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第38章 陰謀の影、リナを狙う権力者の暗躍


⸻


 「異世界食堂」が街で大人気となり、異国の料理人との勝負でも勝利を収めた。

 店はますます繁盛し、庶民から貴族までが足を運ぶ場所となっていた。


 だが――その成功は、同時に“妬み”をも呼び寄せることになる。


⸻




 王都の一角。

 華美な装飾が施された屋敷の奥で、一人の男がワインを傾けていた。


 その名は ヴァルモンド侯爵。

 王都の料理ギルドに強い影響力を持ち、貴族社会で「味の権威」とされる人物だ。


「まったく……素人上がりの小娘が、民衆の心を掴んでおると?」

 侯爵は鼻で笑った。

「異国の料理人まで倒したと聞く。……だが、そんなものは許されぬ」


 彼にとって料理は権力の道具であり、貴族の特権であった。

 庶民や冒険者までもが同じ料理を味わえるなど――侯爵にとっては体制を揺るがす脅威だったのだ。


「……ふむ。小娘を潰すのは簡単だ。だが、より確実なのは――」


 侯爵はワイングラスを揺らし、不気味に笑った。

「彼女が最も大事にしている者を奪えばいい」


⸻




 その頃、美月たちは何も知らず、いつも通りに忙しい日々を送っていた。

 だが最近、リナは不思議な視線を感じていた。


「お姉ちゃん……なんだか、外で誰かに見られてる気がするの」

 皿を並べながら、リナが小声で訴える。


 美月は心配そうに彼女の頭を撫でた。

「気のせいかもしれないけど……気をつけよう。カイにも見張りを頼むね」


 カイは真剣な顔でうなずいた。

「俺も気づいてた。変な影が食堂の周りをうろついてやがる」


 それは、確実に「何者かの手」が動き出している証だった。


⸻




 ある夜、食堂に見慣れない客が現れた。

 豪奢な衣装に身を包み、目だけが冷たく光っている。


「噂の料理を食べに来たが……」

 彼は料理を一口食べただけで、鼻で笑った。

「ふん、こんなものが庶民を熱狂させるか。くだらんな」


 美月は不快な視線を感じながらも、接客を崩さなかった。

 だが客は去り際に、リナへと意味深な視線を投げかけた。


「……小娘。貴様の存在が、この食堂の弱点だ」


 その言葉に、美月の背筋が凍りついた。


⸻




 数日後。

 リナが市場に買い物へ出かけた帰り道――黒い馬車が路地に滑り込んだ。


 中から現れたのは、侯爵の私兵たち。

 彼らは無理やりリナの腕を掴み、布を口に押し当てた。


「んっ……! お姉……ちゃん……!」


 リナの小さな声は人混みにかき消され、姿はあっという間に馬車の中へと消えた。


⸻




 その夜。

 食堂にリナが戻らないことに気づき、美月の心臓は激しく打ち鳴った。


「リナが……帰ってこない……」

 震える声で呟き、顔色が真っ青になる。


 カイは剣を握りしめ、怒りに満ちた目をした。

「美月、落ち着け。あいつらは確実にリナを狙った……必ず取り戻す」


 だが美月の胸の奥には、恐怖が広がっていた。

 ――また、大切な妹を失ってしまうのか?


 異世界でようやく見つけた“もう一人の妹”。

 彼女を奪われるわけにはいかない。


 涙でにじむ視界の中、美月は強く決意を固めた。

「絶対に……リナを取り戻す。料理でも、命でも、この手のすべてを懸けて」


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