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第182話《南南東の石段、権限の段階》

1.梟人族の里を発ち、南南東へ


梟人族の里を出発し、飛竜で南南東へ向かう途中、レオンが言った。

 

「智也、一つ気になってたことがある」

 

「何だ」

 

「来る途中に見た。あの方角の山の上、木々の上から少し石が出ていた。


自然の岩じゃない形をしていた。当時は気にしなかったが、今日の話を聞いてから、引っかかってる」

 

全員がその方角を見た。

 

木々の隙間から、石の先端がいくつか見えていた。

 

等間隔に並んでいる。

 

「降りてみる価値はある」

 

崖の麓に着陸し、近づいていく。

 

判断の棒が、細かく震え始めた。

 

オベリスクの時とは、種類が違う振動だった。

 

何が違うのか、言葉にならない。

 

石の一つに手を触れると、加工の跡があった。

 

ラナが言った。

 

「フロリーの地下で見たものと、梟人族の近くのオベリスクと、同じ刻み方をしていますわ」

 

智也が棒を石の配置に向けた。

 

地面が低い音と共に動いた。

 

土が退き、石段が現れた。

 

下へ続いている。

 

(……棒を向けたタイミングで動いた)

 

(なぜ動いたのか、まだ分からない)

 

(ただ、棒が鍵になっているという事実だけは確かだ)

 

「行くか」とガルドが言った。

 

「行く。レオンは上で待っていてくれ」

 

「任せろ」




2.石段の下、古代の回廊


石段を降りた瞬間、温度が落ちた。

 

腐敗の臭いはない。カビもない。

 

乾いた、清潔な空気だ。

 

低い天井の回廊が続く。

 

壁面の素材、天井の高さ、通路の幅。

 

(……フロリーの地下と、同じだ)

 

(あの金属の扉を開けた場所と、同じ設計思想を持つ誰かが、ここを作った)

  

「マナの流れがこの壁に集まっている。閉じ込められた感じがする」

 

足音が短く響く。

 

通常なら残響があるはずだが、すぐに消える。

 

空間が、音を吸収している。

 

回廊の途中の壁で、棒が一点を指した。

 

微細な亀裂に指を入れると、小さな金属の破片が出てきた。

 

(……この合金、梟人族の近くのオベリスクで見つけた破片と同じだ)

 

(それと、フロリーの地下の扉も、同じ均質な光沢をしていた)

 

(前任者は、この大陸の各地を、同じ道具と同じ意思で歩いていた)

 

声には出さず、ポケットに入れた。

 

リュミアが、智也の袖をわずかに握った。

 

回廊の突き当たりに、光沢のある金属の扉が見えてきた。




3.金属の扉、ガルドの本能


装飾も継ぎ目も取っ手もない。

 

鈍い光沢を放つ金属の扉が、ただそこにあった。

 

ガルドが、もう一度、扉に向き直った。

 

手を伸ばしかけて、止めた。

 

腕を組む。

 

その時、扉の表面に微かな振動が走った。

 

ガルドの手は、まだ扉に触れていない。

 

「……何だ」

 

ラナが声を上げた。

 

「ガルド、触れていないのに」

 

扉の振動は消えた。

 

しかし確かにあった。

 

(……扉が、近づいた者を感知した、ように感じる)

 

(フロリーの時、扉は何もしなかった。ただそこにあった)

 

(今回は、こちらの接近に応答した)

 

「引き返そう。」と皆を見て俺が言った。

 

ガルドが俺に問いかける。

 

「扉まで来た。中を見なくていいのか」

 

「今日は見ない」

 

「なぜだ?」

 

「フロリーの地下で、こういう扉を開けた後、何が起きたか覚えているか」

 

ガルドが黙った。

 

自己修復する金属体。棒で触れるまで、一方的に押し込まれた。

 

暁の盾がいなければ、全滅に近かった。

 

「今日の俺たちの中に、暁の盾はいない」

 

「……」

 

