第119話:青の闘宴
そして来客のあいさつが終わり少し時間が過ぎると、ヴァレンシア侯爵夫人が前に出る。
「さあ、もうみんな待てないでしょう。この誕生日会の余興を始めるわ。題して『ヴァレンシア闘武祭』開催よ!」
声を上げると、来客していた冒険者や町の人たちが一斉に歓声を上げる。
そしてヴァレンシア侯爵夫人がグランに合図し、前へ呼ぶ。
グランは言われるがままに前に出て皆に体を向けると、ヴァレンシア侯爵夫人は隣に立ち、両肩にバンッと手を置いた。
「この子がソフィアと一緒にヴァレンシアの未来を背負う男よ!」
すると血気盛んな冒険者が声を上げる。
「おいおい坊主!お嬢の隣に立ちたかったら俺たちを倒してみな!」
それを皮切りに、様々な冒険者や町の人たちから声が上がる。
「余興は演習場で行うわ。参加者も見学者も皆一斉に移動して頂戴」
ヴァレンシア侯爵夫人がそういうと、使用人たちが皆を案内し始めた。
そして夫人はグランを見て微笑み、演習場に向かう。
「それじゃあ期待しているわよ」
ソフィアをはじめ四聖華や王女、皇女が声をかける。
「グラン、大変なことになってるけど負けないわよね?」
「俺も挑戦者の立場だが、ちゃんと戦うつもりだ」
グランはそう答えると、六人はその言葉を聞いて安心する。
「グランの活躍を楽しみにしてるわ」
そして彼女たちも演習場へ向かった。
演習場に着くと、そこはものすごい熱気で溢れていた。
グランは与えられた控室で着替えを済ませた後、演習場の入り口前に着いた。
そしてヴァレンシア侯爵が、皆に聞こえるように話し始める。
「さて、このヴァレンシア領は古くから未開拓地を切り開く役割を担っている。そしてそれは冒険者を欠かしては語ることはできない。この領地は侯爵領だが、それはあくまでも内政を整えるだけの役割に過ぎない。ここは身分など関係ない。強い者が正義だ。だから、侯爵家だろうと強くなければ誰も言うことを聞かない。この街の並み居る強豪を退けるほどの力を示せ。それが我が娘、ソフィアと結ばれる条件だ!」
ヴァレンシア侯爵夫人が小声で尋ねる。
「あなた、なんでそんなに力が入ってるのよ」
「父親としてのプライドだ」
侯爵夫人は呆れながらも微笑む。
「まあ、あの子なら負けないでしょう」
「たしかにな」
侯爵も同意し、そして声を張り上げた。
「それでは紹介しよう。我が娘の想い人であるグラン・グラニアス!前へ!」
グランが舞台中央に足を運ぶと、外野から凄まじい歓声が上がる。
そして反対側から、次々と冒険者たちが入場してきた。
四聖華や王女と皇女は、その姿を見て目を見開く。
彼らは王都の騎士や魔導師とは違った、まるで荒れ狂う波のような荒々しい覇気を放つ、間違いない強者たちだった。
セルフィリアがニヤリと笑いながら口にする。
「私も戦ってみたいわね」
王女や四聖華たちも、内心ではそう思っていた。
そして一人目が名乗りを上げる。
「トップバッターは俺だ」
そう言って、背負っていた身の丈ほどの大剣をグランに向ける。
「俺は豪剣のドラス、Bランク冒険者だ。小僧、ちっとはやるようだな。だが、俺がすぐ終わらせてやろう」
それを見た四聖華や王女と皇女は、なかなかの強さだと心で評価する。
しかし、グランがどれくらいのステータス値で調整しているかは知らないが、あの実力では相手にならないだろうと思っていた。
そしてグランは構えると、ドラスが尋ねる。
「無手か?」
「そうです」
グランはそう答えると、ドラスが叫ぶ。
「手加減はしねえからな!」
そう言って大剣を横なぎにしてグランに斬りかかるが、グランはそれをステップで避ける。
ドラスは間髪入れずに、まるで殴りつけるように剣を振り下ろした。
