第115話:決戦前の思惑
五日目。
全修練会の同盟軍は、その圧倒的な数を活かして『蒼白銀の翼』の拠点へ攻撃を仕掛けていた。
ルヴィリスたちは体力と魔力の回復を優先するメンバーを選定し、防衛を兼ねてルヴィリス、エルスメリア、クローディアの三人体制にしていたが、休む暇もなく攻撃が続くため、あまり体を休めることができなかった。
そして一旦戻ってきた四人と話し合い、防衛メンバーをさらに二人追加することにする。
自陣のフラグを探す役割は、機動力に優れたディアドラとセルフィリアの二人に任せることになった。
やはり防衛の要であるエルスメリアの回復を最優先させるため、彼女は早々に休ませることにする。
「ごめんなさい、足を引っ張って……」
エルスメリアは謝るが、ルヴィリスは首を振る。
「いいえ、エルが謝ることはないわ。元はと言えば私の判断ミスよ」
「それはもう言わない約束よ。私たちもその指示が正解だと思って従ったんだから、みんなの責任よ。あまり自分を責めないで」
そう言ってエルスメリアは、ルヴィリスの顔を両手で挟んでぎゅっと優しく包み込む。
「ありがとう」
ルヴィリスは涙目でそう言うと、エルスメリアも返して自室に戻る。
「私も最終日に備えて体力と魔力を回復させるために、ちゃんと寝るようにするわ」
それを見ていたクローディアも、ルヴィリスに声をかけた。
「ルヴィリス様も休んでください」
「私はまだ大丈夫よ」
ルヴィリスが返すが、クローディアは譲らない。
「いえ、ルヴィリス様は司令官です。ちゃんと休まないといざという時の判断が鈍る可能性があります」
それを聞いたルヴィリスは、一年前の対抗戦でグランから同じようなことを言われたのを思い出し、そしてクローディアを見て微笑み告げる。
「私たちが卒業しても、あなたが司令官なら『蒼白銀の翼』は安泰ね。お言葉に甘えて、少し休ませてもらうわ」
クローディアはルヴィリスにそう言われて嬉しくなり、元気よく返事をした。
「防衛は任せてください!」
そしてルヴィリスも自室に戻り、睡眠をとるのだった。
一方、ベアトリクスたちの拠点も修練会同盟軍から攻撃を受けていた。
しかし、彼女たちは拠点からは打って出ず、徹底的に拠点内での戦闘で相手を撃退していた。
「外に出て戦えないのが、これほど気を使わないといけないとはな」
マルクはそう言葉をこぼし、ニーナも懸念を口にする。
「私たちはまだ近接格闘がメインだから狭いところでの闘いは慣れているけど、それでも遠くからの魔法で拠点の耐久値を考えたらあまり持たないわね」
「ベアトリクスさん、どうしますか? このままだとジリ貧ですが」
カロンが尋ね、ベアトリクスは本音を漏らした。
「個人的には打って出て全員戦闘不能にしたいけどね」
しかしトレースが疑問を呈す。
「先ほど襲撃してきた敵ですが、私のクラスメイト達もいました。しかし彼らは別々の修練会に所属しています。それこそ『獅子の盾』と『白光の杖』の者です。なぜ彼らが一緒になって私たちを攻撃しているのか……」
「……まさか、去年と一緒で連合を組んだのでは?」
それを聞いたレキシがそう推測すると、ベアトリクスはため息をつく。
「ありえるね。ならおそらくだけど、この攻撃はずっと続くよ。相手にしないほうがいいけど、かといって拠点を攻撃してくるから無視はできない。数に任せた戦略ね。ほんと嫌になる」
「ルヴィリス様たちの拠点も、同じように攻撃を受けているかもな。逆に向こうの動きを抑えてくれているなら好都合だ。こっちはグランが復帰するまでは、ベアトリクスさんの最初の方針通り、ルヴィリス様たちに極力見つからないように拠点内で防衛しよう」
マルクがこれからの方針をまとめ、皆もそれに深く頷いた。
そして五日目が終わり、六日目の朝、相変わらず『蒼白銀の翼』への攻撃はひっきりなしに続いている。
ルヴィリスたちは交代で休むようにし、グランがおそらく復帰するであろう六日目の昼に合わせて、全員がなるべく回復できるように防衛にあたっていた。
