第116話:最終日の決戦
少し時はさかのぼり、六日目の夜、修練会同盟軍は『蒼白銀の翼』の二つの拠点を攻めるべく、各修練会の代表者と会合を開いていた。
「下手に戦力を分散させるよりも、一つの拠点を徹底的に攻めるほうがいい。そして『蒼白銀の翼』のフラグを奪い、もう片方にも時間があれば攻め込む」
『獅子の盾』の主将が提案し、『白光の杖』の主将もその作戦に同調する。
しかし中堅規模の修練会の代表が手を挙げた。
「仮にそれが成功した場合、そのフラグは誰の持ち物になるんだ?」
すると他の修練会の代表が意見する。
「それなら一番初めに手に取ったところの者が持つのが一番角が立たないのでは」
さらに別の代表者が反論する。
「それだとそこからフラグの取り合いになる。せっかく同盟を組んだのにまた争うのか」
議論が紛糾しかけたその時、『獅子の盾』の主将が手を叩いた。
「今回このような形になったのは、俺たち代表者が初めに修練会対抗戦で各修練会ごとで対戦するように決めたからだ。だからもしフラグを取ったら、俺たち全員の勝利ということで学園長と委員会を説得する。剣と魂に誓おう」
それを聞いた代表者たちはかなり動揺する。
騎士にとって「剣と魂に誓う」という言葉は、最も重い言葉の一つだ。
それをこの男が迷いなく口にしたことに驚愕する。
すると『白光の杖』の主将も続いた。
「この同盟軍は私たちが発案したんだ。『獅子の盾』の主将だけに責任を負わせるわけにはいかない。なら私は魔導士として杖と魂に誓おう」
それを聞いた代表者たちは再び驚く。
すると、初めにフラグの所有権を問題提起した代表者がその場をまとめた。
「あなた方がそこまで懸けるのなら、これ以上何も言いません。私たちはあなた方に従いましょう」
そして会合が進み、やはり戦力的にも『蒼白銀の翼』の平民組の拠点を攻めるのが望ましいと決定する。
決戦は七日目の昼前、遠距離から魔法の得意な者が一斉に拠点に攻撃して破壊判定にさせ、数で一気に攻め込みフラグを奪う作戦に決定した。
そして話題は王女たちの拠点に移る。
「王女たちの拠点は今日も動かないだろう」
「なぜそう思うんだ?」
他の代表者が疑問を口にする。
「俺たちを壊滅させ、フラグを根こそぎ持って行ったからな。おそらく過半数を超えている。我々を無理に攻め込む必要もないし、それにあの方たちは高貴なる方々だ。その精神は高潔で美しい、これ以上我々を辱めるようなことはしないと思う」
その意見に満場一致で賛同する。
実は四聖華や王女、皇女は、学生たちにとってはその美貌や高貴なる精神、そして貴族平民問わず分け隔てなく学生たちに接する姿は男女問わずもはやアイドルを超えた神のような存在だった。
皆が何の疑いもなしに彼女たちを信じている。
だが、その信心がのちの大惨事を招くとは夢にも思わなかった。
そして最終日の現在に戻る。
ベアトリクスたちの拠点は敵の放った魔法の総攻撃で破壊判定にされていた。
「ここに来てこれか! 敵も容赦がないな!」
「みんな、拠点はもう破壊された! なら迫る敵を片っ端から倒すよ!」
マルクは叫び、ベアトリクスも檄を飛ばす。
レキシ、カロン、ニーナ、トレースも皆、なりふり構わず敵を倒していく。
しかし敵の魔法使いは遠くから魔法をずっと放っており、時折無視できないダメージを与えてくる。
ベアトリクスはグランが遊撃しているからこれで済んでいると思っており、改めて数の暴力というものを実感した。
まだまだ自分たちは足りないと悔しがりながらも、今は目の前の敵を倒すことに必死だった。
そしてグランは一人、戦場を見渡せるように少し離れたところで身を隠していた。
アンサートーカーが尋ねる。
『マスター、このままだとフラグが奪われるのも時間の問題です。迎撃しないのですか?』
(ルヴィリスたちは必ず来る。それまでになるべく消耗を抑えたい。ベアトリクスたちならまだ大丈夫だ。それにルヴィリスたちのフラグは俺が持っている)
グランは拠点にあった鞄に自分たちが奪ったフラグを全部入れている。
(拠点のフラグは持ち出せないが、万が一、修練会同盟軍に奪われても、ルヴィリスのフラグと俺たちが奪い取った敵のフラグは俺が持っているんだ。ルヴィリスたちが俺たちの拠点のフラグを奪わない限りは俺たちが勝つ)
