第33話 氷室未希の独白
気が付くと広井君を目で追っている。
目が合うと照れながら視線を外してくる仕草が好きだった。
そして心の声が聞こえてくる。
「(今日もミキティは最高に可愛すぎる! ていうか最近ミキティとよく目が合うなぁ。正直めっちゃうれしい。もっと俺を見てくれミキティぃぃ! その可憐な瞳で俺を貫いてくれぇぇぇ!)」
彼からの心の声はいつも嬉しい言葉で埋め尽くされていた。
最初の内は私もつられるように顔を赤く染めていたけど、最近は心がホカホカするような感覚に見舞われる。
彼から肯定されることで安心するようになっていたんだ。
だけど不安は残る。
私のテレパシー能力は私自身に向けられた感情の善し悪ししか聞こえてこない。
もし仮に広井君が席子ちゃんや花宮さんを肯定的に見ていたとしてもその声は私には届かないのだ。
「(広井君には私だけを見てほしいな)」
最近、そんな風に考えてしまうことが多くなっている気がする。
この気持ちの正体はなんとなく理解していた。
“独占欲”
私は彼から放たれる肯定的な感情を自分だけに向けてほしいと思っている。
それだけじゃない。
皆に広井君の格好良い所を知られたくないと思っている。
広井君の良さに女の子達が気づいてしまったら、きっと彼はモテモテになってしまうだろうから。
現に花宮さんは広井君を気にかけている。
ライバルが一人増えただけで私の心はこんなにもざわついてしまっていた。
広井君と仲良しなのは自分だけでありたいという独占的な感情が心の中に靄を作る。
そんなこと考える私はなんて嫌な人なのだろう。
「(いや、違う)」
広井君が他の誰かと仲良くすること自体を嫌がっているわけではない。
広井君が女の子と特別な関係になることを嫌がっているんだ。
だから距離が近い席子ちゃんをたまに恨めしく思ったり、広井君を好意的に見ている花宮さんには近づいてほしくないって思ったんだ。
「あ……あ……っ!」
そのことに気づいてしまったら、もう致命的だった。
頬が上気するのが自分でもわかる。
顔の紅潮が抑えきれない。
私には縁がない感情だと思っていた。
私に向けられる感情はいつも悪意のモノばかりだったから。
でもそんな私を見てくれる人がいる。
そんな私が“良い”と言ってくれる人がいる。
初めて自分を認められて嬉しかった。
「(ちょっと考えればわかることだったなぁ)」
たぶん私はその感情を認めることを無意識的に避けていたのだと思う。
だって動機が不純すぎるから。
「(きっかけが……彼の心の声が嬉しかったからだなんて……)」
テレパシー能力で勝手に心の声を聴いてしまってから。
勝手に彼の感情を知ってしまったから。
そこから発展する関係なんて在ってはならない。そう思っていた。
でも気づいてしまったらもう抑えられない。
「(私……広井君が……好きなんだ……)」
“自分のことが好きだから好き”
彼のことが気になったキッカケはそんな感情からだった。
私は彼の心の声が好きなのか、と認めてしまうようで嫌だった。
でも今は違う。
私は広井サトルくんの素敵な所をたくさん知っている。
趣味が合うところが好き。
クラス委員長になった時、真っ先にサポート役の副委員長に立候補してくれた勇気が好き。
ナンパから守ってくれた強い彼が好き。
困った時照れ臭そうに頬を掻く仕草が可愛くて好き。
何気なくいつも隣で微笑んでくれるから好き。
それら全ての行動の根源に“優しさ”が見えるから大好き。
そして私はこの感情も素直に認めることにした。
「(私のことを……好きでいてくれるから……好き!)」
きっとこの感情も嘘じゃないはずだから。