ルヴィリスたちも修練会が連合を組んだことに気づき、おそらく最終日に全員で攻めてくるのだろうと予想する。
初めは最終日に合わせて回復を調整しようとしたが、グランがどのタイミングで来るかがわからなかった。
自陣のフラグを探しに行ったディアドラとセルフィリアも見つけ出すことはできず、各修練会の拠点に行っても、戦闘不能になっても次の日には復活するからなのか、捨て身の全力で抵抗してくるため、こちらの体力や魔力を無駄に消費させられていた。
「これは誰かが持っているなら探せないわね」
セルフィリアはそう話すと、ディアドラも同意する。
「奪ったフラグは同じ修練会メンバーが持つか、拠点に置くかというルールがあるからな。奪い取った者がひたすら逃げていたら、この遠征地をくまなく探すことになる。効率が悪すぎるし時間が足りなさすぎる」
ルヴィリスは決断し尋ねた。
「このままだと私たちの拠点フラグを奪ったところが優勝してしまうわね。それを防ぐには、やはりグランたちの拠点フラグを奪うしかないわ。探すのはもうあきらめて、最終日にグランたちの拠点を攻撃してフラグを奪おうと思うけれど、みんなの意見を聞かせて」
「総力戦なら勝てるかもしれないけれど、こちらの犠牲も増えるわね」
ソフィアが懸念を示すと、エルスメリアは笑った。
「いっそのこと拠点の防衛はもう捨てて、すべてのフラグを持ち出して決戦を挑むしかないわね。勝てば優勝、負ければ終わり。わかりやすくていいわね」
「ならやることは一つね。最終決戦に備えて回復を優先すること。今も続く攻撃は極力抑えて撃退する。言うのは簡単ですがそれでも消耗はします。ですが、みなさん協力し合って優勝を目指しましょう」
オリヴィアはそういうと、クローディアが申し出る。
「それでは、私が皆さんの回復の間の防衛をやります」
「一人でする必要はないわ」
それを聞いたルヴィリスは止めるが、クローディアは確固たる決心で告げる。
「いえ、この中では自分が一番弱いです。なので先輩たちの回復を優先したほうがいいと思います。グラン先輩のおかげで私はちゃんと魔法が使えるようになりました。」
そういってクローディアは、自身の夏合宿の鍛錬を思い出しながら続ける。
「それに夏合宿や『蒼白銀の翼』の訓練で、普通の貴族子女では束になっても相手にならないくらい強くなりました。だから先輩たちが万全になる方を優先したほうがいいと思います」
セルフィリアはそれを聞いてクローディアに近づき、肩をポンと叩き声をかける。
「そんなに肩ひじ張ってちゃ、力を発揮できないわよ。それでも感謝するわ。私はお言葉に甘えて休ませてもらう。みんなも後輩の頑張りを信じて休もう」
他の五人も同調し、ルヴィリスが託す。
「それじゃあクローディア、後は頼んだわよ」
そしてソフィアが念を押した。
「クローディア、無茶はしちゃだめよ。今日戦闘不能になったらもう対抗戦中には復帰できない。それだけは絶対に守って」
クローディアは返事し、自室に戻る先輩たちを見送る。
そして一人になったところで気合を入れ直し、防衛にあたる。
「私がみんなを守ります!」
場所が変わり、待機所ではグランが復帰に向けて準備をしていた。
そして転送装置のある部屋に行くと、復帰待ちをしていた他の修練会の者たちから驚きの声が上がる。
すると、とある修練会の者が声をかけてきた。
「あんたほどの者が戦闘不能になったのか!? いったいどうやって……」
「それを話すのは情報を提供するようなものだから答えられない。すまない」
グランはそう返すが、その者もグランの言っていることを理解したのか謝罪した。
「いや、こちらこそ無粋だった」
「気を悪くさせてすまない」
グランも返し、少しばかり謝罪の応酬になったが、ふと周りを見ると修練会同士で情報のやり取りをしていることに気がつく。
(まさか、これは同盟でも組んだのか?)
