第113話:隠密行動と決戦
グランはベアトリクスから聞いた情報を頼りに、ルヴィリスたちの拠点を発見し近くで身を潜めていた。
アンサートーカーの力を借りれば拠点の中の様子は正確に把握できるが、もちろんそんな無粋なことはしない。
今回も最低限の補助のみを使用し、自分の力で修練会対抗戦に挑んでいた。
脳内でアンサートーカーが問いかける。
『このまま突撃しますか?』
(いや、誰がいるかわからない。最悪三人以上いれば今のステータス値では絶対に勝てない)
どうにかして中の様子を見てみないとなと決意し、グランは極限まで気配を消して拠点へと近づいていった。
そして拠点の窓からこっそりと中を覗き込むと、エルスメリアが椅子に座っているのが確認できた。
しばらく様子を見てみたが、誰かと見張りを交代する気配もない。
おそらく他のメンバーは総出で他所の拠点を襲撃しており、留守の守りは絶対的な防御を誇るエルスメリアに任せたのだとグランは判断する。
アンサートーカーが尋ねる。
『では、どうしますか?』
「前世のあるゲームで、音を出して敵をおびき寄せたりしたんだ。こんな風にな」
グランはそう呟き、拳大の石を拠点の入り口付近に投げ込んだ。
少し大きな音が鳴ったのと同時にエルスメリアが立ち上がり、拠点の入り口を開けて辺りを見渡す。
グランはその隙を逃さず窓から中へ侵入し、エルスメリアが戻ってくる前に素早く身を隠した。
やがてエルスメリアが入り口から中に戻り、少し首を傾げながらも周囲への警戒を怠らずにいる。
先ほどグランが覗いていた窓からも外を確認するが、何も変わったところは見当たらなかった。
彼女は、グランがすでに拠点内へ侵入していることには全く気づいていない。
しかしエルスメリアは昼にぐっすり寝たおかげか眠くなる気配もなく、グランも隙のない彼女に対して攻めあぐねていた。
すると、エルスメリアが不意に席を立った。
おそらく生理現象だろうとグランは推測し、その隙を突いてさらに拠点内の奥深くへと侵入すると、そこは誰かが使っている部屋だった。
それと同時にエルスメリアが戻ってきており、さらにルヴィリスたちも帰還したのか拠点内が少し騒がしくなっていた。
グランは部屋の扉の前で身を隠し、みんなの会話に耳を澄ませる。
「今回は大成果だったね。『獅子の盾』と『白光の杖』が持っていたフラグも根こそぎ奪えたし、優勝は間違いないわね」
ルヴィリスがそう言うと、オリヴィアも同意する。
「今回参加した修練会の半数以上のフラグを手に入れたのです。私たちのフラグが取られない限りは、優勝は間違いないでしょう」
それを聞いたグランは、やはりルヴィリスたちのフラグを奪い取るしかないなと決心する。
その時、エルスメリアが報告した。
「皆が出払っているときに一度物音がしたけれど、そこからは何もなかったわ」
ルヴィリスは少し考え込んで言った。
「念のため、拠点の周辺を一度調べましょう」
全員が拠点から出払って周囲を調べ始める。
グランはこの隙を逃さず、テーブルの上に置いてあった奪取済みのフラグをすべて奪い取り、持ってきたカバンに入れる。
そして開けっ放しになっていた入り口から、隙を見て見事に離脱した。
しばらくして戻ってきたルヴィリスたちは、テーブルの上に置いてあったはずのフラグがなくなっていることに気づき焦り始める。
もともとある自分たちのフラグも取られたのではないかと思い、急いでフラグが置いてある部屋を確認しに向かう。
自分たちのフラグが無事に残されていることを確認したが、今日の夜に上げた成果が全て無に帰ったことに全員が激しく腹を立てた。
グランは自陣の拠点に戻ると、皆の無事を確認し、ルヴィリスたちから奪い取った大量のフラグを見せた。
マルクが驚いて聞く。
「お前、どうやったんだ!?」
「何も正面からぶつかるだけが戦いじゃない。策と知恵で翻弄することはできるのさ」
