第111話:修練会対抗戦
修練会対抗戦の一週間前、学園の会議室には各修練会の代表者たちが集まっていた。
『獅子の盾』や『白光の杖』といった大手の修練会を筆頭に、中堅どころの代表たちもすでに席に着いている。
しかし、会議室の空気はどこか落ち着かず、皆が少しソワソワとした様子で入口を気にしていた。
理由は明白であり、今年の対抗戦の中心となる『蒼白銀の翼』がまだ姿を見せていないからだ。
『獅子の盾』の新たなる主将は少し苛立ちを滲ませていたが、まだ決められた集合時間にはなっていないため何も言うことができずにいる。
そして『白光の杖』の主将も、去年の修練会対抗戦で彼らの規格外の強さを痛いほど味わっていたため、苦虫を噛み潰したような顔でただ静かに待っていた。
この場にいる誰もが、対抗戦の行方が『蒼白銀の翼』に握られていると嫌でも理解している。
しかも、彼らの実力は去年と比べても遥かに強大なものへと成長しており、それに加えて優秀な新入生まで加入しているのだ。
他の修練会の代表たちは、正直なところ自分たちが勝つヴィジョンが全く見えなくなっていたのだった。
そして、集合時間のギリギリでグランとルヴィリスが姿を現す。
「すみません、少し遅れまして」とグランは皆に聞こえるように言い、ルヴィリスも続いて謝罪する。
学園長と大会実行委員の教官たちは、「時間はまだ過ぎていない」と言い席に着くように促した。
二人は最後尾の空いている席に、隣同士に座る。
そして学園長が全員集まったから対抗戦の会議を始めると言い、「まず、今年は『蒼白銀の翼』は二つに分かれ、各七名での参加となる」と告げた。
それを聞いた各修練会の代表者からどよめきが起こる。
『獅子の盾』の代表者は学園長に、「それでは我々の代表人数も七名でしょうか」と問う。
学園長は「いや、これからその議題を決めていきたい」と言い、各修練会で代表者を出し例年通りのサバイバルにするか、それとも去年と同じで連合を組むか、そこを話し合いたいと提案した。
それを聞いた代表者たちは一気に不快な表情になるが、現状同じ人数で勝負したところで相手にならないのは嫌でもわかっていた。
むしろ最大の敵であった『蒼白銀の翼』がなぜか分裂したのなら、勝機はまだあると彼らは感じる。
各代表者同士が話し合いをする横で、グランとルヴィリスは静かに待っていた。
しかしルヴィリスは、時折見えないところでグランの体に触ったり手を繋いだりしてグランを弄んでいた。
グランは呆れながらも、なすがままにされていた。
脳内のアンサートーカーも『変に抵抗してバレたほうがリスクが高いですよね』とおちょくってくる。
そしてしばらく経ち、話し合いを終えた代表者たちが席に着くと、『白光の杖』の代表者が皆を代表してまとめた意見を述べる。
「今回は各修練会の代表者で対抗戦をしたい。そして、参加人数は修練会の全員ということにしてもらいたい」
ルヴィリスはそれを聞き少し驚いたが、グランはなかなか思い切ったなと感心する。
対抗戦の実行委員からは少しやりすぎではないかと意見が出たが、学園長はそれでいいと頷く。
「今まで代表として選ばれた人間はともかく、代表でなかったにしても予想外の活躍をする場合もある。戦争とはそういうものだ。そして、いつも使っている遠征地も広さ的にまだまだ余裕がある。今年は各修練会全員で参加というルールにしよう」
さらに学園長は、「ただ、そのルールだと人数の少ない修練会などが不利になるから、修練会同士の連合で申請してもいい」と付け足す。
中堅の修練会はそれを聞き安堵の声を上げ、さっそく連合先を探そうと心に決めた。
「そして『蒼白銀の翼』には特別ルールとして、対抗戦中の戦闘不能からの復帰は一度のみとする。逆に、他の修練会は復帰時間をいつもより短くする」