しかし、それを紙一重でかわしたグランは、ドラスの腹に強烈な突きを食らわせる。
ドラスはまともに食らってしまい、演習場の壁まで吹き飛ばされた。
グランがドラスを倒すと、冒険者たちが四人一斉に現れた。
剣を構えた軽装の男が代表して話す。
「俺たちはBランクパーティーの『暁の狼』だ。冒険者だからな、パーティーで行動するのは当たり前だ。ソフィアお嬢様は、生半可な強さじゃあ隣に立つことも許されないんだ。悪く思うなよ」
グランはそれを聞いても動じず静かに構えると、リーダーの男が感心したように言う。
「ほう、この人数を相手に引かないか。心意気はいいが無謀ではないのか?まあいい、すぐに終わらせてやる」
『暁の狼』はリーダーの男を中心に、グランへと斬りかかる。
後ろでは女性の魔導師が呪文を唱えており、おそらく高威力の魔法だろう。
グランはまず、魔導師から抑えないといけないと判断する。
しかし、やはり人数差によるものか、リーダーとその他の近接職の連携がなかなか前に行かせてくれない。
そうこうしているうちに詠唱の溜めが終わったのか、女性がリーダーたちに合図を送る。
リーダーたちは一斉にグランから離れると、女性が魔法を放つ。
「終わりよ、『ファイアトルネード』!」
グランを中心に炎の竜巻が発生し、凄まじい熱量が演習場を包み込む。
まともに食らったグランを見て、四聖華や王女と皇女は口元を抑える。
しかし、急に炎の竜巻が雲散霧消する。
そこには、傷一つついていないグランの姿があり、それを見た『暁の狼』たちは驚愕する。
「今度はこっちから行きます」
グランがそう宣言すると、まず斥候のダガー持ちの女に肉薄し、そのまま殴り飛ばす。
女はそのスピードについていけず、まともに攻撃を食らって舞台外に吹き飛ばされた。
リーダーは驚いて構え直すが、その隙に詠唱を始めていた魔導師の女にグランは近づき、同じように殴りつけ、舞台から吹き飛ばした。
槍使いの男が激昂してグランに突撃し、素早い突きを繰り出す。
しかし、グランはそれをギリギリでかわし、そのままカウンターで殴りつけると、槍使いの男はその場で崩れ落ちる。
残ったリーダーは冷静に構えるが、目の前の少年に冷や汗が止まらなかった。ただ、Bランクパーティーが少年一人に負けたとなればプライドはボロボロになる。
リーダーは刺し違える覚悟で少年に肉薄する。
しかし、グランは冷静にその剣をソードブレイクで折り、そのまま殴りつけてリーダーを沈めた。
『暁の狼』を退けたグランは、次に備えてまた構える。
冒険者パーティー、それもBランクを一人で倒した少年に、集まった他の冒険者たちは萎縮するどころか逆に強者と戦える興奮を覚えた。
皆、自分の出番はまだかと待ち望んでいる。
しかし、グランは逆に構えを解き、挑発するように言い放った。
「Bランク程度が束になろうと俺は負けない、時間の無駄だ。まとめてかかってこい」
そう言うや否や、Bランクの冒険者たちは激昂し怒号を上げ、一斉にグランへ飛びかかる。
「クソガキが!舐めるな!」
だがグランは彼ら全員に一撃ずつ突きや蹴りを繰り出し、舞台外へと吹き飛ばして気絶させる。
魔導師は呪文を詠唱する暇もなくグランに肉薄され、同じように殴り飛ばされた。
そうこうしているうちに、六十人ほどがあっという間にやられてしまうのであった。
グランがヴァレンシア領のBランク冒険者たちを文字通り蹂躙すると、観客もその強さに大いに盛り上がる。
「Bランク冒険者は王国内でもなかなかの実力者扱いよ。それが束になってもかなわないなんてね」
四聖華や王女、皇女もグランの強さを改めて再確認する。
「さすがグラン君ね。Bランク程度じゃ相手にならないわね」