アンサートーカーもその意見を肯定する。
(向こうの拠点にフラグはもうないんだ。拠点を捨てて全員でこっちに攻めてくるだろう)
そうグランは言葉を続けると、アンサートーカーが指摘する。
『それだと総力戦になれば戦力的にこちらが不利です。』
(今度は正面からは戦わない。各個撃破する)
グランは策を明かすと、アンサートーカーが聞く。
『どうやって分散させるというのですか?』
(そこは賭けになるが、まず全力で一人を引きはがすようにする)
グランはそう答えると、アンサートーカーがすかさず意見を述べる。
『彼女たちはおそらく固まって行動しますよ』
(いや、修練会同盟軍に紛れて攻撃をすれば、何人かは気づくはずだ。ルヴィリスたちの目的はあくまでも俺たちの拠点のフラグだ。憂いをなくすため俺を確実に倒せるように、確実に二人は俺を追いかけてくるだろう)
グランは分析を語る。
(うまくおびき寄せることができれば、各個撃破する確率も上がる。俺を無視するといつ攻撃されるかわからない心配があるからな。必ず俺を仕留めようとするだろう。)
去年の対抗戦を思い出しながらグランは続ける。
(ルヴィリスは時には大胆な行動もするが、基本は慎重だ。自分たちの目的のためなら不穏分子は徹底的に潰すだろう。今回の修練会対抗戦でもそれを嫌というほどわかったはずだ。そこを利用する)
『そんなにうまいこといきますかね?』
(うまくいかなければ、負けるだけだ)
アンサートーカーは半信半疑だが、グランはもう腹を括っている。
『私はマスターがご褒美でめちゃくちゃにされるのが楽しみなので、できれば負けてほしいですね』
(お前、本当にひどいな!)
グランとアンサートーカーが漫才をしている間に、ルヴィリスたちはグランたちの拠点周辺まで近づいていた。
しかし、轟音が鳴り響き少し足を止めると、グランたちの拠点から煙が上がり、大勢の学生たちが一斉に拠点に突撃していた。
ルヴィリスは少し焦った様子で、このままじゃフラグを奪われるかもしれないと考える。
他のメンバーも、この数だとさすがに押し切られるだろうと思っていた。
「グラン様たちの中に大規模殲滅魔法を使える人間はいないわ。いや、グラン様なら使えると思うけれど、おそらくこの対抗戦ではしてこないはずよ」
「そうね、それをするなら初めからしているはずよ」
ソフィアは推測を口にし、オリヴィアも同意し、セルフィリアも言葉を続ける。
「私たちの前にわざわざ現れたときも使わなかった。もし使えていたら、確かに私たちが初日で使った後に間髪入れずに使っていたわね」
「とりあえず、このままだと乱戦になるわね。ルヴィ、どうするの?」
エルスメリアが尋ねると、ルヴィリスは指示を出す。
「最初の作戦通り拠点に突撃しよう。私たちの魔力が節約になったと考えれば悪い状況ではないわ。このまま敵を薙ぎ払い拠点に突撃、フラグの奪取を最優先して、全力で離脱して自陣に戻るわよ!」
他のメンバーも返事をして気合を入れ、敵の大群に突撃を始めた。
修練会同盟軍は後方から現れた王女たちに驚き、慌てふためく。
各修練会の代表者たちが叫ぶ。
「落ち着け!」
しかし、すれ違いざまに放たれたルヴィリスたちの魔法により、直撃を食らった者は戦闘不能判定で転送されていく。
彼女たちが一直線に拠点に向かっていることに気づいた『白光の杖』の主将は、同盟軍に指示を出した。
「戦う必要はない! 道を開けろ!」
『獅子の盾』の主将も『白光の杖』の主将の考えを見抜いて指示を飛ばす。
「攻撃をやめ、防御に徹しろ!」
結果的に拠点前まで王女たちを誘い込むことになったが、主将たちはこれはこれで成功だと判断した。
「あとは完全に包囲し、『蒼白銀の翼』同士で消耗させ、疲弊したところを討つ」
同盟軍はその作戦に出た。
ルヴィリスたちはついにグランたちの拠点に到達する。
ベアトリクスたちはルヴィリスたちを見ると、気を引き締めなおした。
マルクが叫ぶ。
「やっぱり来ましたか!」
ルヴィリスが宣言し、一斉に攻撃を始める。
「さあ、あなたたちのフラグを渡してもらうわよ!」
