第34話 たくさん攻める
登校途中、私は広井君の後姿を見つけた。
「(広井君……)」
気持ちを自覚して初めての彼との邂逅。
「(広井君……だぁ……)」
やばいなぁ。後ろ姿だけでも彼が煌めいて見える。SSRカード並に輝いている。
私は広井SSRをその手にゲットする為に彼にゆっくりと近づき……
「ひーろいくん!」
彼の背中に飛びついた。
「(み、ミキティー!! ミキティーーー!? ミキティィィィっ!!!???)」
突然の私の行動に彼の心の声も語彙を無くしている様子だった。
そして取り乱しているのは私も同じだった。
広井君の体温、広井君の匂い。
飛びついておいてなんだけどこれは中々心臓に悪い。
「お、おお、おはよ。広井君。いい天気だね」
「(み、ミキティの肌が! 控えめな胸が! ミキティの声が耳元でぇぇぇ!)」
私に触られて喜んでくれているようだ。
「お、おはよう、ひ、氷室さん。え、えーっと……」
どうしたらよいのかわからないといった様子で右往左往視線を動かす広井君。
照れてくれていることがよく分かり、私も嬉しくなった。
私はピョンっと彼の背中から飛び降り、彼の腕に自分の腕を絡ませた。
「いやー、暑い暑い。今日も陽気がすごいね」
「(暑いのはミキティが触れてくるからでは!? 今日のミキティいつにもまして距離が近いぃぃぃ! うおぉぉ! ミキティー!!)」
うんうん。これこれ。これがないと一日が始まらない。
いやー、好きだなぁ。私本当に彼が好きだ。全力で照れてくれるところとか可愛すぎる。照れながらも一切嫌がろうとしないのがもう嬉しすぎる。
「あれ? 広井君、ワックス変えた? なんか頭の感じ違うね?」
「あ、ああ。ちょっとツヤ感出るハードなやつに変え——うぉぉ!?」
「本当だー。ツンツンしてるね。似合ってるよ」
私は勝手に彼の頭に手を伸ばし、ツンツンの髪をつんつん突く。
その感触が気に入ってしまい、私は軽く彼の頭を撫で始めた。
「(ミキティが髪を触ってくれてるぅぅ! ていうか頭を撫でてくれてるぅぅ!? ワックス変えてよかった! ツヤ感ハード一生お前を使うからな!!)」
「って、ごめんごめん。せっかくの格好良いセットが乱れちゃうね。勝手に触ってごめんね」
「ぜ、全然かまわないぞ」
広井君の顔が赤い。
あー、よく考えたら私、広井君にナデナデしていたのか。
「代わりに広井君も私の髪に触っていいよ」
「どうして!?」
「実はシャンプー変えたんだ。キミが好きそうな香りを選んだんだよ」
「好きそうな香りを選んだ!?」
「さっ、撫でて嗅いでみるがいい~」
頭のてっぺんを彼に向けて差し出す。
我ながらちょっぴりアピール過剰だったかな?
でも決めたんだ。アプローチするって。
彼にはもっともっと私色に染まってほしいから。
「(み、ミキティの頭がすぐ近くにあるぅぅ!? 頭ちっちゃい! いい香りするぅぅ! 髪やわらか! 一本一本が細くて絹のような手触りで……って、俺は何を自然にミキティの髪を触っているんだ!? いかん! いかんぞ俺の右手! 右手ぇぇ! みぎてぃ!)」
「えへへ」
「(どうしてそんなに嬉しそうに笑っていられるんだミキティぃぃぃ!)」
これ、思ったよりも嬉しいな。
照れくさいけど癖になりそう。頼めば毎日やってくれないかな。
「(そ、そういうのは付き合ってからか。広井君にいっぱいナデナデしてもらえるようにアプローチ頑張ろう!)」
前向きな目標が一個生まれた。
これはいい傾向だよね。