グランはそう言って笑うと、ベアトリクスも喜んだ。
「私たちが集めたフラグと合わせれば、これで優勝は間違いないわね」
ただトレースは懸念を口にする。
「こんな鮮やかに奪われたとしたら、明日から相手は必死になって犯人探しをするのではないでしょうか」
「多分、早々にグランがやったことに気づくだろうな。これからどうするんだ?」
カロンが尋ねると、グランは状況を分析して皆に告げる。
「今はみんな頭に血が上っていて正常な判断が出来ていないはずだ。ただ、時間をかければすぐに俺たちの仕業だと気づかれる。このあとは俺が警戒をするから、明日に備えてみんな休んでくれ。明日はあえてこの拠点を空にして、全員でルヴィリスたちの拠点に攻め込み、向こうの本陣にあるフラグを奪う」
「それなら、結構本気でやらないといけないね」
ベアトリクスが気を引き締めると、グランは深く頷いて作戦の全貌を語った。
「ここが勝負どころだ。こちらの拠点のフラグは、拠点内ならどこにでも置いていいというルールだから絶対に見つからないように隠す。そして今回手に入れた敵のフラグは、あえて見つかりやすいように分散して置いておく。木を隠すには森の中ってやつだ」
少し時間が経ち、ルヴィリスたちは少し頭が冷えたのか、冷静に状況を分析し始めた。
まず、自分たちの隙を突いて拠点に侵入し、気づかれないようにフラグを奪って脱出できる人間など限られている。
「他の修練会で隠密に特化しているところもありますが、それでも先輩方の警戒を潜り抜けるなんて無理ですよ」
クローディアの指摘を受けたと同時に、皆はそこで自分たちの頂点であり絶対的な強者である、グラン・グラニアスの存在に気がついた。
ルヴィリスは少し笑みを浮かべて呟く。
「やられたわね、何も正面からぶつかる必要もないものね」
「まさか私たちに気づかれず侵入していたなんて」
「グラン様は何でもできるのね」
エルスメリアも驚愕し、ソフィアもうっとりとした表情を見せる。
ディアドラも彼の手腕に少し恐れを抱く。
「これが戦争なら、拠点に罠を張られて全滅だったな」
「じゃあ明日はグランの拠点に殴り込みかしら」
セルフィリアが言うと、クローディアは尋ねた。
「こちらの防衛はどうするんですか?」
ルヴィリスは皆に向かって明日の作戦を告げる。
「あえて拠点は守らない。自分たちのフラグも隠しているから絶対に見つからないわ。それに、今日の夜に実力のある修練会はほとんど潰したから、彼らの復帰は早くても明日の夜になる。それまでに勝負を決めるわよ」
そして、その日は明日の決戦に備えて全員体を休ませることにした。
次の日の早朝、出発したグランたちはルヴィリスたちのいる拠点周辺に身を潜めていた。
するとグランは皆に推測を語る。
「これは……、昨日のうちに俺の仕業だとバレているな」
マルクがグランに尋ねる。
「どうしてそう思ったんだ?」
「外に見張りがいない。昨日フラグを盗まれたんだ。いくらなんでも無警戒すぎる。ルヴィリスは相手のことをなめるような真似はしない。」
グランはルヴィリスたちの拠点を見ながら言葉を続ける。
「おそらく決戦になるだろうと判断して体を休めることを優先しているようだ。俺たちがやったと決めつけているのだろう。なら、俺はあえて自分の拠点近くまで戻って姿を現すから、皆はその隙にルヴィリスたちの拠点のフラグを探して奪い取ってくれ」
ベアトリクスは心配する。
「さすがに多人数相手ならグランもやられちゃうんじゃない?」
グランは持っていたカバンから奪った数本のフラグを見せた。
「遭遇した時にこれを見せて挑発すれば、向こうは躍起になって俺を倒そうとするだろう。間違いなく俺は戦闘不能になるが、その隙に本陣のフラグを奪えればお釣りが来る。頑張って時間を稼ぐから、みんなもなるべく早く見つけてくれよ」