さすがに舐められすぎだと思った『獅子の盾』と『白光の杖』の代表者は異議を唱えようとする。
だが学園長が、「開始と同時に広範囲殲滅魔法を撃たれて、一日目でフラグを全部取られる可能性もあるぞ」と指摘すると、二人は大人しくなった。
「そして『蒼白銀の翼』のフラグは得点に特別な加算をつける。もちろん、奪取すれば一撃で優勝もできるポイント加算だ」
グランは学園長の話を聞いて、中々大変な戦いになるなと気を引き締める。
ルヴィリスも全方位が敵になるのは去年と変わらないと内心で思っていた。
その後、会議は滞りなく進み、学園長が「一週間後の修練会対抗戦まで各々鍛錬を怠らないように」と締めくくった。
会議終了後、中堅や小規模な修練会の代表者たちは、同盟を組むための話し合いをするべくそのまま会議室に残っていた。
グランとルヴィリスが会議室を出ようと立ち上がると、『獅子の盾』と『白光の杖』の代表者が近づいてくる。
彼らは前回も共に代表者として参加していたため、『蒼白銀の翼』の強さがどれほど驚異的であるかを十分に理解している。
「去年は負けたが、今年は勝たせてもらうぞ」
彼らが宣戦布告すると、グランとルヴィリスも「こちらこそ負けるつもりはない」と返し、互いの健闘を祈った。
二人は演習場に戻って会議の内容をメンバーに伝え、グランが「当日は敵同士だが、今はまだ同じ修練会のメンバーだ」と声をかけると、皆は互いに協力し合いながら鍛錬に励んだ。
そして修練会対抗戦の当日、グランは事前にチーム分けをしていたメンバーたちと共に自陣の拠点へと到着した。
マルクがグランに話しかける。
「前回はお前がルヴィリス様を司令官として指名したが、今回は誰がやるんだ?」
「今回は俺がやる。だが、俺は特に細かい命令はしない。各々が必要だと思った行動はいちいち止めないし、自分の考えで動いてほしい。ただ、何をするかだけは事前に知らせてくれ」
それを聞いたベアトリクスが「じゃあ、私は自由に動いてもいいかな?」と尋ねると、グランは「いいぞ」と即答する。
マルクとカロンも、「じゃあ、俺たちもある程度は自由に動かせてもらうぜ」と続いた。
グラン以外のメンバーはそれぞれ話し合い、ベアトリクスはカロン、ニーナと、マルクはレキシ、トレースとスリーマンセルを組むことになった。
各々が他の修練会に殴り込みに行ってフラグを奪取しつつ、自陣の拠点を守るという作戦で行動するという。
グランは少し考えたが、「自分たちで考え抜いた結果なら止めるつもりはない」と許可を出し、「ただ、開始直後は全員一度防御に徹してくれ」と指示を出した。
マルクが理由を尋ねると、グランは真剣な表情で答える。
「四聖華と王女と皇女、それに正常になったクローディアが、開始直後に広範囲殲滅魔法をぶっ放してくる可能性が高い。それをまともに食らえばすぐに戦闘不能になって、俺たちはもう後がなくなるぞ」
それを聞いたマルクや他のメンバーも「確かに……」と顔を引きつらせ、「最初は防御に徹しよう」と全員が納得した。
しかし、ベアトリクスが「グランが景品なんだから、みんな本気出すよね!」と半分からかうように言うと、マルクとカロンも「全部お前のせいじゃないか!」と笑いながら軽口を叩いた。
一方、ルヴィリスたちは自陣の拠点で作戦を練っていた。
今回も司令官は満場一致でルヴィリスに決まり、セルフィリアも「司令官より前線で戦いたいわ」と志願する。
クローディアも「先輩方の指揮の執り方なども勉強したいです」と同意し、役割分担はスムーズに決まった。
ルヴィリスは作戦会議の中で、「今回は優勝すれば、グランに既成事実以外の願い事を何でも一つ叶えてもらえるわ」と皆に発破をかける。
