと抱きつき、背伸びをして優しく唇にキスをした。
「……おやすみなさい、グラン殿」
彼女は幸せそうに微笑んで部屋を出ていく。
グランは大きく息を吐き、今日の怒涛の疲れを癒すために、そのままベッドに潜り込んで深い眠りにつくのだった。




