第30話 乱入
3人で机をくっ付けて、教科書や参考書を目いっぱい開いている。
広井君と席子ちゃんが隣同士でくっ付け合い、私は二人の対面に机をくっ付ける。
……なんで二人隣合わせで私は対面なのかなぁ? べつにいいけど。いいんだけど。
「広井君。数学が一番意味わからない。助けて」
「数学か。今の所は中学で習った範囲の復習みたいな感じだけど、どこがわからないんだ?」
「数字を難解に並べて、それを人に解かせようとする出題者の傲慢さが理解できない」
「概念の話!?」
一緒に勉強を始めてわかったことが二つ。
一つ。席子ちゃんは想像以上にお勉強が苦手みたい。
ノートは取ってあるみたいだけど字が下手過ぎて読み取れない。
普段からあまり授業はやる気ないみたいだ。
そして二つ目。
「……ねえねえ。ちょーっと二人とも距離が近いんじゃないかな?」
「ん? そう? 別に普通だと思うよ。ね、広井君」
「ま、まぁ、そうだな……」
この子は素で距離が近いということがわかった。
席子ちゃんは誰とでも仲良くなれるクラスの中心人物だ。
出会った時からボディタッチが多いなとは思っていたけど、それは男子が相手でも同じだったようだ。
うん。風紀的によくないな? 広井君の欲情が駆り立てられたらどうする気だ。全く。あー、よくないよくない。
「(これくらいなら最近のミキティよりは近くない気がする。席子相手ならそんなにドキドキしないし、別に特別注意したり指摘しなくてもいいか)」
あー! よくないな!!
「広井君。友達がいけないことをしていたらちゃんと注意してあげないとだめだよ。席子ちゃん男の子にあまりべたべたするの良くないことだからね」
ビシッと席子ちゃんを注意する。今、初めて委員長っぽいことやった。
「でも広井君全然嫌がっているように見えないけど……あっ、キミ見た目より結構筋肉あるね。そのギャップはちょーっとばかし好印象だよ」
「そ、そうか? ちょ、ちょっとくすぐったいぞ」
「おー? 筋肉触れるのがキミの弱点か~? うりうり~」
「や、やめ、本当にくすぐった——」
「「いい加減にして!!」」
……!?
私はつい大声を出してしまったが、別の方向からも怒声が響いてきた。
席子ちゃん達の背面にいるクラスメイトが私と同じタイミングで声を上げていた。
あの人は——
「え、えっと、花宮……さん?」
花宮鈴音さん。
先日体育のソフトバレーの時、私がどんくさいせいで怒らせてしまったお嬢様系の女の子だ。
彼女の席にも教科書やノートがたくさん広げられている。花宮さんも自習中だったようだ。
「ご、ごめんね花宮ちゃん。私、うるさかったね。静かにするね」
席子ちゃんが珍しく殊勝な態度でちゃんと頭を下げていた。
花宮さんはふんっと鼻を鳴らしながら自分の席へを戻る。
「わかればいいのですわ。騒ぎながら勉強しても効率悪いですわよ」
「う、うん」
席子ちゃんがシュンとしてしまった。
その姿が怒られた子犬みたいでちょっと可愛かった。
「(花宮さん……)」
席子ちゃんを叱り、自分の席に戻るとき、花宮さんが一瞬だけ広井君に視線を向けたことを私だけが気づいていた。
花宮さんの表情は少し頬を膨らませているように見えて……
席子ちゃんが広井君とべたべたしているときに私が浮かべていた表情と同じ顔をしていた。




