第35話 藤代莉々はなぜか今日も巻き込まれる
「席子ちゃん。今日は相談があって呼んだんだ」
「うん。そうだと思った。何々? なんでも相談に乗るよ」
学校が終わると、私は席子ちゃんを自分の部屋へと呼んだ。
こういう相談って恥ずかしいな。
私はモジモジとしながらボソッと囁くように言葉を出した。
「……す、好きな人についての……相談で……」
「ああ。やっぱり広井君関係だったんだ。そうだと思ったよ」
納得したような表情のまま茶をすすり出す席子ちゃん。
「ちょ、ちょっと待って!? 私、『好きな人』としか言ってないよ!? なんでそれが広井君だと分かったの!?」
「あんだけ好き好き光線を出していたらどんなに鈍感な人だってわかるからね」
えっ? うそ? 私がそんな光線を広井君に出していたの?
え? 広井君が私に出していたんじゃなくて? 私が? 私から?
「うぅぅ。恥ずかしい。席子ちゃんにすら私の気持ちがバレバレだったなんて」
「未希ちゃん段々私に対して遠慮なくなってきたな。人を鈍感の塊みたいに言うな」
私ってそんなにわかりやすいのか。
やはり気持ちを自覚してしまうと行動もアグレッシブになりすぎてしまうらしい。
これからは周りの目も気にしていかないと。
「未希ちゃん、一目惚れだったでしょ~? 入学式の頃から広井君のこと気にしていたもんね」
「うそぉ!?」
えっ? 待って。
なんでそんな時期から私が彼を好きだったことになっているの?
確かに気になる存在ではあったけど……
「席子ちゃん。私が広井君を“好き”と気づいたのは昨日だよ? だから残念ながらその推理は間違っているからね」
自陣満々に言葉を返す私に対し、席子ちゃんは呆れた表情で手をブンブン振り出した。
「いやいやいや。キミら最初から桃色空気出しまくっていたからね。ていうか恋心自覚したの昨日て。どれだけ自分の気持ちに鈍感なんだよ。私の方が未希ちゃんの気持ちに聡かったみたいだね」
「うそぉ!?」
私ってば最初からそんな空気出していたの?
そういえばやたら席子ちゃんがニヤニヤしながら私達を眺めていたような気がする。
今思い返すと恋愛に初心な私を見て楽しんでいたように思えた。
「それで? 肝心の相談って何かな? ようやく恋心に気づいた可愛い未希ちゃん」
「うぅ……」
からかわれているような態度に膨れる私。
でも席子ちゃんの目は優しくて、まるで赤子を見つめているかのような母性に溢れていた。
「あ、あのさ。私が広井君を好きなのは置いといて、広井君も私のこと好きじゃん?」
「……うわぁ。自己評価たっけぇ」
「別に自意識過剰じゃないもん。絶対そうなんだもん」
こればかりは確信を持って言えるのだ。
「まぁ、私から見て仲は良さげには思えるよ」
「うん。私達相思相愛なんだよね」
「……うわぁ」
引いたような表情するのやめてよ。
私が痛い子みたいじゃないか。
「だ、だからさ。どちらかが告白すれば上手くいくと思うんだ」
「順風満帆確定みたいに話すねキミ。じゃあ悩みなんてないんじゃない? なんで私ここに居るの?」
悩みは、ある。
それも席子ちゃん当人も関わりあることが。
「で、でもさ。広井君と私が好き同士みたいに、もしかしたら席子ちゃんと広井君も両想いかもしれないって思っちゃって……」
「はぁ?」
「だ、だってぇ! 席子ちゃんがベタベタしているのに広井君振り払おうとしないんだよ!? 好きって気持ちがないならもっとハエを払うみたいにするべきじゃない!?」
「ハエ扱い!?」
「そ、それに、席子ちゃんも広井君以外の男子にはあまりべたべたしないじゃない? だ、だから、その、もしかしたら、広井君のこと好きなんじゃないかなって……」
席子ちゃんはクラスメイト全員と仲が良い。
だけど特定の男子に対してボディタッチまで許してはいない。
その辺の一線はしっかり引いている子なのかなと思っているのだけど、広井君にだけはそのラインが薄まっているように思えたのだ。
「気になってる——」
「……!?」
やっぱり……そうだったんだ。
薄々は気づいていたけれど、実際に言われるとダメージが大きい。
でも——
「せ、席子ちゃん、可愛いし、明るいし、私とも仲良くしてくれている人だからとは思うけど、こ、こればっかしは譲れない……です。広井君は私のもので……それで……!」
「——って言ったらどうするぅ?」
ニヤニヤと表情を緩める席子ちゃん。
からかわれたと悟った瞬間、私は席子ちゃんの胸をぽかぽか叩いた。
「私にも渡したくないくらい好きなんでしょ? だったらもう答え出ているじゃん。さっさと自分のモノにしてきなさい」
「で、でも、友情が崩れるかもって思ったから、先に席子ちゃんに言っておきたくて」
「崩れるほどの積み重なった友情なんて私達にあったっけ? まだ出会って3ヶ月だよ?」
「そうだけども!?」
「まっ、安心しなさいな。私は広井君のことは友達以上に思ったことはないし、絶対あっちもそう思ってる。距離が近かったのは私も反省するよ。これからは未希ちゃんが嫉妬しない程度にしておくね」
「嫉妬しないギリギリのラインで近づいていきそうだ!?」
でも席子ちゃんの言葉を聞けて安心した。
席子ちゃんの件は杞憂で済んだ。
「あとは花宮さんか……」
「花宮ちゃん?」
「うん。彼女にもお話しておく」
「……あー、それがいいかもね」
席子ちゃんも察しがついているようだ。
花宮さんも広井君のことが好きだってことを。
「花宮ちゃんは未希ちゃん以上にわかりやすかったもんね。うん。これからも花宮ちゃんとギスギスしたくないのであれば気持ちをぶつけあった方がいいのかもしれないね」
「……うん。明日学校で話してみるよ」
広井君と気持ちを通じ合わせる為の試練は続く。
きっと明日は今日以上に荒れることだろう。




