第32話 乱入②
花宮さんにライバル視されてからよく彼女と目が合うようになった。
例えば小テスト返却の時——
「あー。この間の小テストを返却する。呼ばれた者から取りに来い。まず席子~」
「先生方にもそのあだ名定着している!?」
「次、氷室」
「はい」
先生から小テストを手渡される。
うん。満点だ。会心の出来!
広井君は何点だったんだろ。どうせ満点だろうなぁ。
「(じ~~~~~~っ!)」
は、花宮さんが眼光咎めるようにこちらをにらみつけてきている。
ていうか私の手の中の小テストの点数を必死にみてこようとしている。
私はさりげなくテスト用紙を机に置き、彼女に見えるようにしておいた。
「……!? また負けましたわ! ぐぬぅ」
花宮さんがハンカチを噛んで悔しがっている。高そうなハンカチなのにそんなに伸ばして大丈夫かな?
花宮さんは微かに視線を反らしてぽつりとつぶやくように言い放つ。
「こ、これが私の実力だと思わないでくださいね!」
ビシィっと私達3人を指さしながら去っていく花宮さん。
その瞳には若干の悔し涙が滲んでいた。
「なんか未希ちゃん花宮ちゃんにライバル視されてる?」
「う、うん。どうもそうみたい」
「どうしてわざわざ点数で競うのかな。勉強以外だったら全部花宮ちゃんが勝っているのに。運動も胸囲も」
「その通りなんだけど、普通に腹立つから正直に言わないで。次に胸囲のこといったらぶっ殺すよ?」
「ごめんね。貧乳ちゃん——じゃなかった未希ちゃん」
殺そうかな?
「(ミキティ、性格だけでなく、胸まで控えめだなんてさすが俺の女神。やはり謙虚さは大事だな。貧乳好きでよかった。ミキティ、ずっと抉れた胸のままでいてくれ)」
ん。二人共お仕置き決定だな。
「お昼だよ~! 広井君、席子ちゃん。今日は教室で食べよ~」
「はいはい。広井君。机くっつけて」
「うい」
今日は3人でお昼を食べる日。
席子ちゃんが人気者過ぎてこの子予約しておかないとすぐに他のグループに混ざってしまうのだ。
今日は私達が予約した日。席子ちゃんをしゃぶり尽くさないと。
ちなみに席子ちゃんが居ない日は広井君と二人きりで過ごしている。
二人だけの時間も好きだけど、私は席子ちゃんを含めた三人の時間も大好きだった。
「あ……」
自分の席で食べるということは花宮さんのすぐ後ろで昼を過ごすということ。
私と広井君の会話を花宮さんに聞かれるのちょっとやだなぁ。
でも今更場所の変更もできない。
「お、広井君、珍しくお弁当じゃん」
「そういう席子は珍しくパンなんだな」
「そうなんだよ~。朝忙しくてお弁当作る余裕なくてさ。あっ、そのミニトマトおいしそ。一個ちょうだい」
「珍しいもの欲しがるなぁ。ほら持って行っていいぞ」
「あ~~~ん」
席子ちゃんが大きく口を開けてあーんのポーズで待ち構えている。
待って待って待って。私が花宮さんのことで頭を悩ませている間に何をしでかしているんだこのギャルもどきさんは。
「「ダメェェェ!!」」
私は慌てて広井君の腕を引っ張り、私と同時に声を張り上げた花宮さんが席子ちゃんの前に立ちふさがっていた。
広井君の手からポロっとミニトマトが落ちる。
「え、えっと、氷室さん?」
「んと、花宮ちゃん?」
「「……ハッ!?」」
私と花宮さんが同時に顔を上げる。
目が合った。
ダラッと互いに頬汗流しているのがわかった。
「た、食べ盛りの男の子から食べ物を奪うのは駄目だよ席子ちゃん。ほら。私のポテサラあげるから」
「う、うん。頂きます」
よし。私の方はこれでごまかしが効いた。
問題は花宮さんだけど……
「…………」
急に輪の中に割り込んできてしまった花宮さんは視線をウロウロと彷徨わせていた。
そして焦点を広井君に合わせると、ビシッと彼を指さして高らかに声を上げた。
「ふ、二人は付き合っているのですか!?」
「ぶっ! 急に何を!?」
「い、いいから! 答えてください!」
「お、俺と席子だよな? 全然そういう関係じゃないけど」
「な、なら! 今みたいにアーンし合うことは止めておきなさい! 噂好きの女子達が在らぬことを言いふらすかもしれませんからね!」
「わ、わかった。忠告ありがとう」
顔を真っ赤にさせながら自分の席へと戻っていく花宮さん。
その様子を見て、予想は確信へと変わる。
間違いない。花宮さんは——
「(広井君のことが好きなんだ)」
薄々は気づいていたけど、こうも致命的な場面を目の当たりにしてしまうとさすがにわかる。
席子ちゃんと広井君がイチャイチャしている様子を充てられて黙っていられなくなったんだ。
顔を真っ赤にさせながら嫉妬する様子は完全に恋する乙女で可愛かった。
可愛すぎた。
「(そんな可愛い姿、広井君に見せないでほしい)」
もし広井君が心変わりしちゃったらどうしよう。
ぬぐい切れない不安が今も私の中で膨れ続けていた。