しかしルヴィリスはふと気づく。
ディアドラとセルフィリアがいない。
だがここまで来て引き返すことはできない。
「ここは五人で何とか勝つしかないわ」
そう言って相手を確認するも、そこにグランの姿はなかった。
ルヴィリスは一抹の不安を感じつつも、今は目の前の同志たちと雌雄を決するべく戦いに赴くのであった。
ルヴィリスたちが敵の大群に突撃した直後、セルフィリアは横から重い攻撃を受け、立ち止まる。
修練会同盟軍の中にこれほどの者がいるのかと一瞬思うが、目の前にいた男はなんとグランだった。
修練会同盟軍も、突然現れたグランに驚愕する。
そしてグランは間髪入れずにセルフィリアに『魔導烈衝拳』を食らわせた。
障壁を張り、さらに黒剣でのガードは間に合ったが、セルフィリアはそのまま勢いよく吹き飛ばされる。
セルフィリアは敵の大群からはみ出し、かなり遠くまで飛ばされてしまった。
それをグランは追いかける。
しかしルヴィリスたちはグランが現れたことに気づいていなかった。
だが、しばらく経ってからディアドラはセルフィリアがいないことに気づき、嫌な予感がして来た道を引き返す。
吹き飛ばされ、遠征地の木々をなぎ倒してようやく止まったセルフィリアは、すでに満身創痍だった。
そして追いかけてきたグランを見て冷や汗を流すが、元来の性格か強がりを見せる。
「……私を選ぶなんて、そんなに私のことが好きなの?」
「ああ、そうだ。お前が一番脅威だ」
グランはそう言って認めると、セルフィリアは素直にその言葉に喜びをかみしめた。
「クロちゃんは元気か?」
「あなたの放った『魔導空閃斬』の傷がまだ癒えてないわ」
そしてグランが尋ねると、セルフィリアが返す。
「そうか、それはすまなかったな」
グランは謝罪すると、セルフィリアが唱える。
「召喚!」
黒龍が現れて、セルフィリアの身を守るようにグランの前に立ち、グランが声をかける。
「クロちゃん、すまないな」
すると黒龍は、まるで抗議するかのように首を激しく動かした。
「お詫びとして終わったら純度の高いブラックダイヤモンドを食べさせてやる」
黒龍は喜んだように首を上下に振り、それを見たセルフィリアは文句を言う。
「もう! あなたのマスターは私でしょ!」
黒龍はセルフィリアに少し怒られたことに、しょんぼりするような態度をとる。
そしてセルフィリアは黒龍を亜空間へ返し、グランに向けて言い放った。
「さあグラン! こうやって一対一で真剣に戦うのは学園選抜以来ね!そして四日目のあの時、あなたには七人がかりでやっと倒せたけど、今回もすこしは抗わせてもらうよ!」
そしてグランに突撃する。
グランは、セルフィリアのリンク・ウェポン『黒煌』の黒剣で斬りかかってきた攻撃をソードブレイクで受け止める。
しかしセルフィリアはそれを読んでおり、去年の学園選抜の時のように鋭い蹴りを放つ。
『蒼白銀の翼』や夏合宿で以前とは見違えるような剣術と体術を身に着けたセルフィリアのそれは、以前とは比べ物にならないくらい速く威力も高い蹴りだった。
だがグランは『ハイパーガード』を使い、セルフィリアの蹴りのダメージをそのまま反射する。
セルフィリアはまさかの反転攻撃に声を上げ、そのまま飛ばされた。
「うぐっ!」
黒剣を支えに立ち上がるも、ライフゲージを確認するともう十分の一しか残っていなかった。
「こんな技も使うなんてね」
セルフィリアは笑うと、グランは説明する。
「この技は攻撃の見切りも必要だが、肉弾戦ならほぼ無敵だからな。めったに使わない」
セルフィリアは逆に笑みを浮かべて覚悟を決める。
「それだけ本気なのね。本当に……光栄だわ!」
そして刺し違える覚悟をして魔力を黒剣に込め、『オーバーエンド』の準備に入る。
グランも両手に蒼白銀の魔力を纏い、「魔導無双剣」の準備をする。
グランはアンサートーカーに心の中で語りかける。
(まるで深淵の騎士と戦っているようだ)
『あれと比べるとセルフィリア様はまだまだですが、それでも今のマスターのステータスだとなかなかいい勝負ですね。ただ一対一ならマスターが勝利するでしょう』
(俺もそのつもりだ)
アンサートーカーが返し、グランも同意する。