「そうだな、あれで本気じゃないのだろう……まるで底が見えん」
ヴァレンシア侯爵夫人も感心して夫に言うと、侯爵も同意する。
そしてグランが一息入れると、今までとは一線を画す覇気を持った老人の男が舞台へ上がる。
グランは今までの相手とは全く違うことを感じ取り、即座に構え直した。
その男は『烈震のボロス』と呼ばれる無手の格闘家で、Aランクでも上位に位置する強者だった。
「これほどの強者と相見えることができるとは、神の導きに感謝しますぞ」
そう言いながらボロスはグランに一礼する。
「俺みたいな若造に礼を尽くす必要もないですよ」
グランは謙遜して返すと、ボロスはそれを聞いて笑いだす。
「馬鹿を言うな。お前を単なる若造だと、実力を測りかねている者などもう残ってないぞ」
グランが残っている参加者を見ると、ガラクをはじめ皆が獰猛な目でグランを見つめていた。
誰もが自分の番を今か今かと待ち望んでいる。
グランはそれなら礼には礼を返そうと、自身の魔力である蒼白銀の魔力を纏う。
それを見たボロスは驚愕し、問いかけた。
「まさか、今までは本気でなかったのか」
グランは何も答えないが、ボロスはそれを是と捉え、自身の魔力を極限まで練ると、観客がどよめく。
「おいおいボロスのじいさん、ありゃ本気だぞ」
それを聞いた四聖華と王女と皇女は、周囲からボロスのことを聞き始める。
ボロスは今でこそ後進の育成のために半分隠居しているが、昔は最前線で活躍していた格闘家だった。
身体強化を極限まで極めた、Aランク冒険者の中でも上位の強さを誇る男だ。
観客が興奮気味に語る。
「最近見てなかったが、まさか本気を出すとはな。それだけあの少年が強いってことだろ」
それを聞いた四聖華と王女と皇女は、まるで自分のことのように自慢するような気持ちになった。
そして極限まで身体強化を発動したボロスは、グランに一瞬で肉薄する。
そのまま渾身の突きをグランに浴びせようとするが、グランは逆にその拳に『魔導烈衝拳』を合わせるように食らわせた。
ドゴッ!と鈍い音がし、二人を見てみるとボロスの拳が押し負けて弾かれている。
グランはそのまま続けて『魔導翔烈脚』を繰り出した。
それをボロスはすぐさまガードして受けるが、衝撃で空中に蹴り上げられ、流れるような連携の最後にグランは『魔導虚空掌』を放ち、ボロスを吹き飛ばす。
グランのオリジナル技を連続で三回も食らったボロスは、さすがに気絶しもう立てなかった。
それを見た観客たちは一瞬静まり返るが、しばらくして爆発的な歓声が上がる。
四聖華と王女と皇女はグランの繰り出した流れるような三連続のオリジナル技を見て、私たちはまだまだ手加減されているのだと思い知った。
そして、いつか必ず、あの強さまで引き出させてやると決意する。
ボロスがやられると、次は四人組のAランクパーティー『業火の灰燼』が出てくる。
リーダー格の男が声をかける。
「ボロスのじいさん相手に無傷か。お前、その若さでどうやってその強さになった?まあ、聞くだけ野暮か。行くぞ!」
そう言って、四人が炎を纏った武器で突撃してくる。
グランは『イージス』で攻撃を捌いていく。
先ほどの『暁の狼』と違い、連携や速さ、そして一撃の重さは比べ物にならないくらい強い。
だが、グランは冷静にそれを捌き切り、一瞬の隙を突いて同じようにオリジナル技で四人を撃破する。
その調子でAランクの冒険者も倒していくと、残り十人ほどになっていた。
しかしよく見ると、残っているのは全員ソフィアの家の使用人たちだった。
そしてガラクが話しかける。
