第103話:世界の衝撃
二学期が始まると同時に、四侯爵家による共同発表が行われた。
その内容は、聖域の第四層を踏破したという事実と、聖域に関する詳細な情報の公開であった。
大陸中の各国はおろか王国の上層部ですら、最初は誰もその発表を信じていなかった。
しかし、四侯爵が第四層のボス『ヨルムンガンド』の魔石を戦利品として王国博物館で期間限定公開したことで、事態は一変する。
その常識外れな魔石の存在により、世界はそれが紛れもない真実であると認識せざるを得なかったのだ。
各国のトップ層や名だたる実力者、高位貴族たちはこぞって王国を訪問し、その魔石を目の当たりにするや否や自らも聖域の踏破を目指そうと息巻いた。
だが、公開された資料に記載されていた「聖域の戦利品は第四層を踏破して初めて持ち帰ることができる」という条件に、彼らは二の足を踏むことになる。
それでも諦めきれない各国は秘密裏に調査隊を派遣し、聖域の第一層を踏破して戦利品を収納魔法に入れて持ち帰ろうと試みた。
しかし、聖域の外へ出たと同時に戦利品は霧散して消滅してしまった。
ならばと聖域内で加工するなど様々な手段を試したものの、結果は全く同じだった。
さらに、運良く第二層を突破した者たちも、資料の通り特定の者しか入れない第三層『凪の里』には誰一人として入ることができなかった。
彼らはそのまま第四層へと足を踏み入れたが、そこで待ち受けていた魔物の桁違いの強さに対処しきれず、各国の実力者たちに多数の犠牲者が出る事態となった。
この凄惨な結果を重く見た各国は、即座に聖域の踏破計画を中止する。
そして、聖域の攻略において王国に完全に一歩先を行かれているという事実に、各国はただ歯がゆさを噛み締めることしかできないのだった。
『聖域への侵入者は、見事にぴたりと止まりましたね』
(これで少しは落ち着くだろうな)
今日は蒼白銀の翼の演習が休みだった。
グランは四侯爵から夫人たちのアクセサリー代を受け取るため、王都にある高級サロンに招待されていた。
さすがに相手が四侯爵とはいえ、一人で高級サロンに行くのは心細かったため四聖華に相談すると、全員がもれなく行くと言い出した。
「じゃあ、みんな頼りにしているよ」
グランがそう言うと、四人はとても嬉しそうに頷いた。
そして高級サロンに到着すると、入り口の警備が四聖華を見て恭しく礼を尽くす。
さらにグランを見るや否や、少し緊張した様子で同じように丁寧な案内をしてきた。
グランが少し警備と話をしてみると、侯爵たちから「平民の者が来るが、決して無礼のないように礼を尽くせ」と厳命されていたらしく、グランは侯爵たちの気遣いに深く感謝した。
案内された部屋に入ると、そこにはすでに四侯爵が待っていた。
「ほう、娘たちまでついてくるとはな」
ヴァレンタイン侯爵が少し驚いた様子を見せる。
「高級サロンで万が一粗相があって、侯爵様たちにご迷惑をおかけしてはいけないと思い、ついてきてもらいました」
「ははは! そんなこと気にする必要はないぞ」
そしてグランは約束のアクセサリー代を受け取り、しばらくの間なごやかに雑談を交わした。
ふいに、ヴァレンシア侯爵がグランに尋ねる。
「あの発表以降、おそらく各国が秘密裏に聖域へ入ったと思うが……結果はどうだったんだ?」
「第四層はやはり突破できず、多数の犠牲者が出たようです」
グランの報告を聞き、四侯爵は少し考え込んだ。
「やはり、グランの案内があったからこその踏破だったな」
ヴァスティール侯爵がそう言うと、他の侯爵たちも頷いて肯定する。
「いえ、案内がなくても侯爵様たちの実力なら間違いなく踏破できていましたよ。これはお世辞でも何でもありません」
「そうか?」
「去年俺が教えた『魔力操作の極意』を、侯爵夫妻はずっと続けておられましたよね?」
「グラン君のその圧倒的な強さの秘密がこれにあると言われれば、必ずやるだろうさ」
ヴァーミリオン侯爵が笑うと、隣に座る四聖華たちも「私たちを強くしたのもグランの教えよ」と自慢げに胸を張った。
「最初の段階である『グランに魔力を直接流してもらう』という工程、あれを他の者にもできれば、さらに王国の戦力を増やせるんだがな」
「あれをむやみに皆へ施してしまうと、おそらく各国が力をつけすぎて戦争が起こるかもしれません」
「……確かに、あの鍛錬方法を広めてしまうと今までの常識が根底から覆されるからな」
ヴァレンタイン侯爵も真剣な表情で頷いた。
「よからぬ者がその力を手にしてしまえば、世の中は混乱するだろう。これはあくまで抑止の力として留めておくべきだ。心配するな」
「俺も、本当に信頼できる者にしか教えないつもりです。今まで教えた人たちは、全員がその『信頼できる者』ですから」
グランの真っ直ぐな言葉に、侯爵たちは満足そうに笑みを浮かべた。
その後は再び和やかな談笑に戻ったが、侯爵たちが突然悪ノリを始める。
「お前たち、絶対にグラン君を落とせよ?」
「ええ、必ず!」
親の前で堂々と宣言する四聖華たちに挟まれ、グランは一人、酷く居心地の悪い思いをするのだった。
高級サロンを出た後、グランはその足で四聖華たちと一緒に久しぶりの街へと繰り出した。
みんなで王都の通りを歩きながら談笑し、四聖華たちも久しぶりのグランとの逢瀬を心から楽しんでいる。
彼女たちは嬉しそうに王都の様々な店を巡り、賑やかで充実した時間を過ごした。
そして一週間後。
学園にて、ルヴィリスが去年と同じように自身の誕生日会の招待状をグランへと手渡してきた。
去年一度経験しているとはいえ、やはり少し緊張した面持ちのルヴィリスだったが、グランは「もちろん参加するよ」と快く返事をする。
その言葉を聞いたルヴィリスは、パッと花が咲いたような満面の笑顔を浮かべた。
「ありがとう! もちろん、去年と同じで送迎の馬車も泊まる部屋も用意しておくわ」
「馬車はともかく、部屋は別にいいんじゃないか?」
「夜遅くまでパーティーがあるのだから、ゆっくり休んでから帰ればいいわ。それに、今回は私も翌日に一緒に学園へ帰るつもりだから」
「……わかったよ。仕方がないな」
グランが苦笑しながら頷くと、ルヴィリスはさらに嬉しそうに微笑むのだった。