「グラン!」
セルフィリアが叫び、剣を振り下ろす。
グランは一気にセルフィリアに近づき、彼女の渾身の『オーバーエンド』を紙一重でかわし、セルフィリアの胸に左腕を突き刺す。
セルフィリアは苦しみながらもグランの左腕を必死に掴んだ。
「がはっ! 何なのよこれ……半端じゃないわね」
グランは右腕をセルフィリアの腹に刺そうとするが、別の方角から殺気を感じたため、掴んでいるセルフィリアの腕を右腕で切り落としその場を離れる。
すると、自分が立っていたところにディアドラのソードビットが突撃してきた。
「残念……ディアごめん、ダメだったわ。先にいくわね」
セルフィリアは残念そうに声を上げると、ディアドラが応える。
「セルフィリア様、あとは私にお任せを」
ライフゲージの魔道具が発動し、セルフィリアは待機所に転送される。
「なるほど、各個撃破して拠点を守り切る寸法か」
ディアドラはグランを見て状況を把握し、グランもそれに対して認める。
「そうだ。しかし一番来てほしくない人が来たな」
ディアドラは少し悲しそうな顔をして尋ねる。
「……私のことが嫌いなのか?」
「ち、違う、そうじゃない。一番厄介な敵が来たという意味だ」
グランは慌てて否定すると、ディアドラは少しホッとして微笑む。
「もう、グラン殿は乙女心をわかってないな」
「いや、このタイミングでその解釈は逆にひどくない?」
グランがツッコミを入れると、ディアドラも返す。
「まあ言ってみただけだ」
『ディアドラ様、だんだん遠慮がなくなってきてますね。もう言ってる間に食われるのでは?』
(お前、今はやめろ!)
アンサートーカーが脳内でおちょくるが、グランは脳内で叫ぶ。
そしてディアドラは少し気になることを聞いた。
「あの時、私は未来視でグラン殿の『魔導瞬天撃』を完全に見切っていた。だが結果は直撃だった。あれはなぜなんだ?」
「簡単だ。俺のステータスをいつもより少し強くしているからだ」
グランは理由を明かすと、ディアドラが尋ねる。
「それはこの対抗戦でどうしても勝ちたいからか?」
グランは本当の理由を語る。
「いや、『蒼白銀の翼』を分けたとき、バランスを考えての調整だ。もう最終日だから言おう。今の調整したステータスだと、君たち三人以上が同時で相手なら俺は確実に負けると思っている」
「そうか、そこまで我々は迫ったのか」
「そうだぞ。みんな俺が思っている以上に凄まじい速度で強くなっている。俺はそれがとても嬉しい」
ディアドラは少し喜びながら言うと、グランも嬉しそうに頷く。
「グラン殿のおかげだ。ではそろそろおしゃべりは終わりにして、胸を貸してもらうぞ。それとも私の胸を堪能するか?」
ディアドラは腕を寄せて胸を強調すると、グランは驚く。
「ディア、そんなキャラじゃなかっただろう」
「安心しろ、グラン殿の前だけでしかやらない」
ディアドラは微笑みながら、リンク・ウェポン『白閃』を二刀にし、魔力を極限まで詰める。
「魔導無双剣か、なら俺もこたえよう」
グランも構える、セルフィリアの時と同じく、両腕に蒼白銀の魔力を纏わせる。
そしていつぞやのエキシビションマッチの時のように、じりじりと距離を詰める。
お互いの間合いが重なった時、示し合わせたかのごとく一斉に飛び出す。
ディアドラは未来視を全開にし、グランの攻撃を見切ろうとする。
グランはディアドラは未来視をフルに使っていると思っているため、最大最速で突撃し、ディアドラの見切り以上の速度で攻撃を届かせるよう胸を狙う。
ディアドラは極限まで集中しグランの左腕を見切るが、横から右腕の攻撃が腹を貫いた。
ディアドラは相打ち覚悟で剣とソードビットで攻撃しようとするが、その前にグランが左腕を突き刺し魔導無双剣を繰り広げる。
ディアドラはその威力に脱帽と感動をし、グランにもたれかかる。
「……まだまだ、あなたにはかなわないな」
「俺はまだ負けるわけにはいかないからな。みんなこれが終わったら特訓だ」
グランもディアドラの頭を撫でると、ディアドラがグランの目を見ながら話す。
「グラン殿、また指導をお願いする」
ディアドラのライフゲージの魔道具が発動し、転送されるまでグランは彼女を抱えていた。