「ここまで来るとはな。正直強いとは思っていたが予想以上だ。お前さんならここでやめても、お嬢を任せられるくらいの強さはあると証明されているぜ。どうする?やめるか?」
「それは皆さんが納得しないでしょう」
グランは首を振り戦いを続ける意思を見せると、残りの参加者が一斉に笑みを浮かべる。
それは目の前の強者と死力を尽くせることに喜びを感じているようだった。
ガラクが前に出る。
「そうか、坊主、じゃあ次は俺だ。覚悟しろよ」
両手に斧を持ち、舞台に上がる。
グランは今までの参加者とは、また一線を超える強さを持つガラクを前に構えた。
ガラクはその両手の斧を、手足のように自在に振り回す。
まるで武器に重さがないように軽々と操り、グランに攻撃の隙を与えない。
さらに時折、土魔法の『ストーンバレット』を巧みに使い、グランの回避のテンポを狂わせる。
さすが歴戦の戦士、嫌な戦いを繰り出すとグランは思う。
「避けてばかりじゃ終わらねえぞ!」
ガラクがそう叫ぶと、両手の斧に魔力を込めグランに向けて投げつける。
グランはそれをかわし、ガラクが丸腰になった隙を逃さず肉薄するが、次の瞬間、ガラクが隠蔽魔法の土魔法で仕掛けていたのか、地面がぬかるんでおりそれに足を取られバランスを崩す。
戦士一辺倒だと思っていたが、これほどの魔法操作と隠蔽能力、さすが歴戦の冒険者、勝つためなら手段を選ばない。
そして、先ほど投げつけた魔力を帯びた斧がまるでブーメランのようにグランを襲うが、グランは『サンクチュアリー』を発動して凄まじい威力の斧を弾き、斧はガラクの手に戻る。
「なんだそれ。見たこともねえ魔法だな」
ガラクは少し驚くと、グランは答える。
「これは俺のオリジナルです」
ガラクは笑う。
「はははっ!強いとは思っていたが、ここまでできるとはな」
ガラクは身体強化を極限まで上げ、グランに肉薄し、渾身の一撃を食らわせようとする。
しかし、グランはガラクの攻撃が届く刹那に『魔導瞬天撃』を放った。
目にも止まらぬ速さの突きがガラクを捉え舞台外に吹き飛ばすと、観客たちは今まで以上に歓声を上げた。
そして次々と屋敷の使用人たちが襲い掛かる。
双子のメイドは元斥候職だったのか、素早い動きと二刀のダガーで連携しながらグランを翻弄し切り刻もうとするが、グランはメイドのスピード以上の『魔導瞬天撃』を放ち、双子のメイドを倒す。
分厚い鎧を纏った元重戦士の料理長の女性は火炎魔法と大鉈で、グランをまるで魔物を捌くかのように攻撃をふるうが、『魔導虚空掌』で分厚い鎧を貫通させダメージを与え、舞台に沈める。
最後に現れた紳士的な執事は、なんと闇魔法使いで細剣の名手だった。
グランは闇魔法で視界を遮られ、執事は気配を消し、巧みにグランへと細剣で突くが、一瞬の殺気を感じ取り、そこにカウンターで『魔導烈衝拳』を叩き込み、執事を舞台外に吹き飛ばした。
そして参加者を全員倒し、グランは見事百人組手を勝ち切り、観客たちは大歓声を上げる。
ヴァレンシア侯爵は百人組手の終了を宣言し、これよりグラン・グラニアスを我が娘の婿として認めると言い出した。
ソフィアは皆がいる前で喜ぶが、ルヴィリスたちは抗議する。
「ソフィ!抜け駆けはだめよ!」
ソフィアも涼しい顔をしてルヴィリスたちをかわす。
「あくまで婿候補として、認めていただいたというだけです。これで我がヴァレンシア領と侯爵家がグラン様と結ばれるための、越えなければいけない障害は完全に取り除かれました。あとは私が既成事実を作るだけです」
ソフィアが恍惚しながらうっとりして話すと、ルヴィリスたちも、このままではなし崩しに成立してしまうと危機感を感じる。
卒業までの残り期間、なりふり構わず勝負をつけなければならないと、彼女たちは固く心に誓った。