グランはこの場の指揮をベアトリクスに任せる。
「あとは頼む」
そう言い残し、マルクたちは無言で力強く頷き、グランと別れてそれぞれの行動を開始した。
そしてしばらくすると、かなり気迫のこもった七人が拠点から出てくる。
ベアトリクスは全員に姿勢を低くするようにハンドサインを出し、できる限りの気配を殺して様子を窺う。
そして七人は一斉に出発し、自分たちの拠点へとまっすぐに向かっていった。
マルクが苦笑いする。
「拠点の場所はもうバレていたのか」
「ベアトリクスさん、もう行きますか?」
「もう少しだけ待って」
レキシが尋ねると、ベアトリクスは皆を制し、数分経った後に合図を出した。
「よし、多分もう距離が離れた。みんな、すぐに突撃するよ!」
六人は素早く拠点に入り込み、隠されたフラグを探し始める。
一方、自陣に侵入されているとは夢にも思わず、ルヴィリスたちはグランの拠点へと一目散に向かっていた。
迫る決戦に七人は少しの胸の高鳴りと高揚を感じながら、グランたちのいる拠点が見えるところまで辿り着く。
すると、ルヴィリスたちの体に幾何学模様の照準が発生した。
ルヴィリスたちはすぐに足を止めて叫ぶ。
「これは!マルチロック!」
「みんな、すぐに集まって!」
エルスメリアが即座に声を上げ、そして自身の持てる力を使い、強力な結界とシールドバインダーを上空に傘のように配置した。
直後、近くの木から叫び声が響く。
「ロックオンレーザー!」
それと共に、十四本の蒼白銀のレーザーが降り注ぐ。
レーザーがエルスメリアのシールドバインダーと結界魔法に激突し、凄まじい轟音が辺りに響き渡った。
凄まじい衝撃に砂ぼこりが舞った後、しばらくして視界が開ける。
エルスメリアの展開したシールドバインダーは少し欠けていた。
「不意打ちとはいえこの威力……今回はあまり手加減をしてくれないようですね」
エルスメリアは呟くと、木陰からグランが姿を現した。
「全員戦闘不能にするつもりだったんだけどな、よく防いだな」
四聖華や王女、皇女は、自身の愛しき人が今までにない圧倒的な覇気と気迫を纏って姿を現したことに、感動と畏怖を同時に感じていた。
クローディアはまだ慣れていないのか、冷や汗が止まらず萎縮してしまっている。
「あなたはサポートに回って」
その様子を見たルヴィリスはクローディアに指示を出す。
そして、グランに向かって叫んだ。
「昨日はよくも私たちのフラグをかすめ取ったわね!」
「それはこれのことか?」
グランはそう返し、背負っていた鞄の中から奪い取ったフラグを取り出して見せつける。
それを見てオリヴィアが驚く。
「あなたが持っているの?」
「奪い取ったフラグは、この専用のかばんに入れて同じ修練会のメンバーが持ちだしてもいいルールだしな。ここが一番安全だ」
グランはそう言って鞄を叩いた。
「さて、ここから先は一歩も行かせない。全員ここで戦闘不能になってもらおうか」
グランがそう宣言した瞬間、蒼白銀の魔力が彼の両手に纏われ、胸の前に構えられる。
一歩離れてみていたクローディアはいち早くそれに気づいて叫んだ。
「あれは!皆さんすぐに距離を取ってください!」
グランは、以前トレースとクローディアに聖域の第二層で見せたオリジナル技の名を叫ぶ。
「魔導空閃斬!」
回転しながら飛び上がり、両手を放つように振り回す。
「召喚!」
セルフィリアが叫び、みんなを守るように黒龍を召喚すると後ろへ飛んだ。
その瞬間、グランの周囲でギャリギャリギャリと不可視の斬撃の嵐が吹き荒れる。
黒結晶の黒龍がグランに背を向け、みんなを包み込み、体を丸めて皆を守る。
そして斬撃の嵐が終わった後、黒結晶が無残に剥がれた黒龍はどさっと崩れ落ちた。
セルフィリアは黒龍の頭を優しく撫でて声をかける。
「よく頑張ったね、皆を守ってくれてありがとう」