グランは推測していると、名前を呼ばれ、転送装置の上に来るよう促された。
グランが先ほど話しかけてきた者に声をかける。
「それじゃあ、先に戻る」
「あんたは平民だが、その強さは男として憧れるぜ」
グランは片手を上げてそれに応えた。
そして転送装置の上に立つと、まばゆい光が辺りに広がり、グランは一瞬目を閉じる。
目を開けると自分の拠点に転送されており、マルクたちが彼を出迎えた。
「おかえり」
「遅いぞ」
ベアトリクスが微笑み、マルクが軽口を叩く。
「よし、これで全員集合だな」
カロンも喜び、レキシとニーナも報告する。
「みんな健在よ。ルヴィリス様たちのフラグもここにあるわ」
「先輩、これからどうします?」
トレースが尋ねると、グランは状況をベアトリクスに確認する。
「ルヴィリスたちがどう動くかだが、俺たちが本陣のフラグを奪ったことはまだバレていないようだな」
「そうね、グランの策が見事にはまった感じね」
「結構危ない橋を渡ったんだが、うまくいったようだ。……待機所で気づいたのだが、他の修練会は同盟でも組んだのか?」
トレースが答える。
「そのようです。私のクラスメイト達が、異なる修練会であるにも関わらず、一緒になって拠点に攻撃してきました」
「なら確定だな。去年と一緒で、俺たちを潰しに来たのだろう。この様子じゃルヴィリスたちのところにも行っているはずだ。それなら明日が決戦だな。おそらく、今日の昼以降は敵の攻撃が控えめになるはずだ」
「どうしてそう思うんだ?」
マルクの質問にグランが答える。
「俺たち以外の修練会は復帰速度が速いが、それでも今日の夜以降に戦闘不能になると対抗戦の最終日が昼過ぎに終わるからな、復帰が間に合わなくなる。なら明日のために戦力は温存しようとするはずだからな」
「そういうことか、なるほどな」
マルクは深く頷き、それを聞いたカロンが提案する。
「なら、今日のうちに夜襲をかけて後顧の憂いを断つか?」
グランは否定し指示を出す。
「気持ち的には夜襲を行って黙らせたいが、おそらく徹底的に逃げ回るだろう。それに、こちらは無駄に体力と魔力を消費させられることになる。最終日にルヴィリスたちが俺たちの拠点へ襲撃に来た時、消耗していたら確実に負ける。それなら回復に専念したほうがいい。今日は俺が夜の警備をしよう。みんなは休んでくれ」
「じゃあ、グラン君が先に休んでね」
ニーナはグランを気遣いそう言葉をかけると、ベアトリクスも提案する。
「そうね。グランが夜はずっと起きて警備するなら、早朝に私たちと交代しよう」
「なんだかんだで、グラン君が倒れたらうちは終わりよ」
レキシも笑い、それぞれの役目を確認し合った。
グランは皆の厚意に甘え、夜の警備に備えて自室で眠りについた。
そして六日目の夜、修練会同盟軍の攻撃は続くが、昼以降はやはり温存を優先しているのか、あまり思い切った攻撃はしてこなかった。
ルヴィリスたちの拠点はクローディアが、グランたちの拠点はグランが夜の防衛に専念し、各メンバーの体力と魔力の回復を最優先させる。
そして早朝、それぞれが防衛を交代して朝の仮眠をとり、英気を養った。
やがて日が昇り、昼に差し掛かる頃、辺りが一気に騒々しくなる。
ついに修練会同盟軍の総攻撃が始まった。
ルヴィリスたちは手に入れたフラグをすべて鞄に入れ、圧倒的な防御力を誇るエルスメリアに持たせ、拠点を捨ててグランたちのいる拠点へとまっすぐに向かう。
対するグランたちは、自陣のフラグを守るため拠点の周辺で防衛に徹していた。
「グランは自由に動いたほうがいいよ」
ベアトリクスが提案し、マルクたちもそれに同意した。
「俺たちは防衛に専念するほうがいいだろう。お前が自由に動ければ敵は混乱するはずだ」
「守るだけのほうが何も考えなくていいからな」
「私たちが最後まで守るよ」
「グラン君、私たちに任せて」
カロンも笑い、レキシやニーナも力強く頷いた。
「それなら防衛をメインにしつつ、動き回るように戦うよ。みんな、ルヴィリスたちがは絶対にここへ来るから、それまではなるべく抑えてくれ」
しかしマルクが告げた。
「乱戦は必至だな。そうなったら敵を倒すことを優先して、拠点を守り抜くのは後回しにしよう。どうせ全滅すればフラグは奪われるんだ。最後は総力戦だ」
泣いても笑っても今日が最終日、各々の思惑が遠征地をめぐる。
今年の修練会対抗戦の最終決戦の火ぶたが落とされようとしていた。




