第109話:新たなる力
グランは気を取り直し、「次はソフィの番だな」と声をかける。
そしてグランは紅茶を淹れ直し、「ソフィの分が終わったらエルを起こして、みんなでお昼にしよう」と提案し、皆もそれに賛成した。
そしてグランは、ソフィアからチョーカーを預かり、リンク・ウェポンのメンテナンスとアップデートを行う。
脳内でアンサートーカーが『ソフィア様のアップデートはどのような形にするのですか?』と尋ねてくる。
グランは「武器とビットを増やす」と答え、ソフィアの戦闘スタイルにおける課題を語り始めた。
彼女は大規模に足場を凍らせ、前世のフィギュアスケーターのように華麗な動きで攻撃を繰り返すが、ハルバードや双戟だとどうしても手数が足りず、振った後の返しもワンテンポ遅れてしまうのだ。
その隙を解消するため、新たに両剣の機構を追加する。
ソフィアなら間違いなく使いこなせるはずだと確信し、さらにルヴィリスの時と同じ大きさのビットを四つ追加することにした。
常に魔力操作の鍛錬を怠らないソフィアの魔力制御能力なら、すぐに実戦レベルで使えるようになるだろうと推測し、アンサートーカーもその意見を肯定した。
しばらくして調整が終わり、ソフィアに完成を伝えて「皆にも見せるか?」と聞くと、彼女は「見せる」と頷いた。
タイミングよく目を覚ましたエルスメリアも合流し、全員で再び実験場へと足を運ぶ。
実験場の中央でグランがチョーカーを手渡そうとすると、ソフィアはぷくっと頬を膨らませて「もちろん、着けてくれますよね?」と要求してくる。
グランも仕方なくチョーカーを着けようと前に立つが、その作業中、ソフィアはあろうことかグランの唇に熱い口づけをしてきた。
それを見た五人が「ソフィ、抜け駆けはダメでしょ!」と非難の声を上げる。
しかしソフィアは「エルとはあそこまでしたのだから、これはもうスキンシップの一部です!」と堂々と言い張り、さらにグランの唇を塞いできた。
「ちょっと、動いたら着けられないだろう」
グランが窘めるものの、ソフィアは「着け終わるまではキスし放題です!」と完全に開き直り、さらに体に抱き着いてキスを繰り返す。
ようやくチョーカーを着け終わった頃には、他の五人からすさまじい形相で睨まれており、グランは本気で身の危険を感じていた。
グランは気を取り直し、コホンと咳払いをしてソフィアにリンク・ウェポンの説明を始める。
まず、新たに両剣を追加したことを伝えると、ソフィアは「両剣は使ったことがありません」と首を傾げた。
「ソフィの氷上の戦い方だと、今の武器たちではどうしても攻撃の合間に隙ができてしまう。今はそれを魔法で補っているが、やはり氷上で一方的に攻撃し、相手に反撃する暇を与えないためには両剣が最適だ。それに、まるで氷上を踊るように戦うソフィアの姿に一番合うと思って実装したんだ」
その理由を聞いたソフィアは、「グラン様が、私のためにそこまで……」と顔を真っ赤にして照れながらも、「必ず使いこなせるようにしてみせます!」と力強く宣言した。
続いて、遠隔攻撃用のビットを四つ追加したことを説明する。
ソフィアはさっそくその四つを同時に展開し、もともと使いこなしていたかのように空中で自由自在に動かし始めた。
時折、ビットから氷弾を打ち出したりしながら、新しい機能の使用感を的確に確かめていく。
グランがその滑らかな動きを見て「さすがだな」と感心すると、ソフィアは嬉しそうに「グラン様の魔力操作の極意の鍛錬のおかげです」とにっこり笑った。
「では、修練会対抗戦までに完璧に使いこなせるように頑張ります」
「ああ、楽しみにしてるよ」
そして、グランは「そろそろお腹が空いた頃だろ?」と皆に問いかけた。
朝にロールケーキを食べたばかりだが、お昼はどれくらい食べられるか聞くと、六人は「全然大丈夫!」と声を揃えて答える。
「何が食べたい?」と聞くと、四聖華の面々は食い気味に「もちろんカレー!」と即答した。
初めて聞く料理名に、オリヴィアは「カレーってなんですの?」と不思議そうに首を傾げる。
一方、セルフィリアは「ここでカレーが食べられるの!?」と驚き、グランが「帝国にはカレーがあるのか?」と尋ね返した。
「一応、帝国にもカレー専門店はあるわ。ただ、貴重なスパイスをたくさん使うから、なかなか食べられないのよね。グランが作れるなんて、すごく楽しみだわ」
オリヴィアは「スパイスをふんだんに使うなんて、とても高級な料理なのですね」と目を輝かせる。