それを聞いた全員は目の色を変え、「絶対に優勝しますわよ!」と凄まじい気合を入れた。
そして、最初に全員で広範囲殲滅魔法を順番に遠征地に撃ち込むという恐ろしい作戦が発表される。
四聖華が各々の得意属性を放ち、その後にオリヴィアが全属性の魔法をぶっ放す。
そして混乱した各拠点へセルフィリアとクローディアのツーマンセルが攻め込み、一気にフラグを回収するという作戦だ。
一度フラグを回収してしまえば、あとは防衛に力を入れるだけで最終日まで勝ち残れるという算段だった。
ただ、今回はあのグランが敵であるため、どう動くかは予想できない。
しかし、今回蒼白銀の翼は復帰が一度きりという制約がある以上、初日から派手に動くことはないとルヴィリスは踏んでいた。
「グランもああ見えて慎重なところがありますからね」と誰かが言うと、皆も「そうね」と頷く。
戦場に似つかわしくない、少し惚気話のような雰囲気になって和気あいあいとした空気が流れた。
そして開始十分前の信号弾が放たれ、皆は改めて気を引き締め直した。
やがて、修練会対抗戦の開始を告げる合図の信号弾が空に放たれる。
すると、まずルヴィリスが広範囲殲滅炎魔法『フレアエクスプロージョン』を放った。
その瞬間、遠征地の森は激しく燃え盛り、各地が一瞬にして炎に包まれる。
間髪入れずに、次はエルスメリアが広範囲殲滅風魔法『ハリケーンブラスト』を放った。
すさまじい暴風が炎の勢いを爆発的に加速させ、戦場の木々を次々と燃やしながらなぎ倒していく。
そしてディアドラは広範囲殲滅光魔法『シャイニングレイン』を発動し、強烈な光弾がまるで隕石のようにあたりに降り注ぐ。
続いてソフィアが広範囲殲滅氷魔法『フリーズエクスキューション』を唱え、すべてを凍らせた。
最後にオリヴィアが全属性魔法の『九界の落日』を唱え、ダメ押しのように全属性の衝撃波を放ち、すべてを無に帰す。
膨大な魔力の奔流が修練会対抗戦の遠征地を埋め尽くし、辺り一面は焼け野原となった。
しかし、今回はこれを予想してか遠征地には特殊な結界が施されていた。
学園長をはじめ、教官たちを総動員して作った結界のおかげで、遠征地は瞬く間に元に戻っていく。
ただ、魔法をまともに食らった他の生徒たちは戦闘不能となり、その数はほぼ全滅という形になった。
一方、グランたちは初めに防御魔法を最大限に展開していたため、無傷でやり過ごすことができた。
「グランの言う通りにしてよかった……本当にぶっ放してきたぜ」
マルクが冷や汗をかきながら言うと、ベアトリクスも苦笑いをする。
「開始と同時に飛び出していたら、あっという間に蒸発してたね」
レキシとニーナも「グラン君、愛されてるね」と呆れたように言い、トレースは「ここからが本当の勝負ですね」と気を引き締める。
グランは皆に合図を出した。
「じゃあみんな、ここは俺に任せて、各自自由に動いてくれ」
グランがそう言うと、六人は掛け声と共に一斉に飛び出し、敵の拠点へと向かっていった。
一人残されたグランに、脳内でアンサートーカーが問いかける。
『マスターはこれからどうするのですか?』
(みんなが帰ってくるまで、ここを守る)
『四聖華たちや王女、皇女、そしてクローディア様が一斉に攻め込んできたら、今のステータスだとさすがに厳しいのでは?』
(いや、今の感じだと、来てもセルフィリアとクローディアだけだ。あれだけの広範囲殲滅魔法を撃ったんだ魔力は余っていても精神負荷は相当なものだ、向こうは恐らく今日は拠点にこもるだろう)
別に攻め込んでもいいが、自陣のフラグは絶対に取られたくないため、今日は守りに徹するとグランは告げる。
アンサートーカーもその意見に同意し、グランは一人自陣で静かに成り行きを待つことにした。