黒龍も一度だけ首を上げて皆の無事を確認し、安心したかのように亜空間へと消え去っていった。
一方、グランはアンサートーカーと脳内で会話をしていた。
『マスター、飛ばし過ぎです。今のステータス値ではあと数回しか魔法は使えませんよ』
(いや、これでいい)
グランは心の中で返し、さらに続ける。
(これで『俺を倒さなければならない』と強烈に印象付けたはずだ。よもや皆が手薄になった敵の拠点に向かっているとは、夢にも思わないだろう)
アンサートーカーも同意する。
『確かに、マスターが一人でここで防衛しているということは、他の戦力は拠点に温存していると思わせることもできますね』
今までオリジナル技は『蒼白銀の翼』の鍛錬の時も時折見せていたが、これほど躊躇なく大技を使うグランに対して七人は冷や汗をかいていた。
自分たちの目標であり、その遠い背中を目指して日々鍛錬し、強くなったと自負していた彼女たちだったが、愛しい人がまだまだ遠い存在なのだと改めて思い知らされる。
四聖華はリンク・ウェポンをフル起動し、セルフィリアもリンク・ウェポンの黒剣を構えて魔力を練り込む。
オリヴィア王女は魔法陣をこれでもかと多重起動する。
そして夏合宿で魔法適性が正常に戻ったクローディアも、自身の最適性である炎と氷の魔法をそれぞれ片手に纏わせた。
グランは不敵に笑って告げる。
「さあ、始めようか」
蒼白銀の魔力を全身に纏うと、目にもとまらぬ速さでクローディアに詰め寄る。
クローディアは両手に纏った炎と氷の魔法を放つが、グランに容易く躱され、強烈な一撃を叩き込まれる。
クローディアは咄嗟に障壁を張ったが凄まじい衝撃と共に後ろへ吹き飛び、彼女のライフゲージはごっそりと減り、あと一撃でも受ければ戦闘不能となる状態に追い込まれた。
しかしその隙を逃さず、ディアドラがグランに肉薄し、未来視を使いながら剣を振るう。
しかし、グランはディアドラに対して『魔導瞬天撃』を放った。
それを避けるつもりだったディアドラだが、グランのステータス値がいつもより強くなっているせいか見切りを誤り、まともに攻撃を食らってしまう。
かろうじて障壁が間に合ったが、ライフゲージの減少は残り三割程度まで減っていた。
続いてオリヴィアが多重起動した全属性の魔法を放つが、グランは『サンクチュアリー』を発動し、すべての魔法を防ぎ切る。
そして、魔法が終わると同時に結界を解き、オリヴィアに向けて『プレッシャー・カノン』を放つ。
そこにエルスメリアが立ち塞がり、シールドバインダーを前方に展開した。
さらに莫大な魔力を込めて、強固な障壁を張る。
だが、そのシールドバインダーすらも破壊され、エルスメリアとオリヴィアは衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。
その直後、ソフィアとルヴィリスが展開していたビットで攻撃の隙を狙うが、『イージス』によって防がれる。
逆にグランが放った蒼白銀の魔力弾の連射を浴びて二人はなんとか障壁を張ったが簡単に破られライフゲージをゴリゴリと削られる。
セルフィリアは魔力を極限まで溜めた『オーバーエンド』でグランに斬りかかるが、グランは魔力の刃を両手に纏ってそれを受け止めた。
しかし胴体ががら空きになった隙を見逃さず、ルヴィリスとソフィアが捨て身で近づき、ルヴィリスは剣を突き立て、ソフィアは双戟を薙ぎ払うように振るう。
グランはそれを『イージス』で受けるが、魔力の限界かわずかにダメージが入った。
そして残りの者たちはこの一瞬の隙を逃さず彼に肉薄し、エルスメリアはランスを、ディアドラは長剣を、オリヴィアは魔力を纏った手刀を、最後にクローディアが氷を纏った手刀で、皆必死になって一斉に彼を串刺しにする。
「がはっ!見事だ……」
グランはそれだけを言い残し、その場で崩れ落ちた。