グランは「いや、俺が作るのは一般家庭でも気軽に食べられるやつだぞ」と笑うが、オリヴィアは「スパイスなんて気軽に手に入るものではありませんよ」と返しつつ、未知の『カレー』という料理に興味津々な様子だった。
グランが厨房でカレーを作り始めると、六人はダイニングでテーブルのセットなどをして、和気あいあいと準備を手伝う。
出来上がったカレーを大皿に盛り付け、グランは皆の前に順番に配っていった。
食欲をそそるスパイスの香りがダイニングいっぱいに広がり、グランの「いただきます」の合図とともに四聖華たちは勢いよく食べ始める。
セルフィリアは一口食べた瞬間にハッと目を見開き、「帝国のものとはまた違うけれど、すごく美味しいし、いい辛さだわ!」と絶賛してスプーンを進めた。
オリヴィアは皆の反応を見て、恐る恐るカレーを口に運ぶ。
彼女にとっては少し辛かったようだが、「それでも食べられないほどではないし、とっても美味しいですわ!」と笑顔を見せ、見事にすべて平らげてみせた。
汗をかいているオリヴィアを見て、グランは「辛さはもう少し抑えることもできるから、今度は口に合わせたものを作るよ」と優しく告げる。
するとオリヴィアは、「私だけのカレー……とてもいい響きですわね」と頬を染めてうっとりした表情を浮かべた。
それを聞いた他の五人がすかさず「私も専用で作って!」と一斉にねだり始める。
グランは「一人一人辛さを調整していたら鍋がいくつあっても足りないだろう。これからはベースを少し甘めに作って、後から各自で辛さを調整できるようにするから」と提案し、なんとかその場を丸く収めた。
食事が終わり、次はディアドラのリンク・ウェポンのメンテナンスとアップデートを行うことになった。
グランはディアドラからチョーカーを預かり、さっそく作業台に向かう。
脳内でアンサートーカーが『ディアドラ様のアップデートはどのように行うのですか?』と問いかけてきた。
グランは「ディアドラのリンク・ウェポンは既に一つの完成形に達している」と答え、やるとすれば内部機構の調整と機能追加くらいだと告げる。
ソードビットをこれ以上増やす必要もないし、ディアドラはもともと次期剣聖と呼ばれるほど高い剣術の腕前を持っている。
変に違う武器を持たせて、その研ぎ澄まされた剣術の勘を鈍らせるべきではない。
だからこそ、彼女の長所をさらに伸ばし、既存のビットの機能を拡張するのだという。
アンサートーカーが『具体的にはどのような機能を?』と尋ねると、グランは「ソードビットという攻撃特化のイメージを覆し、防御機能を追加する」と答えた。
「前世のアニメで見た、ビットを展開して結界を張るような使い方だ」
『なるほど、理にかなった使い方ですね。それならば、内蔵しているダイヤモンドの質をさらに向上させなければなりませんね』
グランは「ああ、その通りだ」と頷き、ビットに装着されていた魔石化した宝石を取り外していく。
内蔵されているダイヤモンドにはディアドラ自身の魔力がまだ色濃く残っているため、グランはそれを用意した大型の魔力容器へと慎重に移し替える。
そして、外した古いダイヤモンドと、新たに聖域の第六層でジュエルゴーレムを乱獲して手に入れた最高品質のダイヤモンドを、強大な蒼白銀の魔力と錬金術で融合させた。
すると、凄まじい輝きを放つ特大のダイヤモンドが作業台の上に現れた。
グランは錬金術と鍛冶の技術を極限まで駆使し、その特大ダイヤモンドを緻密に加工、分裂させていく。
限界まで純度が上がり、さらに強靭になった魔石を、それぞれのソードビットとメインの剣にしっかりと埋め込んだ。
最後に、容器へ一時的に避難させていたディアドラの魔力を新しい宝石へとゆっくり流し込み、ついにアップデートを完成させた。
そして作業が終わり、ディアドラを呼びに行くと、彼女も「皆にも見せよう」と答えた。
六人は連れ立って実験場に行き、グランはチョーカーを着けるように促される。
ディアドラは「当然のようにみんな着けてもらっているんだ、私にももちろん着けてくれるだろう?」と要求し、グランも仕方なしに前に立つ。
しかし、さっきのソフィアの件があったからか、ディアドラも人目を気にせずグランの唇を奪ってきた。
皆がブーイングする中、彼女は「ふふっ、役得だな」と笑い、着け終わるまで何度もキスをしてくる。
グランは必死に気を取り直し、アップデートの説明を開始した。
