第39話 覗き見て 覗き見られて
中学の頃、急にテレパシー能力に目覚めた。
自分に関係する心の声だけが聞こえてくるという気持ち悪いこの能力が嫌いだった。
私はチビで貧乳で眼鏡で三つ編みで根暗で。
人から好かれる所なんて皆無の人間だったから。
聞こえてくるのはいつも悪意の言葉。
耳を塞いでも勝手に人の声が聞こえてくることが苦痛で仕方がなかった。
だけど高校に入ってからは私に対する悪意の言葉は減った。
むしろ肯定的な意見もちょっぴりあって驚いた。
「(委員長。いつも号令の時に声震えていて可愛い~! なんか守ってあげたくなっちゃうよぉ)」
「(氷室さん。難しい問題をあんなにスラスラ解くなんて。頭いいんだな。字もきれいで黒板見やすい)」
「(今日も莉々ちゃんは氷室さんと一緒なんだ。あの二人の会話、いつも楽しそうで羨ましいな。氷室さんユーモアあるから莉々ちゃんも楽しそう)」
クラスメイト達は優しかった。
それに私が頑張れば頑張るほど褒めてくれることが分かった。
だから前向きに行こうって思えたのに……
——「キミは他人の心を覗き見ることができるんだな?」
彼の言葉が一瞬で私を中学時代に逆行させた。
この力が大嫌いだった頃の私。
「心の中を覗き見している女なんて……嫌だよね」
心の中の言葉はその人だけのものだ。
誰もが隠したくなるようなことを皆心の中で常に囁いている。
だからこそそれを他人が聞くなんて在ってはならない。
在ってはならないことを……私はやってしまっていたんだ。
「広井君に……合わせる顔がない……」
布団をかぶってワンワン泣き散らす私。
布団の中には暗い闇が広がっていて、今の私の心をそのまま映し出しているみたいだった。
【main view 広井サトル】
「起立……礼……」
欠席したミキティの代わりに俺が号令をする。
今日で二日連続の欠席だ。
たぶん、風邪とかではない。
きっと精神的に参ってしまっているのだと予想した。
「(俺の……せいだ)」
ミキティが休んだのはあの日の出来事が在ってからだ。
俺はミキティの触れてはいけない領域に踏み込んでしまったのだ。
「(心配だ……けど……)」
彼女のことが心配で仕方がない。
ミキティが今どんな状態なのか、直接会ってみて話を聞きたい。
だけど、俺自身も精神的に不安定になっていた。
「(心の声が……聞かれていた? 俺の気持ちはとっくに筒抜けだった?)」
未だに自分の仮説が信じられない。
所謂テレパシー能力というのだろうか。
ミキティにそんな漫画みたいな能力が備わっているだなんて……
だけどそうでなければ理由が付かない。
俺の心が読まれていなければ知れるはずのないことを彼女は知っていたのだから。
「(俺の心の声を聞いていてミキティはどう思ったのだろう?)」
そんなの決まっている。
——気持ち悪い。
俺は俺自身の心の声の気色悪さに気づいていた。
気づいていながら治そうとはしなかった。
だって心の中くらい欲望に塗れていても誰にも迷惑を掛けたりしないはずなのだから。
だから俺は軟派な自分を心の中に飼っていたんだ。
でもミキティはそんな俺を見つけ出していた。
恥ずかしい部分を見られてしまっていた。
俺は……
「(格好悪い部分を……見られたくなかった……)」
俺はこの恋をゆっくりと成就させるつもりだった。
でもそれは最初から叶わぬ願いだった。
こんな気持ち悪い内心を秘めている男を好きになるはずなんてないのだから。
「あの……広井君……ちょっといいかな?」
「えっ?」
名前を呼ばれて声がした方を見ると、席子と花宮さんが神妙な面持ちでこちらを見つめていた。
「未希ちゃんのことで相談したいことがあるの」