「この扉は、今俺たちを感知している。向こうはすでに知っている。それでも開けるか」

 

ガルドが腕を組んだまま、扉の方を一度見た。

 

長い沈黙があった。

 

ラナが静かに言った。

 

「ガルド」

 

一言だけ。

 

「……分かった」

 

重い言葉だった。納得ではなく、判断の受け入れだ。

 

帰り際、扉がもう一度、微かに振動した。

 

誰も振り返らなかった。しかし全員が、それを聞いた。




4.王都への帰還、カイルの発見


王都に戻ると、別の飛竜で一足先に帰っていたカイルが禁書庫から飛んできた。

 

「智也殿、良かった。今日中に戻ってくれると思っていた」

 

「何か見つかりましたか?」

 

「あったんだ。是非すぐに見てほしい!」

 

禁書庫の机に、三枚の羊皮紙が広げられていた。

 

カイルが、その一点を指で叩いた。

 

「この文字の組み合わせ、単体では意味が掴めなかった。だが別々の資料と並べた時、はっきりした」

 

「はっきりした!?」

 

「管理権限には段階があります。棒を持つことは、第一段階の認識に過ぎない。第二段階の権限を得るには、実際の保守作業の証明が必要です」

 

「証明!?」

 

「それが、驚くべきことなのですが」

 

カイルが、三枚の羊皮紙を並べた。

 

「条件のリストが書かれています。梟人族の記録の受け取り。地脈装置への接触。前任者の痕跡の確認。これらが、証明の条件として挙げられています」

 

智也は、返事をしなかった。

 

「……それは」

 

「はい。あなたがすでに行ってきたことと、ほぼ一致します」

 

(……知らずに、やっていた)

 

(梟人族の風の記録を受け取った。オベリスクに棒で触れた。前任者の金属破片を見つけた)

 

(俺は、世界が決めていた順番を、知らないまま踏んでいた)

 

「……続けるしかない、ということか」

 

「はい。そして、残りの条件については、まだ解読中です。蝙蝠人族への訪問が、関係している可能性もあります」

 

「暁の盾への連絡も必要だ」

 

「はい。扉の先に備えて」



5.一息と引き


暁の盾への使いを出した後、智也は研究所の窓の外を見ていた。

 

リュミアが、湯気の立つ椀を持ってきた。

 

「フロリーで初めて遺跡に入った時と、違ったね」

 

「……何が違う」

 

「あの時のトモヤは、後から後悔してた。今日のトモヤは、後悔する前に止まった」

 

椀を受け取って、一口飲んだ。

 

「ガルドが最後まで行きたそうにしてたね」

 

「ああ」

 

「それでも止めた。それが、今日一番難しかったことだったんじゃないかな」

 

「……多分、そうだ」

 

「よかった。止められたじゃん」

 

智也は、しばらく椀を見ていた。

 

(……知らずに、正しいことをしていた)

 

(今日だけの話じゃない。梟人族のところへ行ったのも、オベリスクに触れたのも、金属の破片を拾ったのも)

 

(全部、俺が必要だと思ってやった。だが世界の側から見れば、それは順番通りだった)

 

(俺は、誰かが決めた道を、知らずに歩いていたのか)

 

(それでも、歩いてきた。それだけは変わらない)

 

椀を置いて、立ち上がった。

 

「もう少し、調べることがある」

 

リュミアが、頷いた。

 

窓の外、王都の夕暮れが広がっていた。

 

暁の盾への使いは、もう走っている。

 

分からないことが、また増えた。

 

だが今日、一つの方向が見えた。

 

明日が動く理由は、それだけで十分だ。


最後までお付き合いいただき、感謝します。


おかげさまで注目度ランキングにたびたび顔を出せるようになりました。

診断ログには「上昇傾向、保守継続を推奨」と記録されています。

 

この物語のシステムを稼働させ続けたい方は、ブクマと★5を。

皆様からの一票が、次話の更新を動かす地脈の流れになります。


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