「ディアのリンク・ウェポンは既にほぼ完成形だ。これ以上ビットを増やすなどしても大して強化されない」
ディアドラもそれは分かっていたのか、静かに頷く。
「だから、ソードビットに防御機能を付けたんだ」
ディアドラはさっそくソードビットを展開する。
そしてグランの言う通り、三つのソードビットを動かして結界を張るイメージを思い浮かべた。
すると、ソードビット同士が光の線で繋がったかのように結界を張り、強固な三角の障壁が展開された。
もちろん、展開するビットの数を増やせば、その分だけ結界の形や大きさ、耐久性も変化する。
ディアドラは魔石が新しくなったことにも気づいており、魔力の蓄積量も増えたことを感じ取っていた。
「これなら『魔導無双剣』を放っても、魔力が枯渇することはなくなるな。あとはソードビットのこの障壁を使いこなせるようになるだけだ。……本当に感謝する、グラン殿」
ディアドラは満足げに微笑み、グランに深く一礼した。
「そして最後に、ルヴィリスのメンテナンスとアップデートを行う」
グランがそう告げると、ルヴィリスは名残惜しそうにチョーカーを外し、グランに手渡した。
「これが終われば今日の作業はすべて終了だ。みんなには長い時間待たせているけれど、すまないな」
グランが謝るが、六人は「グランと一緒にいられるだけでいいから、気にしないで」と微笑み返す。
そして彼女たちは、引き続きお茶会を楽しみながらグランの作業を待つことになった。
ルヴィリスのリンク・ウェポンを預かったグランは、作業台に向かいながらアンサートーカーと対話する。
『ルヴィリス様の強化はどうするのですか? すでにビットを追加していますが』
(ビットの数を二つ増やして、合計四つにする)
『それなら初めから四つにしておけばよかったのでは?』
(ルヴィは一気に追加するよりも、段階を踏んで慣れてからのほうが、もっと新しい使い方を閃いて使いこなすタイプなんだ)
『確かに、彼女にはその傾向がありますね』
(一つ一つ丁寧に理解を深めていく性格だからな。結果的にそうしたほうが確実に伸びる)
アンサートーカーもその育成方針を認め、グランは魔石化したすべてのルビーを新調し、新たにビットの機構を組み込んでいく。
そして昼も過ぎ、夕方に差し掛かる頃、ついにすべての作業が完了した。
グランはルヴィリスを呼びに、お茶会をしている待機スペースへと向かう。
そしてルヴィリスに「みんなに見せるか?」と聞くと、彼女は「……いえ、今回も見せませんわ」と首を振った。
魔導大会のエキシビジョンマッチの時も秘密主義を徹底していたからな、とグランは納得したが、エルスメリアがジト目でルヴィリスを追及する。
「ルヴィ、まさか二人きりになってグラン君を堪能するつもりじゃないでしょうね?」
図星を突かれたのか、ルヴィリスが目に見えて慌てふためき始めた。
ハッとした他の四人が「観念しなさい!」とルヴィリスに詰め寄り、結局全員が無理やり実験場へついてくることになった。
目論見が外れて目に見えて気落ちするルヴィリスを見て、グランは彼女の首にチョーカーを着ける際、他の者には聞こえないように小声で囁いた。
「今日終わったら、ちょっと残ってくれ」
それを聞いたルヴィリスは少しびっくりして、顔を真っ赤に染めた。
そして実験場にて、グランからアップデートの説明を受ける。
「ビットを二つ追加して、魔石も最高品質のものに交換しておいた」
ルヴィリスはさっそく弓と剣を展開し、新しい四つのビットを宙に浮かせる。
そして自由自在に動かしながら魔法を放ったり、ビットに防御魔法を乗せて展開したりと、見事に使いこなしてみせた。
「さすがに慣れるのが早いな」
グランが感心すると、ルヴィリスは「ずっと練習していたから」と誇らしげな笑顔を見せた。
こうして全員分のアップデートが完了し、グランは「今日はこれで終わりだ」と告げた。
それを聞いた四聖華と王女と皇女は、「お疲れさま」とグランを労い、しばらくお茶会を楽しんだ。
その後、グランは「さあ、今日はそろそろみんな帰ろうか」と声をかけ、解散することになった。
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現在154話まで執筆済みです。7月は1日2話の投稿ペースを維持していきたいと思います。
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